マーケティング

第582号 流通業の変化が物流業の革新を呼ぶ(中編) (2026年6月23日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(一社)日本物流資格士会 顧問

執筆者略歴 ▼
略歴
  • 1948年 生まれ
  • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
  • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
  • 2009年 同社顧問
  • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
活動領域
  • 日本物流学会
  • (一社)日本SCM協会
  • (一社)日本物流資格士会会員
  • 流通経済大学客員講師
  • 港湾短期大学校非常勤講師
  • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    • 本論文は、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。

※前編はこちら

目次

2.小売業の変化・課題

(1)小売業が抱える4つの課題・問題

小売業には、上述のように多種多様な業態が存在し、各業態が抱える問題は多岐にわたっているのを、エイヤッと5つにまとめてみた。
①商品が売れにくい
②人手不足が深刻である
③コストが上がっている
④消費行動や市場の変化が著しい
⑤ECの普及

①商品が売れにくい
小売業における最大の課題である。とくに家電・自動車など耐久消費財については普及率も高く、商品のライフサイクルも長期化したため、消費者は頻繁に新しいものを買う必要がなくなった。アパレルなどの衣料も各家庭の収納場所などが飽和状態となって、売り悩んでいる。
また、インターネット・SNSによって情報の即時性が進んで、トレンドの変化が速くなり、ヒット商品でも売れ続けることが難しい。

②人手不足が深刻である
少子高齢化の影響を受け、15〜64歳の労働力人口が減少し、人手不足が深刻化していることも、小売業界の抱える大きな課題である。一方で、筆者のような高齢者の就労が増え、2026年4月の労働安全衛生法の改正施行では、高年齢労働者に対する安全対策が「努力義務化」された。
小売業の就業者数は、労働力調査(総務省・厚生労働省)や経済センサス(経済産業省)の諸統計で異なっているが、一般には700万人超で毎年20万人以上のペースで減少しており、人手不足が大きな経営課題となっている。

③コストが上がっている
以下のような3つの要因で、小売業のコストが上昇している。
○エネルギー・物流コスト
原油や燃料価格の上昇による光熱費・配送費用の増加。トラックドライバーの労働時間
規制など物流コストも増加する構造になっている。
○人件費の上昇
上述の人手不足を背景に、最低賃金の引き上げやベースアップが続き、人件費の比重が
増加。コスト増加の最大要因として人件費を挙げる企業も多い。
○円安・為替要因
輸入商品や輸入原材料に依存する業種では、円安によって円建て輸入価格が上昇して
いる。

④消費行動や市場の変化が著しい
コロナ禍以降、外出や接触を避ける影響により、消費行動と市場には変化が生じている。ECの利用が拡大して、実店舗への来店が減少傾向にある(コンビニエンスストアでも来店数は減少傾向にある)。
消費行動や市場の変化に対応するため、オンライン店舗・オフライン店舗の両面展開(上記のOMO)など対策が必要になっている。

⑤ECの普及
上記の「消費行動や市場の変化」などにより、実店舗に行かないで、ECサイトだけで買い物を済ませる消費者も増加している。
ECの方が実店舗より価格が安い場合が多いため、実物を見てから買いたいと希望する場合に、店舗では商品の確認だけして購入はECサイト(上述の「店舗のショールーム化」)という消費者もいる。
高いコストを掛けた店舗がショールーム化すると、店舗販売を主要戦略とする小売業の経営は苦しくなる。

