第204号MIGROS Turk トルコのスーパー(2010年9月14日発行)
| 執筆者 | 鈴木 準 サン物流開発 代表  | 
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目次
- 1.Migros(ミグロ) 発祥の歴史
 - 2.トルコ・ミグロの概要
 - 3.10年間年率25%の成長
 - 4-1.トルコ・ミグロの物流ネットワーク
 - 4-2.トルコ共和国
 - 4-3.ミグロの成長発展
 - 5.オペレーション
 - 6.総 括
 
訪問日 2010年6月23日(水)10時
所在地 Turgut CaddesiNo:1234758Atasehir-Istanbul
業 種 スーパーマーケット
ご案内 Mr. Ethem Kamanli
1.Migros(ミグロ) 発祥の歴史
哲学と理念を持つ商人
  「ミグロ」とはドイツ語で”大きい”と云う意味です。協同組合組織のスイス最大のスーパーであり、最大の企業でもあります。今回、紹介するのはスイスのミグロを発祥の原点とするトルコのスーパーマーケット”Migros Turk”(トルコ・ミグロ)であります。
  母体のスイスのミグロの設立は1925年、本部はチューリッヒにあります。事業はスーパーマーケット、ガソリン、スタンド、エレクトロニクス、書籍販売と出版、旅行、保険、金融など多岐にわたり、夜間学校さえ経営しています。年商206億4000万 スイスフラン(2006)、営業収入は 7億5400万 スイスフラン、従業員は79 000 人です。
  スイスのミグロは1925年に私企業としてチューリッヒにゴットリーブ・ドゥットワイラー(Duttweiler)氏によって創業された小売業です。当時スイスの流通の中間マージンは高く、彼は売価に疑問を感じていました。ヨーロッパの商人は国と国民のために奉仕する哲学を持って起業する人が多いようです。彼が、目指したのは流通経路の短縮、少品種多量販売、無店舗販売と云う近代小売業の先駆けとなるものでした。このような革新的小売業に対し、既存の小売業者は行政と組んで、彼の事業を妨害しました。例えば移動販売のトラックの駐車場所や駐車時間を制限しました。彼は、商品を載せたトラックを村から村に移動し、トラックを路上に停め、コーヒー、米、砂糖、ヌードル、ココナツ油、および石鹸だけを販売しました。
  その後、彼と彼のセールス・ドライバーは、彼らの販売アイテムを広げました、そして、1926年に、ドゥットワイラー氏はチューリッヒに彼の最初の路面店を開きました。1941年、ドゥットワイラー氏はティチーノに2号店を開店したが、それはMigros Cooperativesと云う店名で協同組合組織として設立されました。この2番目の店がミグロを大躍進させました。
  このような革新的事業政策はスウェーデンのIKEAの創業者イングヴァル・カンブラード氏に共通するところが多く見られます。その後、ガソリンスタンド、保険、旅行、銀行、週刊誌の発行、レストラン、語学学校と事業を拡大しました。ミグロの特徴はPB商品の開発。酒・煙草を販売しない事業方針、積極的なエコロジー活動であります。モーダルシフトも熱心に推進しました。物流センターでは人間工学の応用が進んでおり、人と地球にやさしい物流システムを構築しています。小売業経営者と云うより宗教活動家とか、政治活動家と云えるような行動です。そして、スイスとその国民のために語学学校や多くの夜間学校の運営もしています。
  1986年にはフランスの国境の地域における最初の外国スーパーマーケットをオープンしてから続々と国外に進出しました。
  1954年に、トルコのイスタンブール市の財閥と協同して”Migros Turk”を設立しました。この会社は1975年にトルコのグループ・コチHoldingに売却されて、トルコの最も大きい小売業者になっています。
2.トルコ・ミグロの概要
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所在地 Turgut CaddesiNo:1234758Atasehir-Istanbul 業 種 スーパーマーケット 設 立 1954年 本 部 トルコ・イスタンブール 代 表 アジス・ブルグ氏  | 
![]() 小型店 出所:http://tecrubem.net/yasam/is-basvurulari/migros-parttime-is-basvurusu/  | 
3.10年間年率25%の成長
  1954年にSwiss Migros Cooperatives UnionとIstanbul Municipalityの共同事業として創設されたMigros Turk(トルコ・ミグロ)は、1975年Kocグループに買収されて100%トルコ企業になりました。現在、トルコ・ミグロはトルコ国内36都市に450店を展開し、同国小売業界のトップを占める企業となっています。

