物流関連

第578号 やはりオペレーションが大事(2026年4月21日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。
      1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、
      コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、
      荷主向けの研修・セミナーに携わる。
    • 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」
      「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。
      中小企業診断士。

    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

  • 1.舞い込んだ執筆依頼
  • 2.オペレーションを無視したコンサル
  • 3.スカスカおせち事件
  • 4.物流データの整理ができない
  •   

    1.舞い込んだ執筆依頼

    5~6年以上前のことと記憶するが、ある出版企画会社から1通のメールを受け取った。物流業界への就職を目指す学生や物流部門に配属された社会人向けに、「物流の仕組みと実務がわかる」テキストを執筆して欲しい、との依頼であった。少々PRめくが、以前「すらすら物流管理」という物流入門書を上梓していた筆者は同様のテーマと解釈し、スケルトン(本の骨格となる概要)を作成し、企画会社へ提出した。
    ひとことに物流といっても構成する機能とそれを担う企業のすそ野は非常に広い。一般的にイメージされる運送会社から始まり、倉庫事業者、港湾事業者、内航海運、外航海運、航空会社、そしてこれらを総合的に運営する3PL、利用運送するフォワーダーまで対象は広がる。さらには周辺需要として、物流不動産ファンド、WMSをはじめとしたIT業界、物流DX系スタートアップも加わるだろう。
    物流にかかわろうとする方たち向けの入門書となれば、こうした幅広い分野の知識を「薄く、広く」網羅する必要がある。学生であれば、全体像を把握した中でどの分野に興味を覚え、就職の対象とするのかを判断する材料となるし、社会人であれば、自分が担当する物流が全体のどの位置にあって、どのような機能を果たしているのか、どのような改善余地があるのか、などの視点を持っていただくための参考になればとの思いからであった。物流を戦略的な切り口からとらえることも重要であるが、バーチャルな存在ではなく、実際にモノを動かすリアルな活動であることから、オペレーション面から現実的に理解することが第一歩と考えた。
    こうした方針で作成したスケルトンを企画会社経由で出版社に提案したわけだが、その後どうも様子がおかしい。何度か修正案のやりとりをしたものの企画が前に進まず、執筆にGOサインが出ない。執筆期限は目前に迫っている。
    いく度かのすれ違いを経てようやく理解した。出版社が求めていたのは「ネット通販」の話だったのである。その当時、ネット通販が猛烈に拡大し始めていた。前後してヤマト運輸のいわゆる「宅配便クライシス」も勃発し、世間の関心が高まっていた。実際、「ネット通販と宅配便」をテーマにした本が多く出版され一種のブームとなっていたこともある。いま「旬」な話題本を出してヒットを狙っていたわけである。出版社としては当然の戦略であろう。
    「それはネット通販と宅配便の話題であり、物流の仕組みと実務の話ではない」などと講釈しても無意味である。クライアントのニーズが別なところにあるのだから、あれこれ解説しても仕方ない。後日、その出版社から発売された同じテーマの本(たぶん)はまさにそのとおりのタイトルとなっていた(予想どおりヒットしたかどうかは不明であるが)。
    おそらく世間の物流に対するイメージは「物流=トラック=宅配便=ネット通販」というものであったのであろう。それに対し、物流の実務やオペレーションに焦点をあてて企画してしまった筆者の発想のズレ、すれ違いを大いに恥じた出来事であった。

