第555号 ロジスティクスEDI構想~日用品業界におけるメーカー・卸売業・物流事業者の協働推進活動~(中編)(2025年5月15日発行)
執筆者 | 上原 英智 株式会社プラネット 執行役員 セールス&サービス推進ユニット長 |
---|
執筆者略歴 ▼
*サカタグループ2024年3月15日開催 第27回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回株式会社プラネット 執行役員 ネットワーク推進担当役員 上原 英智 様の講演内容を計3回に分けて掲載いたします。
*前号(2025年4月22日発行 第554号)より
目次
- ロジスティクスEDI:ASNデータ、入荷検収データ
- ASNデータの活用メリット
- ASNデータ活用事例
- 日用品における物流標準化ガイドライン
- 事前出荷情報(ASN)の活用による納品伝票レス・検品レス運用ガイドライン
ロジスティクスEDI:ASNデータ、入荷検収データ
このロジスティクスEDIの中で、先程、概要書の中では「28種のデータを定義しました」とお話ししましたが、皆さんのニーズが高いところからリリースをして取り組んでいくためには、基本的にはASNデータが必要であり、卸売業さんの倉庫に製品が届く前に、メーカーさんから、もしくは物流事業者さんからASNデータを送ることで、卸売業さんの入荷業務の効率化につなげようとしました。
ひいては、何時間も待っている車両の待機時間を短縮したり、ドライバーさんが荷物を置いたらすぐに帰れるような業務の形を目指そうとしたのです。今日は、このASNデータについて、細かくお話したいと思います。
卸売業さんからメーカーさんへの受領書の返送時、今は受領書の紙に受領印が押されて戻ってきていると思います。ロジスティクスEDIによる入荷検収データは、簡単に言うと、その紙の部分を基本的にはデータに置き換え、ペーパーレスを目指すものです。
ASNデータの活用メリット
資料にいくつか「ASNデータの活用メリット」がありますが、これから説明させていただくのは、卸売業さん、荷受側のメリットです。ASNデータを使う前はどうなっていたのか見てみましょう。
この例ですと、8ケース注文したときに、現物も8ケース届きました。そのときに一緒に添付されている伝票にも8ケースと書いてあります。注文した数字も8ケース、現物も8ケース、伝票の記載数も8ケースだったということで、この3点間の情報の一致でようやく在庫計上ができるのです。
しかし、ASNデータを使うと、どうでしょう。基本的にASNデータは、メーカーさん、もしくは物流事業者さんから、製品が届く前に「このトラックには商品をいくつ載せました」という情報が届きますので、そのデータを見て、「現物も本当にその数量だった」と確認できれば、入荷数量の確認は完了します。
資料に少し訂正があり、「発注数量との比較が不要となる」と書いていますが、現実的には「ASNデータと現物を見てチェックをし、8ケースを確認する」というのが、第1ステップです。「その8ケースに対して、もともとの発注データを消し込む」というのが第2ステップであると、理解いただければと思います。どちらにおいても(入荷業務の)効率化になることは間違いありません。
それから、ASNデータが無いと、どこの倉庫から車両が何台入荷するのかは全然分かりません。しかし、ASNデータがあれば、この車は大阪の倉庫から出たのか、広島の倉庫から出たのか、どれだけ製品を積んでいるのかが事前に分かります。そうすると、荷受側は入荷の予定を知ることができ、「それで今日の入荷係の方は、このぐらいの時間帯に何人配置しておこう」といったように、ASNデータを使うことができるかと思います。
入荷側で「数量検品を省略できる」というのは、基本的には納品の精度とデータの精度、これが揃っていないと数量検品を省略することはできません。メーカーさんの納品精度はだいたい高いので、おそらく直近3か月位の情報を見て間違いが無ければ、数量を数えることなくASNデータを元に作られた数量をもとに、入荷計上ができるかと思います。実際にそのように運用して、その後、もし瑕疵があっても、後工程での処理(入荷数の修正)で対応できるので、日々の効率アップに十分つながると思います。
