ロジスティクス・レビュー

第202号ロジスティクスの効用をもっと世の中に知らしめよう(2010年8月17日発行)

執筆者 野口 英雄
ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入所
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1991年 日本物流大賞受賞:「高密度共配による配送効率の飛躍的向上」
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社 ~パートナーコンサルタント
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立
    • 2001年 群馬県立農林大学校非常勤講師
    • 日本ロジスティクスシステム協会講師
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    保有資格
    • 日本物流学会正会員
    • 日本ロジスティクスシステム協会会員
    • 日本物流技術管理士会会員
    活動領域
    • 日本物流学会正会員
    • 日本ロジスティクスシステム協会会員
    • 日本物流技術管理士会会員
    主要著書・論文
    • 『低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く』
    • ―鮮度管理システムで顧客サービス競争に勝つ
    • 『低温物流の先進企業事例』
    • ―生鮮流通の業態・チャネル別戦略モデル
    • 『低温物流の実務マニュアル』
    • ―経営戦略・マネジメントとの連動

目次

1.ロジスティクスの目的は企業の生産性向上と合理化だけか

  ロジスティクスをリードすべき業界団体や各種機関が定めた、その定義やコンセプトというものはあるが、まだ充分に世の中に浸透しているとは言えないだろう。物流とロジスティクスの違いすら明確ではなく、そこにSCM等を初めとする3文字略号が氾濫し、一般の人々から見れば誠に分かりにくい世界である。
  端的にその目的とするところが、企業活動の生産性向上とか合理化等と表現している向きは、早い話がコストダウンということなのだろう。そうすると物流コスト削減のみに走り、物流事業者をトコトン追い詰めることが物流管理だと勘違いされ、そのレベルがもう限界に達したのでやり遂げたと思う経営者も現れる。そして物流子会社に任せたので、自社に物流部門を持たない企業もでてきたりする。
  メディアでも物流とロジスティクスは同義語だと思われているフシもあるが、マーケティングやマーチャンダイジングとロジスティクスは需要の創造と充足という面で車の両輪であり、企業活動の根幹を成す体系である。物流との違いは2次元と3次元のようなものだ。ユニクロのビジネスモデルがデフレの一因だと言っている経営者もいるが、その指摘は全くナンセンスである。その取組みは小売業マーチャンダイジングとロジスティクスの見事な融合であり、数少ない成功事例の一つだと思う。

2.新政権にロジスティクス政策がない

  破綻寸前の我国財政や社会システムを、根本的に立て直してほしいという国民の切なる願いから信託された新政権に、ロジスティクス政策という一貫した意図が見当たらない。もちろん官の意識が相変わらず物流という枠から抜け出せていないという背景もある。前政権と差異化し、ひとまずは国民目線で政策を立てることに異論はないし、負の遺産を排除して軌道に乗せるまである程度の時間もかかるだろう。内閣改造はその微調整に過ぎない。何とか頑張ってもらいたい。
  しかしマニフェストに掲げた個別政策が、ロジスティクス運営に大きな影響を及ぼす関連付けられた体系になっていないのは甚だ不満である。即ち暫定税率・高速道路無料化・羽田空港ハブ化・中枢港湾・労働力確保・環境対策等々、どれをとってもロジスティクス運営・インフラに関わる重要課題である。また追いつめられている当業界にとって死活問題ばかりである。従来の縦割り行政では、それぞれが個別扱いになっていたが、政治主導の新政権では産業政策としてのロジスティクス体系に位置付けるべきである。
  世界の潮流から見れば周回遅れもいいところでスタートした郵政民営化に、早くも揺り戻しが起きている。郵便事業は巨大なロジスティクス・ビジネスだが、そのユニバーサルサービスを金融事業でカバーするのだとしたら、それはJAと同じ構造である。こんなことでまた改革が遅れていくことは、もう許されないはずだ。

3.モノ作りだけではグローバル競争に勝てない

  我国産業の基盤である優れたモノ作りの力や、技術イノベーションについては悲観するものではないし、さらに政策として支援されていく必要もあるだろう。しかし今やグローバルレベルの競争となり、その拡がりでのマーケティングやロジスティクスが必須となり、この視点欠如がボトルネックになりかねない状況になっているのだと思う。
  世界のトップに立ったトヨタ自動車でさえ、兵站線が延び切って品質管理力にも黄信号が灯っていると言われている。元々同社は品質管理やロジスティクスでも大変優れた企業であった。物流システムの昇華としてのカンバン方式はQC活動に支えられたものであったし、その進化としてのロジスティクスを基盤にした生産システムは、米国の産業競争力回復の一つの要因であるSCMのヒントにもなった。
  同社が立たされている苦境は、我国のあらゆる企業の復活が容易ならざるものであることを意味しているが、一方で今後進むべき道に多くの示唆を与えてくれる。即ちモノ作りだけではなく、マーケティングやロジスティクスをその基盤として高めなければ、グローバル競争に勝てないということである。物流やロジスティクスが企業活動の中で一つの独立した存在ではなく、マーケティングとの連携を図るべき全社体系として、さらに磨いていかなければならない。