Mが3個の大型店
  
  2000年度に売上高10億ドルを記録したトルコ・ミグロは、ここ10年間、年率25%という驚異的な成長を続けています。年間の顧客販売取引は1億5000万件にのぼる。この巨大小売企業は、近い将来トルコの全都市に店舗展開することを計画している。1996年以来、同社のRamstoreチェーンはバクー、アゼルバイジャン、モスクワ、カザフスタン、そしてブルガリアのソフィアに出店してきた。現在、トルコ・ミグロの子会社は4ヵ所のショッピングセンターを含め合計21店舗を運営していている。トルコ・ミグロは、これらの国々で店舗を増設する一方、CISおよび東ヨーロッパ諸国への投資拡大も計画しています。
  顧客サービスを改善するために、10年以上にわたって最新技術を店舗に導入しています。1990年以来、同社はNCR開発のシステムによってPOS、電子棚ラベル、ネットワーキングなどのストアオートメーションを導入してきました。また、セルフチェックアウト、店内キオスク、携帯データ端末により在庫補充システムなども導入した。同社はいくつかの業界初の記録を有しています。たとえば、バーコード・システム、そしてごく最近はトルコの小売企業として最初にデータ・ウェアハウスを導入しています。
![]() 出所:http://travel.webshots.com  | 
![]() 出所:http://travel.webshots.com  | 
トルコ・ミグロは、拡大目標を達成するために、店舗の売上と顧客情報を一箇所で迅速に分析するシステムを必要としていた。具体的には、同一データベースに全国の販売データを収集して過去の顧客データを比較し、年度ごと、地域ごとの販売推移を知る必要があった。1996年、Teradataはリレーショナル・データベースシステムの構築をトルコ・ミグロに提案しました。
4-1.トルコ・ミグロの物流ネットワーク
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2010年4月現在、トルコのミグロは11の配送センターを持ち、1676店に商品を供給しています。
 ・物流センターの総面積は204.251㎡、  | 
![]() 出所:http://www.trturkey.net  | 
| 物流センター | 対象店舗業態または商品 | 
| Adana | スーパーマーケット・ディスカウントストア・生鮮食品 | 
| Antalya | スーパーマーケット・ディスカウントストア | 
| Bayrampasa | ディスカウントストア・FV・生鮮食品 | 
| Erzurum | スーパーマーケット・ディスカウントストア・生鮮食品・FV | 
| Gebze Golbasi *-1(見学先)  | 
スーパーマーケット・ディスカウントストア・生鮮食品・衣料品・青果・輸入品・輸出品 | 
| Kemalpasa | スーパーマーケット・ディスカウントストア・生鮮食品・青果 | 
| Mugla | スーパーマーケット・ディスカウントストア・生鮮食品・青果 | 
| Pinarbasi | スーパーマーケット・ディスカウントストア・青果 | 
| Saray | スーパーマーケット・青果 | 
| lucak | 衣料品 | 
*-1 Gebze Distribution Centreは物量は最大で、土地は112.000㎡、建物は60.466㎡。
