ロジスティクス・レビュー

第275号物流改革の4つの視点(2013年9月12日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
 -物流改革コンサルタント Dr.SANTA-
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年   ユーザックシステム株式会社入社
      物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    • 包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

目次

1.物流改革手順

  物流改革の必要性は20年以上前から言われているが、改善を推進できている企業はまだ少ない。物流改革を推進するためには避けて通れない条件がいくつかあるが、物流改善を推進していない企業ではその条件が欠けていると思われる。今回は物流改革の進め方を解説したい。
  物流改革には下記の4つの視点が重要だと私は思う。「物流改革手順」「意識改革」「物流組織改革」「物流定例会」である。

図1 物流改革の4つの視点

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  物流改革手順はいくつか分かれており、①小さな改善の積み重ね、②難易度の高い改善、③投資を必要とする改善、がそれにあたる。①は前回の執筆(明日からできる物流改善)で述べているので割愛させて頂くが、「②難易度の高い改善」も重要である。難易度が高い改善とは、「お客様」「仕入先」「他部門」等を巻き込んだ改善である。例えば、在庫金額削減をテーマに取り組んだ場合は、全社(経営部門、営業部門、仕入部門、経理部門等)で在庫の持ち方(アイテム数の適正化、在庫量の適正化)を検討しなければならないし、仕入先にも発注ロットの調整が必要である。
  また、お客様への配送が指定便であり、その運賃が高い場合は他の運送会社へ変更する交渉が必要になるが、これも社内(営業部)やお客様を巻き込んで検討をしなければならない。この様に物流改革は、考え方が一致しない相手を説得しなければならないため非常に難しいが、これを進めている企業との差は収益面で益々大きくなってしまう。そのポイントは物流の問題を可能な限り数値化し、損失コストが明らかにすれば改善動機付けになる。
  投資を必要とする改善とは、「コンピュータシステムを購入」「棚を購入」「物流メンバーを増員」等の物流経費が部分的に増加するが、それ以上に物流コスト削減金額が大きい場合をいう。しかし、小さな物流改善であればうまくいかなければ元に戻せばよいという様に気軽に取り組めるが、大きな経費のかかる改善は失敗が許されない。しかし検討の過程で詳細に議論さえしていれば、改善効果が多少変わる範囲の誤差で済むため問題はない。

図2 物流改革の手順

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  図2を見て頂きたい。失敗しない物流改革の進め方は、問題点を数多く出すことから始める。一般的によくあるパターンとしては、物流現場で問題と感じた順に取り組む傾向がある。この進め方でも決して悪くはないのであるが、「物流部門の優先順位」と「経営者の優先順位」「営業部門の優先順位」は合致しているとは限らない。全社で各部門が感じている問題点(もしくは要望)をすべて出してから、全社で優先順位を決めていく手順をお薦めする。
  問題がすべて出た後に、その問題が発生した原因分析を行う。ここでの注意点は、問題が発生した原因をひとつ判明した時に、安易に取り組まずにじっくり検討をすべきである。ひとつの問題に対して発生原因がひとつとは限らない。例えば、商品間違いのピッキングミスが発生した時、その原因が「ピッキング時に確認ができていない」と考えたとしよう。しかし、仮に「棚への商品の入れ間違い」が本当の原因であった場合、ピッキング時の確認だけの対策だけでは解決できないことになる。仮に10個の出荷指示があった時、同じ棚から商品を取り出すタイミングで1個ずつ品番確認をする運用であれば時間がかかりすぎるからである。

