第568号 これからの物流について一緒に考えましょう(前編)~物流2024年問題、物流統括管理者(CLO)など~(2025年11月18日発行)
| 執筆者 | 浜崎 章洋 氏 大阪産業大学 経営学部商学科 教授 |
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執筆者略歴 ▼
*サカタグループ2024年10月23日開催 第28回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回、大阪産業大学 経営学部商学科 教授 浜崎 章洋 先生の講演内容を3回に分けて掲載いたします。
*掲載内容は、講演が開催された時点でのデータや情報を基にしているため、現在の状況と異なる場合があります。
目次
- これからの物流について一緒に考えましょう
- はじめに ロジスティクスとは
- ロジスティクスとは②
- ロジスティクスとは③
- 1.CLOについて
- 本論文は、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。
(以上前編)
これからの物流について一緒に考えましょう
皆さんこんにちは、ただ今ご紹介いただきました、大阪産業大学の浜崎でございます。
本日はお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます。少しの間お付き合いよろしくお願いいたします。
私は、今日京都から来たときは、気温が28度位で暑いので半袖を着て駅まで行ったら、汗だくになりましたが、東京に着いたら少し涼しいなと思いました。今もう10月下旬で、あと2ヶ月で年末です。こんなに暑いというのは、地球温暖化だと思います。我々はいいとして、若者世代とか、次の世代に向けて、こういった環境問題とかに、取り組んでいかないといけないなと思った次第です。
それでは、簡単に自己紹介をさせていただきます。私は元々メーカーに勤務して、その後、日本ロジスティクスシステム協会(以下、JILSと記載)に約10年勤務し、物流会社でコンサルティング業務に携わったりとかの経験して現在、大学の教員になっている、このような経歴です。
このような本を書いていたりしています。ということで、本日は本の宣伝に来たわけではないですよ。私の本は売れているので、特に宣伝しなくてもよく売れております(笑)。
さて、今日はこんなテーマ「これからの物流について一緒に考えましょう
~物流2024年問題、物流統括管理者(CLO)など~」について、お話をさせていただきます。
先ほど自己紹介のところでありましたが、メーカーに在籍していたことを、一つキーワードとして挙げたいと思います。メーカーの海外営業部なのですが、野菜とか花の種を扱っている企業です。入社してすぐ2年間は貿易実務、物流関連事務を担当し、その後実際に担当のお客さん持って営業をしていたのですが、営業の仕事のなかで、実は在庫調整というのが非常に重要な仕事だったのです。
というのは、種というのは、植えて花が咲いて実が実る、というのが年に1回、もしくは南半球を使ったとしても年に2回なので、生産のリードタイムは約1年とか、8ヶ月とか、そういった長い期間が必要なことと、種自体が生き物なので、実際の在庫期間は長くても3年位なのです。
そういうところなので、営業はどんどん売り上げを伸ばしたいのですが、在庫がないと売れないということもあって、今年売り切って来年の分の在庫がなくなったら困るとかですね、あるいは天候次第で、もう今まさに種を収穫するときに台風がきたら、今年の生産は無くなってしまうことも起こり得るので、在庫とか天気を見ながら営業を行ってきたという経験を持っています。
一方で、30年ぐらい前の話なのですが、南半球で生産を始めたりとか、海外生産が増えてきたことに伴って、実際に生産するための親の種を輸出するのが私の役割でもあったので、生産部門とも仲良くさせてもらっていました。つまり、生産も、営業も、そして物流の方にも、関与していたのです。
また、物流会社のコンサル部門にいたときには、繁忙期には、実際に現場を手伝ったりしていました。こういったバックグラウンドがあるということを、ご承知おきいただきたいと思います。
はじめに ロジスティクスとは
