物流関連

第589号 物流・ロジスティクスを学ぶ 専門的学習への橋渡しを目指して【連載第1回】物流・ロジスティクスとは何か?(2026年10月8日発行)

執筆者 伊藤 秀和
関西学院大学 商学部 教授

http://www.hidekazuito.net/

執筆者略歴 ▼
略歴
  • 1974年岐阜県生まれ。
  • 2003年筑波大学大学院修了、博士(社会工学)。
  • 関西学院大学商学部専任講師・准教授を経て、2011年より現職。
  • 主な業績に “Regions and Material Flows: Investigating the Regional Branching and Industry Relatedness of Port Traffics in a Global Perspective,” with Cesar Ducruet, Journal of Economic Geography, Vol.16, Issue 4, July 2016, pp.805-830、“Density economies and transport geography: Evidence from the container shipping industry,” with Hangtian Xu, Journal of Urban Economics, Vol.105, May 2018, pp.121-132 など。

目次


 

連載の狙い

  本連載は、これまで物流やロジスティクスを大学学部等で学ぶ機会の無かった、特に荷主企業の物流担当者を主な読者と想定し、物流やロジスティクスを専門的に学ぶガイドブック(指南書)を目指している。具体的には、大学学部の専門科目(中級レベル)の内容をスタートとし、専門職大学院(ビジネススクール)の専門科目(上級レベル)の内容までを対象とする。また、物流やロジスティクスは学際的な分野であるため、文系・理系の区分に囚われず、需要予測や在庫管理などの各種手法についても取り上げたい。
  ただし、本連載は物流やロジスティクスの教科書を目指す訳ではない。本分野に関連する教科書はすでに数多く発行されており、また英語で書かれたテキストも含めれば、読み切れないほどの量になると思われる。また、本分野は極めて学際的な対象であるため、社会経済環境の急速な変化によって、データや事例はどんどん古くなっていく。そのため、筆者が改めて教科書を書くインセンティブ(誘因)はほとんど存在しない。一方で、本連載はオンラインで発行されるため、各種資料や書籍、またデータベースへのリンク等を活かして、読者が様々な情報へ容易にたどり着くことができる。本連載では、細かな解説や理論や数理モデルの展開ではなく、読者が物流やロジスティクスを学ぶ際、何を学ぶべきか、またどの順番で学ぶべきか、のガイドになることを目指している。そのため、参考文献は原則、著書(可能な限り和書)を中心とし、できるだけ学術論文の引用は控える。関連する情報については、脚注等を参照されたい。

連載の計画

  本連載は、2か月に1回発行の約2年間、計12回を予定している。おおよそ大学学部の半期2単位の内容(分量)を想定している。主な内容は、以下を予定している。この内容は、筆者が所属する関西学院の大学学部・大学院(主に商学部・商学研究科、さらに専門職大学院経営戦略研究科)で行っている授業、特に学部2年生以上を対象とする専門科目の内容を中心に、そのポイントを纏めている。なお、筆者が商学部のマーケティング・コースに所属していることもあり、物流やロジスティクスに留まらず、サプライチェーン・マネジメント、さらにはマーケティングまで、本連載が荷主企業の物流担当者を主な対象とすることもあり、幅広い内容を取り上げたい。
  次回(12月発行予定)まで、約2か月の時間があるため、読者それぞれが情報を辿って、さらなる学習に取り組んで欲しい。

第1回 :物流・ロジスティクスとは何か?
第2回 :物流の機能とコスト構造
第3回 :貨物輸送量と機関選択
第4回 :ロジスティクス戦略と顧客価値の創出
第5回 :オペレーションズ・リサーチ (OR) で考える需要予測と在庫管理
第6回 :サプライチェーン・マネジメントと価値の最大化
第7回 :オペレーションズ・リサーチ (OR) で考える物流ネットワークと拠点配置
第8回 :事例で考える製造業のサプライチェーン
第9回 :国際物流の現状と高付加価値物流
第10回:技術革新と物流事業者の変革
第11回:グローバル化に伴う供給リスク
第12回:日本の課題と持続可能性

連載の導入に代えて

  連載第1回の今回は、物流・ロジスティクスを学んだことのない初学者に向けて、物流とロジスティクスの語源や学術的・実務的な定義とその歴史的変遷、さらにはマーケティングとの関係について、紹介したい 。*1

