1. HOME
  2. ロジスティクス ・レビュー
  3. 物流関連
  4. 輸配送
  5. 第574号 米国におけるトラック運送のブローカー規制と下請け規制(2026年2月17日発行)

ロジスティクス ・レビュー

ロジスティクスと経営のための情報源 /Webマガジン

輸配送

第574号 米国におけるトラック運送のブローカー規制と下請け規制(2026年2月17日発行)

執筆者  久保田 精一
(合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
    • 2015年7月~ 現職
    活動
    • 城西大学 非常勤講師
    • 流通経済大学 客員講師
    • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
    著書
    • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

 

目次

  • ■はじめに
  • ■米国での下請け規制に関わる2012年の立法
  • ■ブローカーの「価格釣り上げ」を巡る議論
  • ■主要な論点は「取引の透明化」
  • ■日本の下請け規制との比較
  • ■最後に
  •   

    ■はじめに

    トラック運送業界では、深刻なドライバー不足を踏まえ、輸送条件の適正化に向けた制度改正が進んでいる。
    その焦点の一つは、多重下請け構造の是正である。トラック運送では「荷主⇒元請け⇒下請け⇒孫請け」、というような数次に亘る再委託が一般化しており、中間マージン分の「中抜き※」による運賃引き下げといった問題に繋がっている。
    そのような背景から、近年、国は下請け取引に係る規制的措置の導入を進めている。
    具体的には、下請け構造を記録する「実運送体制管理簿」の記録が義務化されたほか、標準的運賃および標準運送約款の改定に伴って下請け取引における「マージン率」について、標準的な数値が示された。また、執筆時点(2025年10月)では未施行だが、2025年に可決成立した改正トラック法では、下請け取引を二次までに制限することを努力義務とする規定も導入されている。
    ところで、このような規制が導入されるに際しては、米国において下請け規制が存在することを論拠とする場面が見られた。
    一方、米国では、現行の規制に留まらず、更なる規制強化を巡る議論が続いているが、その点についてはあまり触れられていない。米国での議論は、今後の日本の規制のあり方にも参考になると思われるため、本稿では、米国における規制の経緯について、簡単にご紹介することとしたい。なお筆者は法律の専門家ではないため、法的な記述について不正確な箇所が含まれる点をご容赦いただきたい。

    ※「中抜き」は本来、「仲介業者を介さずに取引すること」を指し、「中間業者が不当に利益を抜くこと」の意味での使用は誤用とされる場合が多いことを付記しておく。

    ■米国での下請け規制に関わる2012年の立法

    最初に、2012年に導入された下請け規制について紹介する。
    米国では州を跨ぐ「州際輸送」を行う場合、連邦運輸省(DOT)の規制を受ける。具体的には、輸送事業者はDOTおよび関連する輸送安全機関であるFMCSAへの登録等の手続きが必要とされる。登録の方法は業種ごとに定められており、貨物運送については、実運送業者(Motor Carrier)、ブローカー、フレイトフォワーダ等に分類される。
    ここで言う「ブローカー」は「貨物を仲介する業者」に相当する。法的な性格としては契約を媒介する「運送取次業」に近い業態である。日本で貨物の仲介を行うのは主として利用運送業だが、一般的な利用運送業は契約を媒介するのではなく運送契約の主体となるため、米国の分類ではフレイトフォワーダに近い。イメージとしてはいわゆる「水屋」がブローカー業態に近いものの、水屋も運送責任を負う点で差異があるようである。
    さて、このように、ブローカーと実運送とは業態として区別されているのだが、実運送として受託した輸送を、他社に再委託するケースもある。そのような法的に問題のある下請け取引に絡んで重大事故が発生した事案があり、下請け取引の問題への社会的関心が高まったのを受け、オーナーオペレータ(個人事業主であるトラックドライバー)団体が中心となって規制強化を求めるロビー活動を始めた。そのような業界の努力が実を結び、2012年に下請け取引への法規制が成立した。
    以上の経緯については、以下の参考資料1にやや詳しく紹介されているので、ご関心のある方は参照いただきたい。
    さて、この規制の主旨は、実運送とブローカーとの区分の明確化である。すなわち、ブローカーではない実運送業者として契約した運送業務について、他社に委託することを禁止することで、下請け取引の秩序を維持しようというものである。国内の行政文書等で米国における下請け規制として言及されているのは、一般的にこの規制のことである。
    ところで、実運送として契約しながら、実態として他社に委託するというのは、日本でもごく一般的に行われている。貨物自動車運送事業の約款には、利用運送を行うケースに適用される規定があり、そのため、荷主と運送事業者が「貨物自動車運送事業」の約款で契約したうえで、他社に委託する行為自体は一般的には妨げられないが、米国では両者の線引きを明確にしたと理解することもできる。
    参考資料1:経産省「令和2年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業/物流市場における競争環境や労働環境等に関する調査」

