ロジスティクス・レビュー

第330号 Ⅰ.在庫管理はロジスティクス領域へのステップアップ:単なる物流管理の延長ではない―ロジスティクスのコアは需給管理:マーケティングとの連動― (2015年12月15日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)
    執筆者略歴 ▼

  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
           現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
           (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
       食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
       特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

目次

1.物流からロジスティクスへ:企業内全体最適化

  依然として物流とロジスティクスを同程度のものと考えている向きもあり、簡単にアウトソーシング出来ると思われている。物流とは物理的な単位機能を組合せてシステムとすることが重要であり、その生産性を高める活動である。これは物流という個別領域での最適化と言える。その結果は物流コストで評価し、機能外注は以前から盛んに行われてきた。その委託先はもちろん物流事業者であった。
  これに対しロジスティクスとは体系管理であり、企業内全体最適を目指す活動である。その目的はキャッシュフローの増大であり、コスト低減だけではなく売上拡大に繋げなければ意味がない。つまり販売支援であり、これは単なる物流機能だけではなく、顧客へのサービスレベル向上や在庫管理最適化等の、マーケティングと連動した活動になる。つまり物流管理の延長として安易にアウトソーシングすべきではなく、経営戦略そのものである。これを受託するアウトソーサーは物流事業者以外も参入しているが、難易度が高くまたリスクが大きくてとても採算ラインには乗らないはずだ。
  そもそも物流管理レベルでも、前提となる物流サービス水準の設定は販売政策の基本となるべき要素であり、中でも在庫管理は極めて重要な戦略となる。つまり欠品が生じないように在庫水準を必要最小限に管理することだが、これをゼロにするのは確率的には在庫を無限大に持つことになり、現実的には不可能なので欠品率をある程度想定する。実際には販売部門と連動して、実質ゼロに近付ける運営にすることが物流管理としての重要課題になる。物流も経営としてこのように位置付けされてきたかどうか、甚だ疑わしい。

(物流サービス水準)
・在庫の持ち方:在庫サービスレベル→在庫水準、在庫拠点数・配置、商品アイテム改廃等(変化への対応)
・物流業務品質:ミス・トラブル防止→出荷ミス、変更・顧客からの問い合わせ対応等(異常時への対応を含む)
・顧客との接点:配送サービスレベル→リードタイム、配送ロット、頻度・時間帯等(顧客との接点改善)

2.在庫管理の二つの側面:資産及び投資管理

  在庫管理は在庫補充という狭義の側面だけではなく、需給管理として市場の動向にどう対応するか広義に考えていかなければならない。それには二つの側面があり、まず一つはストック・コントロールという資産管理である。それは企業の棚卸資産がどれだけあり、そのステータス(状態:区分)がどうなっているかを把握することだ。これは財務管理上最も重要な行為の一つであり、物流がその責任の一翼を担っているということになる。
  もう一つはインベントリー・コントロールという、企業の投資活動を効率化する行為であり、生産投資に対し販売結果を最大化するのが目的だ。生産投資は原材料調達や生産に伴うコストであり、これと販売結果とのバランスである。つまり在庫は企業の投資資源として、その総額や回転率でも評価していかなければならない。現在は低金利の時代とはいえ、資金運用としての在庫金利も見ていく必要がある。
  顧客への在庫サービス水準を上げるため前進拠点を多く持とうとすれば、全体在庫は膨らみ在庫補充も煩雑になる。また在庫の陳腐化というリスクも発生する。ロジスティクス・コストは単に物流視点だけではなく、在庫金利・在庫陳腐化費用・販売チャンスロス・鮮度低下による値引き原資等も含まれ、他に販売費や雑費として処理されている部分もあるはずだ。そして在庫回転率は経営管理指標そのものである。

3.在庫補充と末端への到達日数管理:発注点法、鮮度管理

  在庫補充は科学的手法を駆使し、システム化して行う。大量消費財の分野では発注点法という、一定の水準に在庫が減少したら補充発注を行うやりが一般的だ。それは統計や確率に基づく手法だが、重要な要素は出荷のばらつきと補充に要するリードタイムである。このとき欠品率を想定し、安全率を加味しないと安全在庫・発注点の理論値が計算出来ない。また本来補充量は経済的発注量として定量だが、これを状況に応じて可変とした方が現実的である。供給トリガーを川下または川上側が持つのかで、二通りの方法がある。
  この方法論でさえ販売部門が持つ各種施策による出荷波動や、調達・生産部門の与件等を連動させないとうまくいかない。もちろん商品アイテムの改廃や、ライバル他社との競合状況等も重要な要素となる。アイテムは絞り込んだ方が管理効率は上がるが、販売戦略上そうもいかないことがあるだろう。パレート分析により重点管理アイテムを決め、優先度により管理の軽重を決めていく。膨大なアイテムを人の力に頼るのは限界があり、システム活用と管理基準のメンテナンスが重要になる。
  消費財の中でも、食品は特に鮮度管理が要求される。市場の趨勢は凡そ賞味期限の1/3~1/4が流通限度とされ、それを超えたものは納品出来ない。従って末端小売店に商品が到達したときの製造日からの後退日数を管理する必要があり、それは流通段階における在庫日数の総和となる。これは例えば卸店在庫レベルという社外管理との連動を必要とすることになり、これが企業間連鎖としてのサプライチェーン・ロジスティクスの端緒ということになる。サプライチェーン・マネジメントとは小売業からの発注情報を基に供給する仕組みのことである。

