第272号物流ドライバーの基本を考える(2013年7月23日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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目次
1.はじめに・・・。
トラックドライバーは、全国に80万人とも、100万人ともいわれています。
トラックが正常に機能しなければ、経済や国民生活の大半が止まってしまいます。
その役割の大きさをドライバー自身が自覚すると共に多様な個性を持った沢山のドライバーの日々の行動で職業的地位の向上、並びに企業と社会、企業と顧客などの関係先との信頼関係でドライバー業務(運転だけが業務ではありませんが・・・。)が成り立っています。 物流の主役であるトラックドライバーは、企業(荷主、自社、傭車先など)に課せられた社会的責任、すなわち安全運転を継続的に遂行することと、納品先へのCS(顧客指向)が絶対条件になっています。
物流活動には、ドライバーをはじめ「優秀な人材の確保」、「優秀な人材の定着」「人材の育成」というテーマは、稀有に感じられますが、昔も今も変わらないものです。
先ずは、ドライバーの人材育成の第一歩、マナー向上からスタートしたいものです。
2.ドライバーの基本
ドライバーの責務は、先ず、安全の遂行が第一です。
日々の物流活動(荷物の輸送)を実践する中で、安全確保と(交通事故、荷物事故の撲滅)と顧客(CS)指向に徹することです。 ドライバーは「公共空間」が主たる職場で公共の論理を優先することが必須条件です。
物流活動の中で、輸送は唯一の社外に出て「公共空間」で行われる活動です。
企業の論理より、公共の論理、交通安全を最優先することが第一の責務です。
ドライバーの基本は、企業と社会、企業と顧客の最前線で活躍しているとの自覚を持つことです。
これらの自覚と行動がドライバーの職業的地位の向上につながっていくものと考えます。
ドライバーの人達が日々の業務を遂行する中で、社会人・企業人としての責任と自覚を持つことがドライバーの基本と考えます。
その責任と自覚のスタートの第一歩は、機に応じた挨拶ができること、ドライバーの基本として定着させることだと考えます。
機に応じた挨拶は、ドライバー自身(公私ともに・・・。)の第一印象を納品先や職場内で自分自身をよりよく伝える武器であり、大切なポイントです。
いや味にならず、ドライバーとしての自分自身をさりげなくアピール(日々の挨拶)することがコツだと考えます。
ドライバーの職業的地位の向上が求められている中、このような日々の繰り返しがドライバーの職業的地位の向上につながると考えます。
3.機に応じた挨拶の基本
これは、プロのドライバーだけでなく、誰もが意識したいものです。
1) | 挨拶の基本は、機に応じて、挨拶すべき時に必ず挨拶をするということです。 |
2) | 機に応じてとは、短いことばによって気持ちを送る仕草や言葉です。 |
3) |
機に応じた挨拶は、慣れていないと、とっさに出なかったりします。 挨拶は、習慣になれば意識しなくてもできるようになるものです。 誰に向けて、機に応じた挨拶をしているのかが、わからなければ意味がありません。 |
4) |
基本的な挨拶の言葉として、機に応じて自然に口から出るように練習しましょう。 機に応じた挨拶ができるドライバーは、社内、顧客からの信頼感が高まります。 |
4.ドライバーの礼節と身だしなみ
これもドライバーだけでなく、誰もが意識したいものです。
1) | 納品先では、仕事のつながりを意識するために、極力(出来るだけ)名前を覚えて名前で呼ぶようにしましょう。(親愛感が醸成されます。) |
2) | 役職の上下(パート、アルバイト含む)に関係なく、言葉使いをきちんとすること。 |
3) |
挨拶は相手より先に、元気に、明るく、大きな声で! ①到着した時・・・こんにちは、○○(荷主・委託先・自社など)の××(名前)です。 ②帰る時・・・有り難うございました(お世話様でした) |
某宅配便のドライバーが来社する毎に「こんにちは、有難うございました。」と元気に挨拶する光景に物流業務に携わっている人は接したことがあると思います。 以前、私が参加していたプロジェクトチームの職場の声として「あれは挨拶ではない、掛け声だ」という声も一部ありましたが、『元気で爽やかで元気が貰える挨拶だ』との評価も受けていました。 挨拶は人に与える印象がマチマチで難しさを実感しました。 |
4) |
職場からお客様のところに出かける時、帰った時 ①出かける時は 「行ってきます」見送る時は「気をつけて、行ってらっしゃい」 ②帰ってきたら 「ただいま」、 迎える時は「お帰りなさい、ご苦労様でした」 td> |
5) |
出社、退社の時 出社時・・・おはようございます。 退社時・・・お先に失礼します。 |
6) |
身だしなみ ドライバーとして(服装、髪型、爪、名札、ほか)良識(清潔)ある身なりを! 身だしなみが大切だとは、良く耳にします。 では、なぜ身だしなみを整えることが必要なのでしょうか? 目から入ってくる情報の重要な要素がこの身だしなみになります。 身だしなみに十分気を配り、さわやかな印象でドライバー業務を遂行しましょう。 |
5.報告・相談の基本
業務を遂行する過程で守るべきこととして、通称「ホウレンソウ」があります。
ドライバーは、前述の如く、外(社外)の仕事が主体で、現場(顧客先、公共空間など)では様々なコミュニケーションが生じ、外部で発生した出来事を先ず早く、的確に報告や連絡することが必要です。
1) | プロのドライバーの基本のひとつが「報告・連絡」です。 | |
2) | 報告・連絡は、ドライバーの義務です。 | |
3) |
