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物流コスト

第329号 データで見る最近の物流コストの動向(2015年12月3日発行)

執筆者 久保田 精一
(ロジスティクスコンサルタント)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 熊本県出身
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      産業振興、物流等の調査業務を担当
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当
    • 2015年7月 独立

 

目次


 
  企業の物流コストは長期的に低下傾向が続いてきたが、近年運賃、倉庫料金等が上昇傾向に転じており、荷主の物流担当者にとってコストアップが懸念材料となっている。
  本稿では統計データ等をもとに最近の物流コストの状況を改めて確認し、今後のコストの見通し、それに対する対応の方向なども整理したい。

1)各種調査に見る物流コストの動向

  物流コストについては、各種団体や研究機関等が行う調査データが入手可能である。このうち、主要なものを図表1に整理した。運賃料金等については比較的様々なデータが入手可能であるが、荷主の物流コストについては、そもそも制度会計において物流コストの算定がルール化されていないこともあって、データソースが極めて限られている。具体的には、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の実施する「物流コスト調査」によって対売上高物流コスト比率のデータが提供されているほか、日通総研の短観調査で指数が公表されているなど、限られたデータしか入手できないのが現状である。その他には、有価証券報告書ベースの物流コストを出版社が集計・公表しているものもある。
  いずれにせよ現状では、荷主の売上高物流コスト比率については実質的にJILSの調査しかデータソースがなく、売上高物流コスト比率がどのように推移しているかは、ここから確認するしかない。そこでJILS調査による売上高物流コスト比率のデータを見ると、最新のデータでは対前年比0.07ポイントの減となる4.70%となっており、物流コストが上昇する傾向は見られない(図表2)。ただしJILS調査の最新の調査年次は2014年度であるが、これは「2013年度の実績値を2014年度に調査したもの」であり、直近となる2014年度の実績値は、2015年度調査の公表を待つ必要がある。

図表1 物流コストに関わる主要な調査結果の整理
(色のついたセルは期間中の最大値)


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図表2 JILS物流コスト調査による売上高物流コスト比率の推移


出典:公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「物流コスト調査報告書概要版」各年版http://www.logistics.or.jp/data/survey/cost.html

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2)運賃等の物流コスト構成要素の動向

  一方、運賃などの物流コストの各構成要素の単価については、公的統計など入手可能なデータが少なからず存在する。図表1に掲載したものはそのうちの代表的なもののみであって、運賃や倉庫賃料、人件費の動向等について、これ以外にも利用できるデータがある(注1)。
  さて、図表1に掲載したデータのうち、色を付けたセルは、集計対象期間中での最大値を示したものである。これを見ると、JILS調査による売上高物流コスト比率を除くすべての項目で、2014年度または2015年度上期が最大値となっている。このように、物流コストの各構成要素の上昇傾向は非常に顕著である。
  なお、2014年度における上昇のうち相当部分は、同年4月の消費税率変更の影響であることには留意が必要であるものの、税率変更による影響は2.9%(105÷108による)であるのに対し、例えば「積合せ貨物輸送」の企業向けサービス価格指数が3.7ポイント(100.5→104.2)上昇しているなど、実際の上昇幅は消費税増税の効果を上回っていることから、税率上昇の影響を加味したとしても、コスト上昇が生じていることが明らかである。

注1: たとえば
・月刊ロジスティクス・ビジネス(ロジビズ)等がトラックの実勢運賃調査を公表
・CBREが倉庫を含む事業用不動産の募集賃料のレポートを公表 など

3)売上高物流コスト比率が上がらない理由

  このように、運賃等の上昇傾向は顕著であるものの、前述のとおり、JILS調査では売上高物流コスト比率は上昇していない。この背景には、物流コストの上昇を上回る物価の上昇がある。
  売上高物流コスト比率の分母である「売上高」は、原則的に物価に比例すると考えられるので、物価がコストの上昇以上のハイペースで増加する限りにおいては、売上高物流コスト比率は増えないことになる。

