法律

第588号 物流サービス業務をめぐる近時の裁判例(2026年9月15日発行)

執筆者  南 健悟
慶應義塾大学 法学部 教授

執筆者略歴 ▼
略歴
  • 1982年北海道生まれ。
  • 2005年静岡大学卒業。
  • 2010年北海道大学大学院修了、博士(法学)
  • 旭川大学(現旭川市立大学)、小樽商科大学、日本大学法学部教授を経て、2024年より現職。
  • 主な論文に、「船荷証券約款におけるMerchant条項の適用範囲」法学研究99巻1号(2026年)、「鉄道運送における旅客営業規則と民法上の定型約款規定」関西大学法学研究所研究叢書68冊(2024年)、「海上旅客運送―海上旅客運送の安全性確保と運送人の責任」法律時報94巻12号(2022年)がある。

目次

1.はじめに

昨年、第42回日本物流学会は「物流における大学教育と大学教育における物流」を全国大会統一テーマとして開催されたが、その際に、執筆者は「法学部における物流教育」というトピックで報告の機会を頂戴した。報告では、「法学部においては一部の大学を除き物流教育を全く行っていない」という結論を述べたが、その要因として、そもそも物流に関わる法的問題について教育研究をすることの困難性を挙げた。その背景として、法学においては、具体的な紛争を法的にどのように解釈などして解決するべきか、という規範を考えることが一つの要素となっているが、物流に関する法制度との関係では、物流事業においてどのような法的紛争が発生しているのかについて、外から見て、あまり明確ではないという現状も見られることを指摘した。私の専門である商法分野では、紛争が目に見える形で現れやすい会社法については膨大な研究が見られる一方で、他の商法分野は当事者間の交渉力の問題なども相俟って、そもそも紛争にはならない(表沙汰にならない場合も含む)、さらに、紛争になり裁判所によって判決という形で判断されても公表されないなどということも少なくない。また、個社へのヒアリング調査などで具体的な取組みなどを聞き、それを研究に繋げる場合があるが、法学の場合、質問内容がセンシティブであり、ヒアリングすること自体、他の分野に比して困難であるように思われる。そうすると、研究対象である紛争が目に見えないことが、法学教育における物流教育・研究が進まない一つの要因となっているのではないか、ということを学会において報告した。
そんな中、昨年9月に、判例雑誌に物流サービスの業務委託に関する裁判例(東京地方裁判所令和6年4月22日判決(判例時報2627号44頁))が掲載された。このような物流に関する裁判例が紹介されることは比較的珍しいことから、今回、本件事案と裁判所の判断を紹介し、物流関係者の方に向けて、簡単に解説をさせていただければと思う。

2.事案の概要

本件は、原告(X)と被告(Y)との間で、Xが販売する婦人靴について、XがYに物流サービス業務を委託することに関する物流業務委託基本契約(以下、「本件基本契約」という。)を締結し、Yは、他から賃借した倉庫において、Xの商品の入庫、保管、出荷等の業務を行っていた。ところが、XがYにおいて保管していた商品について出荷を指示したところ、Yが不当に出荷を拒否したとして債務不履行責任等を追及し、他方で、YもXに対して、Xが本件基本契約を契約期間中に一方的に解約したことで違約金や、解約によって得られなくなった業務委託料等の支払いを求める事態になった。それでは、どのような経緯によって、上記のような紛争に至ったのかを詳しく見ていこう。

