| 執筆者 | 長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問 |
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- 本論文は、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。
目次
3.小売業の変化が物流業に及ぼす影響
(2)小売りの輪
「小売の輪(Wheel of Retailing)」とは、新しい小売業態は低価格・低サービスで参入し、その後サービス拡充と高コスト化を経て既存業態と同質化し、さらに新たな低価格業態に置き換えられるという、小売業態のライフサイクル・循環パターンを説明する理論で、1931年(図表5では1958年)にハーバード大学のマルコム・マクネアが提唱したとされる(図表5。)。
(出所)ダイヤモンドチェーンストア 2023年3月号
1)小売りの輪理論のプロセス
①低価格・低サービス段階
低マージン・低コスト・簡素な店舗により新規参入する
②サービス拡充・アップグレード段階
利益確保のため、品揃え拡大や快適性向上で中価格化し、コストも上昇する。
③高コスト・高価格段階
既存の高価格業態と似たポジションとなり、新たな低価格業態の参入余地を生む。
2)代表的な適用例
総合スーパー、ディスカウントストア、家電量販店などの盛衰分析に利用され、日本の流
通業の歴史整理や、業態転換・ビジネスモデル開発の説明枠組みとして用いられる。
3-1)理論の意義と限界
①意義
価格とサービス水準の変化から、小売業態の進化パターンを直感的に理解できる。
また、ディスカウントストア、カテゴリーキラー、量販店など異なる国・地域でも似た循環が見られることから、一定の一般性はあると評価されている。
②限界
「すべての業態が低価格から始まるわけではなく、専門店や高級業態には当てはまりにくい」「既存業態との「競合・衝突」や、規制・立地・テクノロジーなど外部環境要因を十分に扱えていない」
との批判もある。
これは、「小売りの輪」が「低価格」という価格戦略から始まっていることの限界とも言える。
3-2)「小売りの輪」の例外
今うまくいっている業態も、将来的には別のローコスト業態から攻め込まれる可能性がある。日本の小売業でも、ディスカウントストア、ドラッグストア、ネットスーパーなど、低価格・簡素さを武器に伸びてきた業態が多い。
それぞれが成長するにつれ、店舗大型化やサービス拡充でコストが増え、新しい低価格フォーマットがまた出てくる、という動きが見られる。
ただし、この「小売りの輪」の流れと異なり、日本のスーパー創業者には、「百貨店をやりたい」という願望があった。
スーパーやGMSは、生鮮三品の小売業からスタートしたヤオコー(青果)・いなげや(鮮魚)などと、衣料品の小売業からスタートしたイオン(旧ニチイ)・イトーヨーカ堂、医薬品の小売業からスタートしたダイエー(旧中内薬品)などに分けられる。
このうち、ダイエーはプランタン、イトーヨーカ堂はロビンソンと、百貨店に進出した。ところが、両百貨店は廃業し、ダイエーはイオン傘下に入り、イトーヨーカ堂のセブンアンドアイHDは、コンビニエンスストアのセブンイレブンが主力となっている。
衣料品小売りの激安店に徹して伸びたのが、ユニクロ(ファーストリテイリング)・しまむらである。ダイエーも医薬品小売りの激安店に徹していたら、「小売りの輪」の先端であるドラッグストア業界に君臨していたかも知れない。
「小売の輪」には、例外も多く、コンビニエンスストアや自販機など、サービスや利便性、ネットワーク効果を武器とする業態はうまく説明できない。
①コンビニエンスストア
コンビニエンスストアは低価格・低マージンで参入したのではなく、24時間営業や立地など便利さやサービスを前面に出した利便性・高価格販売のビジネスモデルで。「ディスカウンターから始めて、次第に高級化する」という「小売の輪」にはそぐわない。
②自動販売機など無人販売
自動販売機は、人的サービス・人件費を極端に削っているが、必ずしも低価格ではなく、即時性・利便性を消費者は選好している。価格ではなく時間価値やアベイラビリティ(有用性)を売りにしているので、「低価格→高価格」という「小売りの輪」には合わない。最近は、その時間価値・アベイラビリティも効果が得られず、自販機台数は大幅に減少している。