(1)物流とロジスティクスの語源

  物流とロジスティクス(あるいはサプライチェーン・ロジスティクス)は、その違い(定義)が良く分からないと指摘される。特に、実務の世界においては、ほぼ同義として用いられていることも多いと感じられる。はじめに、その違いを確認したい。
  物流(物的流通、後述する物質流動との違いに注意)は、1956年(昭和31年)に流通技術専門視察団(伊沢道雄団長や内田九万副団長ら)が米国から持ち帰ったPhysical Distribution を直訳した「物的流通」がその語源とされ(略して「物流」)、日本では高度成長期に広まり定着した。古くからあった「交通 (Transportation)」を、部品・製品など、財の販売のための交通システムと捉えなおし、財の輸送、保管、仕分けを統合することで、顧客に対して価値をもたらす機能と考えた。すなわち、販売のための効率的な配送システム (Delivery System) の構築を念頭に導入された用語である。
  ちなみに、後で解説する「マーケティング (Marketing) 」は、財の販売ための(科学的な)流通システム (Distribution System) と捉えたが、この用語の日本への導入時期は、その前年、1955年(昭和30年)に日本生産性本部によって実施されたトップマネジメント視察団(当時経団連会長の石坂泰三団長ら)による、帰国報告とされる。同報告が切欠となり、翌年の流通技術専門視察団が(さらにはマーケティング専門視察団なども複数回)実施された。なお、日本でもそれ以前(戦前)から、現在の「流通」に相当する「配給」が用いられており、これが上記のマーケティングと融合したとされる 。*2
  これに対して、「ロジスティクス (Logistics) 」(兵站〔へいたん〕)の語源は、軍事用語とされる。英語のLogisticsは、ギリシャ語のLogistikosとフランス語のLogistiqueを語源とするが、前者は論理学や計算技術を、後者は宿営地への物資補給を意味する。ちなみに、フランス語のLogistiqueは、ナポレオン時代(19世紀初め)に使用されたのが始まりとされる。また、軍事用語の補給を意味する「兵站」も、戦略 (Strategy) や戦術 (Tactics) の三大軍事用語の1つとして、古くは紀元前200年頃の漢帝国・劉邦が用いたとされる。日本で兵站が軍事用語として使われるのは、明治政府が軍隊を近代化・西洋化する過程であり、戦闘部隊の後方支援機能として位置付けられた。

(2)物流とロジスティクスの歴史的発展

  では、このように異なる概念(背景)を持つ2つの用語が、どのようにビジネスの世界で融合・発展してきたのかを概観する。米国と日本の物流やロジスティクスの変遷を議論した菊池 (2000) の第3章を基に、筆者が時系列に纏めたのが表1である。

表1 ロジスティクスの歴史的発展
*画像をClickすると拡大画像が見られます。



  20世紀前半、大量生産体制(例えば、1908年発売のT型フォード)が確立されたことで、広範囲の消費者にいかに商品を効率的に届けるか、すなわち現在の販売物流 (Sales Logistics / Outbound Logistics) が、流通システムの一部として物流は誕生している。
  次いで、米国では、第二次世界大戦後の不況が契機となり、戦時に発展したロジスティクスやオペレーションズ・リサーチ (Operations Research: OR) 手法を、ビジネス(特に流通システム)の管理手法として応用し、それがロジスティクスとして広まった(そのため、ロジスティクスの管理手法の多くはOR手法を応用している)。本家であるミリタリー・ロジスティクス (Military Logistics) と区別するため、当時はビジネス・ロジスティクス (Business Logistics) が用いられた。
  日本でも、米国から物流が導入されて以降、オイル・ショック(1970年代)を切欠とした流通や物流の合理化(いわゆる「物流管理」)、次いで、プラザ合意(1985年)による生産拠点の海外移転が加速したことで、生産と消費の時間的・空間的懸隔〔けんかく〕が一層拡大した。そのため、物流の効率化に着目した物流諸機能の管理から、市場の変化に適応する科学的手法として、ロジスティクスへと発展していくことになる。
  さらに、米国では、これまで中心であった販売物流から、調達物流 (Procurement Logistics / Inbound Logistics) へと拡大・発展していく。特に、グローバル化の進展に併せて、原材料や部品の調達は輸送費に大きく影響するため、企業は諸活動を体系的に捉え、トータル・コストの観点からサプライヤーの地理的立地などにも着目し、現在のサプライチェーン (Supply Chain) の概念が注目され始めた。そして、流通システム(人・物・金・情報)の全体を管理するものとして、「サプライチェーン・マネジメント (Supply Chain Management: SCM) 」へと発展した。
  その後、急速な市場変化に対応し、需要予測を活用してサプライチェーンを如何に再構築できるかがカギとなり、Sales & Operation Planning (S&OP)(販売・生産計画)へと発展していく。直近では、情報通信技術の高度化を活かした、物流DXやフィジカル・インターネットなどへと繋がる。
  日本は米国に比べ、ロジスティクスの発展で10年から15年ほど遅れていることが指摘されるが、日米共に、輸送や保管などの機能論から管理論に発展し、その対象が販売から調達に拡大してきたことを理解できる。例えば、標準的な物流(システム)論の教科書である中田他 (2003) は、物流とロジスティクスの違いを分かり易く纏めているが(表2を参照)、物流は「物流活動」を、ロジスティクスは「物流体系」を対象としていることに違いがある。また、生産者(荷主)から見て主に川下(顧客)に着目したのが物流・ロジスティクス、同じく川上(サプライヤー)まで広げたのがサプライチェーン(・マネジメント)と理解できる。

