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経営戦略・経営管理

第56号最近の物流動向を展望する(2004年5月27日発行)

執筆者 鈴木 威雄
株式会社富士ロジテック 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • 学歴
    • 1967年 3月 東京大学工学部工業化学科卒業
    • 1969年 3月     同   修士課程修了
    • 1976年 4月 米国ミシガン大学経営学部修士課程修了 MBA
    職歴
    • 1969年 4月 東レ(株)入社
    • 1972年 3月 同社退社
    • 1972年 3月 鈴与倉庫(株)入社 取締役就任
      (1990年12月 (株)富士ロジテックと商号変更)
    • 1977年11月 代表取締役社長就任 現在に至る
    • 1976年11月 鈴与(株) 取締役就任
    • 1989年11月 同社 退社
    • 1987年 3月 (株)流通工学研究所 代表取締役社長就任 現在に至る
    • 1989年 1月 冨士運輸(株) 取締役就任    現在に至る
    • 1989年 6月 東京団地倉庫(株) 取締役就任   現在に至る
    所属団体
    • 1977年 5月 静岡県倉庫協会 理事並びに副会長就任
    • 1992年 5月 副会長辞任 理事      現在に至る
    • 1977年 6月 (社)日本倉庫協会 常任理事就任 現在に至る

目次

1.はじめに

  最近、新聞を開けばSCMや物流企業同士の提携や合併の話題が載っていない日はない。「日本の物流を大きく変化させなければ日本経済そのものの発展を妨げるボトルネックになってしまう。」と永年信じ、改革を主張してきた筆者にとっては、まさに「我が意を得たり」という心境であるが、一方において、最近の物流の動向に一種のあやうさを感じている今日この頃である。
  このような議論をすると、頑迷な保守主義者のように見られるかもしれないが、あえて老婆心ながら感じている不安を整理して問題提起をしてみたい。

2.本当に改革は進んでいるのか?

  SCMや3PLという会話は同業者の間でも、お客さまとの会話でも必ず出てくる話題である。3PLの定義はなんだというようなめんどうな問題は別にしても、日本中が物流の問題に関心を向けているという点では、こんなに喜ばしいことはない。
  私が最初にSCMについて調べようとした数年前は、本屋を探しても日本語で書かれた参考書はなく、非常に苦労したが、今では書店の棚にあふれていてどれを読んだら良いのか迷ってしまうほどだ。物流に関心を持つ者はいずれかの参考文献を読んでその考え方のシンプルさ、理解しやすさに圧倒される。それでは世間一般のSCMへの理解が進んだのかと聞かれれば私はノーと答えたい。私の理解ではSCMとは理論的には極めてわかり易い概念ではあるが、いざ実行をとなるとなかなか難しい面が沢山あるように思える。まず第一にSCMの基本的な条件は情報が即時かつ縦横無尽に伝達されることを前提にしている。なるほどコンピューターの驚異的な発展によりハード的には情報の即時の伝達は可能になった。しかし私がコンサルティングをした多くの会社は、社内での情報伝達は恐ろしく遅いという印象であった。製造、販売,管理などの部門間での縄張り争いとまでは言わないまでも、セクショナリズムが厳然として存在し、情報がうまく流れないという例は枚挙にいとまがない。情報伝達スピードが向上しなければ、いくら機械的にスピードを早めてもまったく意味をなさないことは明白であろう。さらに悪いことには情報伝達のスピードの問題以前に、その会社の経営戦略が確立されていない企業がたくさん存在するということである。会社としての基本的な販売戦略や 、製造サイドと販売サイドの情報の取り扱い方、さらに管理サイドのかかわり方などがきちっと議論され意志統一されていて始めて、ひとつの情報が速やかに各部署に伝達され、共通の認識のもとに会社としての行動がスタートするわけであろう。従ってこの社内システムが完成されていなければ、いくら情報を集めても、いくらその伝達スピードを早めてもなんら意味が無い。このような観点で見てみると、まだまだ情報の扱い方について十分な議論がなされて、社内システムが確立されている会社は少ないように思われる。SCMの構築の前に、社内の情報の伝達システムと意志統一を図る手順の確立が重要である。

  第二の問題は、SCMの理論のシンプルさからサプライ・チェイン・システムが簡単に構築できるという誤解をユーザーが抱きやすいという問題である。
  多くのユーザーから、我々のような外部業者に3PLでサプライ・チェインを構築してくれという依頼があるが、サプライ・チェインの構築は極めて大変な作業であって、発注者とそれにかかわる数多くのサプライヤーの意志統一と細かな役割の決定と いう、ある意味では気の遠くなるような作業が必要である。このような意味で,私は完成されたSCMなどというものは地球全体を見回して見ても数えるほどしか存在していないと感じている。さらには今日の時点で完成されたものが仮に存在するとしても,明日にはそのシステムが最良のものではないという可能性を常に持っているということを認識しなければならない。なぜなら、顧客の購買行動というのは常に変化するものであり、その顧客の購買行動の変化に伴って、メーカーのマーケティング戦略が変化し、マーケティングの変化は当然物流に変化をもたらすからである。このような観点からすればSCは常に変化し続けるもので、毎日の改善が必要なものである。
  第3の問題はSCMの理論は、得られた情報に基づいて企業は自由に行動できることが前提になっている。ところが日本の物流の現状はさまざまな規制が温存され、自由な企業活動が出来ないようになっている。ある業者が(他業種からの新規参入を含む)従来その仕事に従事している業者より、コストを安く、あるいはもっと迅速に仕事を処理する方法を考えついたとしても、現状では規制に阻まれて、その能力を生かして新しいビジネスを始めることが出来ない。SCMの考え方の基本は、どんどん新しい考え方を採用し実行することによって、物流の停滞をなくすということがあると思うが、現在の日本では実現できない。今日のグローバルな生産,販売の動きを考えたときに、物流は一気通貫でなければならない。ひとつの会社で全てを完成させる必要は無いが、ひとつの考え方で全体の流れを完成させる設計図のもとに、協力して目的達成を目指すチームが形成できなければ、SCMなど絵に描いた餅に終わってしまう。物流に参入規制がある限り、ユーザーの求める新しい物流は構築できない。これが私が今日の日本では本当のSCMは実現できないと考える理由である。