    ■ブローカーの「価格釣り上げ」を巡る議論

    さて、以上の経緯で導入された下請け規制は一定の効果を上げている。上記の参考資料1によれば、規制導入後、運賃が上昇傾向に転じるといった効果も見られているそうである。
    とはいえ、運送事業者団体のメディアでのコメント等を見ると、規制への評価は必ずしも芳しくない。
    実運送事業者、特にオーナーオペレータにとって、下請け取引への本質的な不満は、元請けであるブローカーに不当に「中抜き」され、その結果、安い運賃で運ばされている、というものである。
    2020年、オーナーオペレータ団体であるOOIDAなどが、ワシントンD.C.で大規模なデモンストレーションを行った。
    デモで繰り広げられた主張は、ブローカーが荷主に請求している運賃は「高くつり上げられて」おり、ブローカーだけが「ボロ儲け」している、というもので「トラックブローカーによる不当な価格吊り上げ」がメディアなどで取り上げられる際のキーワードとなっていた(参考記事2)。
    もちろん、これはあくまで事業者サイドの主張に過ぎない。ブローカー側は、中抜き率は一定のレベルに留まるといった論拠を示し、真っ向から反論を行っている。また当時はコロナ禍により実運送の運賃が著しく低迷しているなど、外部要因の影響があったことも割り引いて考える必要がある。
    このような状況にもかかわらず、当時の第1次トランプ政権は、OOIDAの主張に寄り添ったスタンスを取った。特に、大統領自身がOOIDAの主張を支持する主旨のツイートをしたり、フォックスニュースに出演し「彼ら(オーナーオペレータ)は素晴らしい人々であり(中略)、我々は彼らの面倒を見るつもりだ」などと発言したことは、運送事業者側を明確に支持するスタンスを示すものとして受け取られた。このような政権の姿勢もあって、運送事業者サイドの主張に沿った法改正の動きが進められていくことになった。

    参考資料2:Freightwaves,Trucker rally for fair rates gets White House attention
    https://www.freightwaves.com/news/trucker-rally-for-fair-rates-gets-white-house-attention

    ■主要な論点は「取引の透明化」

    このような経緯を経て、新たな規制の議論が進められていくのだが、マージン率そのものを規制するのは困難であるためか、実際の制度設計としてはマージン率をガラス張りにするという「取引の透明化」を進める方向で議論が進み、規制案もその方向性で取り纏められた(実際の取り纏めはバイデン政権下)。
    なお、従来の連邦規則でも、一定の情報開示は規定されているのだが、これが不十分であるというのが関係者の主張であった。従来の規則でも、ブローカーに対し、運賃・手数料を含む取引記録の作成・保存を義務づけたうえで、関連当事者への記録閲覧の権利を定めていたが、例えば運送事業者に記録閲覧の権利を放棄させるケースがあるなど、実効性を伴っていなかったというのである。
    その点を踏まえ、より実効性を伴うべく、新たに策定されたのが、下記の規制案である。
    新規制案では、「運送事業者による取引記録の閲覧権を確保」という目的を達成するため、「権利放棄の無効化」「記録請求の電子化」「48時間以内の対応」といった具体的なルールが提示された。
    なお、本稿執筆時点(2025年10月)においては、規則案(Docket)は官報で公表され、パブリックコメントが募集されるといった段階に留まる。ワシントンD.C.でのデモから5年を経過した2025年時点でも、新規制が導入される見通しは立っておらず、現在のところ、トランプ政権が本規制の導入に向けて力を入れているという状況にもない。その理由については明らかでないが、ブローカーの根強い反対がその一因として指摘できるだろう。

    貨物ブローカー取引の透明性に係る新規制(案)の要点

    (1)記録の電子化
    紙媒体での保存を前提とした旧来の運用は、透明性請求への迅速な対応を妨げ得るため、電子化を基本とする。ブローカーは、取引記録を電子フォーマットで保存し、検索可能かつ共有容易な形態で保持すること。
    (2)記録内容の明確化・整理
    取引に関わる荷主・運送事業者・ブローカーの識別情報、出荷・着荷の日時・場所、運賃、手数料、および当該出荷に紐づく支払・受領の金額・日付等を含めた記録とする。従来の「ブローカーサービス」と「非ブローカーサービス」の区別に依拠した書式は見直す。
    (3)48時間以内の提供義務
    当事者(荷主・運送事業者)からの記録請求に対し、ブローカーは規制上の義務としてこれに応答し、原則48時間以内に電子的に提供しなければならない。また、対面のほか遠隔(電子)等の請求手段であってもアクセスが可能となるよう運用する。
    (4)権利放棄条項への対処
    当事者の閲覧権は規則に基づく権利であり、契約上、これを放棄させる条項を用いることは無効とする規制上の整理を行う。
    (5)保存期間・範囲の再確認
    保存期間や範囲は、現行規制を踏まえて維持しつつ、電子保存へ移行することに伴う合理的な技術的要件を注釈で示す。