表2 物流管理とロジスティクス・マネジメントの違い
*画像をClickすると拡大画像が見られます。



  また、これらの用語の変遷を日本経済の発展段階に併せて纏めた書籍も複数ある。例えば、齊藤他 (2009) は、日本国内の貨物輸送量(トンベース)の推移と各用語の導入時期を議論しているが *3、貨物輸送量のピークを迎えた(1980年代末から)1990年代前半にロジスティクスが使われ始め、減少傾向が顕著となった1990年代後半(いわゆる「失われた10年」の後)にSCMが使われ始めたとしている。また、宮下 (2011) も、日本における物流の重層的発展段階を時系列に議論しているが*4 、1880年代から1960年代を「交通の時代(ハードインフラの整備推進)」、1960年代から1980年代を「物流の時代(ソフトインフラの整備推進)」、1980年代から1990年代を「ロジスティクスの時代(企業内物流の一元管理の促進)」、そして1990年代以降を「SCMの時代(企業間物流の一元管理)」としている。特に、物流までがインフラの整備推進、ロジスティクス以降が物流の一元管理となっていることに特徴がある。

(3)物流とロジスティクスの定義

  それでは、これまで見てきた各用語が現在、どのように定義されているか見ておく。
  一般的に、流通(システム)は商取引流通 (Commerce Distribution) の略である「商流」と物的流通 (Physical Distribution) の略である「物流」の2つから構成される。商流と物流の比較については、苦瀬 (1999) が詳しいが(表3を参照)、商流が財の所有権と貨幣(価値)の移動と定義するのに対して、物流は財が空間と時間を移動するものと定義している。さらに、この物流は、輸配送、保管、流通加工、包装、荷役、(商業・物流)情報の6つの機能から構成されるとしている。

表3 商流と物流の比較
*画像をClickすると拡大画像が見られます。



  さらに、苦瀬 (1999) は、物流が異なる意味で使われていることも指摘している *5。例えば、土木工学における交通計画・交通工学の分野において、交通は人の流れ (person trip) と物の流れ (freight transport / goods movements) に分かれ、この物の流れを物流と定義している。しかし、この場合の物流は「物質流動」の略であり、先ほど示した物流の6つの機能の1つ「輸配送」に相当する。そのため、実務においても、物流が交通の一部として、物の移動を考える場合(=物質流動)と、流通の一部として、物の移動と保管を考える場合(=物的流通)で異なる。
  ロジスティクスの範囲として、苦瀬 (1999) は、原材料などの調達物流、社内での物流、最終消費地までの販売物流の組合せ*6 、と考え、先の中田他 (2003) も、調達・生産・販売において、(上記の)6つの機能で構成される各物流(調達物流、生産物流、販売物流)を串刺し、一元管理する概念をロジスティクス(の範囲)と説明している *7。共に調達・生産・販売における「物流管理」を統合することをロジスティクス (Logistics) と定義している。
  次いで、日米の業界団体における定義を挙げてみたい。例えば、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 (Japan Institute of Logistics Systems: JILS) は、以下のようにロジスティクスを定義している。

「ロジスティクスとは、需要に対して調達、生産、販売、物流等の供給活動を同期化させるためのマネジメントであり、そのねらいは顧客満足の充足、無駄な在庫の削減や移動の極小化、供給コストの低減等を実現することにより、企業の競争力を強化し、企業価値を高めることにある」(JILS、2009、第3版)

