ロジスティクス・レビュー

第108号ヨーロッパ物流RFID最新実態-本当の物流分野での目的とは-(2006年9月21日発行)

執筆者 鈴木 準
有限会社サン物流開発 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼

  • 学歴
    • 東京経済大学商学部卒業。
    • 産業能率短期大学生産管理科卒業。
    • 日本電子専門学校電子計算機科卒業。
    職歴
    • セーラー万年筆(株)経営企画室主任。
    • (株)長崎屋 物流部・電算部部長・システム本部副本部長。
    • (株)サン商品センター代表取締役社長。
    • (有)サン物流開発代表取締役。
      現在に至る
    講師
    • 専修大学講師・早稲田大学講師及び
    • 早稲田大学アジア太平洋研究センター講師経験
    • JILS 物流現地フォーラムコーディネーター 20年経験
    • 日経ビジネススクール講師
    • 文化ファッションビジネススクール講師
    • 中小企業事業団登録専門指導員経験。
    資格・所属団体等
    • 物流管理士、販売士1級、日本物流学会会員、国際物流管理士。
    その他
    • 海外物流視察90回、内外合わせて1,000施設視察。
    • 2006年 (社)日本ロジスティクスシステム協会 物流功労賞受賞
    連絡先
    • 事務所 〒135-0033東京都江東区深川1-1-2-701
      TEL.03-3642-3762
    • 住 所 〒274-0822千葉県船橋市飯山満町3-1761-105
      TEL.047-467-1077
    • メール sun_logi@nifty.com

目次

  一般紙にまでRFIDと云う言葉が登場する昨今、RFIDの技術は日に日に進歩し、その用途は拡大し、コストは日々低下している。同時にRFIDの適切な利用分野が明らかになりつつある。RFIDの利用範囲は広範で、奥行きは深い。物流分野においてもRFIDに対する関心が高まっている。

1.35%の返品にRFIDで問題解決

  今回、紹介するのはRFIDを実用化したWITT社(以下ヴィット社)の返品センターである。ヴィット社はドイツで最も古いメールオーダーハウスで主力商品は子供、婦人、紳士のアパレルである。同社は来年百周年を迎えるプライベート企業だったが、1987年1月、世界最大の通販業者であるドイツのオットー社に吸収合併された。オットー社に合併されてからヴィット社の売上高は20年で10倍になり、年間出荷点数は3,000万点に達している。ヴィット社返品センターはベルリン郊外テーゲル空港の近くにある。
  通販物流の最大の問題点は返品である。返品は運賃が掛かり、処理費が掛かり、在庫回転を悪くする。欧米の通販の返品率は30%前後、ヴィット社は25%で低い方である。日本の通信販売の返品率は5%程度と聞いている。日本人は控えめで、自分の発注間違いは自分の責任と、自分が被ってしまうことが多い。欧米の場合は、色、柄、サイズで複数注文し、自分の気にいった商品を残し、気に入らないものを返品するという購買慣習なので返品が多い。返品は処理コストがかかり、在庫回転を悪くする。そこで、ヴィット社では返品処理のスピードアップと生産性向上のためにRFIDを採用した。RFIDはフラットウエアとハンガーウエアに使われているが、その利用方法は異なる。

