1. HOME
  2. ロジスティクス ・レビュー
  3. 物流関連
  4. 物流システム
  5. 第575号「神は実務に宿る?」(2026年3月5日発行)

ロジスティクス ・レビュー

ロジスティクスと経営のための情報源 /Webマガジン

物流システム

第575号「神は実務に宿る?」(2026年3月5日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。
      1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、
      コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、
      荷主向けの研修・セミナーに携わる。
    • 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」
      「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。
      中小企業診断士。

    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

  • 1.本部からの指示
  • 2.描いた「大きな絵」
  • 3.見落としていた大きな穴
  • 4.細部を見逃さないためには
  •   

    1.本部からの指示

    思えば、最初からそれなりの前兆はあった。委託元からの度重なる要請である。中堅日用品卸A社の物流センター改善コンサルを手掛けていた時のこと(注:守秘義務もあり業種など詳細は一部変えてお伝えする)。ある中小企業支援機関から依頼を受けた筆者は、A社物流センターで稼働しているWMS見直しと物流改善のハンズオン型(伴走型)支援に携わっていた。
    10年以上前に高額な費用をかけて自社開発・導入したオンプレミス型(サーバーやソフトウェアなどの情報システムを自社で保有し、管理・運用する形態)WMSはシステムやバージョンの陳腐化により、新たなリプレイス(システムの置き換え)の必要性に迫られていた。ベンダーから提示されていたリプレイス費用はかなりの金額であり、全く別のWMSを導入することも含め、筆者がアドバイザーとして検討を行うことになったのである。そもそも当初のシステム導入費用も驚くほど高い。クラウド型パッケージなど新たなWMSへ置き換えるのが妥当であることは明白であった。
    まずは現状を調べていく中で、物流作業上の問題が次々に浮かび上がってきた。各地の営業所で営業マンが物流センターから移送された商品の仕分けと商品配送を行っている、そのために在庫が分散している、営業所に保管スペースが必要などなど物流面での弊害は少なくない。中堅クラスの卸でよく見受けられる典型的な「商物一致型」の物流体制である。
    ヒアリングを進めると、そもそも営業マンが商品を配送する必然性はそれほど高くないことがわかってくる。一般的に、営業マンが商品配送を兼ねるのは、配送時に顧客と直接コミュニケーションをとれることで商談や注文取りができる、というのが主な理由である。しかし、よほど零細な店ならいざ知らずいまどきこのような商談はほとんどみられない。言い方は酷だが、本来の営業行為ができないための「逃げ場」として配送を行っているとみられても仕方ない。
    「営業所分散型」では2段階配送となるため、商品の供給元である物流センターへの負担は大きい。通過拠点を経るためにリードタイムはタイトになるので、作業は長時間化する。物流センターからの直配分と営業所移動分など出荷形態も複雑化する。営業所では、総量納品された商品をさらに営業マンごとに再仕分けする手間と時間も発生する。多段階物流により発生するムダである。
    営業行為と物流を分け、物流センターから納品先へ直送する「商物分離型」を目指すべきなのは明らかであった。
    商物分離型では、出荷元である物流センター機能の大幅な見直しが必要となる。直配と営業所送りが混在していた出荷体制をすべて直配に変更するためより高度な仕分け機能が求められる。同時に物流センターの負荷を軽減するために、受注締め時間の繰り上げと配送リードタイムの延長も必要である。そこで次に、物流センター内作業の詳細な実態把握とデータ分析を行わなければならない。
    ところが、ここで委託元である支援機関から厳しい「要請」が入った。いつまでも実態調査などを続けていないで、早く「大きな絵を描け」というのである。まずは最初に進むべき方向、あるべき姿を明らかにしてから細部を詰めていけということである。筆者としては、大きな絵を描くためにもより詳細な実態把握が必要であると認識していたものの、そこは「委託元」の指示でもあるしある程度の妥協はやむを得ないと考え、「大きな絵を描く」作業に取り掛かったのである。これが後ほどの致命的な「穴」につながっていく。