  これまでの「物流管理」が企業内の個別部門の部分最適であったのに対して、企業レベルで部門間の諸活動を調整し、全体最適を目指すものと理解できる。
  また、Council of Supply Chain Management Professionals(全米サプライチェーン・マネジメント専門家協議会、CSCMP)の前身(2005年に名称変更)であるCouncil of Logistics Management(全米ロジスティクス管理協議会、CLM)は、以下のようにロジスティクスを定義(1998年改訂版)*8 していた。

「ロジスティクスとは、顧客の必要条件に適合させるべく、原材料、半製品、完成品ならびにその関連情報の、産出地点から消費地点までのフローと保管を、効率的かつ費用対効果を最大ならしめるよう計画立案、実施、統制する(サプライチェーンの)過程である」(JILS、2002、第2版)

  さらに、現在のCSCMPは、以下のようにロジスティクスを定義*9 している。

「ロジスティクス・マネジメントは、顧客の要求に適応するために、製品、サービス、これらに関連する情報の、出発地点、消費地点間の往と復のフローと保管を効率化し、適正化するように、計画・実行・統制するサプライチェーン・マネジメントの一部である」(JILS、2009、第3版)

  両者ともサプライチェーン、あるいはSCMの一部として、ロジスティクスを定義していることが理解できる。先の (2) で述べたとおり(表1を参照)、米国において、(SCMではなく)サプライチェーンはかなり古く(1970年頃)から使われていた概念であり、サプライチェーンの中にロジスティクスがあると考えられている。
  ちなみに、CSCMPによるSCMの定義*10 は、以下の通りである。

「サプライチェーン・マネジメントとは、調達・購買、生産・加工、およびすべてのロジスティクス管理活動に関わる諸活動の計画と管理を包括するものである。重要な点として、SCMには、供給業者、仲介業者、サードパーティーの物流事業者、顧客などのチャネル・パートナーとの調整や協働も含まれる。本質的には、SCMは企業内および企業間において、需給管理を統合するものである」(著者訳)

  筆者が行ったロジスティクス教育に関する調査*11 でも、欧米の大学学部・大学院において、ロジスティクス関連科目は既にSCMやオペレーションズ・マネジメント (Operations Management: OM) の一部として教育体系(カリキュラム)が作られており、特にビジネス系学部において、物流・ロジスティクスを直接取り上げた科目はごく僅かであることを指摘している。日本では、商学部・経営学部において、交通論の(縦方向の)発展として、物流やロジスティクスが設置されたのに対して、米国では、OMの一部であるORを流通システムにおける輸送や保管と(横方向に)統合・拡大し、ビジネス・ロジスティクスが設置された背景にも起因する。

(4)マーケティングの半分

  日本でも「(物流は)マーケティングのもう半分 (The Other Half of Marketing) 」と言われることがある。その切欠は、 Paul D. Converse により1954年に発表された同名論文で、財の需要創出(いわゆるマーケティング戦略)やその所有権の移動(=商流)に掛かる費用(半分)以外の、財の物理的な取扱いに掛かる費用(=物流コスト、もう半分)が大きいことから、そう指摘された。また、後の1962年に発表された Peter F. Drucker による有名な論文「経済の暗黒大陸 (The Economy’ Dark Continent)」でも、流通における物流コストの問題を取り上げているため、物流がマーケティング(当時はむしろ、以下で述べるマクロ・マーケティングとして流通のニュアンスが強い)の一部であるとの認識があったと思われる*12 。
  しかし、その後、日本に限らず、物的流通(物流)をマーケティングのサブ・システムとして議論することは少ないように思われる。中田他 (2003) によると、当時(1950年代)のマーケティングは社会経済的視点のマクロ・マーケティングと企業経営的視点のミクロ・マーケティングの両者であったが、1960年代に登場した企業経営的視点に立つ(後述する、いわゆる4Pの)「マネジリアル・マーケティング (Managerial Marketing) 」によって、ミクロ・マーケティングが主流になったと指摘する。そのため、マネジリアル・マーケティングの元で、マクロの流通コストが課題となることは少なくなり、それは単に物流コストの削減として考えられるようになったと予想される。
  そのため、小川 (2009) も 「経営の専門家でも、つい最近までは、「物的流通」の現代的な形態である「ロジスティクス」がマーケティング活動の一部であるとは考えていなかった」*13 と指摘するが、(特にマネジリアル・)マーケティングとロジスティクス(あるいは物流)の関係が意識されことは少なくなった。