(2)業種別の小売業の現状と課題

上記「2025年の小売業販売額を振り返る」では、小売業の業種別の現状と課題を抽出している(各業態の並べ方は、同資料の記載順による)。
①スーパー・コンビニエンスストア・百貨店
まず、三大小売り業態である、スーパー・コンビニエンスストア・百貨店で、販売額が対前年比で最も大きく増加したのはスーパーで、前年比4.7%の増加となった。
スーパーでは、飲食料品、その他の商品(化粧品・医薬品などを含む)などが増加し、4年連続の増加となった。食料品の店頭価格上昇や米などの農産品の相場高騰などにより、飲食料品の販売額が増加したことが考えられる。
コンビニエンスストア販売額は前年比3.4%の増加で、1店舗当たり販売額の増加が続くとともに、飽和状態と言われていた店舗数も4年ぶりに増加した。加工食品、ファーストフード及び日配食品など、全ての項目で販売額が5年連続で増加した。高付加価値商品の展開やクーポン配布を始めとする販促施策によって平均客単価が伸びているが、上述のように、来店数は伸び悩んでいる。
一方、百貨店販売額は前年比1.8%の減少で5年ぶりの減少となった。身の回り品、婦人・子供服・洋品などの販売額や、店舗数の減少が続くとともに、1店舗当たり販売額も5年ぶりの減少となった。インバウンド需要の落ち込みにより高額品の購買が減少したことなどが考えられる。
②ドラッグストア・家電大型量販店・ホームセンター
次に、専門量販店3業態(ドラッグストア・家電大型量販店・ホームセンター)をみる。
ドラッグストア販売額は前年比5.5%の増加、店舗数は同3.6%の増加となった(後述の「小売りの輪」の新規参入者?)。販売額は2015年から連続して増加しており、2025年も堅調に推移した。商品別にみると、最も増加に寄与したのは食品、次いで調剤医薬品であった。
食品の販売額は前年比9.1%の増加となり、2025年も大幅に増加し、全体の約3分の1を占め、2015年以降増加を続けている。
これは、ドラッグストアが、上述のスーパー・コンビニエンスストアの主要部門である食品分野に食い込んでいることを示している。一方で、スーパー・コンビニエンスストアでも一部医薬品を販売してドラッグストア分野に進出しているが、ドラッグストアの高収益部門である調剤医薬品は、薬機法の規制で販売薬剤師が必置となっており、進出が難しい。
次に、家電大型専門店販売額は前年比4.1%の増加となり、2年連続で増加した。一方、店舗数は同0.5%の減少となった。商品別にみると、最も増加に寄与したのはパソコンなどの情報家電、次いでスマホなどの通信家電であった。
情報家電の販売額は前年比13.9%の増加となり、5年ぶりに増加した。Windows10のサポート終了に伴うパソコンの買い換え需要などが増加に寄与したと考えられる。
ホームセンター販売額は前年比0.2%の減少となり、2年ぶりに減少した。一方、店舗数は同0.7%の増加となった。商品別にみると、最も減少したのはインテリア、次いでペット・ペット用品であった。
専門量販店3業態では、M&Aによる上位企業への寡占など業界再編が進んでいる。

