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第311号 危険物国際輸送の留意点 (2015年3月5日発行)

執筆者  吉本 隆一
(オフイス・ロン代表)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から2013年2月定年退職まで日本ロジスティクスシステム協会、主幹研究員
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究等

 

目次


 

はじめに

  従来、島国である我が国にとっての国際輸送は、海運と航空に限定されていた。しかし、欧米だけでなく、中国、韓国や東南アジア諸国との経済的関係が深まり、リスク管理も含めた海外生産・海外消費への対応も含めたグローバルなサプライチェーンネットワークの管理運営が重要になるにつれて、道路、鉄道、河川などの内陸輸送とのドアツードアのインターモーダル輸送全体の危険物輸送管理が必要とされている。ここでは危険物国際輸送の枠組みの骨子と運用上の留意点を紹介する。

1 危険物の種類

  危険物は、国連勧告では、大きく9分類に分けられ、国連番号(4桁)は、約3千種類あり、IMO(国際海事機構)のIMDGコードは、海上輸送において150ヶ国で共通に利用されている(図1参照)。国内では、複数の法令で規定され、消防法(危険物、指定可燃物)、毒物劇物取締法、高圧ガス保安法、火薬類取締法、道路法、港湾法、空港関係法で指定されている。ちなみに、化学製品は、約35万種(法律のカバーは約半分)あり、化学物質は、約4万種あり、このほか、化学物質組成物、化学物質を含む物品、兵器、放射性物質(放射性障害防止法)等がある。近年は、国内法規の国際的整合性の確保を図るようになっている。

図1 危険物の分類

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2 危険物国際輸送に関する法制度

  危険物の国際輸送に関する法制度は、船舶と航空機の別に、以下のようになっている。
  船舶輸送の場合には、「船舶による危険物の国際運送における個々の危険物の具体的な運送条件は海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)により締結国政府に委任されているが、各国政府が独自の規制を行うことは円滑な流通の障害となり得ることから、1960年の海上における人命の安全のための国際会議において国連の専門機関である IMO(国際海事機関)に国際的統一基準の策定を依頼することが決議された。この勧告を受けて IMOは、危険物の海上、航空、陸上輸送に関する専門家から構成されている国連において危険物輸送専門家委員会と相協力して、1965年にIMO勧告として「国際海上危険物規程」(International Maritime Dangerous Goods Code、「IMDGコード」)が策定された。対応する国内法規は、「危険物船舶運送及び貯蔵規則」(危規則)である。
  航空機輸送の場合には、国際民間航空機構(ICAO)シカゴ条約の技術指針(TI:Technical Instructions for the Safe Transport of Dangerous Goods by Air)がある。対応する国内法は、航空法告示である。
  留意点として、国連コードに品名が記載されていない場合でも危険物該当品がある。このため、国内で、国土交通省通達海査第339号、航空法危険物判定基準による容器・包装種別が記載されている場合には、当該容器・包装を使用する必要があり、個々に確認が必要である。

図2 危険物国際輸送に関する法制度

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3 危険物国際輸送上の留意点

3-1 陸上輸送
  島国である我が国の輸出入については、海運と航空のみが直接の対象となるが、中国、韓国やアジア諸国をはじめ、各国の生産拠点とのサプライチェーンの管理を対象とする場合には、国内同様、道路や鉄道の陸送、河川等の内水面輸送における危険物国際輸送の管理方法についても把握しておく必要がある。
  危険物に関する国連勧告(オレンジブック)は、国連(UN)の経済社会理事会(ECOSOC)の下にある危険物輸送専門委員会が作成している。陸上運送においては、欧州域内に限られているとはいえ、道路運送はADR (European Agreement Concerning the International Carriage of Dangerous Goods by Road)により、鉄道運送は RID (Regulations Concerning the International Carriage of Dangerous Goods by Rail)により、それぞれ国際運送基準の統一が図られている。
  国連勧告は、すべての運送モードにおける危険物の運送基準の基礎である。しかし、最近では国連勧告をすべての輸送モード及び各国の輸送規則のモデルとなるように、危険物輸送の基本要件のみならず、輸送モードに共通する輸送要件、例えば包装方法等を勧告に含めるようになっている。
3-2 少量品輸送
  陸上輸送では、通常、少量品輸送については規制対象外となっている。しかし、個々の荷主側の出荷時数量が少量であっても、運送事業者側での混載輸送時には、指定数量を超える場合や、事故発生時には混載していると危険性の高まる危険物の混載可能性があるため、運送事業者は、法的な免責要件としてではなく、実質的な安全対策として、少量品輸送貨物における危険物の数量・内容を把握しておく必要がある。

図3 国内陸送時の届出要件例

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

3-3 環境汚染対策
  危険物輸送管理に関する近年の動向としては、環境対策としての管理強化がみられる。そこでは、環境有害物質への規制強化が行われており、特に食物連鎖による濃縮過程等を考慮することにより、数量、物質共に規制が厳しくなっている。このため、国際会議における審議動向を継続的に確認しておく必要がある。
  海洋汚染防止の観点から海洋汚染物質を容器等へ収納した状態で海上運送する場合の輸送方法について規定している規則(MARPOL:海洋汚染条約73/78 条約附属書III)は、1992年7月1日に発効となり、海洋汚染性のみを有する「環境有害物質」(液体、固体)を新たに危険物として規制することとなった。
  対応する国内法規では、危規則告示別表1から別表8までの品名の右肩に「PP」又は「P」を付して、当該物質が海洋汚染物質(約500品目)であることを明示している。これによって、海洋汚染物質として規制されるものは、すべて危険物に含まれ、1974年SOLAS 条約と附属書IIIに共通している事項(容器、包装、積載方法等)を危規則体系に一本化して規制している。なお、共通しない事項つまり海洋汚染防止の観点からの規制は、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」及び関連規則により実施している。
  「海洋汚染面からの危険物(海洋汚染物質)」は「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行規則第30条の2の3の物質を定める告示」に掲げる物質が該当するが、運送要件は「危告示」に規定している。
3-4 セキュリティ対策
  近年は、マネジメントISOによる品質、環境、セキュリティ、道路交通安全マネジメント等の取り組みと対応して、単なる安全措置にとどまらない間接的影響を含めた被害の予防・削減措置が検討されるようになっている。
  セキュリティ対策としては、危険物保管管理と輸送管理の両面が不可欠であり、保管管理にあたっては、施設の柵やゲート等の防犯設備、監視カメラや警備員、出入室管理が必要になる。また、輸送管理では、輸送時の盗難対策として、輸送方法、時間、輸送経路および休憩場所の選定、輸送状況監視等が必要になる。さらに、予防措置に加えて、事件発生時の対応策、安全対策、警察・消防・医療関係組織等との連携が必要になる。

おわりに

  我が国では、食品・食材の保冷輸送等を注目することが多い。しかし、国際輸送分野では、プラント輸送のような特殊輸送の外に、日常的には、危険物輸送と医薬品や食料、動植物等の生体輸送といった特殊輸送ニーズもある。
  危険物輸送については、その多様な化学的物理的特性をふまえて、危険物種類別の詳細なチェックが必要であり、特殊な輸送容器管理を含め、道路、鉄道、河川輸送の各国基準、データベース整備が必要とされている。
  他方では、サプライチェーンの信頼性確保と輸送効率向上のために、セキュリティ対策と同時に、ユニットロードによる最小輸送単位の整合性確保、振動、温度等の安全対策が必要である。また、環境汚染対策としての危険物管理も強化されており、関連国際動向の継続的な情報収集が必要とされている。

以上



(C)2015 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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