ロジスティクス・レビュー

第214号EPCglobalの最新動向(2011年2月15日発行)

執筆者 清水 裕子
財団法人 流通システム開発センター 国際部EPCグループ 研究員
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴 2004年より流通システム開発センター勤務。
    EPCglobal設立初期より、国内におけるEPC/RFIDシステムの普及推進に向けた活動に従事している。

目次

  EPCglobal(イーピーシーグローバル)は、2003年に設立された電子タグの国際標準化機関である。JANコードなどで知られる流通標準化機関GS1の傘下で、これまで電子タグと読み取り機器間の無線通信プロトコル「Gen2」をはじめ、さまざまな電子タグ関連の標準を策定してきた。
  本稿では、EPCglobalの標準化活動の概要と最新の動向、またEPCglobal標準を活用したEPC/RFIDシステム導入の動きについて紹介する。

1.EPCglobalにおける標準化

  EPCglobalは、産業界のビジネス・ニーズに基づいて標準開発を行うことを柱に掲げ、国際標準化を進めてきた。すなわち、ユーザーのニーズがないものは作らない、という方針である。そのため、標準開発の作業部会には、技術のエキスパートであるソリューションプロバイダだけでなく、電子タグシステムのユーザーとなる小売業や卸、メーカも参画して進めるのが大きな特徴となっている。カバーする業界は、日用消費財、アパレル、家電、物流、航空宇宙・防衛、自動車など多岐に渡っている。
  EPCglobalはその設立以来、独自の標準化プロセスを組んで、集中的に標準開発を進めてきた。その結果、設立から数年でほぼ一通りの標準仕様が出揃うなど、産業界のニーズに合った迅速な標準化が実現されている。
  一方で、バーコード等の既存のGS1標準をベースとする中では、GS1との連携をより密にしていく必要性も認識されつつあった。そこで、GS1とEPCglobalの既存の標準化プロセスの長所をあわせて、統合した1つのプロセスが整備され、2010年4月より新体制が始動することとなった。これにより、より一貫性のあるアプローチがとられ、さらに効率的で信頼性の高い標準が提供されると期待されている。
  ただし、全ての標準開発作業が一度に新体制に入れ替わったのではない。継続中の標準開発作業については、プロセスの移行が開発スピードに悪影響を与えないように、開発作業の区切りや目処がたったところで、新体制に移行することになっており、2011年1月現在、一部の旧プロセスにおける活動も継続中である。

2.EPCglobal標準の特徴と標準開発状況

  EPCglobalでは、標準化にあたり、電子タグとネットワークを組み合わせたEPCglobalネットワーク・アーキテクチャという全体コンセプトを描き、それに沿った形で標準開発を行ってきた。
  それが図1で、電子タグとリーダに加え、電子タグの情報を交換・共有する部分まで含まれているのが大きな特徴である。このアーキテクチャは、大きく「識別」(Identify)、「取得」(Capture)、「交換」(Exchange)という三つの要素に分けられる。

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  また、EPCglobalネットワーク・アーキテクチャは、複数のコンポーネントから構成されており、各コンポーネントの基礎となる機能やコンポーネント間のインターフェースについて、具体的な仕様が策定されている。
  コンポーネントには、次のようなものがある。
  固有のID番号であるEPC(Electronic Product Code)が書き込まれた電子タグが「EPCタグ」、EPCタグのデータを読み書きする機能を持つ「EPCリーダ」、さらに複数のEPCリーダから受け取った電子タグ・データを、必要に応じて整理・集約し、アプリケーションに通知する機能をもった「EPCミドルウェア」、企業内や企業間の電子タグ・データの交換・共有を可能にするための電子タグ・データの蓄積・検索のしくみである「EPCIS」などである。
  2011年1月現在、ディスカバリ・サービスを除くほぼ全てのコンポーネントに対応する仕様が策定済みである。標準仕様の策定状況は、表1の通りである。原文(英語)は、GS1/EPCglobalのウェブサイトからダウンロードできるほか、流通システム開発センターのウェブサイト「EPCglobal標準仕様/関連資料」では、日本語参考訳を無料で提供している。 関心のある方はぜひ利用していただきたい。