③既存大手が低価格フォーマットを自社内で取り込む場合
既存の小売業がディスカウント業態やPB強化などで、自社の中に低コスト事業分野を組み込むと、新規参入の低価格業態に市場を奪われにくくなる。このことは、小売業だけでなく、外食業でも低価格ブランド店を出店するなどの例がある。
既存の小売業がグループ内で「新しい輪」を回すと、「小売りの輪」による世代交代が起きにくい。小売りの輪ではないが、イオンが「まいばすけっと」を展開したり、ドン・キホーテのPPIHがロビンフッドを始めるのは、この例と言えよう。
④技術革新による業態の変化
ECなど、新規の技術革新によって流通や配送の仕組みが劇的に変化することは、「小売りの輪」では想定されていない。
後述するFBAのようなプラットフォーム化やICTによるデータ活用により、コストを抑えながら価格・品揃え(アマゾンのロング・テール戦略のように)やサービスを維持する場合は、「小売の輪」だけでは説明できない。
ハフモデルが、売場面積・距離以外に、駐車場の広さ、営業時間、商品の価格、店舗設備の状況、場所の利便性、交通ネットワーク、地域のブランド力、物販以外のサービス性、店舗のブランド力などを店舗の「魅力度」として修正を加えたように、「小売りの輪」も同様に価格戦略以外の「魅力度」を考慮すべきであろう。
4)「小売りの輪」が物流に与える影響
それでは、1)~3)を受けて、「小売りの輪」が物流にどのような影響を与えてきたか、 上述の、GMS・コンビニエンスストア・生協・通販・専門店・ネットスーパーなどの拙い業務経験から考えてみたい。
①百貨店・専門店
SKUが膨大な百貨店では、品違いを避けるために、荷受検品業務が煩雑になる。そこで物流事業者が、通常の納品業務以外に納品代行・検品代行を請け負う。ドライバーの配送業務と立会い検品業務が分離される。
筆者は高級婦人靴の専門店に物流システムを提案・採用されたことがある。専門店は、それぞれに店舗形態・商品特性・顧客層などが違うので、オーダーメイド型の物流システムになる。
婦人靴店の場合は、東京都内での売上高比率が高かったので、都内にDCを設けて、主要市場の都内はルート配送、それ以外の地方店(大半が百貨店にテナント出店)は特別積合せ貨物運送利用という物流ネットワークであった。
②GMS・スーパー・生協・家電量販店・ドラッグストア・ホームセンター
DC・TCの運営を物流業者に委託して、各店舗むけに複数カテゴリーを積合せた「統合納品・一括納品」が行われる。
さらに、各業態では、センター荷受け~店舗別仕分け~店舗配送の費用をメーカー・卸売業(ベンダー)から通過商品価格に応じて収受する「センターフィー方式」が採用される。
家電量販店のように、「請求書には受領印のある納品伝票を添付する」という商慣行が長く続いた業態もあった。
輸入品については、100均ショップをはじめ海上コンテナ利用が多いが、最近は輸出国で複数輸出者の商品をコンテナ混載する「バイヤーズコンソリデーション」が増えている。
ネットスーパーも基本的には、従来のスーパーと同じ物流システムで、図表3のような宅配ネットワークの構築が必要になる。
③コンビニエンスストア
「小売りの輪」の例外であるコンビニエンスストアでは、多数の納品車両による店舗での荷受け・検収業務の煩雑さを避けるため、窓口問屋制が導入された。弁当などのように、1日複数回の多頻度小口配送が進む一方で、多温度帯車両や軽重積合せなどにより、「統合納品・一括納品」をさらに集約化・高度化(検品レス等)させた共同配送が普及した。
コンビニエンスストアの物流システムは、②の業態にも導入されている。
ドラッグストアやコンビニエンスストアでも、生鮮三品については、青果であれば仲卸業者など従前の取引形態による納品が残っている。
④EC
ECについては、②③の物流センター業務と宅配ネットワークを組み合わせることになるが、ここでは、誌面の都合もあり、フルフィルメント業務を取り上げて紹介したい。
4.フルフィルメント
流通業の変化が物流業に与える影響のうち、今や最大のものは、ECが求めているフルフィルメント業務ではないだろうか。
そこで、フルフィルメント業務を概括するとともに、「小売りの輪」ならぬ「物流の輪」を回して、フルフィルメント業務を取り込む一助となれば幸いである。
(1)フルフィルメントとは