    資料:DOD、MFCSA(連邦自動車運送安全局)DocketNo.FMCSA–2023–0257
    Transparency in Property Broker Transactions(貨物ブローカー取引の透明性)
    https://www.fmcsa.dot.gov/regulations/federal-register-documents/2024-27115
    ※このDocketには、ブローカー規制の歴史、規制の意義等も簡潔に整理されており、関心のある方はご参照いただきたい。

      

    ■日本の下請け規制との比較

    冒頭に述べたとおり、日本においてはすでに「実運送体制管理簿」による記録の義務化や、「標準的な運賃」におけるマージン率の提示が行われており、米国に先んじて規制の具現化が進んでいる状況とも言える。ただし、同じ「下請け規制」でありながら、その中身を見比べると、別物と言って良いほど大きな差異が見られる。
    米国では、マージンの適正化を図ることを目的に、ブローカーの運賃・手数料を透明化するという規制が検討されている。その際、「透明化」する側は主にオーナードライバーで、される側はブローカーという関係である。
    日本で導入された「実運送体制管理簿」は、一見すると同じような規制に見えなくもないが、その内実は大きくことなる。「管理簿」の記載事項としては、法令により、①実運送の商号又は名称、②実運送事業者が実運送を行う貨物の内容及び区間、③実運送事業者の請負階層の3点が規定されているが、マージンの額等は必須記載項目ではない。よってマージンの多寡については依然としてブラックボックスである。
    もちろん、だからといって管理簿の導入が無意味だということではない。管理簿によって「多重下請けが生じている」という事実が可視化され、それによる取引の是正効果は期待できるだろう。また、法令では上記3点以外の記載事項を省令で定めることができ、今後、その他の事項を追加で記載させる可能性もある。

    日米の違いと言う点では、取引記録の「閲覧権」の考え方についても差異がある。
    日本の「管理簿」も米国の「取引記録」も、作成義務を負うのが元請けである点は共通である一方、管理簿を閲覧する権限を有するのは日本の場合、「真荷主」であり、下請け事業者の閲覧権限は規定されていない。
    今回、下請け取引の規制を導入した理由は、多重下請けによって「中抜き」されている小規模事業者を保護することだと広く解されているが、実際の規制内容は、そのような立法目的とやや乖離しているようにも見える。
    この問題は既に一部で批判があり、具体的には、多重下請けによってマージンを上乗せされた真荷主が、そのマージンを「中抜き」するために閲覧権を行使する、いわば規制を悪用することへの懸念を指摘する関係者もいる。
    このような懸念が残るとはいえ、米国は正攻法での規制を試みた結果、数年経っても導入に至っていないという事実を踏まえると、社会的受容性を考慮した日本の規制アプローチのほうが、結果的に実効性が高いという指摘もできるかも知れない。

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    管理簿のフォーマット例。出典:(公社)全日本トラック協会HP。

    ■最後に

    トラック運送における下請け規制はまだ始まったばかりである。
    直近のトラック法改正による「2次下請けまで」の規制については、政省令等の検討もこれからである。下請け規制のあり方は現在、試行錯誤のまっただ中であり、その意味では、海外の事例も含め、制度のブラッシュアップが図られることが望まれる。
    上述のDocketの文章を読むと、ブローカー制度には、「市場のマッチング・能力調整・運賃交渉の媒介という機能を通じて、情報の非対称を緩和しうる」というプラスの面がある一方、「仲介過程や契約条項の在り方によっては、逆に当事者間の情報格差が拡大する」というマイナスの面もあるとの指摘がなされている。過度な多重下請けは論外ではあるものの、一定程度の下請け取引にはプラス面があることも事実である。そのようなプラス面を活かしつつ、マイナス面を抑制していくためにどのような規制が望ましいかという点も含めて、議論が深まることを期待したい。


    (C)2026 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

関連記事

サカタウエアハウスの業界別ソリューション、フルフィルメント・サービス 他

流通・マーケティング・物流分野の研究レポート 「ロジスティクス・レビュー」無料配信中!
申し込み
流通・マーケティング・物流分野の研究レポート 「ロジスティクス・レビュー」無料配信中!
申し込み