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第234号荷主における物流コストと物流品質の現状(前編)(2011年12月20日発行)

執筆者 久保田 精一
(公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)顧客サービス部
JILS総合研究所 副主任研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1971年熊本県生まれ。
    • 東京大学教養学部教養学科卒。
    • (財)日本システム開発研究所(シンクタンク)等を経て、現職。
    • 物流コストやロジスティクスの指標管理等、物流や地域開発等のテーマでの自主研究、委託研究、コンサルティング等を主に実施。

 

*サカタグループ2011年2月8日「第17回ワークショップ/セミナー」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は3回に分けて掲載いたします。

目次


 
  ただいまご紹介に預かりました久保田と申します。今日は70分という長い時間になりますが、よろしくお願いいたします。物流コストと物流品質というテーマでお話をさせていただきますが、では具体的に品質をあげるためにどうしていくべきか、という具体的な取り組みについては、次の講演の先生が非常に詳しくご紹介いただけると思いますので、私はその間の橋渡しとして、物流コストと物流品質について一般的なお話をさせていただきます。是非、気楽に物流品質とは何だろうということを一緒に考えていただければ、本当にありがたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

1.公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)について

  最初に、ご存知の方が多いとは思いますが、私どもの団体の紹介を簡単にさせていただきたいと思います。
当協会ができたのは1992年でまだ20年に満たない、恐らく法人としては新しい団体といえると思うんですが、実はその前に前身として、「日本物的流通協会」と「日本物流管理協議会」という二つの団体がそれぞれありまして、この二つが合併して92年に現在の団体になったというような
経緯があります。
ですので、1970年から実質的に活動してるということで、約40年の歴史があります。できた当時は70年代ですから、高度経済成長の余韻が非常に強く残っていたというような時期ですね。その当時書かれていた文章とか、当時の資料が残っておりますので閲覧しますとやっぱりその当時は、どんどん日本経済が成長していく中で、経済成長を支えるために物流というのはどうあるべきか、日本全体の産業競争力を強化していく上で物流の効率化というのが凄く大事じゃないかという認識が、産業界と国の方にもあり、私共の団体が設立されたということのようです。
その状況から今は大きく変わっていて、物流量自体もずっと減ってきてるわけですね。70年代は物流量自体も増えてましたし、物の値段も非常に高いインフレが続いているような状態ですので、いってみれば今の中国みたいな状況じゃないかなと思うんですが、どんどん物の値段があがり物流量も増えているという中で、物流が取り組むことというのは効率的に運んで現在のインフラをなるべく有効活用しなければいけない、そういう問題意識の中で始まった団体かと思っています。
その後、80年代、90年代に入って、規制緩和がキーワードになったり、環境とかCSRに視点が移っていったりするわけですが、やはりその中でも一環して取り組んでいるものは何なのかというと、コストというキーワードが一環して重要視されてきたと言えると思います。

2.荷主における物流コストと物流品質の現状

ご存知の通りJILSでは物流コスト調査を毎年実施しておりまして、売上や物流コストのデータの調査結果を発表しているのですが、この調査自体は1970年には既に開始されています。本日、品質の話だけではなくて、物流コストというテーマをあえて付け加えさせていただいたのは、今この不況の中で、品質だけが重要だといってもリアリティがないんじゃないかなと考えたことが一つです。この大不況という現状の中に実際に身をおいてると、ちょっと実感が失われてしまうんですが、いまはまさに未曾有の状況の中にあるわけで、産業界のお話を聞いていても、実際問題としては最大の関心テーマはコスト、ここに非常に集中していると、そこにしか関心が向かってないというのが実態としてはあると思います。

マッコリーキャピタル証券 レポートより引用
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 こちらの図は、とある証券会社で出されている資料ですが、このGDPの成長率と物流コストの増減、これを比較したものです。やはりGDPが下がっているときには物流コストも下がっているというのが非常にビビッドに現れていると言えると思います。やはり今回、リーマンショック以降の、このような不況下であれば物流コストを削減しなければならない。特に物流コスト自体が、ずっと何十年も下がり続けてきた中で、特に経営層の中では、物流コストは当然下がるべきものであると、下がって当然であるという認識が非常に強くあると思います。ですから、我々がお話を聞くのは物流部門の方ですが、経営層の方から物流コスト何パーセント削減というようなことがトップダウン的に指示が来てそれを実行しなければならない、ということが問題になってるようです。
一方、物流コストを下げるから品質はいいのかというと全くそういうことではありません。後程お話しますが、こういう売上が減少するような状況だからこそ、非常に競争的な意味で品質ということが重要になるということ、これは多分皆さん感じていることだと思いますが、このような状況下では、お客様のクレームに非常に気を遣うということがあります。もし今、お取引しているお客さんを失った場合、それを回復することは非常に困難であるわけです。ですから、品質も維持しなければならない、それとコスト削減も両立させなければならない。ではそのためにどうすればいいのかというのが現在の問題意識であり、このことをテーマに今日はお話したいと思います。