(5)マーケティングの中のロジスティクス

  先に見た通り、米国では当初、流通システム、特に販売(物流)に科学的な市場適合の手法が取り入れられ、マーケティングが(主にサプライチェーンの川下を対象に)発展しており、日本でも(戦前の)配給(現代の流通)に米国のマーケティングが適用されており、物流やロジスティクスとマーケティング(流通)との関係は非常に強かった。
  しかし、マネジリアル・マーケティング(あるいは4Pのマーケティング・ミックス)が主流になることで、当初のマーケティングと物流の関係は薄れてきた。特に米国では、(川上を含めた)サプライチェーンの一部としてロジスティクスが認識されることで、よりミクロ・マーケティングとの乖離が進んだと言える。
  1990年代に入ると、Grant et al. (2006)*14 は、顧客サービス (customer service) が多くの企業の中心的課題になったことに着目し、マーケティング・ミックスの4Pの1つ、Place (Distribution) を顧客サービス・レベル (customer service levels) と再定義した*15 。このサービス・レベルを満たしたうえで、総費用の最小化(ロジスティクスの目標)をすることにより、マーケティングの目標である企業の長期的な利潤が最大化されると示した。すなわち、ミクロ・マーケティングとロジスティクスの融合を図ったと言える。
  さらに、市場の成熟化や生産技術の均質化によって、特に消費財におけるコモディティ化が、従来のマーケティングとロジスティクスの関係を変化させている。Christopher and Peck (2003) は、いわゆるマーケティング・ミックスの機能低下(特にProduct)によって、ブランド・ロイヤルティ (brand royalty) からブランド・プリファレンス (brand preference) へと変化したことを示した*16 。例えば、我々消費者が商品を購入する際、コンビニやスーパーの棚にお気に入りの商品が無い場合、類似する商品を手にする可能性が高くなることを、ブランド・プリファレンスと定義した。そのため、従来のマーケティング戦略(需要創造、demand creation)とロジスティクス戦略(需要充足、demand fulfilment)を統合する経営戦略が重要だと指摘する。その後のMason and Evans (2018) も、マーケティングとロジスティクスは組織の重要な活動として認識され、この2つの部門をシームレスに連携することが、顧客価値の創出に不可欠であると指摘する*17 。米国では、1980年代前半から、これまでのマネジリアル・マーケティングから顧客との長期的な関係性の維持・強化に注力する「関係性マーケティング (Relationship Marketing) 」へと発展したことに併せて、ロジスティクスとマーケティングの関係が変化してきたと理解できる。
  例えば、中田他 (2003) は、物流管理とロジスティクス・マネジメントの比較を行っているが(先の表2を参照)、両者の違いの一つに、プロダクト・アウトとマーケット・インを挙げている。プロダクト・アウトは、企業の視点が強いマネジリアル・マーケティングに近いと言え、一方のマーケット・インは、顧客の視点が強い関係性マーケティングに近いと言える。主流であったミクロ・マーケティングが時代を経て、社会的な視点を持つより広い概念になったことで、ロジスティクスとの関係が再び強まったと言える。
  ところで、中田他 (2003) は、物流とロジスティクスの違いについても、当初(1950年代)は物流も社会経済的視点と企業経営的視点を持っていたが、ロジスティクスの導入によって企業経営的視点がより強くなったと指摘する。先の宮下 (2011) と同じく、物流が社会経済的(インフラの整備推進)、ロジスティクスが企業経営的(物流の一元管理)な概念であると理解できる。
  ちなみに、公益社団法人日本マーケティング協会 (Japan Marketing Association: JMA) が34年ぶりに改訂したマーケティングの定義(2024年改訂版)*18 は、以下の通りである。

「(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」

  また、American Marketing Association(全米マーケティング協会、AMA)によるマーケティングの定義(2017年版)*19 は、以下の通りである。

「マーケティングとは、顧客、依頼者、パートナー、そして社会全体にとって価値のある提供物を創造し、伝達し、提供し、交換するための一連の活動、制度、およびプロセスのことである」(著者訳)

  科学的な販売手法の導入を目的としてスタートしたマーケティングも、高度成長期には企業経営的視点が強くなり、その後の財のコモディティ化や顧客価値の創出に併せて、社会経済的視点を再び中心に据えたと理解できる。企業経営的視点の強いロジスティクスも、環境問題や人的資源を含め、持続可能な社会を目指し、日本でもSCMやOMへと拡大していくことになる。