ではまず、ロジスティクスの定義です。今、皆さんに説明するのは、ご存知のとおりですが、元々「兵站」を意味する軍事用語です。前線基地に軍事物資とか生活物資、例えば、兵隊とか、武器、弾薬、燃料とか、食料品、飲料水、医薬品とかを計画的に補給するというのが、元々ロジスティクス、「ミリタリー・ロジスティクス(Military Logistics)」といいます。そこにコストの概念をとり入れて、ビジネスでも使えるということで、「ビジネス・ロジスティクス」という概念が形成されました。
これは皆さんご承知の通りです。ロジスティクスの定義ということで、JILSの用語辞典にも載っていますので、またお時間のある時に目を通しておいてください。私が好きな定義は、この一番下の、「調達から生産物流販売までを、ボーダーレスに最適化すること」、これは、非常に短くてわかりやすくてよいと思っています。
東芝の佐藤文夫さんという方は、東芝(旧 東京芝浦電気)の社長、会長を歴任された方で、私が在籍していた、日本ロジスティクスシステム協会の会長もされておられました。実は、東芝が日本で一番最初に物流部が出来た会社だそうです。これは私がJILSにいた時に、専務理事から教えてもらったことですが、当時は、「物的流通部」という名称だったそうです。その初代、物的流通部長が佐藤文雄さんなので、おそらく日本で一番最初の物流部長ではないかと思っています。
ロジスティクスの定義を説明しましたが、元々兵站ということで、湾岸戦争のときの例で、これはこのときのロジスティクスの担当の将軍の著書、「山・動く: 湾岸戦争に学ぶ経営戦略」(W.G. パゴニス,1992/11/1,同文書院インターナショナル)という書籍で、ベストセラーになったので、記憶にある方もいらっしゃるかと思います。
湾岸戦争のとき、膨大な物資を送り込んだのですが、そのうち100万t近くが余ってしまったりとか、中に何が入ってるかわからないとか、どこかへいってしまったということがあって、そしてその後のイラク戦争のときに、RFID、ICタグを使ってそういった問題を解決していったということを言われています。
ロジスティクスとは②
それで、こういったビジネスロジスティックスを、図で示すとこのようになります。例えば製造業でいうと、開発部門や調達、生産、物流、販売とか、いろんな部署や場所にまたがるところで、実際に物が動いていくところを青く塗りつぶしていますが、ここを最適化していく、つまりボーダーレスに最適化するいうこと、これについてお話していきたいと思います。では、何をもって最適化と判断するのかというと、私はコストと在庫の部分だと思います。
コストというのは、単に製造原価とか仕入れ原価を下げるという意味ではなくて、会社全体のコストを下げていくこと、それでそのときに、これは私の経験則なんですが、最も合理的なのが在庫の適正化ではないかと思っています。
ロジスティクスとは③
これを文章で説明すると、このようなスライドになるのですが、単に単価削減をするだけではなく、会社全体のコストを下げていきましょう、ということです。皆さんの会社でも経験があると思いますが、製造原価とか仕入れ原価を削減するために、大量生産、大量発注して、置く場所がないから外部の営業倉庫を借りて物流コスト上がってしまったということありますよね。
そういった目先の単価を下げるのではなくて、会社全体のコストを下げていこう、それをするために最も合理的な手段が、在庫の適正化ということなのです。在庫の適正化と言うと、欠品もしないし、過剰在庫にもならないで、売り切れ・売れ残りもしないような、数量と配置がキーとなります。
例えば、関東の物流センターに何割、関西の物流センターに何割の在庫を配置する、こういった、数量と配置の適正化ではないかと思っています。これは多分言葉は違えど、皆さんとの共通認識だと思います。
1.CLOについて
では、ここからCLOに入っていきますが、物流統括管理者ということで、荷主事業者は云々と書いています、赤い字のところ、「物流管理統括者は、物流の適正化、生産性向上に向けた取り組みの責任者として、販売部門、調達部門等の他部門との交渉調整を行う」、このように、昨年度出た資料では説明されています。
これは、新聞とか業界誌とか、インターネットのニュースで見られているかと思いますが、ここで私の疑問なのですが、CLOとはどこにも書かれていないのです。ただしCLOという言葉がよく使われており、言葉が独り歩きしているという印象があります。
アメリカとかヨーロッパの、Chief Logistics Officer(CLO)とか Chief Supply Chain Officer (CSCO)の役割は、物流の効率化だけではないのです。