フルフィルメント(fulfillment)の語源は、英語の「fulfill(満たす・果たす)」という動詞」に 「-ment」を付けて名詞化したもので、「完達」「義務や約束を果たすこと」「実現・達成」「満足感」「願望の実現」を意味する。ECでは、「受注から配送までの一連の業務プロセス全体」を指す用語として使われ始めた。
物流サイドで見れば、「受注から配送」までであるが、さらに「顧客が商品を注文してから手元に届く」までの一連の業務プロセス全体を指す。つまり、注文手段や注文し易さから始まって、手元への届け方や商品を開くときのワクワク感(包装方法や開梱し易さ)などの「顧客体験」までも含まれるようになった。これらを細分化すると、受注処理、商品のピッキング・梱包、在庫管理、配送手配、代金回収、さらには返品・交換対応やカスタマーサポートまでが含まれるので、カスタマーサポート業務やコールセンター業務は、これまでの物流・ロジスティクスよりも広範である。
アマゾンやZOZOが自社のモールに出店したEC事業者(出店者)の全てを代行すること、つまりFBA(Fulfillment By Amazon)やFBZ(Fulfillment by ZOZO)のようなイメージである。
(2)フルフィルメントの業務内容
フルフィルメントは、顧客が注文した商品が確実に届くまでの多岐にわたる業務を含む。物流だけでなく商流(⑤⑦)も含む。②では在庫商品の補充発注なども行う。
①受注処理:注文の受け付けと確認
②在庫管理:商品の保管と在庫状況の把握
③ピッキング・梱包:注文された商品を倉庫から選び出し、適切に梱包する作業
④配送手配:配送業者への引き渡しと発送
⑤代金回収:顧客からの代金回収
⑥返品・交換対応:顧客からの返品や交換の処理
⑦カスタマーサポート: 顧客からの問い合わせやクレームへの対応
(3)フルフィルメントの重要性
フルフィルメントは、単に商品を届けるだけでなく、顧客満足度やブランドロイヤルティに大きく影響する。
①顧客満足度の向上:迅速で正確な配送、丁寧な梱包、適切な顧客対応は、顧客の信頼と満足につながる。
②業務の効率化:一連の業務を効率的に管理することで、コスト削減や生産性向上が期待できる。
③売上拡大:質の高いフルフィルメントは、リピート購入を促し、売上拡大に貢献する。
(4)フルフィルメントの形態
①自社フルフィルメント:EC事業者が自社で物流業務を行うことで、コスト削減や品質管理の向上が可能である。
②フルフィルメントサービス:専門事業者(モール運営者や物流事業者)に業務を委託することで、手間を減らし、効率的な販売が可能となる。上述のFBAやFBZなどが代表的である。
(出所)Amazon HP
(5)フルフィルメントと3PLの違い
フルフィルメントと3PLは、どちらも物流業務を外部に委託するサービスであるが、範囲が異なる。
①フルフィルメント:ECビジネスに特化し、在庫管理から注文処理・配送・返品処理・顧客対応までの一連の業務全体を指す。「お客様への約束を果たす」という視点である。
②3PL:輸送・保管・在庫管理など、物流に関する業務のみを指し、ECに限らず幅広い業種に対応する。ロジスティクスは「モノを効率よく動かす」という視点とも言える。
(6)フルフィルメントの主な課題
フルフィルメントにおける主な課題は、EC市場の拡大に伴う物流業務の負担増大、人件費を含む物流コストの増加、および顧客体験の維持・向上などが挙げられる。
①増加する顧客の期待値
受注から配送までのリードタイムだけでなく、梱包の丁寧さ、きめ細やかなサポートなど高いレベルのサービスを、顧客は期待している。
少しでも不満があると、すぐに他社に乗り換えられてしまうので、つねに顧客の期待に応え続ける必要がある。
②在庫管理の複雑化
EC事業者は、多種多様な商品を扱い、複数の販売チャネル(実店舗・自社ECサイト・モール出店など)を持つことが増えた。なかには、米国アマゾンのように実店舗(無人のAmazon Go)を展開したが、撤退した例もある。
EC事業者のOMO戦略に対応して、正確な在庫数をリアルタイムで把握し、欠品や過剰在庫を防ぐことが非常に難しくなっている(アマゾンや楽天では「残り〇個」と在庫数が表示されるが、実在庫なのか、「購買を誘う」テクニックなのかは不明)。
③物流コストの高騰
燃料費や人件費の上昇、委託配送料など、物流にかかるコストは年々増加傾向にあり、採算性が低下している。
④リードタイムの短縮と正確性
