ロジスティクス・レビュー

序論 第1号サードパーティ・ロジスティクスとは何か

執筆者 田中 孝明
株式会社サカタロジックス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 略 歴1960年大阪市生まれ。神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。ACEG (英国・ボーンマス校),オタワ大学ELI修了。株式会社住友倉庫を経て,現在,株式会社サカタロジックス 代表取締役。明治大学 商学部 特別招聘教授。

    主な資格 修士(経営学),環境審査員補(ISO14000S),物流技術管理士(運輸大臣認定),
    倉庫管理主任者.
    所属学会等 経営情報学会
    現代経営学研究所(NPO法人)
    日本物流学会

目次

Ⅰ.物流分野のニュービジネス -サードパーティ・ロジスティクス-

  最近、物流関係の専門誌や経済紙等で「サードパーティ・ロジスティクス」という言葉をよく見かけるようになってきました。物流分野におけるわが国最大の組織の一つである社団法人日本ロジスティクスシステム協会の97年年初の大会においても、この「サードパーティ・ロジスティクス」は、「グローバル化」・「情報化」・「標準化」といった昨今の物流動向と並んで、大きなテーマとして取り上げられました。どうやら今年1997年が、日本の「サードパーティ・ロジスティクス元年」になりそうな気配があり、花王・菱食・伊藤忠商事といった企業は早くも新会社を設立し、取り組みを開始し出しています。ではいったいこのサードパーティ・ロジスティクスとはどのようなものなのでしょうか。

  サードパーティ・ロジスティクス(以下3PLと言う)は、アメリカにおける物流業界のニュービジネスのことを指し、90年代に入り,急速にクローズアップされてきたものです。アメリカでの3PLの市場規模は、96年に200億ドル(約2.4兆円)で、これは2000年には500億ドル(約6兆円)にまで達するとの試算もあり、急成長していくことはどうやら間違いなさそうです。3PLのルーツは実はアメリカではなく、元来はヨーロッパ、とりわけEC加盟当時のイギリスにあると言われていますが、いずれにせよ80年代以降に登場してきたビジネス上の新しい概念といえるでしょう。

  サードパーティとは「第3者」といった意味で、コンピュータの周辺機器などの製造メーカを指してこうした呼称が用いられることは皆さんご案内のことと思います。ところで、物流の世界におけるサードパーティという言葉には、次の2つの意味があると言われています。

  まず1つ目は、一般にサプライヤである製造業者をファースト・パーティと、そしてバイヤである卸売業者や小売業者をセカンド・パーティと呼びますが、従来アメリカでは、物流機能は主としてこうしたファーストもしくはセカンド・パーティの企業が行う場合が多かったのです。しかし後に述べるような経緯から、これらに代わる第三者である企業が物流業務を代行するということから、サードパーティという言葉が使われだしたという説があります。

  2番目は、荷主(メーカ・卸・小売り)でも(従来型の)物流業者でもない、「第3者」がロジスティクス業務を行うという意味で、サードパーティという言葉が使われだしたという説があります。いずれにしても3PLの3すなわち「サード」が意味するものは、概ね理解していただけるのではないかと思います。重要なことは、従来のメーカや卸、小売り、さらには物流業者が行っていたものとは異なるロジスティクス・サービスが登場し、それが米国の既存の物流市場や産業社会に大きな影響を及ぼし始めているということです。

  ところで、日本の物流市場の規模は、96年現在で約36兆円、このうち輸送(トラック・船舶・鉄道・航空機などによる)が17兆円で全体の47%、その他(倉庫・荷役・流通加工ほか)が19兆円で、全体の53%という統計があります。この物流市場が、一説ではあと十数年後の2010年には、132兆円になるとの試算があります。これは物流のマーケット自体が変化する、つまり現在メーカや卸、小売りなどがインハウスで行っている自社物流がアウトソーシングされるため、物流の市場全体が大きく成長するためという説明がなされています。こうした試算は根拠が明確ではないため、即座に信用することは到底不可能ですが、わが国でも3PLが勃興する可能性が大いにあることを示す材料としては注目してもよいでしょう。

  ではこのサードパーティ・ロジスティクスといわれるニュービジネスは、どうして生まれてきたのでしょう。またその実体はどのようなものなのでしょう。

Ⅱ.米国3PL勃興の背景とその類別

  サードパーティ・ロジスティクス(3PL)という物流分野のニュービジネスが注目を集めだしています。そして重要なことは、従来のメーカや卸、小売り、さらには物流業者が行っていたものとは異なる新しい物流サービスが登場し、それが米国の既存の物流市場や産業社会に大きな影響を及ぼし始めていることであると述べました。ではこうした物流分野のニューサービスが、なぜ生まれてきたのか、またその実体はどのようなものなのかを考えてみましょう。