2.ハイテクITで返品処理の効率化

  ヴィット社の取扱商品はアパレルである。アパレルにはポリセロ包装のシャツやセーターなどのフラットウエアとハンガーに吊ったコートやスーツ、ワンピースなどのハンガーウエアがある。ヴィット社物流センターのコンセプトは「人と商品に優しい物流センター」である。
  返品の集荷は主として物流子会社(3PL)のHERMES社が配達と併せて集荷する。但し、顧客の住所によっては路線便、宅配便、ドイツポストも使う。顧客の返品理由やクレームはバーコードのIDの付いた返品票に記載され、コールセンターで処理され、必要な情報は返品センターに転送される。
  最初に紹介するのはポリセロ包装のフラットウエアの返品センターである。返品の検品ラインはベルトコンベヤに沿って作業台と棚がおかれている。作業台にはワークステーションとラベルプリンターが置かれている。返品の包装袋には顧客のIDと商品のIDの2枚のラベルが貼られている。検品係は商品のIDのラベルのバーコードをスキャンし、続いて顧客のIDラベルのバーコードをスキャンし、請求を消去する。次に商品の包装を解き、品質を検査する。商品に異常があれば異常個所にテープでマーキングし、コンピュータに入力し、在庫から削除する。商品に異常が無ければ畳んでコンベヤに置く。このとき商品は裸でノーマーキングだが、商品情報はトラッキングされている。ポリセロで自動包装され、新しい商品IDのラベルが自動貼付されます。検品作業台はコンベヤに沿って20台くらい置かれている。返品の良品は複数の作業者がコンベヤに載せるが、商品はバーコードもRFIDも無いのに情報を持って移動する。商品は自動包装され、新しい商品IDのラベルを自動添付する。商品は自動仕分機でカテゴリー別に仕分けられる。仕分けられた商品はプラスチックのコンテナに入れられるが、このコンテナの底にはバーコードが印刷されたICチップの入ったIDのラベルが貼られている。作業者は自動仕分機のシュートに仕分けられた商品のバーコードをスキャンしてコンテナに入れる。この商品の情報はコンテナのICチップに書き込まれる。満杯になったコンテナは水平回転式自動倉庫にフリーロケーションで保管される。尚、一つのコンテナに入っている商品はカテゴリーの大分類で、デザイン、色、サイズは混合されている。
  ヴィット社の物流作業はウエーブピッキングと称し、数百のオーダーを1バッチとして作業を進める。そして返品から先に出荷する方式である。バケット自動倉庫からコンテナが出庫され、コンテナは作業者の手元に送られて来る。作業者の近くにあるモニターにはコンテナからピッキングする商品が表示される。作業者は指定の商品を取り、商品のバーコードをスキャンして確認し、ボックスカートに入れ、出荷作業場に運ぶ。この時、コンテナのRFIDのICチップからその商品の在庫が消去される。

回転棚から出庫した商品のバッチピッキング

商品のEANをスキャンして箱に混載

RFID利用の効果としては次のことが挙げられている。
  (1) 在庫回転の向上
  (2) 正確性
  (3) 生産性
  しかし、他のRFID先進事例同様、バーコードでもこの目的は達成できると私は思う。私の「バーコードでもこのシステムは可能」という私の発言にマネージャーは否定も肯定もしなかった。

3.たった二人で1時間2千着

  ヴィット社のハンガー商品は物流子会社のHERMESによりハンガーで顧客に届けられる。返品は配達の車で回収する。回収したハンガー商品はZ型のハンガー台車(Zラック)に吊るされて返品センターに運ばれてくる。フラットウエア同様に品質検査をし、良品の出荷センターに送り込む。尚、ハンガーには商品のIDのバーコードラベルが吊るされている。
  良品と判定されたハンガー商品はZラックからハンガーソーターに移載される。一般にはトロリーを使いトロリーにハンガーを吊るすが、ここではトロリーは使っていない。ハンガー商品は、最初にICチップを内臓した戸車のようなICリングがハンガーに自動的に付けられる。次に、レーザースキャナーがハンガー商品のIDのバーコードをスキャンする。スキャンされた情報(商品コード)はICリングに書き込まれる。その商品情報により、出荷センターのバッチ(ウエーブ)ごとに仕分ける。ICの利用はここで終わり、出荷センターでの出荷作業はバーコードに依存している。確かにハンガー商品の返品センターの仕分けには2人しかいなかったが、ハンガーについては世界のどのセンターでもバーコードだけでRFIDと同じ生産性で作業している。何のためのRFIDなのか理解できない。