2.意識改革

  物流改善の考え方が良くても、実行しなければ何の意味も無い。パートが圧倒的に多い物流現場が多いため、決められた事を実行できる体制を作らなければならない。しかし、現実では毎日の出荷だけで精一杯である物流現場も多いと感じている。この様な物流現場では改善を実行する余裕がない。改善が進まないから同じミスを繰り返してしまう。他部門からみれば何の改善もされない物流は能力が無いと思ってしまうこともあるだろう。
  しかし、「毎日の出荷が無事終了する」だけが物流の仕事であるのだろうか? 「物流改善も仕事」であるという認識が必要である。この認識を最低でも物流部門の全社員持つことができれば、何とか時間を作って改善を進めようとする意識が出てくる。その考え方がもてた場合でも、時間が全く無い(実際、早朝から深夜まで出勤している物流現場も存在する)ということもあるかと思う。時間が足りなければ、派遣社員等で人数を増やせば良い。まずは物流管理をする社員の仕事を明確にし、他の物流メンバーでもできる仕事をやってもらう。他の物流メンバーは増員した派遣社員に単純な仕事を依頼するのである。確かに物流人件費は一時的にあがるかもしれないが、物流改善が進んだ後で増員メンバーを減らせば良いのである。仮に派遣社員が3カ月発生したとしても、改善効果は永遠に続くため充分に採算が取れるのである。「他の物流メンバーが入っても引き継ぐ時間が無い」という物流現場も全く無いとは言えない。その様な物流現場は末期的な症状である。万一、物流現場の中で1人でも退社すれば物流は終わりということである。この様な場合は、経営者主導が本気でテコ入れをして全社員動員の上で物流の立て直しを行うことをお薦めする。物流社員が退社してからでは手遅れである。

3.物流組織改革

  物流改革は物流部門だけでは解決できない問題も多いことは既に述べた。テーマによっては他の部門(経営、営業部門、製造部門、仕入部門、業務部門、経理部門、総務部門等)の参加が無くては改善が進まない問題もある。よって、全社参画のプロジェクトを組む必要がある。

図3 全社物流プロジェクト

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  尚、物流プロジェクト参加者は各部門の代表となるため、各部門でも優秀なメンバーを揃えなければならない。決めたことを各部門内にきっちりと伝達しなければ、結果として物流改革が進まないことになるからである。
  また、物流社員にも評価制度を導入することをお薦めする。営業社員は予算を達成した時に報償(一時金、昇給等)があるが、物流社員には明確な報償ルールが無い。物流改革予算を設定し、達成できれば報償を得ることができれば物流のモチベーションが上がるのは確実である。ただ実施する前に物流改革予算が適正なものなのかを事前に精査しておかなければ不公平になってしまうので注意して頂きたい。
  あと、プロジェクトの責任者は役員がなることが望ましい。しかも、専任役員がベストである。物流担当の役員が兼任であれば、どうしても担当部署の方に力が入ってしまう。これが物流専任役員であれば改善が進まなければその役員の評価が下がってしまうことになるため、やらざるを得なくなる。以上の様な物流改革の組織対策がきっちり出ていれば準備は万全である。

4.物流定例会

  物流プロジェクトを実行した後、その計画が予定通り進んでいるかをチェックする必要がある。それぞれの改善テーマ毎にリーダーを決めて、その改善進捗状況を発表することになる。その時の発表フォーマットも工夫が必要だ。「現状の問題点」「発生原因」「改善策」「各部門の役割分担」「物流改善指標」が記入された物流改善計画書を作成し、それに加えて改善進捗状況がわかる資料も別途必要である。例えば、物流クレーム改革がテーマであれば、物流クレーム件数、クレーム状況明細(数量間違い、商品間違い、ロット間違い、商品破損等)を毎月集計して月別推移表にまとめる。発表者はこの資料をもとに、先月の実施事項、改善の途中経過(うまくいっている点、うまくいっていない点)を簡潔に発表する。予定通り進んでいるのであれば継続して実行するだけで良いが、予定通り進んでいないのであれば今のやり方で本当に良いのかをプロジェクトメンバー全員で検討しなければならない。
  物流プロジェクトが予定通りに進んでいない場合は物流プロジェクトへの風当たりが強くなる。各部門長が心の底から改善活動に理解していれば良いのであるが、部門長はそれぞれの部門目標(例えば、営業部門は売上・粗利予算)を達成しなければならないため、優秀な部下が物流改革に時間が取られるのをいやがるものである。その結果、物流プロジェクトのパワーが徐々に削られて、1人減り、2人減り、結局は物流プロジェクトが空中分解することになる。これが前述した様に物流プロジェクトの責任者が専任役員であれば、部門長もルールを無視することが出来なくなるのである。「①問題点をいくつも出し、②その発生原因を掴み、③全社で優先順位を決め、④全社物流プロジェクトを構築し、⑤改善策を複数立案し、⑥各部門で役割分担を決め、⑦実行し、⑧効果検証を行う」。これがすべて出来ていれば効果が出るのは間違い無い。皆様の会社でも是非物流改革に取り組んで頂きたい。

以上


(C)2013 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.


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