3.コスト認識

  阪神大震災以来、日本の物流は高いという認識が広まり、空港の使用料金、港湾を利用するためのトータルコスト、トラック運賃の国別の比較などが雑誌などにも載るようになった。筆者は昔から漠然とではあるが日本の物流は高いという認識で行動しており、それほどビックリすることではないが、では一体なぜ高いのだろうかという議論が説得力のある形で論じられたケースをあまり知らない。高速道路料金の負荷の仕方や、税金など細かな議論をするにはさまざまな条件の違いを明確にしなければいけないなどの問題があり、簡単ではないようだが、各国の諸条件を調整加味した上で、やはりもう少し詳細なコストに関する議論が、学者などから提起されても良いように思う。
  最近になって、国土交通省ばかりでなく経済産業省なども物流に関心を高めており、ときどき「日本の物流コストもやっと下がり始めましたね。」というような議論を聞くことがある。その度に私は「冗談を言ってもらっては困る。最近下がっているのは物流の値段であって、コストは残念ながら下がっていない。」と言い続けてきた。長引く不況によるデフレ経済下、顧客からの厳しい値下げ要求と競争によって、値段がどんどん下がっていくが、コストは下がらない。何故ならばほとんどの物流業者はコストダウンの手法を知らないからである。コストダウンのためにはまず自分のコストを正確に把握しなければならないが、多くの物流業者は正確なコスト把握の手法を身につけていないのが現状である。そのためコストを下げられないまま値段が下がってしまい、破綻にまで行ってしまうというのが、中小の物流業者の現状であろう。
  筆者は数年前に米系のコンサルタント会社から薦められてサービス業などにも適用できるコスト計算手法のActivity Based Costingを学び日常の仕事の中に介在する無駄を見つけ出し、コストダウンに成功したが、ABCの定着にはかなりの時間とお金と大変な労力が必要であった。物流コストはABCなどの分析手法に基づいて、現状の作業の中に潜む無駄を見付け出し,それを除去する方策を講じることによって、まだまだ下げる余地が充分にある。 本当の意味での物流コストダウンのためには、先ず第一に正確なコスト把握が不可欠であり、物流業者がコスト分析手法を身につけることが極めて重要であることを強調しておきたい。

4.環境問題

  最近では東京で桜が真っ先に開花するというように,都市のヒートアイランド現象であるとか、ディーゼル排ガスなどによるトラブルが大きな問題となり、環境負荷を軽くしようという動きが盛んになってきた。大手の荷主の中には近い将来グリーン購買というように物流業者にもISO14001の取得を求める傾向が強まってきており、環境保護の観点からたいへん望ましい傾向である。しかしIS O14001の取得のためには、中小の物流業者にとってはかなりのコスト増を覚悟しなければならない。ISO取得のために専任者を置いたり、コンサルタントを入れたりというようにかなりの経費増を覚悟しなければ取得は難しい。このコスト増は多くの中小零細企業にとっては耐えられない負担になろう。国や業界団体が中小企業のための啓蒙活動と取得のための援助活動をするというような施策も考えられて良いのではなかろうか。

5.物流企業の合従連衡

  これまで述べてきたように、さまざまな変化が物流企業の生き残り政策に大きく関わってくる時代になった。日通と西濃との提携とか、豊田自動織機による富士物流への資本参加とか、オリックスによるフットワークの買収、さらには外資のエクセルによる富士通ロジスティクスの買収など、あっと思うようなニュースが連日新聞を賑わしている。物流子会社などの売却の話しなどもあちこちから聞こえてくる。顧客の厳しい物流改善要求に的確な形で答えを提供できなければ、企業の存続が難しい時代になっている。このようなニュースを見るにつけ筆者が常に考えることは、その合従連衡がユーザーにとってどのようなプラス効果をもたらすことを期待して行われているのかという点である。たんに企業規模の拡大だけではユーザーにとっては何のメリットにもならず、当該企業に対する評価も高まるとは思え ない。企業がお互いの持っているコンペティティブ・アドヴァンティジを利用しあうことによって、よりユーザーにとってメリットのあるサービスを構築できれば、ユーザーの評価も高まり企業も大きな飛躍を期待できる。今後もさまざまな形での物流企業同志の提携や合併、買収などが進行すると思われるが、そのような中からユーザーの隠れたニーズを見つけ出し、新しいビジネスモデルを構築するなどして強固な経営基盤を確立する企業が現れることを期待したい。

以上



(C)2004 Takeo Suzuki & Sakata Warehouse, Inc.

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