第470号 これからの物流不動産の需給を左右するもの(2021年10月19日発行)
執筆者 久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物)) 執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所) 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 2015年7月~ 現職 活動 城西大学 非常勤講師 流通経済大学 客員講師 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点) 著書 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか 目次 1.はじめに 2.物流不動産の全体状況の理解 3.営業倉庫の面積拡大トレンドは、「倉庫」全体の傾向とは大きく乖離 4.営業倉庫が増えている背景 5.大量供給の新規倉庫はリプレース需要で吸収 6.潜在的なリプレース需要の存在 7.関東圏への一極集中 8.都市圏内でのスプロール化と物流利便性の低下 1.はじめに 第458号の記事(物流施設は建てすぎなのか?)では、物流不動産の全般的な需給状況を解説させていただいたが、この記事には色々な反響をいただいた。今回は続編として、統計データをもとに需給のポイントをあらため整理していきたい。 なお、物流不動産の需給見通しについては、周知のとおり、業界関係者内である種の疑心暗鬼が拡がっている状況である。コロナの影響が長期化するなか(※1)、首都圏を中心に大量供給が続いていることに加え、物流分野と縁遠いような新興デベロッパー等が次々と参入していることもあって、先行きに対する不透明感を感じる向きが少なくない。 そのような状況にある今、正確な将来見通しが必要とされていると言えるが、物流不動産に関しては、足下の空室率や賃料以外に判断根拠となる統計データが不足しているうえ、人的にも金銭的にも調査分析のリソースが不足しているのが実態である。本稿ではあくまで「さわり」の議論しかできないが、より本格的な調査・検討が(社会的に)必要とされていることを改めて認識しておきたい。 (※1)本稿執筆時点(2021年8月時点) 2.物流不動産の全体状況の理解 さて今回の記事では、前回は紙幅の都合で紹介することのできなかった統計データをいくつか紹介し、これをもとに、物流不動産の関する基本的な状況認識と、今後の需給バランスを左右すると思われる主要な論点について整理していくこととしたい。以下は議論としてはかなりプリミティブな内容も敢えて取り上げるが、このような内容についても関係者間でコンセンサスが形成されているわけではなく、まだまだ議論の余地が大きいと考えられるためである。なお、以下で述べた結論について、筆者としても100%誤りがないと考えているわけではないため、異論・反論等があれば、ご教示いただければ幸いである。 3.営業倉庫の面積拡大トレンドは、「倉庫」全体の傾向とは大きく乖離 物流不動産市場への見方のポイントの1つは、倉庫統計で見られる面積拡大傾向をどのように解釈するかである。 国交省の倉庫統計を見ると、営業倉庫の面積は近年急速に増加している。危険品倉庫等の特殊なものを除いた「普通倉庫(1~3類)」の面積を見てみると、過去15年間で63%も増加している(図表1)。特に震災以降の伸びが著しいのだが、これを以て倉庫需要拡大の根拠とする議論も一部で見られる。 もちろん、(広義の)倉庫が増えていること自体は間違いないが、(倉庫の一部である)営業倉庫に見られるような高い伸び率は実態と乖離していると考えるのが妥当である。 この点を示すために作成したものが図表2だが、この統計は、広義の倉庫、すなわち法人が所有する建物で用途が「倉庫」であるものすべてを調査したものである。ここで言う「倉庫」には、営業倉庫はもちろんのこと、荷主の自家倉庫や、いわゆる保管庫等を含めた幅広い施設が含まれる。 以上を前提に図表2を見ると、(図表1の対象期間と異なるものの)過去15年での倉庫の面積の伸びは15%に留まることがわかる(※2)。これは図表1で見た営業倉庫の伸び(63%)よりも大幅に低く、法人が所有する建物全体の伸びよりもずっと低い。 (※2)なお、統計上は15%伸びているが、実際にはこれも過大推計である可能性が高い。法人建物の面積の推移を見ると、近年大幅に増えているが、この最大の理由は「不動産業」が保有する建物面積が近年大幅に増大していることである。ただし、不動産業の伸び巾は統計的にやや不自然であり、調査対象の変更(拡大)など、調査方法の変更による影響があると考えられ、実態として15%を下回る可能性がある。 4.営業倉庫が増えている背景 このようなデータを前提とするなら、実態としては「倉庫自体が大きく拡大している」というより、「倉庫に占める営業倉庫の割合が増えている」と考えるほうが妥当だと考えられるわけだが、そのような傾向が生じる要因としては以下の点を挙げることができる。 まず1点目は物流アウトソーシングの影響である。荷主は長期的に見て物流のアセットを減らす方向にあり、従来自家倉庫が担っていた保管機能は、物流会社にアウトソースされる傾向にある。これは言うまでも無く、営業倉庫の比率の拡大に繋がる。 2点目は建て替えの影響である。後述するとおり近年、古い倉庫の建て替えが進んでいるが、一般的に古い倉庫は現行の営業倉庫の基準に合致しない場合があるのに対し、新築される倉庫では、そのような問題が少ない。 3点目は、金融面の影響である。近年新設される倉庫は床面積等が大規模化していることもあり、ユーザやデベロッパーが自己資金で建てるケースは減っている。そのため、施設整備に当たって外部の投資家(金融機関等)の審査基準に適合することが必要であったり、ファイナンスの出口戦略として流動性が要請とされたりするケースが増えている。これらの観点から、営業倉庫の取得が必要条件とされることが多い。 いずれにせよ、営業倉庫の動向と、倉庫全般の動向とは乖離が大きいことは明らかであり、両者は明確にわけて議論することが必要である。 図表1 普通倉庫(1~3類)の所管面積の推移(全国) 資料:倉庫統計季報、原則的に各年6月末の数値。 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 図表2 倉庫面積の推移(全国) (単位:千㎡) 注:対象は、法人が所有する建物であって、工場敷地以外に立地するもの。 「倉庫」とは、主な利用現況が倉庫に該当するもの。なお詳細な定義は出典資料を参照のこと。 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 5.大量供給の新規倉庫はリプレース需要で吸収 […]