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  なお、標準開発作業はディスカバリ・サービスに限らず、すでに策定済みの仕様についても、新しい機能の追加や産業界の要望を反映するため、さまざまな分野で継続して行われている。
  例えば、昨年の夏に更新版が公開された電子タグ・データのエンコード・デコード方式を規定する仕様「タグ・データ標準(TDS)」では、新たにユーザー・メモリのエンコード・デコード方式が追加された他、電子タグ・ベンダーが使用するタグIDという領域の機能が拡張されるなどの修正が加えられた。
  さらに、現在開発中の仕様としては、HF帯(13.56MHz)の無線通信プロトコルやディスカバリ・サービスが挙げられる。また、UHF帯の無線通信プロトコルやタグ・データ標準(TDS)などは、改訂作業が進められている。

3.EPC/RFIDシステムの導入状況

  EPCglobalの設立当初は、米国・ウォルマートやドイツ・メトロ、フランス・カルフールといった海外のグローバル小売業を中心に、ケースやパレットなどの大きな物流単位に電子タグを装着し、物流の効率化を図るというのが想定される主な用途であった。
  しかし最近では、電子タグ価格の低下や様々な機器が出揃ってくる中で、欧米を中心に、物流単位に限らず個別商品へのタグ付けが広がり始めている。
  特に、昨年8月にウォルマートがアパレル商品へのタグ付けを発表したことは、大きな注目を集めた。この導入により、電子タグおよびリーダ・ライタなどの読み取り機器が世界的に品不足に陥り、入手しづらい状況が現在も続いている。
  ウォルマートが導入を進めているのは、メンズジーンズや肌着、靴下などの商品である。
  肌着や靴下などは低額商品で、通常は電子タグの装着対象にはなかなかならない。しかしウォルマートは、これまでの電子タグに関する実験的な取り組みを通して、これらの商品群を電子タグ導入によるメリットが得られやすいと分析している。この商品群の共通点は、サイズ、色、型などのバリエーションが多くて欠品を起こしやすく、商品の補充が大変ということである。また、目当てのものが欠品していると、別の店に行ってしまう傾向が強く、関連商品も含めた販売機会のロスにつながりやすい。
  ウォルマートは、売場に必要な商品を揃えておくための在庫管理を目的に、システムを導入しているため、現時点ではPOSでの精算時には電子タグは読み取られていない。他にも、ヘアドライヤーやタイヤへの電子タグ適用も進めており、電子タグが装着される商品は徐々に増えていく予定である。ウォルマートのこうした動きは、米国内のデパート業界など周辺にも影響を与えており、複数の企業が、同様の取り組み開始に向けて検討を行っているとされる。
  さらにヨーロッパでも、電子タグを活用した万引き防止システム(EAS)など、個別商品への電子タグ装着が広がり始めている。
  一方、バーコードシステムによる流通管理が浸透している日本国内では、電子タグが注目され始めた当初から、多くの業界が個品へのタグ付けに注目してきた。残念ながら、一気に導入が広がる機運はまだ見られないが、少しずつ導入事例が増えてきている。
  アパレル業界で初めてEPC/RFIDシステムを導入したのが、イッツインターナショナルである。
  同社は、アパレル大手のフランドルや商社の住金物産などが共同で立ち上げ、2010年に原宿に1号店をオープンしたアパレルブランドであるが、取り扱い商品全て(約18,000点)に電子タグを取り付け、注目を集めた。
  商品の入出荷管理や棚卸作業の効率化に役立てているが、中でも、棚卸業務で大きなメリットを見出している。原宿店では、バーコードによる読み取りであれば2名体制で4日かかるとされる作業が、3時間程度あれば1名で完了するという結果が出ている。短縮できた時間は、帳簿在庫と実在庫の照合に充てるなど、在庫精度の向上といった効果も表れている。
  また、個別の商品ではなく、資産管理に活用する動きも出てきている。
  紀文食品のグループ企業である紀文フレッシュシステムでは、取引先に商品を納入する際に使用するカゴ台車に電子タグをつけて、移動履歴管理を行っている。EPC/RFIDシステムを導入する前は、紛失や流失などにより、毎年新たにカゴ台車を追加購入する必要があったが、システム導入後は、カゴ台車の不明件数はほぼゼロになり、新規購入のコストを抑えることができるようになった。また、1台1台の履歴がとれるようになったため、使用期間やメンテナンスの時期がわかり、より質の高い物流が提供できるようになっている。
  この他、産業用高圧ガスボンベの管理やレンタル・パレットシステムの運用などにもEPC/RFIDシステムが導入されており、物流の効率化、資産管理の高度化に大きく貢献している。

以上


(C)2011 Yuuko Shimizu & Sakata Warehouse, Inc.


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