第84号3PLとロジスティクスのKPI(2005年9月21日発行)
執筆者 | 坂 直登 センコー株式会社 事業開発本部副本部長 |
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KPIとはKey Performance Indicatorの略で、主要成果指標のことである。ロジスティクスのKPIについては、KLPI(Key Logistics Performance Indicator)と呼ぶ場合がある。KPIは目標管理の指標として、または同業他社とのベンチマークに利用されたり、スコアカード(採点表)の評価要素として利用されたりする。
ロジスティクスを3PL企業にアウトソーシングした場合には、毎月のKLPIが3PL企業の活動実績の指標として荷主にとって重要な管理手段であり、3PL企業とのコミュニケーション手段となる。荷主企業は3PL企業に対しこのKLPIの達成度に応じてマネジメントフィーを上下させたり、達成度があまりに低いと3PL企業を切り替えたりすることも起こる。3PL企業にとってもKLPIは荷主に自社の価値をアピールする最大の手段となる。
この指標が標準化されれば、3PL企業のスコアカードとして3PL企業のランク付けをすることも可能となる。また各指標の達成目標を適切に設定することで、ロジスティクスの関係者全員に具体的数値目標が共有化され、より早く且つ低コストに成果の向上を図ることも可能になる。
しかしながら、日本には標準化されたロジスティクスのKPIは未だ存在しない。現在、㈱流通研究社のマテリアル フロー研究センター(RCC)が主催になって、有志で毎月一回KPI研究会を行っているが、ここでは私見に基づいたKLPIの概要についてご報告したい。
KLPIに関連のある研究成果として公表されたものの内、筆者が知っているものは次の通りである。
(1) ㈱流通研究社が発刊している月刊誌『マテリアル フロー』1997年11月号の「Dr.フレーゼルのロジスティクス・マネジャー実践講座」にロジスティクス・パフォーマンス指標が翻訳掲載された。各指標がマトリックスに見事に体系化され、非常に完成度の高いKLPIである。横軸にカスタマーサービスとオーダー処理、在庫管理、調達、輸配送、配送センター運営、ロジスティクス・パフォーマンス・ゴールの六項目を採り、縦軸には品質・精度、リードタイム、生産性、コストの四項目を採って、各マトリックスに具体的パフォーマンス指標が合計34個採り上げられている。
(2) サプライチェーンカウンシル日本支部が翻訳発刊した『サプライチェーン・オペレーションズ・レファレンスモデル』SCOR第4.0版(2001年5月)にサプライチェーンの良悪を判断するための測定指標としてMetricsが129個採り上げられている。この129個について個別の定義が行われ、サプライチェーンの各企業間のコミュニケーションが正確に行われるようにしている。このメトリクスの中には(1)のパフォーマンス指標と同一の指標も含まれている。
(3) 社団法人日本ロジスティクスシステム協会 LEPマネジメントワーキング委員会で取り纏めた『SCM/3PLスコアカード』がある。企業戦略と組織間連携、計画・実行力、ロジスティクス・パフォーマンス、情報技術活用の仕方の四項目について個別の指標が設定され、定性的な五段階評価を行う。ロジスティクス・パフォーマンスについては七つの指標となっている。これらの指標も(1)のパフォーマンス指標と同一のものも含まれている。
(4) 『LOGI-BIZ』2005年8月号に掲載された米CLM報告「3PLのリレーションシップ管理《測定編》」クリフォード・F・リンチが発表したロジスティクス・パフォーマンス測定指標がある。測定できないものは管理できないとして、主要成果測定指標の重要性と主要測定項目とその利用の仕方について述べている。これらの指標も(1)のパフォーマンス指標と同一のものも含まれているが、食品などに対する衛生管理やセキュリティ管理など独自の項目も含まれているのが特徴的である。
(5) 『Logistical Management』The Integrated Supply Chain Process Donald J. Bowersox & David J. Closs著 1996年 22章にロジスティクス・パフォーマンス測定の目的や管理の特徴などが述べられている。また製造業、卸業、小売業の各業界に於ける各パフォーマンス指標の利用状況のデータが提示されている。
これらの資料を概括すると、KLPIの体系としては(1)のマトリックスをベースとして、横軸に作業工程のカスタマーサービスとオーダー処理、在庫管理、調達、輸配送、配送センター運営、総合指標としてのロジスティクス・パフォーマンス・ゴールの六項目を採り、縦軸には品質・精度、リードタイム、生産性、コストの四項目の他に、安全衛生、環境負荷、セキュリティなどの観点をどこに付加あるいは項目を増やすのかの検討が必要となる。次に各項目に入れるべき具体的指標の選定と各指標を計数化するための分母と分子の定義、そしてその計数のレベル設定の定義が必要となる。各指標は測定できる必要があり、それもなるべく人手を煩わせずにOMS,WMS,TMSなどでデータウェアハウス化され自動集計されることが望ましい。
全ての指標を同時に測定するということではなくて、ターゲットとする複数の指標を荷主と協議して選定し、一定の年月で目標を達成したら、次にターゲットとすべき指標を再度選定し直してボトムアップしていくことが現実的アプローチである。勿論、新たな指標に切り替えた途端、もぐら叩きにならないような仕組み作りと管理体制が必要である。
計数のレベルの定義については(3)に倣ってレベル1から5の五段階評価が適当ではないかと思う。これがベンチマークの水準となる。ある程度のベンチマークのデータが集まるまでは水準の調整が必要である。例えばピッキングミス率50ppm以下を最上位のレベル5と定義してしまうと、ほとんどの事業所がレベル1か2に収束してしまうとするならチャレンジ意欲がなくなるので、当初は平均的な水準がレベル2か3に来るように定義しておく必要がある。パフォーマンス・アナリシス&コントロール(PAC)を導入すると当初は急速に生産性が上昇する傾向があるので、KLPIを導入した場合も同様な傾向が想定できる。
具体的に代表的な指標を見てみよう。ロジスティクスの品質・精度の観点で究極の評価尺度はパーフェクトオーダー達成率である。
(5)の『Logistical Management』によれば、米国でのパーフェクトオーダー達成率は最高でも55~60%しかなく、大多数は20%以下と報告されている。
パーフェクトオーダーとは顧客の注文通りオーダーエントリーが一回でなされ、与信チェックが正しく行われ、注文された全てのアイテムと数量に引き当てられる在庫が全数あり、正しくピッキングされ、完璧に包装され、必要なラベルや帳票が正しくセットされ、定められた納期に、顧客の指定した場所に完全な状態で届けられ、完全な請求書が発行されたオーダーを言う。受注から納品、請求まで完璧に行われたオーダーのことであるが、我が国でのパーフェクトオーダー達成率の実績データは知らない。米国では一般的に用いられている指標だそうである。
我が国でもKLPIのスタンダードが確立し、ロジスティクスのベンチマークとして広く活用される日が早く来ることを期待したい。
以上
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