    2.描いた「大きな絵」

    物流センターには大量の商品在庫を保管するための自動ラック倉庫と、ピッキングエリアへ商品を移送するソーターという2つのマテハンが設備されていた。ただこの2つはいずれも設置から10年以上の年数が経ちメンテナンス費用負担が膨れ上がっていた。なかでもソーターに関しては、補修部品が入手できないためメーカーの保守自体が数年後で終了するという。マテハンの使用は限界を迎えつつあったのである。
    こうなると改善の方向性は自ずと明らかになる。その概要は以下のステップとなる。
    ① 物流センターからすべての店舗へ直納する「商物分離」体制をとる
    ② そのために、物流センター機能の抜本的見直しを行う
    ③ あわせて、物流センターのマテハン機器の見直しを行う
    ④ 具体的には、固定的で柔軟性に乏しい自動ラック倉庫を撤去し、固定ラックを設置する
    ⑤ 自動ラック撤去による保管効率低下を補うため、固定ラックの通路幅を狭め、サイドリーチフォークを活用する
    ⑥ ソーターを撤去し、AMRを活用したピッキング方法を導入する
    若干補足を行おう。⑤自動ラック倉庫撤去はメンテナンスコストも高く柔軟性に乏しい(自動ラックのスピードに作業が制約される)自動ラックを撤去し、かわりに高層の固定ラックを設置しようとするものである。保管効率の低下を補うために、横方向にツメが伸び狭い通路でも回転せずにパレットの格納、取り出しが可能なサイドリーチフォークを活用する(図表1)。

    AMRとは、Autonomous Mobile Robotの略で、コンピュータ制御されたピッキング用カートロボットのことである。カートが自動で移動してきてくれるので作業者が歩き回る必要がない。待機しているエリアに近づいてきた自動カートのスクリーン上に指示された商品やロケーションに従って作業者が商品をラックから取り出し、カートのオリコンに置けば、カートは次の担当者が待つエリアへ自動で移動していく。これを繰り返すことでソーターを使ったピッキングと同じように複数エリアでの複数商品のピッキングが可能となる。いわば人とロボットの協働型システムである(図表2)。

    既存のラックをそのまま使え、センター内の大幅なレイアウト変更も不要である。
    この検討時点で、AMRは日本での導入実績はまだ少なく、相当チャレンジングな試みではあったが、使用している固定ソーターは物流センター内の貴重なスペースの多くを占有し柔軟性に欠ける。しかも保守期限を迎えることを考慮すれば妥当な方向性と思えた。
    こうした物流現場の改善を行った後に、本来の目的であるレガシーWMSのクラウド型WMSパッケージへの刷新という道筋が見えてきたのである。