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  そこで、物価のデータについても確認しておく。図表1の下段に「企業物価指数」のデータを掲載しているが、2013年まで毎年かなりの上昇が続いていることがわかる。たとえば、2012から2013年度にかけては1.9ポイント(100.5→102.4)もの上昇となっている。直接は関係しないものの、輸入物価指数に至っては、14.9ポイント(110.1→125.0)も上昇している。
  なお、ここで様々な物価指数のうち「企業物価指数」を取り挙げているのは、企業物流の大部分は、製造業から卸売業への販売物流などBtoB取引に伴うものであり、企業間取引における物価指数で見ることが相応しいためである。なお「企業物価指数」は従来「卸売物価指数」と呼ばれていた指数に相当する。
  いずれにせよ、物流コストが上昇しているとは言ってもその比率は(消費税の増税効果が加算された2014年度を除くと)年率1%程度であって物価の上昇率には及ばず、物流コストを押し下げる効果の方が大きいことがわかる。
  ただし、ここで留意すべきであるのは、2014年度以降の変化である。消費税増税による効果を除外すると、2014年度は企業物価はほとんど上昇しておらず(注2)、2015年度上期に至っては減少に転じている(図表1)。
  一方でこの間、物流コストは大きく上昇していることから、2014年度以降については、売上高物流コスト比率についても上昇しているものと見られる。

注2: 国内企業物価の2013から2014年度にかけての上昇は2.9ポイント(102.4→105.3)であり、増税分を除くとプラスマイナスゼロとなる。

4)物流コストの値上がりの背景

  このように物流コスト(運賃等)の上昇傾向が顕著であるが、コスト増加を招いている主たる要因は2つである。一つは燃料価格の高騰に代表される原価要素の値上がり(コスト・プッシュ)であり、もう一つは需給の逼迫(デマンド・プル)である。前回物流コストの値上がりが話題となったのはリーマンショックの直前の2008年頃のことであるが、そのときの値上がりの主たる要因は燃料価格の高騰であった。一方、今回の局面では燃料価格はそれほど上昇しておらず、トラック不足など需給のミスマッチによってコストが押し上げられている様相が強い。
  図表3は、図表1で取り上げた運賃等の指数の推移を図示したものであるが、スポット契約の多いWebKIT成約運賃や、上位企業への集中化が進んでいる宅配便については上昇傾向が顕著であるのに対し、一般の貸切運賃等はそれほど上昇していない。これは需給の逼迫がコスト増加の要因となっていることを示唆していると考えられる。宅配便については一時期の過度な値下げ競争が一段落し価格の適正化が進んでいるという見方もあるものの、宅配運賃の指数は2000年頃からほぼ右肩上がりに上昇し、累計では15%程度の上昇幅となっているなど(図表4)、長期的に実質的な値上げが続いていることも事実である。

図表3 運賃等の指数の比較


図注:基準年が異なるため、指数の絶対水準の比較はできない。

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図表4 輸送サービスごとの長期比較


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5)2015年度下期以降の見通し

  さて、これまで既存の調査をもとに主として2015年度上期までの動きを見てきたが、2015年度下期以降の見通しについても検討しておきたい。
  まず、値上がり傾向の強い宅配便について見ていくと、佐川急便グループが2011年度以降、引受数を抑制したことから、ヤマト運輸・日本郵便の2事業者への集中化が進展しており、価格競争が起きにくい状況が生じている。これに加えて、ヤマト運輸および日本郵便がそれぞれ運賃の適正化を進めていることもあって(注3)、当面は単価の上昇傾向が続くことが予想される。特に日本郵便は持株会社である日本郵政が上場した直後であり利益拡大への圧力が強く、当面は収益を度外視した値下げ競争に立ち戻る可能性は低いと思われる(注4)。
  宅配便は、14兆円(注5)にのぼる貨物自動車運送市場の4分の1程度を占めていると考えられ(注6)、その推移は物流コストの動向に一定の影響を与えると思われる。
  また、貸切貨物や積合せ貨物については、足下では宅配のような広汎な値上げが生じているわけではないものの、WebKIT成約運賃の上昇傾向に見られるようにトラック不足の影響が顕著に出てきている。ただし貸切貨物輸送等の一般トラック輸送業界は、企業間の競争が激烈であるうえに参入障壁も低いため、現在のようなタイトな需給状況が続けば、各社がトラック台数を増やす等の対応を取るものと予想され、市場メカニズムの範囲で需給ギャップはある程度は解消に向かうものと思われる。よって、今後も運賃の上昇が進むものの、ゆるやかな上昇傾向に留まると考えられる。
  一方、荷主としては売上高物流コスト比率への関心が高いが、この比率は前述のとおり物価水準全般の影響を受ける。物価水準の見通しは困難であるが、①円安傾向が一服したこと、②中国をはじめ世界経済が停滞傾向にあることから、今のところ物価上昇は一段落している(図表3)。そのため、売上高物流コスト比率を押し上げる方向で推移するものと考えられる。