    2.オペレーションを無視したコンサル

    これもあるコンサルタントにかかわる痛恨の失敗談である。彼は前職で物流会社に在籍していたため、物流の実務に精通していたものと周囲は理解していた。弁舌もさわやかで、人当たりもよく、ほぼ無条件にクライアントに好かれるのが強みであった。おかげで、彼が窓口となりコンサル案件の受注も進んだ。なかでも、ある大手メーカーの幹部とはとくにウマが合い、個人的な人間関係も構築できて大型のコンサルに結びつけることができた。筆者は上司としてこの案件にかかわることになる。
    やがてコンサルの契約期間が終了し、請求書も無事提出できたところまでは順調に思えた。ところが入金予定日を過ぎても入金がない。大型案件で金額も大きいため未入金は一大事である。クライアントの事務担当に問い合わせたところ、コンサル内容に満足していないため上司の指示で支払いが止められているという。どうにもおだやかではない情勢に、筆者はあわててクライアントの元へ飛んだ。
    事情はこうだった。担当コンサルタントは実質的にはほとんどコンサルティングを行っていなかった。いや、行えなかった。クライアントの人間関係は良好であったが、先方の求める成果をまるで達成できていなかったのである。原因は物流実務にかかわる知識、経験および物流改善手法などの欠如である。つまり物流コンサルティング自体が成り立っていなかったのである。よくよく調べてみると、彼は物流会社に在籍していたものの、人事や総務といった管理業務が中心で営業や現場の実務経験はほぼゼロであることが判明した。
    これは完全に管理者たる筆者の責任である。クライアントとの人間関係の良さに甘え、また順調であるとの彼の報告も真に受けてしまって、業務をまかせっきりにしてしまったのが原因である。
    クライアントは不満があるなら、なぜコンサル途中でクレームをよこさず、終了後に支払い拒否などという(不誠実な)対応をとったのか、彼(担当コンサルタント)はなぜ嘘の報告をしたのか、なぜわからないならわからないと言ってくれなかったのか、など言いたいことは山ほどあるものの、上司の責任を軽減できる理由にはならない。
    少しだけ言い訳をしておきたいのだが、コンサルティング業務は上司がいちいち案件に深くかかわることはできない。案件も多いうえに内容が深いため建前は建前としても現実的には難しい。またコンサルタントは育てたり教育したりするものではなく、自ら学び育つものであるというのが筆者の持論ではある。
    結局、その後筆者が直接案件にかかわり報告書までまとめて何とか事なきを得たが、クライアントの十分な満足には至らず、後日さまざまな理由で先方の幹部は社内で責任を問われたという。また、担当コンサルタントはこれ以外にも同じような問題をいくつも起こし、やがて会社を去ることになった。
    このトラブルの原因は上司の管理不行き届きや担当の報告不足、クライアントの対応などいろいろ考えられるが、根本的には担当の物流実務とオペレーションがわかっていなかった点に行きつく。理念やコンセプトなどうわべの言葉で当面は取り繕うことができても最後は実務がモノを言うのである。

    3.スカスカおせち事件

    業界はまるで違うが、最近似たような事例に接する機会があった。経営学者の岩尾俊兵氏が日本経済新聞の「プロムナード」というエッセーコーナーで紹介した「スカスカおせち事件」である
     一昔前に世間をにぎわした「スカスカおせち事件」の原因について、岩尾氏が直接触れることができた裏話に一部フィクションをくわえて解説したものである。少々長くなるが、大変興味深い記事であったので、以下に紹介させていただく(2025年12月3日夕刊より引用、一部筆者による加筆、修正、削除を含む)。
    『ある飲食店が、お正月の豪華おせち通常税抜き2万円を特別価格1万円で販売しますといって500人ものお客を集めたが、いざ届いたシロモノは宣伝とは似ても似つかなかった、という事件である
     キャビアをはじめとする高級食材をふんだんに使用した色鮮やかで手の込んだ料理の数々が提供されるはずが、文字通りふたを開けてみると市販のチーズひとかけらをはじめとして全体的に薄汚れた灰色のそこら辺のスーパーで買ってきた食材の適当な詰め合わせとしか思えないおせちが届いた。それすらも「詰め合わせ」とはお世辞にもいえず、スカスカすぎてお重の底が露出していた、という。
     真偽のほどは確かでないが、これは経営学の教科書に載せてもよさそうな典型的なオペレーションの失敗例なのだそうである。
     スカスカおせちを作って最初から消費者を騙(だま)そうとしていたわけではなかった、という。それどころか、スカスカおせち事件の1年前にはスカスカおせちの企画者は飲食店業務のかたわらで1日で50食分のオードブルを作ったことがあったし、それも比較的余裕を持って作れたそうだ。50食のオードブルを片手間でさえ余裕を持って作れるのだから、年末に店を閉めて数日間おせち作りだけに集中すれば、500食のおせちくらい簡単に作れるだろう、と考えたのだろう。
     この時点で、オペレーションズ・マネジメントの観点からは危険信号が灯(とも)る。あらゆる業界のオペレーションが変則化する年末年始と通常時でのオペレーションを同一だと考えてはいけない。それに50食を作る手間を10倍にするだけで500食を作れるわけではない。手間を10倍にしても設備は10倍にならないため、人ではなく設備がボトルネックになる可能性が高い。
    案の定、おせち作りを始めてみて最初に起こったのは食材を置く場所がない、ということだった。通常は1日に何度も食材の搬入があるが、年末年始だと食品卸や運送業者も休みをとるためにまとめて一気に納入される。しかも、豪華おせちを作るために食材の種類が通常より多い上に、1種類ごとに梱包が異なるため、食材に対する梱包材の割合が大きくてかさばる。そのため、あっという間に調理場は段ボールで埋もれてしまう。
    足の踏み場もない調理場では、いつものように手早く料理を作ることはできない。仕方なく、臨機応変に現場の知恵を活(い)かし、フライパン調理をあきらめてオーブン調理に切り替える。すると、いつになく酷使してしまった結果、突然オーブンが壊れてしまう。修理を頼もうにも年末年始でどこも休み。
    一事が万事この調子で、冷蔵庫の調子も狂い始め、人も倒れ、あきらめてスーパーに駆け込んでも500個分の総菜など売っておらず……という具合だ。善悪に関係なく、オペレーションに失敗すると顧客を裏切る結果になるのである。』
    以上、ロジスティクスの要素も含んだ経営学によるオペレーションの重要性を物語る事例である。