「翌日配送」「当日配送」など、顧客はより短いリードタイムを求める(それが良いか悪いかは別として)が、リードタイムを優先しすぎると、ピッキングミス・梱包ミスなどによるクレームが増える。
⑤返品・交換対応の効率化
ECでは、実際に商品を見たり試したりできないため、返品や交換が発生しやすい(日本の返品率は米国よりもはるかに低いが、ECの普及拡大により返品数の増加が懸念される)。
返品プロセスが複雑・面倒で時間がかかると、顧客の不満につながり、フルフィルメント事業者にとっては大きな負担となる。また、返品処理(再梱包または廃棄)のコストもかかる。
⑥人手不足と自動化の遅れ
ピッキング・梱包などの倉庫内作業やカスタマーサポートなど、多くの人手が必要である。人手不足が深刻化しており、自動化やAI(カスタマーサービスにおける自動応答など)を導入することで解決しようとする動きもあるが、初期投資や運用コストがかかるため、導入に踏み切れないフルフィルメント事業者も少なくない。
①~⑥の課題に対していかに効率的かつ高品質なフルフィルメントを実現するかが、フルフィルメント事業者の競争力に直結すると言える。
⑦物流業務の複雑化と物流コスト増
ECにおける商品の多品種化や顧客ニーズの多様化は、在庫管理の煩雑化や配送までのリードタイム延長につながり、人手不足の状況では対応が難しくなっている。
フルフィルメント・センター(FC)の賃料や人件費などは固定費の大きな割合を占める。特に商品の種類やブランド、例えば輸入商品や越境ECによっては、最適な倉庫立地(作業者を集めやすいか、空港に近いかなど)を選定することが難しく、物流コスト全体を押し上げる要因となる。
➇顧客体験の維持・向上
フルフィルメントは、顧客が商品を注文してから手元に届いて開梱するまでの全てを対象とし、上述の「顧客体験」の満足度に大きく影響する。
配送リードタイムの短縮、ギフト用ラッピング、同梱物のカスタマイズ、開梱し易さなど、顧客の多様な期待に応えることは、顧客満足度向上に不可欠であり、持続的に提供し続ける必要がある。
(7)フルフィルメントへの進出~終わりに代えて
今や物流業は、FBAなどによって流通業に物流市場を侵食されている。「アマゾンやZOZOは物流業である」と言われるように、流通業と物流業の間で「小売りの輪」のような市場争いが起こっているのではないだろうか。
上述の大手総合スーパーY社では、中元歳暮期になるとギフト商品の在庫~ピッキング~梱包~出荷を担当するギフトセンター(GC)を臨時開設して、筆者もシーズン中はGCに応援に行った。
GCでは店舗からの出荷・配送問合せにコールセンターを設けていたが、ご依頼主からも電話が掛かることがあり、配送以外の問合せ(商品内容)など、自然発生的にカスタマーサポート業務もしていたことになる(電話担当で分からないことは、Y社のGC常駐者に代わってもらっていた)。
既に、3PLで受注業務を受託し、受注問合せにも対応していれば、カスタマーサポート業務やコールセンター業務は難しくはない。
EC業界における物流事業者の評価・ランキングを見ると、フルフィルメント業務が重視されているのか、「3PL白書」のような物流業界ランキングとは全く異なっていて驚かされる。なお「3PL白書」における3PL事業者の実施業務ベスト10には、フルフィルメント業務はない。
3PLのように「物流・ロジスティクス」分野に限定せず、カスタマーサポート業務やコールセンター業務も積極的に取り込んで、業容拡大のためにフルフィルメント業務に取り組むべきではないだろうか。
以上
【参考資料】
1.経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」(2026年4月)、「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」(2025年8月)、「商業動態統計調査」(毎月)
2.JA全農長野生産資材課「JA生産資材店舗・物流改善支援について」(全農長野県本部情報/グリーンレーダー 2019年11月号)
3.ダイヤモンドチェーンストア 2023年3月号
4.Market Planner 並びに Amazon Japan ホームページ
5.「EC業界カオスマップ2025-物流サービス編」(ecclab 2025年12月)
6.「3PL白書 2025」(ロジスティクス・ビジネス誌2025年9月号)
7.長谷川雅行「『置き配』考─その進化と普及のシナリオ」(ロジスティクス・ビジネス誌2023年4月号)