あいまいな報告・連絡、遅れた報告・相談はプロのドライバー失格です。 これは、ドライバーに限らず全ての業種業態で働く人達に言えることです。 |
☆参考:クレーム発生への取り組み(考え方) 顧客先からドライバーに話しても始まらないと言わせないようにしましょう。 ドライバーとして極力同じ土俵に乗れるように日々、精進して顧客からも自社のスタッフからも仲間としての地位を確立(物事を共有する)したいものです。 1)クレーム発生責任は、自分自身との思いで、誠意をもって対処すること。 2)クレーム発生の責任、云々よりも報告、連絡を怠りなく! 3)クレームの連絡をたらい回しにしない。(自分自身の問題として受け止める。) |
6.物流ドライバーのCS(顧客指向)
1) |
ドライバーの「お客様第1」とは・・・お客様に接する姿勢!です。 ドライバーから見た顧客って誰、社長!(雇い主)、上司、荷主、納品先、それとも・・・。 ドライバーのお客様は、後工程(自社、他社を問わず納品先)です。 |
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2) |
ドライバーは、お客様の満足(CS)を日々意識(実践)すること。 常に自社や荷主の看板を背負っていることを自覚し、業務に励むこと。 ドライバーの立場で、CS(お客様満足)を実践すること。 |
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3) |
笑顔の表情を忘れずに・・・。 お客様に親しみや安心感を与えるためのポイントは、「笑顔と挨拶」です。 ドライバーとしての最高の「笑顔と挨拶」でお客様との信頼関係を醸成しましょう。 |
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4) |
顧客への接し方(納品先で!) 納品先での挨拶!・・・ まず、到着したら第一声(明るく,元気に) 荷扱いは、丁寧に、スピ-ディに、言葉使いも明るく、丁寧に、余計な(過剰な!)サービスは、慎む、納品先での決められたルールは、厳守、整理(捨てる)、整頓(後片付け)の遵守、使用した機材は、元の場所に必ず戻すことなどです。 ドライバーのCS(お客様満足)は、上記の3)笑顔の表情を忘れずに、と4)の顧客への接し方を実践することでドライバーに光が当たります。 |
7.安全運転の基本
物流を担うドライバーは、物流業務のプロのドライバーです。
プロのドライバーは、「モノ」を運ぶだけで満足してはいけません。
業務上の必要な知識や技術を習得すると共に事故を撲滅し、お客様の信頼を高め、物流業務のプロのトラックドライバーとしての自覚を持つことが肝要です。
1) | 準備運動 出勤してすぐにトラックに乗務せず、個々人に適した短時間のストレッチ体操などで身体をほぐします。 準備運動終了後、トラックに乗務します。 |
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2) | 日常点検 トラックドライバーは、一日一回、運航開始前に当該車両の点検をします。(道路運送車両法)路上故障の多くは、ガス欠やパンク、バッテリー関係です。 いきなり故障や壊れるというケースはまれで、ほとんどは何らかの前兆があります。それを見つけるのが、日常点検なのです。 |
3) | 危険予測(予知) 危険予測(予知)は車を運転する上で、起こりうる事故を防止するために非常に大切なことです。 自分がどのような運転をしていても他のドライバーや歩行者の過失によって事故に会うことがあります。 |
4) | 災害が発生した時のドライバー義務 運転中に警戒宣言が発令された場合・・・車を置いて避難する。 できるだけ道路外の場所に移動して停車すること。 やむを得ず、道路上において避難する時は、道路の左側に寄せて駐車し、エンジンを停止、窓を閉め、ドアをロックせず、キーを付けたままにすること。 |
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5) | 運転中に大地震が発生した時 急ハンドル、急ブレーキを避け、安全を確保して道路の左側に停車させること。 停止後は、カーラジオなどで地震情報や交通情報を確認し、周囲の状況に応じて行動すること、運転を再開する時は、道路の損壊、信号機の作動停止、道路上の障害物に十分注意すること。 |
8.最後に。
平成11年12月の労働者派遣法改正により、トラックドライバーを含む自動車運転業務についても労働者派遣が自由化されたことや、運賃下落による売上減少から、輸送効率の向上と人件費コスト削減のために非正規社員ドライバーを有効に活用して、利益率向上を図る企業が多く見られるようになりました。
今後もこのような流れが加速し派遣社員ドライバー、契約社員ドライバー、パート社員ドライバーといったような多用な雇用形態が増えていくことが予想されます。
現在も様々な業種業態で多様な雇用形態で活躍している人達が沢山いますが、雇用が65歳に延長された際の変化を想像することができません。
ドライバーは運転するだけではなく、荷主に対する提案力強化等の営業センス、また情報提供・パソコン技能等専門スキルを身につけて欲しい、あるいは最初からそういった人材が欲しい、という欲張りな経営者の声も聞こえてきます。
即効性の利益率向上か、それとも中長期的な付加価値の追求か、経営者が悩まれるところだと思いますが、企業活動が続く限りドライバーを含めた「優秀な人材の確保」、「優秀な人材の定着」というテーマは変わらないものだと考えます。
先ず、先を見据えて、新しいプロドライバー像の確立を期待したいものです。
プロドライバーの機に応じたマナー意識の向上からスタートしたいものです。
以上
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