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経営戦略・経営管理

第333号 Ⅱ.需給管理とは消費起点供給の仕組み作り:市場変化への迅速対応―ロジスティクスのコアは需給管理:マーケティングとの連動― (2016年2月4日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次


 

1.需給管理の基本は生販バランス調整:欠品・過剰を防ぐ

  消費者の商品に対する嗜好や関心は、時々刻々と変化している。需給管理を一言で表現するなら、このような消費動向の変化に機敏に対応するということに尽きる。それを的確に予測して商品生産を行い、在庫の欠品や過剰を生じさせないよう生販バランス調整を行う。一度欠品が起きれば顧客の信頼を失い、販売チャンスロスとして場合によっては商品ペナルティーが伴う。逆に在庫が過剰であれば商品鮮度が後退し、値引き販売等の原資負担や最悪の場合は廃棄として膨大なコストロスになり、環境負荷にも繋がる。
  まずは経営計画に基づく月次販売の進捗状況を見ながら、市場動向や販売施策等を加味して販売予測量を決める。これに在庫状況を勘案しながら生産量を決定し、生産ラインへの割り付け等を行う。この時、原材料調達や生産ロット・包装ライン切替え等の与件を加えることは言うまでもない。生産コスト面からは大ロット・連続生産志向となるが、これを出来るだけ市場対応に調和させていく。その結果としての配送拠点への在庫配分も、管理の範囲に含まれる。
  需給管理とは、調達・生産から回収・廃棄に至るまさにサプライチェーン全体と、リバース・ロジスティクスを含む全工程に関わる広範囲な活動である。これが企業内全体最適化と言われるゆえんであり、物流コスト以外にも膨大な資源が投入されている。それをロジスティクスコストとして把握すべきであり、中には販売費に位置付けされ、また雑損として処理されているものもある。あらゆる部門と連携し、経営効率を高める理由がここにある。

2.需要予測と在庫把握が出発点:情報システム活用と生販連携

  ロジスティクスの要諦は情報を駆使した計画と統制であり、これはまさに経営実務そのものである。年度計画が月次にブレークダウンされ、調達・生産・販売計画等に連動していく。これらに関する種々の情報をリアルタイムで把握し、進捗状況を判断すると共に計画値に収斂させていく。生販バランス調整に必要な情報はまず需要予測と在庫状況の把握だ。これには物流情報処理システムから、需給管理に必要な情報把握システムとしての機能が求められる。
  需要予測は統計的にある程度可能な季節変動と、販売施策等の人為的側面の二面から行う。前者であれば市販の予測ソフトを利用することも可能だ。後者については販売部門とどう緊密な連携を取るかでその成否が決まる。在庫のリアルタイム把握もその地域の広がりや、ステータス(在庫区分:種類状態)を含めるとこれも困難な仕事である。在庫拠点が多くなれば煩雑となり、ステータスでは販売可能品だけではなく、商品検査待ちや再判定品・鮮度後退品等の把握も必要になる。
  例えば翌月の必要生産量の決定はまず、当月末の在庫量を残り期間の生産予定量・販売予定量を勘案して推定し、在庫基準値との乖離を見極める。次に翌月の販売予定量を入手して、これに在庫基準値との乖離分を加味して決定する。販売動向の変化が激しい商品は、管理サイクルを月・旬・週へ短縮して行う。各種情報がリアルタイムで入手出来なければ、その管理精度は低下する。在庫基準値は商品の鮮度要求等に基づき政策的に決定する。もちろんそのメンテナンスが重要である。

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3.商品特性により管理パターンを変える:管理サイクルと管理基準