続いて「納品案内書を無くすことができる」とありますが、一般的な言葉で言うと、伝票レスですね。詳しい話は後段のパートでお話しますが、我々の感覚からすると、いわゆる「伝票レス」と言われているものと、「ペーパーレス」と言われているものは、似て非なるもので、おそらく、伝票は無くせるけれども、一部、紙は残るというのが現実的かと考えています。ただ、伝票ですと、こういう分厚い束で来ますので、これが結局1枚の紙(後述の配送指示書)に置き換わるということです。
それから、ASNデータの精度が高くなければ難しいのですが、卸売業さんの入庫側で自動仕分けができるのではないかと考えています。
まず、「この車両にこれだけの製品が積載されています」という段階から、「このパレットにはこの製品がいくつ積まれています」という段階まで、情報をワンステップ上げます。そのパレットに載っている製品群を1つのコードで括り、そのコードをスキャンするだけで入庫処理が完了するようにするのです。あとは自動倉庫へ格納、もしくは適切な保管場所へ格納できれば、機械化ができるかと思います。実際に、一昨年の年末にドイツへ見学に行った時には、このような運用を行っていました。
6番目は、「発注数との差を早期に把握する」です。あまり良い話ではないのですが、発注した数量どおりに製品が納品されないケースです。これは物流の現場でもそうですが、商流側のお話しです。卸売業さんの商品部等で、「100ケース注文したけれども50ケースしか来ない」ということが早く分かれば、それに対して「それでは、その対応はどうすればいいのか」という、次の段階に素早く取り掛かることができます。これも1つのASNの使い方かと思います。
続いて7番目の「賞味期限や製造番号の情報を入手する」は、賞味期限や、製造番号、ロット番号の管理についてのメリットです。我々のユーザーには、ペットフードを取り扱う企業さんもいて、賞味期限管理が必要なのです。国の食品ロス削減に向けた「もったいない運動」がだんだん広がっていき、「年月日」表示だった賞味期限が、今「年月」表示となっています。それでも外箱表示から賞味期限情報を確認して手で入力し、賞味期限を管理するということを、多くの企業が行っていると思います。しかし、これもASNデータで提供ができれば飛躍的に効率化できます。ASNを利用している卸売業さんからは、賞味期限とロット番号の管理に関して「非常に効果あり」という、大変大きな声を頂いています。
ASNデータ活用事例
少し違う例になりますが、これは発注データとASNデータを絡めた活用例です。卸売業さんの荷受け時の仕分け方法は、「この製品群は、このまま自動倉庫に納めてしまう」とか、「この製品群は倉庫1階の平積みのところに置こう」、「この製品はピッキングエリアのバラ棚へ補充しよう」など、簡単に言うとこの3つから4つぐらいの仕分けだと思います。このぐらいの仕分けであれば、ロケーション単位でなくても、かなり有効です。
卸売業さんがメーカーさんへ注文を出すときに、「これは倉庫2階のバラ棚補充行き」といった印(情報)をつけてオーダーを出します。実際にこの絵では、物流事業者さんが(出荷の)オペレーションをするのですが、自動倉庫にはその自動倉庫に行く塊で作り、2階のバラ棚補充に行くのであれば、そのバラ棚補充の塊で、パレット単位の商品を作ります。このように、出荷に関して若干オペレーションが増えます。
しかしながら、卸売業さんの倉庫へトラックが着いた時には、すぐに降ろして、すぐに帰れるというのは間違いありません。基本的に、製品を納入した場所ですぐに降ろす、ということもそうなのですが、降ろした後にその製品群がきちんと卸売業さんの倉庫の格納場所まで行かないと、荷捌き場が空きません。早く荷捌き場を空けるためには、そういった工夫も必要ですということで、取り組んでいる例がこちらです。