(流通段階における末端への到達日数)

製造段階 メーカー在庫日数 同卸売業 同小売業 店頭到達日数
(検査日数等) 物流センター 前進在庫
S0 S1 S2 S3 S4 ∑S0~4または
S0+S1+S3:S4スルー

4.ロジスティクスの推進組織:マーケティングとロジスティクスは車の両輪

  マーケティングを消費者への需要を創造する活動と位置付けるなら、ロジスティクスはそれを商品という具体的なかたちにして市場に充足させる活動と見ることが出来る。つまり車の両輪の関係であり、どちらが上位・下位という概念ではない。しかし経営にはマーケティングがコアであり、ロジスティクスはアウトソーシングが可能という考え方があり、これは大きな誤りである。ロジスティクスも同様にコアであり、重要な企業戦略を外部に任せるというのは片肺飛行を意味するに等しい。任せられるとしたら、標準化された業務の一部である。アウトソーサーはこの前提条件を良く確認し、責任分担する必要がある。
  従ってロジスティクスを推進する組織をどう作るかが、経営として極めて重要になる。マーケティング本部の中に物流部門を位置付けたケースや、ロジスティクス本部としてマーケティング本部と同格にした組織もあるが、要は必要な情報を共有しどこがどのような意思決定をするかである。ロジスティクスの要諦は情報を駆使した計画と統制であり、企業の活動計画に沿って現状をどう把握し修正していくかが基本となる。それを在庫という観点からどう実行するかが問われる。そしてさらに環境対応や、セキュリティー確保も重要な課題になることは言うまでもない。
  アウトソーシングとは単なる外注とは異なり、経営レベルの取組みである。丸投げではなく自らのコア業務を確実に行い、3PLとの役割分担を明確化する。その決め手はデータによる可視化であり、それにより責任所在が明らかに出来なければ力関係で受託側が弱い立場に立たされ、対等な関係でなければ3PLはとてもビジネスにはならない。これは単にコストレベルだけではなく総合的な管理能力で、これを荷主はコンペにより選択する。

5.日常業務リスク対策と危機管理が重要:これをBCPに繋げる

  ロジスティクスでは在庫レベルを下げ高回転で運用するのが目的だから、日常業務はスピードに追われイレギュラー業務も頻発して、ミス・トラブルが発生し易くなる。これを現場レベルが中心となった業務改善でヘッジし、顧客への信頼度を向上させまたコストロスを防ぐのがリスク対策である。これには組織的なQC活動が有効であるが、ボトムアップ手法だけでは時間ばかりが掛り経営のトップダウンを併用して推進する必要があり、またその手掛かりは現状の管理状態を示すデータ収集である。現状の不具合を定量化し、それを防ぐ手立てを繰り返し講じていく。その活動軌跡が業務標準化に繋がる。
  それでもなお異常事態は発生し、その場合どう対処するかが危機管理である。QC活動では部門間連携が枢要とされ、これはまさに経営トップの仕事になる。不測の事態に対処するのは組織の持つ力であり、これも一朝一夕で出来るものではない。一定期間毎のシミュレーションや、実際の訓練が不可欠となる。絵に描いた計画だけでは、いざという時に機能するはずもない。異常事態は大都市の停電や、猛暑による高温に伴う商品劣化等で発生確率が高いと考えられる。
  これを経営戦略に組込み、BCPに繋げていく必要がある。サプライチェーンが切断された時、幾つかの代替策を用意しておくことはもちろんだが、もう一度ロジスティクスの要諦について概念合わせをしておくことが重要だ。それに必要な情報とは何か、それを指揮官にどう伝えどのような判断を促すべきか等々。東日本大震災時の米軍支援の基本は、災害対応のロジスティクスでもあった。日本企業のBCPはどうであったのか、また政府の対応はロジスティクスレベルにあったのか、再検証する必要がある。

以上



(C)2015 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.


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