  一つの企業が抱える商品群でもその流通特性は様々で、これを層別して行う必要がある。食品を例にとれば、まず鮮度期限によるパターン分けが妥当である。加工食品のように賞味期限の長いものから、生鮮食品のようなものまで一筋縄ではいかない。鮮度表示には凡そ5日以内で消費すべきものは消費期限、それ以上のものは賞味期限と定められているが、賞味期限表示のものでも2週間程度から1年以上と幅広い。もちろん生産形態も違ってくる。
  賞味期限の程度により週・旬・月の管理サイクルで、生販バランス調整を行うことは先にふれた。消費期限表示のものはもちろん日次管理となる。管理サイクルが短くなれば各種情報把握も煩雑となり、リアルタイム情報処理システムの真価が発揮される。生販バランス計算も同様であり、これらを一体化したWMSも様々なものが市販されている。これをカスタマイズして活用するのが早道であろう。この一連の業務を3PL事業者に委託するかどうかは、極めて重要な経営判断となる。
  以上のシステム運用に、調達や生産与件等を加えることも既にふれた。そして何より重要なことは管理基準値のメンテナンスである。商品特性及び市場変化等によりこれを適宜修正し、管理に反映していく。これはアウトソーシングする場合の委託側のコア業務となる。これが適切に行われればもちろんアウトソーシングは可能だが、受託側に任せ切りというケースも往々にして見受けられる。これでは丸投げであり、その結果を受託側の責に帰することは出来ない。受託側も責任所在をデータで証明出来なければリスク負担となる。

4.マーケティング部門との連動:商品アイテム改廃等

  商品アイテム数が多ければ、これも需給管理への負荷となる。アイテム改廃や絞り込みが管理精度向上に重大な影響を及ぼすことになるが、さりとてその観点だけで制約することも出来ないだろう。もちろん定期的な見直しは必要であり、時には重要な決断もしなければならない。一般的には販売量のパレート分析により、管理に軽重を付けて対応することになる。もちろん育成商品は手間暇をかけてでもやる。
  CVS業態においてはアイテム改廃の運営が厳しく、新規採用が決定すると2週間程度で店頭化しなければならない。販売が振るわずアイテムカットともなれば、即刻実施される。このような変化を最小限の在庫で、しかも在庫陳腐化なしで対応することは極めて難しい。在庫を持つこと自体が、変化への対応を鈍らせる。このような短サイクル運営に対応出来る組織・体制もロジスティクスにおける重要課題となる。
  マーケティングのみを自社のコア業務とし、ロジスティクスはフルアウトソーシングとする企業も存在する。その場合は商品の絞り込みや、業務標準化・システム化が前提になることは言うまでもないだろう。そして危機管理体制も含めた、総合的支援策が講じられていないと危険である。そもそもマーケティングとロジスティクスは密接不可分の関係である。サプライチェーン運営の中でコストだけではなく、品質・セキュリティー・環境対応等が問われている状況では尚更である。

5.在庫を持たない究極のロジスティクス運営:生鮮流通

  消費者の食に対する安全安心への高まりから、日配品と呼ばれる生鮮流通がますます拡大している。これは在庫を持たない難易度の高い究極のロジスティクス運営であり、万一ミスが発生すると人命に関わる重大な危害を引き起こす恐れがあり、厳密な管理が必要になる。在庫を持たないということは需要予測に基づいた見込み生産であり、販売施策としての売り切りが前提になる。消費期限内とは言っても鮮度後退により販売不能となる確率が高く、商品の大量廃棄にも繋がる。
  その前提はまず流通システム全体で厳密な衛生管理が行われ、製造後の残存微生物検査の判定結果を待たずに先行流通させるというやり方である。万一異常が発生した場合にはトレーサビリティーを機能させ、その流通を止めるという組立てになっている。これがスルーしてしまうと、消費者に重大な危害を及ぼすことになる。トレーサビリティーとは商品の生産履歴追跡だけではなく、このような突発事態に具体的処置を加えるという即物的な機能も持ち合わせなければならない。
  しかし流通システム全体が外部からの異物混入を防ぐ密閉系で運営され、消費者の手に届くまで厳密な衛生管理が行われているかどうかは甚だ疑わしい。即ちコールドチェーンの欠落であり、外気に接触する工程は必ずある。これを各段階のオペレーターが、どこまで最小限に食い止めているかが問われる。セキュリティーの欠落についても同様だ。密閉型流通は低温だけではなく、常温においても重要な課題となってきている。

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以上



(C)2016 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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