ハンガーソーター

ハンガーに付けられたICリング

ICリングの自動取り付け

4.バーコードのないRFIDはない

  私は1990年ころから、RFIDに興味を持ち、内外の最新ITの情報を収集しているが、1997年にドイツのベンツ・グローバル・パーツ・センターとスゥエーデンの医薬品卸売業KD社では既に実用化していた。また、フューチュアーストアの実験で有名なドイツの小売業メトロでも物流で実用化実験を見学したが、やはりバーコードは欠かせないものだった。そして最近ではイギリスのマークス&スペンサーの生鮮センターを見学したが、やはりバーコードでバックアップしていた。また同じマークス&スペンサーの紳士服では1万円以上の紳士服にICチップとEANの印刷された値札が付いているが、レジではEANのバーコードでチェックアウトしている。尚、十数年前に見たベンツ・パーツセンターのRFID利用は今でも最先端を行くシステムであることを付記しておく。
  物流がロジスティクスになり、SCMと名を変えても、物流の目的は「安く・速く・正確に」が基本である。物流の入門書や雑誌では「未だ物流ですか」とか、コスト重視の物流を卑下する人もいるが、コストを軽視する物流管理は存在しえない。先ず、バーコードで問題が解決できないか、正確性とコストはどうか、実証してからRFIDを採用すべきである。
  現在の物流におけるRFIDの利用は、はじめに「RFIDありき」である。今、物流新語の一つに「見える化」があるが、物流のRFID利用は「見える化」ではなく「見せる化」「見せる物流」である。欧米の物流はケースとパレットの物流であり、日本はピースとケースの物流である。日本の場合は平均単価が300円の食品雑貨では無料のJANにかなうわけがない。また、日本ではPOSシステムが高度に発達しているので、ピースに採算の取れないRFIDを使う必要がない。

5.ウォルマートの成功は本当か

  欧米の物流管理では1枚のパレットに1枚のバーコードラベルで十分である。ケースでは無料のITFが利用できる。RFIDを物流に導入したウォルマートではアーカンソー大学との共同調査で「品切れが16%減、従業員の手作業による商品発注も10%減らせる」と効果が確認されたので、ジョン・メンザー副会長は「導入店を年内に千店に倍増する」と宣言しているが、ウォルマートのやっていることは今までのバーコードで十分可能である。日本のスーパーがそれを証明している。ウォルマートの管理能力は日本のスーパーより低いのではなかろうか。また、バーコードも使えない管理能力の低い会社ではRFIDを導入しても効果は期待できない。
  マークス&スペンサーではプラコンに入れた生鮮食品のクロスドッキングに300万円の固定式ICリーダーを3台導入したが作業性が悪く、従業員の評判が悪く、ハンディタイプのリーダーを開発した。ハンディといっても地雷探知機のような40センチ角のアンテナが本体とケーブルでつながっている。本体はカートに載せて引いて移動する。スキャンのやり方はバーコードのハンディと変わらない。今では、300万円のリーダーは物流センターの粗大ごみになっている。ハンディリーダーならバーコードリーダーの方が安く、軽く使い勝手が良い。しかも、スキャンの速度はバーコードより10倍くらい速い。
  RFIDはバーコードより優れた面を多く持っており、近未来にはあらゆる分野で、多くの改革が期待できるが、物流分野では十分研究すべきである。自ら開発するのではなく成功事例を見てから導入すべきである。「見せる物流」はやめて「儲かる物流」にすべきである。物流の目的は「安く・速く・正確」に尽きる。

RFIDゲート式リーダー

RFID移動式ハンディスキャナー

以上

*RFID関連はこちらにも掲載されています。

  第49号 世界に見る流通と物流のIT革新

  第76号 METRO EXTRA Future Storeに見る
      近未来のリテールテクノロジー
      ―RFIDでお客さまの楽しい生活空間を目指すMETRO―

  第83号 サプライチェーンのRFID実験コラボレーション
      ――ドイツ・メトロRFID実験報告から――



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