    4.物流データの整理ができない

    物流の話に戻ろう。筆者も最近、オペレーションの大切さを痛感する出来事を経験した。またまた私事で恐縮であるが、物流事業者の社員向けに「物流データ分析研修」を行っている。物流をデータでとらえ現状分析から改善策の立案・提案、実行までの一連の手法を、演習方式で身に付けてもらうことを目的とした実践的な研修である。手前味噌となるが、物流データに焦点を当てた研修はあまり例がないものと自負している。受講生はひたすら数字(データ)をベースとした演習問題を解くことによって、データの重要性を理解するとともに、データ整理と分析の簡単な手法を学ぶことができる。
    ただ、データ分析といってもそれほど高度なことを行うわけではない。移動平均による出荷傾向分析や在庫のABC分析といった、物流事業者にとって基礎となる知識や手順を習得するものである。会場の制限もありパソコンなどを持ち込まず、事前に計算しやすく整理したデータを計算機による手作業で処理する簡易なものだ。あくまでも計算手順を覚えてもらうことに主眼を置く。アンケートには「データ分析の手法を職場で実践したい」などの感想が多くみられ、それなりの手ごたえを感じていた。
    ただ、今どき計算機やスマホの計算機能を使った作業などは時代遅れで現実的ではないため、EXCELなどの表計算ソフトを使った本格的なデータ分析を望む意見も多かった。そこでパソコン持ち込んだ「応用編」を追加することになった。応用編は、WMS(倉庫管理システム)などから得られる生データをそのまま提供し、EXCELで整理、加工、分析を行う演習である。
    この演習で筆者はかなり衝撃を受けた。WMSなどから得られる生データはそのままでは分析できない。レイアウトや項目もさまざまな生データは、まずEXCELのいくつかの関数を使って分析しやすい形に整理する必要がある。マイクロソフトのデータベースソフト“ACSESS”を使えば容易に出来る作業であるが、おそらく物流の現場で活用しているケースは少ないであろうし、そもそもPCにインストールされていない。しかもEXCELとは根本的に操作方法が違うACSESSが初めての受講生がいれば、その使い方を習得するだけで研修が終わってしまう。
    そのような事情で、あえてEXCELでの演習を行ったわけであるが、実は筆者自身EXCEL関数を使っての分析は初めての経験であった。ACSESSでは簡単に行える操作がEXCEL関数では結構面倒である。まして、関数に慣れていない受講生にいきなり体験させるのはかなり無謀な試みとも思えた。
    不安は的中し、研修では予想をはるかに超える結果が待ち受けていた。EXCELの習熟度合いに個人差があり、一律に前に進めない。操作に不慣れな受講生には講師が付ききりで手取り足取りでの指導が必要である。時間は予定を大幅に超過し、結局予定の演習課題4つのうち3つしか終了できなかった(それもかなり不完全な状態で)。筆者の完全な読み違えである。
    それ以上にショックだったのは、以前の研修が現場で活用されている可能性がきわめて低いことを悟ったことである。応用編での受講生の苦労を目の当たりにすれば、以前の研修成果を実践で使っているとは到底思えない。言い方を変えれば、データ分析の手法だけ習得しても、それ以前の生データの整理実務ができなければ実用の役には立たないということである。データ分析においても、実務でのオペレーションがいかに重要かを思い知らされた研修であった。

    5.理念よりオペレーション

    本稿は前回の「神は実務に宿る」の続編として「オペレーション」に焦点を当て事例を紹介してきた。
    人手不足を背景に、AIやロボティクスといったハイテクが物流を変えると予測する情報があふれている。こうした風潮を否定するわけではなく、むしろぜひ実現してもらいたいと痛切に願っている。
    ただ一つ気になるのは、こうした未来を実現するための、未来へ近づいていくための現実的なステップが語られていない印象も少ない点である。当たり前であるが、現在の姿からいきなり未来へ飛ぶことはできない。そこには未来へ近づくための一歩ずつのステップが必要であり、このステップこそが日々のオペレーションなのではないだろうか。それを示さずあるべき姿だけ語るのは無責任である。
    リアルな活動である物流だからこそ、オペレーションを軽視してはならない。逆説的ではあるが、まずは「理念よりオペレーション」であることを肝に銘じたい。

    以上



    (C)2026 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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