こちらは、RFIDに関して、我々が2年ぐらい前に実証実験に参加をした例です。参加メーカーはライオンさん、サンスターさん、卸売業さんはこのときはPALTACさんだったと思います。下段の図の、真ん中の物流EDIの部分が弊社のネットワークです。オーダーをかけていただいて、この下の例で言うと、パレットに載っている製品群を一塊のコードとして括り、つけたコードをRFIDで読み取ります。パレットに積載された製品が納品されて、事前に受信しているASNデータから、RFIDで呼び出したコードで製品群を呼び出すと、そのままノー検品で格納していきます。部分的な実験でしたが、この部分について(荷役作業効率化の)効果が出たということで、ASNデータの1つの活用例だと考えています。
日用品における物流標準化ガイドライン
ここまでASNデータのお話をしてきましたが、こちらは流通経済研究所さんと弊社が事務局を担当し、冒頭にお話した研究会の中でWGを作った件についてのお話です。
メーカーさんと物流事業者さんとの間で、「日用品における物流標準化ガイドライン」(https://www.planet-van.co.jp/shiru/vanvan/vol134/want_to_know.html)を作りました。作ったと言っても、正確には、先程浜崎先生からお話のあったプラネット物流で、かれこれ20年ぐらい前に「外装表示を標準化しましょう」ということで、まとめたものがありました。これはずっと、脈々と引き継がれているというよりは、各メーカーがその外装表示のガイドラインに沿った表示の仕方を行ってきたのですが、やはり時が経つと見直さなければなりません。
最初に見直したのは、1番の外装表示の標準化のところです。いろいろと見ていって一番違うのは、バーコードのシンボル表示に関して、以前は長辺のところだけ、長い面につけておけばよかったものが、GS1標準では基本的に箱の4側面への表示が必要であるという部分です。
しかし、いろいろと議論した結果、例え4側面必須にしても製品が小さい場合には印字する場所が無いため、今回、「必須」とまでは、いきませんでした。必須化はできないのですが、基本的には4側面に表示したほうがよいという議論を行いました。
最近、卸売業さんの現場へ行くと、「上にもバーコードラベルを貼ってほしい」と言われます。確かにそうなのです。横の4側面で読み取るよりも、真上からスキャンするほうが、腰も痛くならないし、作業する方にとっては、すごく楽なのかなということで、もう一度機会があればそこの部分も見直したいと思います。
2番目に記載しているのは、パレットの標準化についてです。基本的にはT11型パレットとしました。トラックにパレットを2段積みできるかどうかという点では、低床のトラックであれば、安全に配慮し、高さがあまり高くならない範囲であればよいのではないかと議論しました。
3番目の納品伝票に関しては、「この項目は必ず印字しましょう」という項目だけを標準化しました。これは、時間と共に見直していかないといけないと思っています。
事前出荷情報(ASN)の活用による納品伝票レス・検品レス運用ガイドライン
もう1つ、「事前出荷情報(ASN)の活用による納品伝票レス・検品レス運用ガイドライン」(https://www.planet-van.co.jp/pdf/research/guideline202308.pdf)を出していますが、これはASNデータを活用した伝票レスの業務モデルということで、これもこちらに記載しているメーカーさんと物流事業者さんで作成しました。卸売業さんの名前はありませんが、先程の全卸連(全国化粧品日用品卸連合会)の委員会に持ち込んで、卸売業さんの声も聞いて、「では、このようにしましょう」と取りまとめたものです。
これは先程の「伝票レスとペーパーレスは若干違う」というお話になりますが、基本的には、ASNデータをメーカーさんから卸売業さんへ送ります。そこで、「納品案内書」など、いわゆるメーカーさんが発行している伝票類は全て廃止しましょうということで、これが伝票レスなのです。
ただ、紙が一切無くなってしまうと、ドライバーさんは「今日はどこへ車を走らせればいいのだろう」となってしまうので、その代わりに「どこからどこへ行く」という、配送指示書を1枚用意することにしました。