(3)小売業が抱える課題の解決策

小売業界が抱える課題の解決策を、門外漢である筆者なりに考えてみたい。「岡目八目」と言われるが、「当たらずとも遠からず」ではなかろうか。
1)販売方法の最適化=OMO戦略の展開
小売業界は、顧客=消費者ニーズに応じた最適な販売方法を導入することが重要である。ECの普及拡大に見られるように、コスパ(コストパフォーマンス)だけでなく、購入時間をも節約しようとするタイパ(タイムパフォーマンス)重視の消費者の増加に向けて、店舗販売とECそれぞれの特長を最大限に活かす販売戦略である、OMO戦略を立てる必要がある。
実物を手にとって見られるという実店舗のメリットと、時間や場所を選ばずに利用できるECのメリットを組み合わせて、消費者のニーズを満たす販売方法を複数用意するなどの対策が望まれる。物販にとらわれず、心地良い非日常空間を消費者に提供する「ショールーム」を「売り」にしているアパレルやインテリア店なども増えている。
2)事業計画の見直し
持続的に成長するためには、これまでのビジネスを見直し、事業計画を根本から練り直すことも必要である。
コロナ禍以降の消費動向によりECが急速に拡大したことにより、EC販売に注力してきた小売業にとっては新たなビジネスチャンスが生まれた。
後述する「小売りの輪」のように、小売業は「業態変革業」であり、時代の流れやトレンド・社会情勢の変化に応じて、事業計画をつねに見直すことが重要である。
3)売り場に付加価値をつける
図表2のようにEC化率が上がったとはいえ、全ての売上げがEC化することはない。売り場での販売比率が商品分野も多い。競合店との差別化を図り、消費者にとっての付加価値を高めることにより、実店舗での購入を増やすことは続けなければならない。
競合店との差別化を図り、消費者の購買意欲を高めるために、ノベルティ(景品)・ポイントを付けたり、消費行動のアドバイスができる優秀な店員を育成するなど、商品そのもの以外の付加価値や来店の魅力を店舗に付与することが重要である。
4)ECサイトの強化
今や、小売業にとってECは必須戦略と言っても良い。
実店舗でしか商品を購入したことがなかった消費者が、ECによる購入を体験するという「顧客体験」(⑤項を参照)は、消費行動を大きく変化させた。消費者の多くが、EC体験をしており、小売市場においてEC需要が伸びている以上、小売業はその変化に対応しなければ生き残れないと言ってよい。
ECサイトの開設やECモールへの出店も容易となっており、後述するフルフィルメントサービスを利用すれば、どの小売業でもEC進出が可能になっている。
5)顧客体験の重視
顧客体験(CX=カスタマー・エクスペリエンスまたはUX=ユーザー・エクスペリエンス) は、顧客が企業や商品・ブランドと出会ってから、購入~利用~再購入に至る「すべての接点での体験」を指す。店舗やコールセンター、Webサイト、アプリ、広告、アフターサービスなど、全て顧客体験の「場」であり、オンラインとオフライン両方が含まれる。
顧客体験を重視し「良い体験」をしてもらうことによって、消費者の満足度を向上させることは、リピーターや口コミ拡大のためにも重要である。
筆者は、現役当時、引越し部門にも従事したが、引越しは顧客にとっては一大イベントであり、見積り~荷造り・梱包~搬出~輸送~搬入・据付けなど、それぞれのステージで「顧客体験」の重要性を実感した。
6)人手不足への対応
人手不足への対応と、多様化する顧客層へのより良い顧客体験の提供のため、小売業では雇用対象を拡大することが求められる。シニア層の活用や、コンビニエンスストアの外国人労働者のようにグローバル人材の活用も重要である。
さらには、小売業界の大きな課題である人手不足への解決策として、DX化の推進やロボット・省力化機器の導入も図るべきである。

3.小売業の変化が物流業に及ぼす影響

筆者は、現役当時、大手総合スーパーY社を担当していたことがある。産業構造が変わるなかで、物流業界のターゲットも、従来の川上型であるメーカー物流から、川下型の流通業界に変わりつつあった。
所属していたチームでは、コンビニエンスストア・生協・通販・専門店や、今でいうネットスーパー(ロジスティクス・ビジネス誌2023年4月号「『置き配』考─その進化と普及のシナリオ」参照)の各業態にアタックしていた。
急成長していたY社は、各部門の人材を社外からのスカウトで補っており、物流部には、Ⅰ倉庫・M運など物流企業からスカウトされた人材も多かった。逆に、Y社物流部からは、ドラッグストア・ホームセンターなどの新しい小売業態にもトラバーユしていた。
営業活動のなかで、Y社の元物流マン達が普通に話している「下代」「値入率」「ロイヤリティ」などの言葉が分からない。「これはマズい」と、社内通信教育で中小企業診断士(商業コース)の資格を取った。
当時の受験勉強で覚えたマーケティングには、「チェーンストア理論」「ランチェスター理論」など、多くの理論があり、それらが流通業の革新を支えて来たとも言える。例えば、コンビニエンスストアのドミナント展開は、ランチェスター理論の一つの活用であり、最近は、まいばすけっと・カクヤスなど他業態のドミナント展開にも活用されている。
そのなかで、とくに記憶に残っている「ハフモデル」と「小売りの輪」を題材にして、流通業の変革が物流業に影響してきたかを考えてみたい。

(1)ハフモデル

1)ハフモデルとは
1960年代に、デービッド・ハフ(アメリカの経済学者)が商圏予測のために作成したモデルで、消費者が特定の店舗に買い物に行く確率を、他店舗との競合状況を考慮しながら予測する。ハフモデルの前提は、消費者には「近くにある大きな店舗へ行く」という一般的な傾向があるということである(「大きな」に注意されたい)。そこで、特定店舗が選択される確率は「売場面積」に比例し、店舗までの「距離」に反比例するとしている。
面倒くさい数式があるが、それを省略したハフモデルの説明図が、図表4である。