4-2.トルコ共和国
(1)概 要
  ①面 積 780,576平方キロメートル(日本の約2倍)
  ②人 口 7,256万人(2009年12月、国家統計庁推定)欧州第2位
  ③首 都 アンカラ
  ④民 族 トルコ人
  (南東部を中心にクルド人、その他アルメニア人、ギリシャ人、ユダヤ人等)
  ⑤言 語 トルコ語
(2)経 済
  ①産業割合  サービス業(56%)、工業(19%)、農業(25%)
  ②GDP    6,283億ドル、1人当たりGDP(2008年)10,436ドル
  ③経済成長率 (2008年)1.1%
  ④物価上昇率 6.53%
  ⑤失業率   14.0%
  ⑦SC     202、内71がイスタンブールにある。
4-3.ミグロの成長発展
(1)2009年の成長
  ①2009年度売上高57億TL、史上最高 TL=56.7円 約3,250億円
  ②物流センター出荷個数1億690万ケース
  ③物流センター出荷青果23万7,729トン
  ④配送車走行距離5,548万Km
(2)ミグロ・サプライチェーン、DCネットワーク
  ①ドライセンター   11ヶ所
  ②青果加工センター   4ヶ所
  ③食肉加工センター   3ヶ所
(3)店舗ネットワーク
  ①5業態1,700店
  ②国外店舗 20店
(4)略語解説
  ①SPM: スーパーマーケット
  ②DSC: ディスカウントストア
  ③FRESH:  生鮮食品
  ④TEX: 繊維製品
  ⑤FV : 青果(Fruits & Vegetable)
  ⑥IMP: 輸入品
  ⑦EXP: 輸出品
(5)ミグロの物流現況
  ①倉庫面積 20万㎡
  ②保管能力 16万パレット
  ③従業員  2,000人
  ④トラック  800台  トラック追跡システム完備
  ⑤稼働時間 365日24時間
  ⑥輸 送  パレット10%、ロールボックス90%
  ⑦ネット  売上2%
(6)Gebzeゲブゼ物流センター(見学先)
  ① 土 地  11万2,000㎡
  ② 建物面積 6万500㎡
  ③ 保管能力 3万8千パレット
  ④ トラック 200台
  ⑤ 従業員  670人
  ⑦ 冷蔵倉庫 6ヶ所
  ⑧ 店舗数  13市に443店
  ⑨ 店舗面積 4パターンあり、4,000㎡ 6店、500㎡が多い。
  *店のサイズが大きいとMigrosの店名の前にMが付き、Mが4個付けば4,000㎡の店になる。
2010年4月現在、トルコのミグロは11の配送センターを持ち、1676店に商品を供給しています。
5.オペレーション
  庫内作業については特に見習うものはなかった。しかし、ワールドススタンダードと言えるシステムを持っている。トルコの失業率は14%、一人当たりGDPは約1万ドルで賃金も低い。しかし、物流品質が低ければ資産の減耗を起こし、店からの信用を低下させる。安く、早く、正確な作業をするには、ITの利用に尽きる。ここではハンディターミナルを使っている。
  ①商品の入荷前にはサプライヤーからミグロにASN(Advanced Shipping Notice)で事前に入荷情報が送られてくる。トラックが到着すると、納品書を受け取り、入荷受け付けのハンディ・ターミナルからIDを入力する。プリンターからパレットラベルがアイテム毎にパレット枚数分発行される。入荷パレットはローリフトのフォークリフトで検査場に運ばれる。
  