4.出発点となる物流力を磨く

  物流とは主に機能に関する管理であり、その生産性を高め効率を追求する。基本は商物分離を行い、物流をシステムとして高めていく活動であることは疑う余地もない。ただ物流にもこの機能と戦略という両面があって、後者の取組みを経営としてどこまでやってきたかについては、甚だ疑問がある。
  戦略としての側面とは物流が顧客との接点・最終工程として、自社の商品供給の品質を如何に高めるかという活動であり、それは優れて販売競争力に対する支援機能でもある。物流サービスレベルは販売政策に関連し、コスト許容とのバランスで決められる。従って物流業務の品質は、極めて重要な企業としての政策の一端を担っている。物流コストはその一要素に過ぎない。アウトソーシングしたから管理外ということでは決してない。
  冒頭にふれた物流コスト管理があるレベルに達したので、もう終わりというのは経営として極めて浅いと言わざるを得ない。在庫管理の上流概念に需給管理があり、これはロジスティクスのコアである「計画と統制」を実行することに他ならない。従ってロジスティクスは製・配・販が連携しなければ実行できない。今度は商物連携としての課題である。そしてこれがサプライチェーン全般に関わり、企業間連携としてのSCMにつながっていく。企業間のレベルにおいて、一企業のロジスティクスが劣化していれば、サプライチェーンのボトルネックになることは言うまでもない。

5.「坂の上の雲」は当時の日本にとって最高のロジスティクスだった

  昨年末に第一弾が放映された「坂の上の雲」は、久し振りに見応えのあるTVとして原作を懐かしく思い出した。明治維新からわずか30年余りで、欧米先進国に追い着こうとした若い人々の努力とエネルギーが、日露戦争という歴史的事実を通して描かれている。
  あの戦争は国家としての安全や権益を守り、当時の日本が全てを挙げて取組んだ事業として考えると、それはロジスティクスに重なる。先進国の最新情勢を探り、戦略と戦術を練り、必要な資金確保や技術開発も行った。人材の教育や訓練はもちろん言うまでもない。はるか地球の裏側から攻めてくる大国ロシアのバルチック艦隊の動向を読み、その力を最小限に留めるため、もう一つの太平洋艦隊を旅順港に閉塞した。そして多くの犠牲を払って漸く制圧した203高地から砲撃し、壊滅させた。以上は一連のロジックである。
  これは戦争であって決して美化するものではないが、我々はビジネス・ロジスティクスとして日々同様の困難に直面しているはずである。その目的とするところは激しいビジネス競争に勝つことであり、その戦略の重要な一端を担っている。この意味をもっと多くの人々に知らしめ、理解してもらわなければならないと思う。

(PS)
  韓国物流協会の徐会長にご縁を頂き、ある時に「貴方がたは日本の物流先駆者を忘れてはいないか」と言われたことがあった。それは我国に物的流通という訳語をもたらした平原直さんのことである。後に荷役研究所を設立され、「運搬と荷役」という専門誌を刊行されていた。この程度のことはもちろん理解していた。ちなみに除会長は社長室に立派な社内図書館を持ち、この雑誌のバックナンバーを全て用意されていた。
  平原さんの著書「人間の知恵」を改めて読んでみて、感じるところがあった。物流という概念を日本に広められたが、それは単に機能だけではなく物流システムのことである。マーケティングとの関連にもふれられていて、ロジスティクスにつながる考え方であった。
  そしておもしろいことに我国の伝統的な港湾荷役が、日露戦争を勝利につなげたと言われているのだ。それは三池炭鉱で採掘した石炭を艀で外海に運び、それを天狗取り荷役という独特の方法で本船に積み込んだことが、作戦実行の上で役に立ったとのことである。クレーンやコンベアのない時代に、短時間で大量の荷役を可能にしたことはそうなのかも知れない。それには多くの女性も参加した。みんなが「坂の上の雲」を信じて働いていた時代なのだろう。

以上


(C)2010Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.


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