 米国で3PLが勃興してきた背景には、次の3つがあると言われています。

1.国内産業の不況

  80年代の不況に際して、米国では急速に本業回帰、ダウンサイジング、リストラクチャリングなどの動きが高まりました。その結果、多くの企業で従来インハウス(社内)で行っていた物流業を、アウトソーシング(外注化)するといったことが日常茶飯となりました。併せて規制緩和の結果、様々な物流サービスや料金形態が「市場」に登場し、自社に最適なものを見極め、競争優位の物流システムを構築していくためには、かなりの専門性が求められるようになりました。そしてこうした専門性を積極的に外部に求めるという動きが、同時に生まれてきました。

2.規制緩和

  米国では1980年に運輸自由法が施行され、それまで物流業界を守っていた様々な規制が大幅に緩和されました。(これは上記の国内不況とも大いに関連するでしょう。)同法によって、例えば陸運関係では、州をまたいだ路線運行が可能となり、また参入条件や最低賃金など労働条件の規制が撤廃されることとなりました。結果、多数の企業がこの分野に新規参入し競争が激化。最終的には、競争を実力で勝ち抜いた一部の大手と、管理費のかからない一部の個人事業主(1台持ちトラック業者)が物流市場に生き残ることになりました。

3.情報技術の進展

  80年代以降、とりわけ90年代にはいってからの情報技術の進展については、いまさら説明するまでもないでしょう。中でもオープン系システムの展開には目を見張るものがあり、短期間に低コストで「つながり」が持てることが可能となりました。これは中間系の存在である物流サービスプロバイダに、大きなメリットをもたらしました。一方、物流サービスや料金体系の多様化は、新たな物流システムを産み出し、高度な地図情報システム(GIS)やサプライチェーン・マネジメント・システム(SCM)などが登場してきました。結果、こうした物流システムを自社開発するよりは、必要に応じて利用する方が合理的であると考える荷主企業が増加していきました。

  このようにアメリカで3PLが勃興してきた歴史的な背景を見ると、昨今の日本の状況にかなり似通っていることが分かります。ただし、規制緩和や、企業のアウトソーシングの動向などには、彼我の違いがあることも事実であり、日本流の3PLを考える場合には、どうやらこのあたりがキーになると思われます。

  ところで、こうした経緯で隆盛してきた米国の3PLには、大きく分けて2つのタイプがあります。運送会社や倉庫会社などが、自社の事業の一環として展開する3PLと、ソウトウェア開発会社やコンサルティング会社などが新規参入して展開する3PLの2種類です。前者は原則として、従来とは異なるアプローチで自社の倉庫やトラックといったアセット(資産)の最大活用を主眼におくところから「アセット系」と、そして後者は、自社では倉庫やトラックといったアセットを持たないで、情報システムなどの専門的能力を武器に物流サービスを展開するところから「ノン・アセット系」と呼ばれています。米国ではこの両者が現在‘しのぎを削っている’最中です。

  では、この両タイプの各々の特徴や、マーケティングや料金設定の仕組み、3PLの本質といったものを引き続いて検討していきたいと思います。

Ⅲ.3PLの料金体系および従来型物流との差異

  サードパーティ・ロジスティクス(3PL)という、従来のメーカや卸、小売り、さらには物流業者が行っていたものとは異なる新しい物流サービスが登場し、企業の経営環境に大きな変化をもたらし始めています。

  今回は、こうした3PLの料金体系や、その中での2つの類別-アセット系とノン・アセット系-のそれぞれの特徴、そして3PLと従来系の物流業との差異などについて考えていきたいと思います。

  まず3PLの料金体系の特徴は、サービス別のマージンミックスの考えを取り入れていることにあります。例えば米国の3PL業者は、フレイトマネジメントプログラムを実施し、「フラットレート・プライシング」などと呼ばれる料金体系を策定し、原則としてこの体系に基づいて業務を遂行します。これは3PL業者が、自社システムで分析・シミュレーションを行い、荷主にとって最適な物流システムを提案し、同時に、荷主の物流コストを年間総額で算出し、その金額で自ら責任を持って仕事を請け負うといった形態のものです。そして、そのフラットレート料金に、情報管理やコンサルティングに対する「管理費」を明示し、そこで利益を上げるという形態を取ります。つまり従来の輸送費や保管費などについては、利益を上げなくても済む(マージンを取らない)といった構造になっています。その他、顧客と物流コストの削減額を分配する「ゲイン・シェアリング」や、フラットレート・プライシングにより成果を上げた 以降に適用する「トランザクションフィー」等料金体系を有しています。

  次に、3PLプロバイダの中での2つの分類、つまりアセット系とノン・アセット系のそれぞれの特徴や差異を考えてみましょう。アセット系とはその名の通り、倉庫網や輸送網といったアセット(資産)を有する会社が、新たな営業展開として始めた3PL会社のことを指します。そしてノン・アセット系とは、倉庫や車両といったアセット(資産)を持たずに、3PLに参入してきている企業のことを言います。すなわち、アセット系の特徴は物流インフラを自ら所有していることにあり、ノン・アセット系の特徴は、システムソフトやコンサルティテング力といった優れたスキルを前面に押し出していることにあります。