3.物流コスト比率が最低へ

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 まず始めに、物流コスト比率について数字で抑えていきたいと思います。過去15年間程度の経緯と推移をお示ししました。かつて90年代の中頃は
、右上のこのグラフですが売上高物流コスト比率は大体6%強でした。それが今ではその5%弱まで減ってきています。パーセンテージでみると、あまり大きな変化ではないと感じますが、具体的に数字であげますと例えば売上高100億円規模で従業員100人から200人のメーカーさんの場合、売上高物流コスト比率が6%ということは物流コストは6億円ですね。4%となると4億円ですから、差額2億円の利益になるということですね。それが単年度ではなくてずっと続いていく、ということになりますから、このインパクトは非常に大きなものがあったと思います。物流による経営への貢献というのはあまり意識されないところですが、恐らくこのコスト削減による経営への貢献というのは、過去数十年間、非常に大きなものがあったはずです。100億円の企業で2億円の物流コスト削減ということは、例えば、ちょっと小さいビルが建つぐらいの利益があがってきたということになります。
それで、このように物流コストが下がってきたわけですが、今後どうなっていくのかを考える上で、なぜこれまで物流コストが下がってきたのかを改めて考えていきたいと思います。大きくは二つの要素があるのかと思っていますが、一つはやはり規制緩和が挙げられると思います。この上に時系列で書いてありますが、物流二法の可決成立というのが1989年ですね。これをきっかけにしてこれ以降90年代の中ごろまで、いろんな分野での規制緩和が進んでいきました。
特に日本の物流の大部分はトラックにより運ばれているわけですから、トラックの規制緩和が物流コストの削減においては非常に影響が大きかったと思います。運送会社の数自体がもともと4万社程度であったものがこの間に6万社程度まで増えるというように非常に競争的になってきたこと、その中でコスト、品質の競争が進み、結果的に荷主企業としては物流コストを削減することができたということが、間違いなく物流コストが削減できた一番の背景ではないかなと思います。これが一つ目の要因です。
それでもう一つ考えられるのが、この下段のほうにかかれている絵に関係する話なんですが、商品単価が上がったということにあります。皆さんのお手元にもっているものの多くが、ほとんどMade in chinaになっています。すなわち、逆にいえば日本国内でつくっているものは極々高付加価値な商品や、こういった鮮度・消費期限が重要なものとか、限定的になってきているということになります。すなわち商品単価が上がってきているということにつながります。
この左側の図にありますように、商品単価が上がれば同じものを運ぶのにかかる物流コストは上がったとしても、売上高に対する物流コストは減ることになります。卸とか小売企業では少し異なるかもしれませんが、素材系のメーカー、例えばパルプ、ケミカルといった業界は非常に影響が顕著であり、要するに安価な素材のポリエチレンとかそういったものは国内ではあまりつくらない。結果的に、売上高に占める物流コスト比率はどんどん下がってくるというのが実際に各社の財務諸表などを見るとわかってくることだと思います。それで、このような二つの要因に加えて、このグローバル化というのも、大きいと思いますが、いずれにせよ、過去、こちらに掲載していますような十数年間、物流コストが一貫して下がってきたということになります。

4.ref.物流コストの変動要因

資源制約の例 出所:(独) 物質・材料研究機構
http://www.nims.go.jp/news/press/2007/02/p200702150.html
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