1つの例としては、この配送指示書を持って卸売業さんのところへ行き、そのまま納品をします。事業所への納品ですから、この配送指示書に事業所欄を設け、そこに判(受領印)を押してもらい、それを持って帰ってくるという流れです。本当は、「判子を押してもらい、それを持って帰ってくる」というところもEDI化したほうが良いですし、プラネットのサービスメニューとしてもすでに実装していますが、まだ、卸売業さんからメーカーさんへ戻すデータについては実装されていませんので、その手前の段階で実施するのであれば、このような方法になるだろうと考えています。階段のワンフロア上がる途中の踊り場みたいな状態ですが、まずはこういう方法で実施してみましょうということです。
この配送指示書も、荷主別、届先別、納品車両別に、その車両台数分を発行します。メーカーさんの単独拠点であれば、それ程こういうこと(荷主別配送指示書の発行)を意識しません。
先程、浜崎先生からお話がありましたが、2016年の夏にプラネット物流という会社自体は解散しています。しかし、日用品業界で言うと、今でも北海道や関東の一部、関西の一部、九州に関しては、共同保管、共同配送をしています。実際に、特に北海道と九州においては、現在も十数メーカーが、1つの拠点で共同保管、共同配送を行っているのです。
そうすると、共同配送のときに、この配送指示書が1枚というのはやはり都合が悪いのです。監査があったときに、荷主別(メーカー別)に受領書が無いと、他のメーカーさんの名前がずらっと、1枚の配送指示書に記載されているということになり、それもどうなのかという話があり、まずは、荷主別、届け先別、車両別に印字しましょうということなのです。
ASN2.0のときにキーとなる項目に、車両の識別コードがあります。車両識別コードは、この車両に載っている荷物を括るコードとなります。車両識別コードと言われると、皆さんの車の4桁ナンバーが思い浮かぶと思いますが、それを(確定するまで)待っていると、データを出せないというのが、運用上の実情(課題)だと思います。
というのは、メーカーさんなり物流事業者さんの中では、例えば10トン車に積む場合は、「この製品群は、この10トン車1台に載る」という想定で、事前の(ピッキング等)準備をし、車が到着したら、それを積み込むという流れなのですが、ASNデータはその手前で相手に渡しておく必要があります。このため、車が来てからナンバーを書いて出すという運用では、タイミングが遅いので、このような(配送指示書の記載内容の)仕様にしているのです。
こちらは、配送指示書の標準化ということで、必要最低限の項目をこのように印字しましょうというものです。少しフリースペースがありますが、必要最低限の項目で、受領印はこちらに押印してもらって、戻していただくものです。これは先程お話していた伝票レスにはなるのですが、ペーパーレスにはならないのです。
余談ですが、今まで我々がやってきたのはメーカーさんと卸売業さんの間のEDIなのですが、卸売業さんと小売業さんでは、流通BMSをはじめ、ASNデータの利用がとても進んでいてペーパーレスができているのだろうということで、全卸連(全国化粧品日用品卸連合会)さんを通じて、ヒアリング調査をしました。まだメーカーさんと卸売業さんの間ではできていないことが、卸売業さんと小売業さんの間ではできているということで、実際に聞いてみると、確かに大手のお得意先にはASNデータを既に送っているとのことでした。ただ、一部の小売業さん向けには、明細書を(印字して)添付しているということで、結局、伝票レスにはなるのですが、やはり現場では必要なので1枚か2枚明細書をつけているそうです。この明細書の呼び方は企業によってさまざまでした。
我々はこれ(明細書の添付)を知らない前提で考えましたが、あながち間違ってはいなかったと思います。しかし、完全な納品伝票レス・検品レスは、最後、「入荷検収データ」があって初めてできることで、今後レスにはしなければいけないのですが、階段の踊り場まで(進んでいる)ということを考えれば、これで良かったのかなと思います。
※後編(次号)へつづく
(C)2025 Hidetomo Uehara & Sakata Warehouse, Inc.