図表4 ハフモデルの説明図(例)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(出所)Market Planner

ハフは、消費者は「遠くまで買いに行くことを面倒に感じる」としている。これは最寄り品・買い回り品における消費行動と同じである。食品や日用品などの最寄り品であれば、できるだけ近くで購入したい。品質や価格を比較検討して購入する、家電や衣料品などの買い回り品であれば、遠くまで出かけて探すこともある。
この「できるだけ近くで購入したい」という利便性(コンビニエンス)、つまりハフモデルの考え方を経営戦略として最重視したのが、コンビニエンスストアであることは言うまでもない。
上述のように、「2025年の小売業を振り返る」の概要説明でも、「物価高と生活防衛意識から、近場でまとめ買いができるドラッグストアや食品スーパーは比較的堅調」なことが述べられている。
2)日本における「修正ハフモデル」
筆者が担当していたY社は、北海道から関西まで、次々と出店していたが、当時は、既存の近隣商店街との軋轢を回避するための大規模小売店舗法(大店法)があり、東海地方のS店などは出店計画からオープンまで10年を要したほどである。
当時の通産省(現・経済産業省)は、ハフモデルを日本風に焼き直した「修正ハフモデル」(詳細は省略)を大規模店舗の出店審査の基準として採用し、大規模店舗が近隣商店街に及ぼす影響を予測して、大規模店舗側に店舗面積の縮小や営業時間の短縮を迫っていた。
店舗面積を縮小するには、貨物車の接車スペースや荷捌きスペースまで減らされ、納入業者・物流業者側にも影響が出た。
3)ハフモデルの物流への活用
ハフモデルの物流への活用としては、物流ネットワークにおけるハブ・アンド・スポークや、前号で紹介した「海運モーダルシフト」のような複合一貫(インターモーダル)輸送に対し、どの起点からどのハブへ貨物が集まるかをモデル化する試みがある。
その場合に、ハフモデル的な考え方で、図表4の店舗面積の代わりに、物流版の魅力度として、
①物流拠点のスペース、処理能力、在庫量
②輸配送のリードタイム、時間指定のしやすさ
③積替え回数の少なさ、遅延リスクの低さ

活用事例の一つとして某県のJA店舗への配送を紹介する。
JAの店舗は昔ながらの資材店からホームセンター並みの農業資材専門店まで、さまざまな形態をとっているが、店舗網の再編による配送効率化を検討する際に、どのような基準で行うかが課題であった。
そこでJA全農では、ハフモデルを活用した簡易な商圏調査で、店舗網の再編シミュレーションを行った。「消費者(この場合は組合員)は近くの、より大きな店舗に向かう傾向がある」ことを前提にして、店舗によってどのくらいの集客が見込めるかをシミュレーションして、既存店舗の需要分析、新規出店の需要分析、支所統廃合による資材店舗の需要分析が可能であり、需要量に応じて生産資材物流の最適化に活用している。
商圏調査などから需要を予測し、それに合わせて配送計画を作成することは、コンビニエンスストアなどでも採用されていることでもあり、ハフモデルが姿を換えて今日にも生き残っているのではないだろうか。

※後編(次号)へ続く

以上


【参考資料】
1.経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」(2026年4月)、「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」(2025年8月)、「商業動態統計調査」(毎月)
2.JA全農長野生産資材課「JA生産資材店舗・物流改善支援について」(全農長野県本部情報/グリーンレーダー 2019年11月号)
3.ダイヤモンドチェーンストア 2023年3月号
4.Market Planner 並びに Amazon Japan ホームページ
5.「EC業界カオスマップ2025-物流サービス編」(ecclab 2025年12月)
6.「3PL白書 2025」(ロジスティクス・ビジネス誌2025年9月号)
7.長谷川雅行「『置き配』考─その進化と普及のシナリオ」(ロジスティクス・ビジネス誌2023年4月号)

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