ロジスティクス・レビュー

第219号物流コスト管理の進め方(2011年5月12日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
 -物流改革コンサルタント Dr.SANTA-
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴 ●昭和61年 甲南大学法学部卒業
    ●同年   ユーザックシステム株式会社入社
    物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    ●平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング
    (物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、
    物流プロジェクトの運営)を開始。
    ●平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、
    有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    ●講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体 ●日本物流学会正会員
    主な論文、著作 ●「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    ●包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

目次

1.物流コスト管理の重要性

  数多くの企業が無駄な物流コストの削減をテーマにして物流改革を取り組んでいるが、そもそも物流コストを正確に把握している企業は少ない。物流コストには、「物流人件費(アウトソーシング料を含む)」「輸送費」「保管費」「情報システム費(月額リース料、もしくは、減価償却費。ハード保守費、ソフト保守費も含む)」「包装資材費」、「その他経費(事務所家賃、消耗品費、通信費、水道光熱費等)」がある(図1)。この物流コストを管理する手法を物流会計と呼んでいる。

図1 図1 物流コストの構造

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  社内で物流コストの定義をした上で毎月に正確に把握していないと、どの物流コストが増加して、どの物流コストが削減できているのかがわからなくなる。物流マネージャーの中には、物流コストは変動費のみの管理だけで良いという人も多い。変動費の例として挙げると、「パートの人件費」「輸送費」「保管費」「包装資材費」がある。第一STEPは物流部門だけでの管理から始めるのもひとつの方法であるからそれでも良いかもしれない。物流の社員人件費を総務に提出依頼をすることは、色々と手続きが面倒なため理解はできる。しかし最終的には、物流コスト管理は全社的に取り組むものであるため、あらゆる物流経費を全社で把握をしないと経営者の判断材料になりにくくなる。全社の物流コストを把握する事は経理や総務の協力を得さえすれば、月間30分程度の時間をかければできることであるため、趣旨を理解して頂いた上で是非取り組んで欲しい。
  正確なデータが取れる様になれば、次に物流コストの現状分析を行う。例えば、売上金額や物量と比較をして、現在の物流科目の異常値が無いかをみつける。センター内での月別比較の異常値、センター内での前年同月比較の異常値、他センターと同月比較の異常値をみる。いずれも、コストがかかりすぎている月の詳細を調査し、原因を明確にした上で、物流コスト増が一過性(今後は発生しない)のものか、今後継続して発生するものかを見極めた上で対策をたてることができる。

2.物流コスト管理の分析例

  よく使われている言葉であるが、「鳥の目」と「虫の目」の視点でものごとを見ることが必要である。(「木を見て森を見ず」とほぼ同じ趣旨)。物流コスト管理は「鳥の目」に該当する。「虫の目」は、現場の部分改善をイメージして欲しい。例えば、ピッキング効率を向上させるために、ピッキングのプログラムを変更したとする。そのソフト料が120万円であった場合、5年(=60カ月)で単純計算をすると、月間2万円の増加費用になる。ソフト導入を行うために社内稟議書を書くことになり、導入前は採算性を検討する。しかし、導入後に皆様の企業はその効果検証をしているのでろうか? 「鳥の目=(物流会計)」では、全体の人件費がどの程度下がり、増加費用がどの程度発生したかを把握できる。仮に、「人件費+情報システム費」の合算費用が予想よりも下がっていない場合は、ピッキングが想定通りの効果が出ているかの検証を行う動機付けにもなる。効果検証をした後、目的通りに効果が出ているとしたら、他の物流業務で人件費が増加していることになる。この様に、どの物流科目で詳細の検証を行うべきかを感じ取るのが、物流会計の最大のポイントである。
  図2を見て頂きたい。前月と比べて、売上金額と物量(出荷行数、出荷ケース数)がほとんど同じであれば、前述した様な手順で問題点が掴むことが簡単にできる。しかし、現実的には売上金額も物量も毎月変動する。その場合は、物流コストだけで判断しても物流の問題点は掴めない。そのため、物流管理指標(物流のものさし)が必要になる。例えば、1ケース当りの人件費、1ケース当りの運賃がそれにあたる。