荷受けと検品
  
  ②パレット毎に、ハンディターミナルで商品のEANコードを読み取り、パレットラベルのバーコードをハンディでスキャンし、商品の個数を手で入力する。問題が無ければ品目と数量チェックを終わり、検収完了、間違っていればマニュアルに従い修正する。ハンディはキーエンスのBT-3000である。
  

ケースピッキング
  
(2)格 納
  荷受け検査を合格したパレットはフォークリフトドライバーがハンディスキャナーでパレットラベルのバーコードをスキャンする。コンピュータから格納のロケーションがフォークリフトの端末に送られてくる。ドライバーはアドレスの箱をハンディスキャナーでスキャンして棚入れする。パレットを保管する棚は自動倉庫ではない固定棚である。棚の配置はアメリカの卸売業スーパーバリュウと全く同じである。下2段がピッキングスロット、3段目から上はリザーブエリアになっている。棚の高さは1.5m×8段、約12mである。
(3)ピッキング
  ピッキングには電動式パレットローダーが使われる。ラベルを使わないシングルオーダーピッキングである。最初に店名の荷札をロールボックスに貼る。パレットローダーにパレット又はロールボックスをフォークに刺し、ハンディターミナルで、ラベルのIDのバーコードをスキャンする。ハンディターミナルに表示されたアドレス(ロケーション)に行く。商品のITFコード(EAN128?)のバーコードをスキャンしてピッキングし、ロールボックスに載せる。商品にラベルは貼っていなかった。
  1人時のピッキングは155から160個。少し低いかなと思う。ピッキングミスは1万分の2である。0.02%である。最近の欧米の物流品質は相当に良くなっている。ミス1万分の1がスタンダードになっている。
(4) 積み込み
出荷場の店名の看板を確認して、ロールボックスを置く。
(5) 物流品質
納品精度:99.996% ダメージなし:99.97%、防犯カメラ30台、ISO9001認証
(6) コスト
全体で2%、庫内作業0.8%、配送1.2%
6.総 括
(1)会社の売買:買われたミグロ
  日本小売業協会主催、2010年の欧州流通&物流視察では6社訪問したが、なんと直前に3社が売買されていた。その中でも大物のMigrosは現地でも大きい話題になっていた。会社も商品だということでしょう。以下記事をご覧ください。
  2月14日(ブルームバーグ紙)-トルコの大財閥BC Partners Ltd.は、Migrosを買収することを決定した。ミグロはトルコの最も大きいスーパーマーケット・チェーンである。そして、トルコで今までで最も大きいレバレッジド・バイアウトで、価格は約32億ドルである。ロンドンを拠点とする買い占め会社は19億8000万liras(17億ドル)、または1株式会社当り21.85トルコリラで51パーセントを取得する。(1トルコリラ=57円、2010年7月)。
  我々はBig Logistica と云う3PLの物流子会社を訪問したら社名がBIGとなり所有者は荷主企業の乳製品メーカーのガルバニ社であった。
(2)成熟したWMS
  私は40年間に渡って世界の物流を視察しました。初めて見た欧米の物流センターは驚異であった。
  例えば、エーボン化粧品のカリフォルニアのDCではAフレームが化粧品の自動ピッキングが行っていた。アメリカのジャイアントフードではケースピッキングの巨大なオーダーマティックが無人でピッキングしていました。そして、スウェーデンでは自自動倉庫と自動仕分機を組み合わせた超機械化センターをみました。しかし、アメリカの場合は夢のシステムがある半面、ピッキングミスがパーセント台で、「わが社のピッキング精度は良い」と自慢するスーパーバイザーもいた。その時、日本には自動倉庫は通販の「ムトウ」、自動仕分機は郵便局だけだった。
  その後40年の日本の進歩は凄まじく、欧米や中韓から見学者が来るようになった。日本のWMSは素晴らしく、ppmがスタンダードになった。しかし、経済のグローバル化により、世界の一流企業のWMSは国の差ではなく、企業の差になったと思う。そして、「見える化」どころか説明が無いと分からない眼に見えないWMSになっている。
  「見せる化」の時代から「コストパフォーマンス」の時代となり、物流は「早く・安く・正確」であれば良いことになっています。物流は「人と道具とコンピュータ」「床と屋根と派遣」になり、ROIの迅速化、労働装備率の低下が求められる時代になったと思います。
(3)少ない海外物流情報
  40年間、日本人は海外から多くを学びました。そして、日本の物流は進歩しました。まだ海外に学ぶべきものはまだ、多くありますが、費用対効果では疑問を感じます。
  日本には1万5千人の物流技術管理士がおり、教育コースもいまだに新設が増えています。日本くらい優秀な物流技術スペシャリストが続々と誕生している國は少ないので、日本の物流の前途は洋洋と思います。しかし、何事も情報の収集は改革に必要です。最近は物流界の国際活動は停滞気味で、年間、何人が、何社を見ているかと思うと心寒い気がします。JILS始め日本の物流団体や行政は海外の物流情報を定期的に、克つ計画的に収集し公開する活動をやるべきだと思います。
  マテハンではスイスの物流機器メーカーSwissLogの活躍が目立ちました。次回紹介するハードディスカウンターDENNERは素晴らしかったと思います。
(4)総 括
  結論から云うと、コストパフォーマンスの低い視察であった。しかし、経済力、国力から見て、日本より格段と低いトルコでエラーが1万分の2は素晴らしいレベルだと思います。トルコではもう1社、家電量販店を訪問したが、そこでは店も倉庫もSAMSUNGの商品の海でした。
  努力を怠ると物流も家電同様、韓国の後塵を拝することになる。既にハブ港、ハブ空港で日本の物流は韓国に後れを取っている。情報収集には金をかけるべきであります。日本の物流は素晴らしいが、GDPも間もなく世界第3位に転落します。慢心を捨てて、30年時計の針を戻すべきだと思います。
以上
(C)2010Jun Suzuki & Sakata Warehouse, Inc.
  
          
          
          
          
    
    
    



              
			
			
			
			
			
			