  米国では現在、実際の物流インフラを所有しているアセット系3PL業者の展開が顕著ですが、往々にして彼らは自社アセット(倉庫・車両)の最大有効活用を目指すことから、真に荷主にとって最適な物流システムを構築しているか、疑問視されることがあります。そこで、自らのアセット活用に縛られず、純粋に荷主にとって最適なシステムを提案できるノン・アセット系3PLプロバイダの勢力も、最近急速に拡大しつつあると言われています。

  さて今まで、3PLが登場してきた背景や、その料金体系、3PL業者の2つの類型などについて見てきましたが、ここで、従来型の物流業者との比較で、3PLの特徴を一旦整理してみましょう。それは次の3点に集約されると思われます。

(1)荷主にとって最適な物流システムの構築(真の顧客満足の実現)

(2)優れたシステムソフトやコンサルティング・スキル (コア・コンピタンス)

(3)従来とは異なる料金体系の確立(自ら‘リスク’をもって請け負う)

  3PLの特徴として、よく「物流コストの削減」が取り上げられますが、これは実は、真に荷主の立場に立って最適な物流システムを再構築することの結果として表出するものに他なりません。また3PL業者は、それを提案・実現するためのシステムスキルや、そうした最適化を実践してもビジネスとして成り立つような、新たな料金体系を確立しつつあると言えるでしょう。

  では、こうしたサードパーティ・ロジスティクスというニュービジネスの本質、ビジネス・コンセプトといったものはどういうものなのでしょう。

Ⅳ.3PLのビジネス・コンセプトとその将来性

1.アウトソーシング

  米国での3PLビジネスの隆盛の要因については、初回に簡単に触れましたが、基本的にビジネスのアウトソーシングという潮流がその背景にあると考えられます。これが3PLのビジネス・コンセプトを捉える上での第1のポイントです。

  アウトソーシングの考えのベースにあるのは、戦略的提携(ストラテジック・アライアンス)の理論であるといわれています。戦略的提携は、80年代の米国でしばしば用いられるようになり、近年日本においても、製販同盟や物流共同化などの説明に用いられるなど、広く認識されるに至っています。ロジスティクス分野で世界的に著名な、ミシガン州立大学のバワーソックス教授は、「戦略的提携とは、複数の独立した組織体が特別な目的達成のため、緊密に協力し合う意思決定をしているビジネス関係をいう」と定義し、その本質は「協力関係づくりにある」と指摘しています。そして提携の特徴は「一種の相互信頼関係」であり、「提携する二つの組織体は、互いに協力関係をつくるべく努力しながら、リスクと報酬とを分かち合うのを理想とする」と言及しています。

  アウトソーシングのベースにはこうした戦略的提携の理念があり、そこには、企業は自社のコア・コンピタンスを見極めながら、それ以外は他企業の能力を積極的に活用すればよいといった考え方があります。そして3PLもこうしたアウトソーシング/戦略的提携の潮流の一環にあると考えられます。現実問題としてアウトソーシングの実現には、様々な課題やハードルがあることは事実ですが、こうした‘流れ’自体は止めることはできないとの見解が大勢を占めています。このような観点からも、3PLビジネスは今後一層隆盛し、物流アウトソーシングの主要な一形態として社会的に認知されていく可能性が高いと思われます。

2.サプライチェーン

  3PLのビジネス・コンセプトの第2のポイントは、サプライチェーン(供給連鎖)の考えです。

  法政大学の矢作敏行教授によると、サプライチェーン(供給連鎖)とは、「生産から販売に至る円滑なモノの流れを首尾一貫して作り上げるための統合化されたロジスティクス・システムのこと」であり、それは「伝統的なロジスティクス・システムと区別される」と説明されます。そして、従来型のロジスティクスとサプライチェーンとが異なる点は、「組織・システムの統合、戦略性、在庫圧縮機能」の3点であると言われます。つまり従来型のロジスティクスは、一企業内の物流最適化を目的としたのに対し、新しいロジスティクス(最近では、ネオ・ロジスティクスなどとも呼ばれています)では、企業の枠を越えた、流通チャネル全体の最適化を目的としているのです。

  物流分野でのサプライチェーンはECRという言葉に代表され、昨今様々な分野で取り組みが始まっています。そしてこうした傾向は今後益々熱を帯びてくると思われます。先日、ボストンコンサルティングが、物流共同化/ECRへの旗振りを始めたことが新聞紙上に大きく掲載されたことは記憶に新しいでしょう。そしてこうしたECRの実現に際しては、3PLが果たすことのできる役割は決して少なくないと思われるのです。

  以上、3PLビジネスの本質について検討してきました。今後のアウトソーシングの進展やサプライチェーンの構築といった時代の要請を踏まえれば、3PLの将来には明るいものがあると考えられます。ただし、3PLのビジネス・コンセプトにも当然限界はあります。物流市場の寡占化や二極化の問題、環境問題への対処など、3PLは新たな課題の解決に迫られてくることは必至でしょう。しかしながら、そこに至るひとつの重要なステップとして、3PLが存在し、その役割に注目が集まることには、どうやら間違いはないでしょう。向後、日本でもサードパーティ・ロジスティクスという言葉は、ビジネスの各シーンでかなり耳慣れたものになることでしょう。

以上



(C)Takaaki Tanaka 1997 & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る