図2 物流コスト概要比較

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  デフレの経済環境下で、同一商品の商品単価が10%程度下落したとしよう。これを前年同月対比で比較をすれば、決算時の売上金額が前年とほぼ同等の場合でも、出荷ケース数が10%前後増加し、発注が更に細かくなるため出荷行数も同様に多くなる可能性が高い。物流コスト管理を実施していない会社は、社長から物流担当の役員に「営業が頑張って売上高を維持しているのに物流部門は物流コストを増加させて足を引っ張っている!」と怒鳴られても反論ができない。物流コスト管理をしている会社は、1ケース当りの売上金額の増減を掴んだ上で、1ケース当りの人件費(1行当りの人件費でも可能)等で前年と比較をして物流コスト増加の原因が説明できる。前者と後者では、経営判断も変わってくるし、物流側のモチベーションも大きく違う。物流は「通常に出荷するのは当たり前、褒められることなど無い」とよく言われる。物流も営業と同様、物流改善予算を持って、改善を推進できれば評価される様な企業環境を整備する必要があると思う。
  また、物流コスト改善の例として、次の様な手順も参考にして欲しい。物流会計の月別推移を見ていて、繁忙期に自社倉庫に入りきらずに外部支払保管費が増加していたとしよう。在庫商品を分析すると結果として不要な商品、急ぐ必要が無い商品が見つけることができる。来年度も同様な事が起こらない様に予防対策を半年前に実行することで繁忙期の保管費の削減が実現できる。発注部門と取り組めば「入荷計画の変更」「発注ロットの抑制」をすることで解決できるかもしれないし、営業部門と取り組めば、「計画的な過剰在庫の処分計画を実施」をすることで改善できるかもしれない。部分最適化で考えると、物流コスト削減のための他部門の協力は難しいが、経常利益を増加sる視点で全社で取り組めば、改善できることは多い。

3.物流コスト管理の注意点

  物流会計にはいくつかのルールがある。「売上・物量と支払い経費の締め日の統一」と、「社員人件費の年間均等分割」の検討が必要になる。そもそも物流会計は、管理会計と違い、発生月にコスト計上してはいけない。管理会計では6月と12月に社員のボーナスが増加されるが、「今月は賞与月なので売上金額に5%加算させて頂きます」と得意先にお願いするのは実際ありえない。よって、過去の実績に伴って、将来的なボーナスも考慮した上で、社員1人毎の年間支給額を算出してから年間均等割りにする必要がある。しかし、残業費、アウトソーシング等の月別の変動費に関しては、物流コストは発生月につけることになる。(図3)

図3 物流人件費

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  少し面倒な事かもしれないが、これが実現できれば、「社員1人とパート1人の人件費の比較」、「残業の見える化」、「物量の変動と人件費の比較」ができる様になる。自社物流をアウトソーシングに出した場合でも、その効果がはっきりと見えてくる。上記の人件費には、社内の物流支援費用も勿論計算に入れなければならない。繁忙期には営業が手伝うこともあるかもしれない。社員が手伝うのは無料では無い。これを見える化すれば、支援時間を削減しようとする考え方が出てくるものである。
  次に、支払い日の統一の重要性も述べておく。運賃等の支払いが20日締めの場合で、売上金額が1日~末日であれば10日のズレが発生し、詳細の分析ができなくなってしまう。物流会計で1ケース当りの人件費が増加した場合、「それは前月の10日分の繁忙期の人件費が翌月についているので問題は無いですよ」という発言でなんとなく終わってしまうと恐ろしい。この様な管理であれば、本当は問題が発生していても見つけずらくなり、対策が後手後手になってしまう。物流コスト管理の本質から考えると、それであれば1~20日と20~末で2分割して分析をし、本当に問題が発生していないことを証明する必要がある。ただ、そんなに面倒くさいことをやるのであれば、締め日を統一して一元管理をする方がよほど簡単である。
  支払い締め日を変更するか、売上集計日付を支払い締め日にあわせるかの検討を行うことになるがルールさえ決めてしまえばそれほど難しいことではない。物流コスト削減が実現できるのであれば、そのぐらいのことは実行可能である。


以上


(C)2011 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.


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