 こちらの図は、物流コストがこれからどのように変化していくのかということを、考えてみたものです。対売上高物流コスト比率を考えた場合に、それがどういった要因で変動するのかということを要因別に分解したものです。上段が売上高に該当するところで、下段が物流コスト、分子です。これを要素ごとに分けたものです。平均的な企業では、これ位のパーセンテージになっているというのは、一般の統計情報より記載したものです。それぞれサブの構成要素がどう影響するかによって最終的な対売上高物流コスト比率がどうなるかが決まってくることになります。
この中で、何が一番影響が大きいかというと、やはり先ほどお話しした商品単価です。商品単価をどのように変化するかという点が実際問題として一番影響が大きくなります。というのは、こちらの図では分母が全体に影響していますが、例えば分子の輸送単価が上がった場合、あくまで輸送費は物流コスト全体の6割にしか影響ないわけですから、やはり全体の分母、つまり全体に影響する商品単価がどうなるのかという点が非常に大きいということです。
それ以外の要因ですとやはり人件費の比率が大きいですね。運送会社の売上高に対して、4割から5割が人件費ということになります。次に燃料費もある程度のパーセンテージがあり、この3つの要素が、影響が大きいと思います。それでは、その一番大事だと言いました物価というか商品単価ですね。これがこれからどうなっていくのかについて、考えてみたいと思います。
今エジプトで、インフレ率が15%ぐらいの高インフレになったとか、中国でもインフレ懸念があるとかいうようなことを聞きますが、素材価格の動向がインフレへにつながっている、そういった懸念が世界的に広まってきています。やはり従来は、先進国に10億人ぐらいの人口があり、それだけで資源を消費してきたものが、中国の十数億人、それからASEANとかインドとかの人口が20億人位になりますが、そういった方々が、どんどん先進国レベルの生活してくれば当然資源は逼迫してくるわけです。ですから、素材価格がどんどん上がってくるというのは、ベースとしてはあるんじゃないかと思います。
ただし、国内でこの商品単価に議論を限定しますと、原材料の価格とかコスト構成要素はどうなるかということに加えて、市場の需給がどうなるかという点も、考慮しなければいけないと思います。もちろんその需給が非常に良い状況、好景気であれば商品の構成要素の単価が上がった時、例えば鉄鋼が上がったら自動車の値段も上げることが現実的にできると思いますが、今のように大変な不況の中で、原材料の値段が上がった時に商品の値段も上げることができるかというとそれは非常に難しいと思います。
例えば、原料としての砂糖の値段とかは非常に上がっています。同様に、小麦や大豆、コーヒーが上がっているということもありますが、ではそれに よって末端の商品価格がすごく上がっているかというと、価格が2倍、3倍とかになっているかというと全くそうではなく、どのように対応しているかというと、商品の販売サイズを小さくするとか、または原材料の構成を変えるとかですね。そういうことにより、なるべく商品単価には影響しないように対応<しておられる会社が多いと思います。
ですので、将来的にどうなるかわかりませんが、ここが著しく上がるというのは今のような不況の状況下ではなかなか考えられないというのが
実態かと思います。それに対して、少なくとも構成要素の燃料費はまだ現状でもあがっている状況です。
この図の上の方、単価も上がってくれば、対売上物流コスト比率も減ってくるというストーリーが考えられるんですが、現状はちょっとそういうストーリーが考えづらいのかと思っています。ですから、対売上物流コスト比率はむしろ上がる可能性が高いのではないかと、既に規制緩和等の効率化の効果は幅広く浸透していますので、下がるにしても大きく下がる余地はないという状況なのかと考えています。

5.物流における品質とは何でしょうか?

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

 ではそのような状況の中で、物流コストと物流品質との両立をどのようにすべきかということについてお話を進めていきたいと思います。まず最初に品質とは何だろうかということを少し整理をした上で、具体的な話をしたいと思います。品質というのはまだまだ漠然とした言葉です。日常用語で、この服は品質がいいとか、この食品は品質が良いとかいいますが、では物流の品質とは何だろうかということで、思いつくままに幾つかあげてみました。
例えば、荷痛みが発生している比率、時間指定の違反が多いか少ないか、誤出荷が多いか少ないか、それから、書類ミスなども最近はちょっと注意しなければいけない点かもしれません。倉庫であれば棚卸時の差異、事故、安全、こういう点も非常に重要です。
一方で、人的な要素、例えば身だしなみとかですが、最近はどこの運送会社でもキチンとしていますが、一時期こういうことが非常に強く言われました。それから、言葉遣い、電話の応対、回答とか対応の早さ、納期をいつに指定できるか教えてほしいと聞いてもすぐに答えが返ってこないとか、こういった回答の早さも品質としてあげられる場合が多いと思います。
他にもいろいろあるかと思いますが、では改めて、質というものは何だろうということを、辞書を引いて調べてみますと、ものを成り立たせる中身だと書いてあるわけです。中身ということですから、外見とか表面的なことに対する、中身だというふうに言えると思います。
いわゆる、物流コストとか物流のスペック、例えば翌日に納品します、といったスペックではなくて、めったに遅れないといった表面的には中々分らないことが品質で、これは確立的な要素になってくるわけです。ところが表向きはこういった確立的な要素は生じないことになってるんですね。どの物流会社でも、何%の確立で出荷ミスが生じますよというのは全くないとはいいませんが、普通はないと思います。ですから、こういった確率的な要素などで、表面上からはわからないこと、初見はわからないこと、いわゆるこういったことが品質であると、いうふうに言えるのかと思っています。
こう考えると、品質というのは表面的にはわからないわけですから、なんらかの補完的な情報で判断しなければならない。商品のパッケージを見て、品質が書いてあればいいわけですが、この品質が悪いとはどこにも書いてないわけです。それを何らかの別の方法で判断しなければならないという原理的な特徴があるのかと思います。

※中編(次号)へつづく



(C)2011 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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