第281号 物流料金体系が変わる:変動・包括契約への変革にどう対応するか(2013年12月5日発行)
執筆者 | 野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表) |
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目次
- 1.物流事業規制緩和:料金設定自由化
- 2.歩率契約の危うさ:商流条件の変化に耐え得るか
- 3.顧客ニーズの変化:コスト変動費化・採算管理の簡素化
- 4.原価計算の基礎はどうあるべきか:稼働率向上を図る
- 5.コンペの在り方:業務提案の競争であるべき
1.物流事業規制緩和:料金設定自由化
平成以降物流事業の規制緩和が進められ、料金は事後届出制となり原則自由化された。
(物流事業の規制緩和要点:運送)
・認可制から届出制へ:料金事後届出制➝規定範囲内であれば原価計算書提出省略可
・営業区域の廃止 :従来は片地主義➝発・着地限定
・最低保有台数の縮小:新規参入緩和➝一方で安全重視等
結局は従来通りの料金体系が維持されることになったが、そのレベルは国が定めている
基準値の30~40%レスといった実勢で推移している。これでも物流事業者の経営は成り立ち、物流業界も厳然として存在している。
一方で消費領域における顧客の要求は大きく変わった。即ち変動かつ包括的な料金建てであり、従来の原価計算や契約概念を根本から揺るがすものである。
(顧客側のニーズ:物流~ロジスティクスへ)
・財務オフバランス化:固定設備を持たない➝ノンアセット化、変化への対応
・物流コスト変動費化:アウトソーシング➝リスク回避の狙いも
・歩率~包括契約 :センターフィーの設定に繋げる➝ベンダーに要求
そもそも物流原価は物理的要素で構成されているが、これに商品価額準拠という要素が
持ち込まれた。これは商流要素であり、しかも変動的である。
所轄官庁である国交省は、物流事業者に対し原価計算上認めない形を幾つか通達しており、この歩率方式も含まれる。しかし顧客側には何の規制もなく、現実的にはそのペースが罷り通っている。時代の変化は止むを得ないとしても、条件整備をしなければ事業者にとってこれは極めてリスクの高い契約方式となる。物流業界は著しい実勢相場の低迷と、料金体系の変化に一体どのような手を打っているのだろうか。
2.歩率契約の危うさ:商流条件の変化に耐え得るか
歩率契約の基本は次のようなものである。
・歩率設定 :総物流コスト/商品通過金額➝一定期間の条件変更を包括的に容認
・一気通貫 :物流センターコスト~店舗納品コスト➝通関・調達コスト等を含める場合もある
・センターフィー:流通業はこれに利益を乗せてベンダー側に要求➝通常倍程度のレベル
商品通過金額は市場の趨勢により変動的であり、また特売等の人為的な価格低下もある。昨今のデフレ基調ではこの契約方式は事業者側にとって明らかに不利であり、事業採算として成り立っているケースも極めて少ない。
物流コストで変動的な要因となるのは在庫量やアイテム数に加えて、店舗数やその出店エリア等である。店舗の改廃は当然盛んに行われ、広域化する。これらの変化をある範囲内で容認するわけだが、基本を業務委託契約書でどこまでカバーし切れるかが問題である。通常契約期間が1年であれば、どんな事態が生じてもその間は耐えなければならない。
さらには商品ペナルティーに関る取り決めも重要である。例えば欠品が生じた場合、それがどちらの責任であるのか明らかに出来なければ、通常は業務受託側の責に帰することになる。そしてその弁済額が販売チャンスロスとしての売価か、仕入れ価格としての納価なのかで、その間は倍程度の開きがある。これは物流事業採算を吹き飛ばすほどのものになる。まずは責任の所在を明らかにする日常業務データーの収集が不可欠で、これが管理状況の「見える化」である。いずれにしてもこれを含め契約書でどこまで明確化出来るかが問われていく。下表に主なコスト要素を示すが、この中でコストドライバーとその感度を充分に把握しておくことが重要である。
3.顧客ニーズの変化:コスト変動費化・採算管理の簡素化
従来からの物流料金体系は固定費要素が大きく、また設定根拠が分かりにくいということで、顧客側から改革への要望が出されていた。
(従来の物流料金体系:要点)
運賃: | 車種別時間制・距離制➝原則車単位貸切 特別積み合せ(旧路線業)はトン・キロ制➝小口混載 各種割増 |
倉庫料: | 保管料(月間)=積数×保管料単価➝積数とは月間入庫量+期別在庫量累計期は常温系が10日、 低温系が15日単位(その根拠は)単価は商品群別従価率+従量率、低温は従量率のみ 荷役料=商品群別単価設定(従量率のみ、数量比例) |