注3: 例えばヤマトホールディングス 2015年3月期第3四半期決算説明会資料参照。
http://www.yamato-hd.co.jp/investors/financials/briefing/pdf/3q_faq_27_03.pdf
注4: 例えば日本郵政グループ中期計画(2015年4月)の5つの事業戦略の一つとして、「郵便・物流事業の反転攻勢」が挙げられ、その筆頭に「ゆうぱっくの黒字化と拡大」が掲げられているなど、物流事業の収益力強化が重要目標とされている。
注5: JILS物流コスト調査による、2012年度のマクロ物流コストのうち貨物自動車運送業の規模は14.4兆円である。
注6: 国土交通省公表資料による平成26年度における宅配便取り扱い個数は約36億個であり、単価を550円程度と想定すると2兆円である。このほかにメール便の取り扱いが55億通あり、合計すると3兆円前後の規模に達すると考えられる。
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000097.html

6)物流コスト上昇に対する荷主の対応方策

  さて以上見てきたとおり、今後物流コストの上昇が続く可能性が高いと予想されるわけであるが、その際、荷主はどのような対応をとるべきか、最後に3点ほど挙げておきたい。
①荷主と物流事業者のパートナーシップ強化及び囲い込み
  運賃の市場価格が下落している局面では、入札等によって事業者を競わせ、安い事業者に入れ替えていくことで価格を引き下げることができるが、逆に昨今のような需給が逼迫している状況下では、事業者は敢えて値下げして新規顧客を獲得する必要がないため、このような戦略は機能しない。
  よって、物流事業者の荷主への依存度とロイヤリティを高め、長期的取引関係の維持の観点から値上げを抑制するとともに、両者のパートナーシップ強化によって、物流の効率化を進めることが、荷主にとって望ましい戦略となる。
  例えばある荷主企業では、特定企業に過度に依存しない範囲で取引先の物流事業者を数分の1まで絞り込み、効率化を進めているという。同様の取り組みは近年拡がりを見せている。
②代替的輸送手段の検討
  トラック輸送に過度に依存しすぎないよう、他の輸送手段を模索することも重要である。特に長距離輸送は、労務管理の規制強化や大型車ドライバーの高齢化の影響をより強く受けるために、今後トラック不足が深刻化する可能性が高く、輸送手段の多様化を進めることが課題となる。
  たとえば味の素が500km以上の輸送の70%を鉄道・海運にモーダルシフトしている(注7)等、業界のリーディング企業を中心にモーダルシフト化の動きが進んでいる。
  これに加えて、従来のモーダルシフトの枠を超えて、ISOコンテナを国内の複合一貫輸送に活用するなどの動きも進展している。
③物流サービスコストの負担明確化・透明化
  日本の商慣行上、物流コストは発荷主が負担するのが一般的である。そのため買い手が物流サービスを無料だと考え、過度なサービスを要求しがちである。例えばBtoCの通販においては送料無料といったサービスが行われ、これが末端の配送サービスの業務負荷増大・高コスト化に拍車をかけていることは周知の通りである。
  特に通販について言うと、かつては、宅配各社が大手通販会社に対して利益を度外視した大幅な値引きを実施していたこともあって、発荷主が送料を負担することの合理性があったが、物流コストの値上げが続いている現在では、その戦略的優位性は失われつつある。
  通販会社の売上高物流コスト比率は一般的に10%を超えているが(注8)、各社の純利益率が2~3%程度に留まることを踏まえると、物流コストが2~3割上昇しただけで容易に赤字に転落することになる。よって、「送料無料」といったマーケティングは経営上もリスキーであると言える。
  実際、大手通販各社は送料無料サービスを高額取引に限定するなど実質的な運賃の値上げに動いているところも出てきている(注9)。
  このような流れは通販に限らず、BtoBの通常の企業取引においても同様であり、物流サービスの効率化を図るためには、商品価格と物流コストを分離し、サービスの受益者である買い手に可視化されることが妥当である。それによって、物流オペレーションに過度な負荷をかけている小ロット・短リードタイム等の物流サービスの抑制につなげていくことが企業の利益・競争力強化にもつながる。

注7: 味の素物流(株)2015.07.21付 プレスリリースによる
注8: カタログ通販、アパレル、書籍等の通販などの場合であり、amazonなどはデジタルコンテンツ等の売上割合が高く、フルフィルメントコストの売上比は10%弱(同社有報による)。
注9: アパレル通販のZOZOTOWN(スタートトゥデイ)が一定額以下の送料無料サービスを2014年9月に終了など。

以上


(C)2015 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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