  連載第2回は、第1回でも紹介した物流の6つの機能の具体的な役割と、物流がマーケティングの半分と言われる切欠となった物流コストの規模やその構造について、(主に日本の)各種データを用いて紹介する。

参考文献

  • 伊藤秀和『ロジスティクス教育の過去・現在・未来』KDP、2026年10月2日発行、以下のURLで購入可能(https://www.amazon.co.jp/dp/B0HLRLG8JG)。
  • 小川孔輔『マーケティング入門』日本経済新聞出版社、2009年。
  • 菊池康也『ロジスティクス概論』税務経理協会、2000年。
  • 苦瀬博仁『付加価値創造のロジスティクス』財務経理協会、1999年。
  • 齊藤実・矢野裕児・林克彦『現代ロジスティクス論』中央経済社、2009年。
  • 中田信哉・湯浅和夫・橋本雅隆・長峰太郎『現代物流システム論』有斐閣アルマ、2003年。
  • 社団法人(当時)日本ロジスティクスシステム協会[監修]『基本ロジスティクス用語辞典』白桃書房、2002年(第2版)・2009年(第3版)。
  • 宮下國生『日本経済のロジスティクス革新力』千倉書房、2011年。
  • Martin Christopher and Helen Peck, Marketing Logistics, 2nd Edition, Elsevier, 2003.
  • David B. Grant, Douglas M. Lambert, James R. Stock and Lisa M. Ellram, Fundamentals of
  • Logistics Management, European Edition, The McGraw-Hill Companies, 2006.
  • Peter Klaus and Stefanie Muller (Eds), The Roots of Logistics, Springer, 2012.
  • Douglas M. Lambert, James R. Stock and Lisa M. Ellram, Fundamentals of Logistics Management, 1st Edition, The McGraw-Hill Companies, 1997.
  • Robert Mason and Barry Evans, Marketing-and Logistics-led Organizations, Kogan Page, 2018.
  • 以上


    注釈

    *1.本項は、伊藤 (2026) の第1章(特に第2節)を基にしている。
    *2.マーケティングの歴史については、マーケティング史学会 (https://marketinghistorysoc.wixsite.com/website)による学説史シリーズがある。
    *3.齊藤他 (2009) の第1章(特に図1(6頁))を参照。
    *4.宮下 (2011) の第1章(特に図表1-1(5頁))を参照。
    *5.苦瀬 (1999) の第1章(特に図1.1.4(9頁))を参照。
    *6.苦瀬 (1999) の6頁(第1章)を参照。
    *7.中田他 (2003) の第7章(特に図7-2(152頁))を参照。
    *8.原文は、“Logistics is that part of the supply chain process that plans, implements, and controls the efficient, effective flow and storage of goods, services, and related information from the point-of-origin to the point-of-consumption in order to meet customers’ requirements.” Lambert et al. (1998) の3頁を参照。https://doi.org/10.1108/09574099810805807
    *9.原文は、“Logistics management is that part of supply chain management that plans, implements, and controls the efficient, effective forward and reverse flow and storage of goods, services and related information between the point of origin and the point of consumption in order to meet customers’ requirements.” CSCMP Supply Chain Management Definitions and Glossary (https://cscmp.org/CSCMP/cscmp/educate/scm_definitions_and_glossary_of_terms.aspx)
    *10.原文は、“Supply chain management encompasses the planning and management of all activities involved in sourcing and procurement, conversion, and all logistics management activities. Importantly, it also includes coordination and collaboration with channel partners, which can be suppliers, intermediaries, third party service providers, and customers. In essence, supply chain management integrates supply and demand management within and across companies.” 脚注ixのURLを参照。
    *11.伊藤 (2026) の第2章を参照。
    *12.ロジスティクスに関する古典的な論文の多くは、Klaus and Muller (2012) に収録されている。
    *13.小川 (2009) の6頁(第1章)を参照。
    *14.Grant et al. (2006) は、Lambert et al. (1997) の欧州版である(序文 (Preface) を参照)。
    *15.Grant et al. (2006) の第1章 (Chapter 1) を参照。
    *16.Christopher and Peck (2003) の第1章 (Chapter 1) を参照。
    *17.Mason and Evans (2018) の序文 (Preface) を参照。
    *18.マーケティングの定義(https://www.jma-jp.org/aboutjma)
    *19.原文は、“Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.” Definitions of Marketing (https://www.ama.org/the-definition-of-marketing-what-is-marketing/)



    (C)2026 Hidekazu Ito & Sakata Warehouse, Inc.

関連記事

TOP