例えば保管料は、1日滞留しただけでもその期間におけるフル原価が課せられるのはどう考えても不合理であり、日割り要求は以前からあった。在庫回転を上げれば倉庫の滞留期間は短くなり、そのスピードに対応出来れば倉庫料トータルの収入は増えるはずだが、この考え方は依然として変わらない。
運賃の個建設定やトン・キロ制は共同配送では古くから行われており、これをさらに理論的に拡大する方向はあるのではないか。保管料の日割り計算もこの範疇に入るだろう。但しこれらの前提は顧客毎の専用貸切りではなく、共通システムなので一定の制約がかかる。ある程度の幅で標準化された物流サービス内における、変動的な料金設定である。個別要求を重視するのであれば、当然物流コストは固定化される。
顧客ニーズが歩率・包括契約であるということは、物流コスト把握の簡素化という狙いもある。仕入原価に歩率を掛ければ物流コストが算出出来るのは実に簡単で、採算管理もしやすい。難しい物流業界の論理に従わなくてもコスト管理が可能になり、もちろんセンターフィーの設定にも貢献する。お互いの利害の対立をどう合目的なものにするかかが今、問われている。業界としてこれらの要求を拒否し、従来方式でしか対応しないということでいつまでビジネスが可能になるのか。
4.原価計算の基礎はどうあるべきか:稼働率向上を図る
物流事業者としての経営努力はまず如何にして設備稼働率を上げるかということであり、究極の形は365日・24時間稼働である。単位時間当りの固定費を削減し、扱い量当りの変動費効率を上げる。この体制を組むには当然要員コストが高くなる。即ち交代シフト編成の付加要員率、深夜割増等である。現状の労基法をクリアするためには、20~30%程度の増員が必要になる。予備車輌等のコストも同様である。コンビニ業務への対応は基本的にこの形で、全時間帯をフルに活用する。
顧客はこの時間帯の必要部分をスポット買いするが、その場合は当然この付加コストを含めたものでなければならない。ところがこれを前述した従来の時間制で要求する。それはいいとこ取りというもので、理屈に合わない。フル稼働に近付けることでコスト効率や生産性は上がるが、リスクも増大し業務品質の向上が必須となる。この前提条件を顧客に理解してもらう必要があるが、中々そうならず非正規雇用や質を下げての対応になりがちである。
これ以外に付加しなければならないのは安全・環境対応コストや、新規業務立上げ等の創業コストである。新規立上げには一定の訓練や、応援コストも掛かる。もちろんそれを最小化することが競争であり、それが高品質ということになるが、コスト要求に加えるべき要素である。物流原価は重量・距離・時間等の物理的な要素が基本となるが、これに商品価額や不定形コストをどう加味するかが重大な課題である。いずれにしても事業者側の収受料金が変動的になるのであれば、コストも変動的にして採算を確保する方策が必要になる。これが業務品質管理の課題でもあり、業務改革である。そこではリスク対策や危機管理が重要になる。
5.コンペの在り方:業務提案の競争であるべき
どのようなビジネスでも競争は熾烈であり、大きくは需要と供給のバランスで価格が決定される。もちろん物流においても例外ではなく、コンペで横並び比較してコスト評価で落札するという過酷なことになる。顧客がこの一面的な判断で、業務の立ち上げや安定化までの時間等でトラブルを抱えるということもある。
(コンペの在り方:業務提案競争)
・必要な情報開示 :目的確認、守秘義務➝業務・コスト設計
・料金提案とコスト試算:専用か共同か、コスト改善額➝シミュレーション
・プレゼンの充実 :新システム運用➝ビジュアル化
コンペは単に見積書提出程度のレベルではなく、顧客ニーズを踏まえた新規業務提案で
あり、膨大な作業が伴ってくる。これに対し参加社に何らかのフィーを支払うルールを形成すべきである。この実態は全くないわけではなく、理解ある顧客が真摯な提案を促すために運営している。
いずれにしても顧客側も物流事業者側も、自らに都合のいい論理を並べ立てるのではなく、流通の変革を前提にあるべき姿を共有化して真のパートナーシップを再構築していくべきである。商物分離ということで物理的機能だけを前提にした料金体系に、商流的要素が加わるというロジスティクスの領域では、もはや避けられない事態が生じているのである。過去のコンサル経験の中で、タリフ通りに支払っているというケースが3件ほどあった。顧客が物流に無知であり、物流事業者としては正当な要求をしているという一方通行では、ビジネス関係にはならない。そして不公正な商習慣を是正するという、条件整備が必要であることは言うまでもない。
(ご参考までに:日本物流学会誌)
・2007年:一般研究論文、筆者著、「在庫管理の適正化を図る在庫日数に連動した保管料契約方式の考察」
・2008年:審査付き論文、筆者著、「3PLビジネスにおける契約料率設定に関する一考察」
以上
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