    3.見落としていた大きな穴

    ここまでは大胆とまでいえるかは別にして、支援機関が求めるそれなりの「絵」が描けたように思う。ところが実際の運用実務面の検討で大きな課題が浮上した。それは「移転」の問題である。
    現在の物流センターはA社の本社に隣接する自社所有、自社運営の物件である。自動ラックやソーターを撤去し、固定ラックを設置するなどレイアウト変更するためには在庫商品を一度別の倉庫に移動しなければならない。移動の方法には2つある。1つは、撤去・設置の期間だけ一時的に在庫を別倉庫に移す方法、もう1つは入出荷作業を行いつつ時間をかけて在庫を少しずつ他倉庫へ移転していく方法である。最初の方法は、作業負担は比較的少ないものの、在庫移動、機器の撤去・設置期間中は入出荷をほぼ停止しなければならない。最低でも1~2週間は要すと考えられ営業面での影響が大きい。
    後の方法は、徐々に移動するため営業面での影響は小さいものの、長期的に(2~3か月くらいか)二か所での入出荷作業を同時並行で行わなければならず、作業負担が大きい。いずれにしても担当者への負荷は大きい。
    結局、経営を含めプロジェクトメンバーの大方は描いた絵に賛同したものの、この移転の問題が解決できないまま最後まで抵抗したのは現場運営を担う物流部門であった。本来であれば経営者の強力なリーダーシップに期待したいところであるが、経営者といえども中小規模事業者では強引に押し切ると辞められてしまうリスクがあるため、実際に現場を動かしている部門の賛同を得ないままでは計画は実行できない。
    残念ながら、筆者の関与は絵を描くまでのハンズオン支援であったため、以降の展開の確認はできていない。ただ、最終報告会の空気から察するに、おそらく描いた絵は実行に至っていないものと推測される。
    反省すべきは、「大きな絵」「全体像」にこだわるあまり、移転作業という実務上の穴を見逃したことである。それは自社所有、自社運営の物流センターであったことも大きい。仮に物流センターがアウトソーシングであれば結果は違ったかもしれない。委託先なら在庫移転や二重作業はお金さえ払えば何とかなる。極論すればお金で解決できる問題は経営者が腹をくくればいいだけの話である。現在のマテハンやWMSが限界を迎えていることを客観的、合理的に判断すれば、中長期的に継続的な発展を指向する中で一時的なコスト増と割り切って許容できたかもしれないのである。
    ところが、自社の社員による抵抗となればそうはいかない。人的資源に乏しい中小企業あればなおさらである。社員にそっぽを向かれたら業務が立ち行かなくなる。それどころか、物流現場が混乱し、出荷が止まったりしたら本来の社業の継続さえ危ぶまれる事態に陥る。
    物流に限ることではないかもしれないが、ささいなことを軽視してはならない。「神は細部に宿る」のである。
    どのような課題であれ、枝葉末節かもしれないが制約条件となりうる重要な実務には最大限の注意を払って検討を行うべきであることを痛感させられた事例であった。

    4.細部を見逃さないためには

    もちろん一般的に大胆な改革を行おうとすれば、細部にとらわれすぎるのがよくないことは自明である。では、細部にとらわれすぎず注意を払いつつ、「大きな絵」を描くにはどうしたらよいのだろうか。
    現実的な解は、実態調査やデータ分析を行うにあたっては、何よりも最初に「仮説」を持つことであろう。仮説とは、「物流とはこうあるべき」という姿である。この「あるべき姿」と現実のギャップが「解決すべき問題」であり、それを事前に想定したものが仮説である。逆に言えば、あるべき姿が描けなければ仮説も設定できないし、実態調査やデータ分析もできない。この順番を間違えてはいけない。

    ただし、このステップを完全に踏襲することに固執してはいけないし、固執する必要もない。仮説とはあくまでも仮の姿であって、事実を積み重ねて調査や検討を進める中で仮説とは違う方向性が明らかになることはよくある。その際、当然のことであるが重要なのは間違っていた仮説を変えなければならない。避けるべきは、判明した事実やデータを当初の仮説に無理やり合わせるように捻じ曲げて解釈してしまうことである。意図しないまでも、無意識に行ってしまう可能性もある。仮説は変わる可能性があるからこそ「仮説」であることを忘れてはいけない。
    現実には、「仮説設定⇒調査・分析・検討⇒仮説修正⇒調査・分析・検討」というサイクルを繰り返すことによって、より正しい方向性を見出すことができる。このサイクルの中で見逃してはならない細部の実務まできめ細かく踏み込んでいくことが重要である。
    やはり「神は細部」ならぬ「実務に宿る」。大いなる自戒を込めて肝に銘じたい。
    以上


    (C)2026 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

関連記事

サカタウエアハウスの業界別ソリューション、フルフィルメント・サービス 他

流通・マーケティング・物流分野の研究レポート 「ロジスティクス・レビュー」無料配信中!
申し込み
流通・マーケティング・物流分野の研究レポート 「ロジスティクス・レビュー」無料配信中!
申し込み