でも、こちらの赤文字の記載内容を見ると、物流の適正化、生産性向上ということなので、この辺りは、少し違和感を持っています。今日参加されている方は多分、荷主企業の方とか、物流事業者の方とか、それに関連するサービスを提供されている方、少なからず何らかの関係者の方々だと思います。それで、私はどうしたらいいのかとか、うちの会社はどうしたらいいのか、など困っているかと思います。
この辺は、少し曖昧になっているという印象を受けています。一般社団法人フィジカルインターネットセンター(JPIC)、の理事長をされている森先生(流通科学大学 名誉教授)が、「CLOの仕事 物流統括管理者は物流部長とどう違うのか」 *1 という本を出版されました。
【注】*1. 「CLOの仕事 物流統括管理者は物流部長とどう違うのか」,森 隆行 ,同文舘出版,2024年
最近出たばかりの本なので、ぜひ紹介させていただきたいと思いますが、このフィジカルインターネットセンターでは、CLOの定義として、「持続可能な社会と企業価値の向上を実現するため、物の流れを基軸にしたサプライチェーンにおいて、経営視点で社内外を俯瞰した全体最適を図る役割を担う責任者」ということで、これは私のイメージしているCLOに、とてもフィットしていると思っています。
物流の適正化とか、生産性向上だけではないのです。サプライチェーンにおいて、経営視点で、物の流れ、全体最適化を図るのです。これは先程の、会社の中の全体最適、調達とか生産、物流、販売のロジスティクスの部分と、仕入れ先、販売先も含めたサプライチェーンの最適化ということを、CLOの役割として説明されています。
私のイメージするCLOは、こちらに近いですし、多分皆さんがCLOと聞いたときのイメージも、こちらに近いのではないかと思います。
これは、折角手間をかけて、時間をかけて、コストかけて、CLOを設置するのだったら、ここまで実施した方が絶対に良くないですか、と私は思います。
折角取り組むのでしたら、物流の適正化とか生産性の向上だけではなくて、自社の全体最適とか、サプライチェーンの全体最適にチャレンジし、それを実現していく、CLOはそういうポジション・役割が望ましいのではないかと考えています。
では、具体的にどうしていくのかですが、対象となる特定荷主はというと、これはまだ決まっていないのです。だから皆さんの会社が選ばれるかもしれないし、選ばれないかもしれないのですが、いわゆる大手企業と言われる荷主さんは恐らく入ってくるかと思われます。取り扱うものだとか量(重さ)によっては、いわゆる中堅規模の会社も、入ってくる可能性があるということですが、大企業の荷主さん、中堅規模の荷主さんも、特定荷主に選ばれようが選ばれまいが、CLOを設置された方が絶対に良いと思います。
選ばれないからやらなくてもよいのではなくて、近い将来、当初の特定荷主3000社位から、広がってきたときに、いずれ取り組まないといけないのだったら、最初からやっておいた方がよいのではないかと考えています。
CLOの職位、これは言葉が独り歩きしていると言ってましたが、チーフ・ロジスティクス・オフィサーだと、やはり役員クラスが望ましいということです。部門長で部長クラスということであれば、他部門とか取引先との交渉を、部長クラスでできるのかなとか、取締役会とか出席できるのですかとなると、少し疑問なのです。そういったことを考えると、やはり営業部門とか、製造とか、調達部門、あるいは取引先と交渉したりとか、あるいは投資をするための資金を調達するのだったら、役員クラスが望ましいのです。
では、CLOの目的は、物流の適正化と物流の生産性向上だけでいいのかというと、物流部門だけの努力でできることには、限度があります。もう既に散々取り組んできているのです。例えば、現場改善をして、コスト削減をして、品質の改善をして、もう既にいろいろ取り組んできているので、これから物流部門だけ、あるいは、物流会社だけでできることは限られるのです。そうなってくると、営業部門と納品のリードタイムを調整するとか、取引先と交渉するとか、生産ロットの数量の見直しを図るとか、物流の在庫拠点をどうするのか、こういった話をしていこうとすると、物流部門だけではとても対応しきれないのです。付け加えるなら、商慣習の見直しとか、取引先の交渉とかを、調整していくとなると、これはもう、物流の効率化だけで完結する問題ではないのです。この辺りは、皆さんご理解いただけるのではないかと思います。
※中編(次号)へつづく
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