1. 令和元年10月2日:X・A間で物流サービス業務委託契約を締結
・契約期間:令和元年8月1日~令和4年3月31日
・ただし、個別業務委託契約についての契約書は作成されず
2. 令和元年11月1日:X・A・Y三社間でX・A間の契約をX・Y間の契約に変更
3. 令和2年3月31日:XがYに対して、事業効率改善施策の一環として、同年5月下旬以降は新たな個別契約を締結する予定がない旨を通知(以下「本件通知」という。)
4. 令和2年4月2日:YがXに対して、5月末をもって中途解約して物流業務を移管するとのXの申出には応じられないこと、実際に業務移管を実行した場合には、残存期間分の報酬や費用を請求する意向である旨などをメール送信
5. 令和2年6月25日:XがYに対して、これ以降、Xの物流に関する業務は発生しないとしたうえで、Y保管のXの商品等を同月30日発、7月1日着でB流通センター及びX本社に出荷するよう指示(以下「本件指示」という。)
6. 令和2年6月26日:YがXに対して、本件指示は外部物流業者への移管の指示であり、会社間で結論が出ない限り、現場対応である旨を伝えて、本件指示を拒否
7. 令和2年6月29日:X側が、店頭商品が不足していることを指摘して早期に本件指示に従うよう要望(車両手配もXで行うことを伝える)。これに対して、Yが店舗への出荷指示であれば対応する旨を伝達。
8. 令和2年6月30日:X代表取締役がX側に対し、本件指示に従うよう要望。メールで「結果的に、今回の出荷、移管をもって貴社との取引がなくなるのは残念ですが、また、時期を見てご相談できる機会があれば幸いです」と送信。
9. 令和2年7月6日以降:X・Yが代理人を通じて交渉
10. 令和2年8月4日:Xが、東京地裁に対し、保管中の商品をXに対して仮に引き渡すことを求める動産引渡仮処分命令の申立て
11. 令和2年8月19日:商品等を同月31日限りXに引き渡すことなどを合意した和解が成立

(X・A(後にY)間の物流サービス業務委託契約の主要条項)
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3.争点

本件の争点は多数に及んでいるが、主要な点としては大きく分けて、以下の2点にまとめられる。
① XがYからの出荷指示に従わなかったことが債務不履行(契約違反)といえるか?
② XとYの上記の一連の経緯から、X・Y間の本件基本契約や期間の定めのある個別契約の解約と評価されるか?

4.判旨

<争点①について>
「本件指示は、Yが保管するXの商品のX指定の場所への出荷の指示であるから、個別契約におけるYの債務であると認められる。したがって、Yは、本件基本契約の適用される個別契約に基づき、Xが令和2年6月25日にした本件指示に従って、Xが指定したX本社又はB流通センターに対して保管中の商品を出荷する契約上の義務を負っていたものである。それにもかかわらず、Yは、……これに応じなかった(本件拒否)のであるから、債務不履行に当たる。」

<争点②>
「本件通知や本件指示が、Xにおいて今後Yとの個別の取引を行わない意向を表明したものであることは明らかであるが、本件基本契約は、本件基本契約の契約期間中において個別の取引を行うことを必須のものとしてはおらず、Xが個別の取引を行わない意向を示したからといって、本件基本契約自体の解約申入れに当たると解することはできない。
……したがって、本件基本契約が令和2年8月26日に終了したと認めることはできない。
……XとYは、……商品ごとに個別契約を締結していたものと解されるところ、当該個別契約において契約期間が定められたとは認められないから、本件基本契約21条ただし書の「個別契約で契約期間の定めがある場合」には当たらないというべきである。
……本件基本契約21条は、その文言からすれば、まず本文において、本件基本契約を当事者間の合意で解約又は変更できる旨の原則を定めた上で、ただし書において、本件基本契約又は個別契約がXの都合で中途解約された場合には個別契約の残存期間の業務委託料等をXが負担する旨の違約金の定めを設けたものと解するのが相当である。これは、本件基本契約を締結しただけでは当事者に直ちに具体的な権利義務関係が発生するわけではない一方で、本件基本契約に基づき個別契約を締結した際には、当事者間に具体的な権利義務関係が生じ(本件基本契約1条、2条)、契約期間の定めのある個別契約が中途解約された場合又は本件基本契約を中途解約したことに伴って個別契約が契約期間中に終了した場合にYに損害が生ずるおそれがあることから、YがXに対して違約金を請求することができるという趣旨で設けられたものと解される。
……本件基本契約の解約に伴って個別契約が終了する場合をも想定してただし書が設けられたものと解されるのは上記のとおりであって、このことは、個別契約を締結して初めて具体的な業務委託料等の額又は算定方法が決定すること(本件基本契約5条1項、6条)からも明らかである」と判示し、結論として、XのYに対する請求の一部を認容(160万円程度)を認容し、YのXに対する請求を棄却した。

5.解説

(1)はじめに
本件の事実関係を見ると、物流サービス業務委託の当事者間において、委託者の事業効率改善施策の一環から、委託者が受託者に対して、今後、個別契約を締結しない旨を伝えたことを契機に、ギクシャクし始めて紛争になってしまっている。
契約の基本法である民法には、業務委託一般に関連して、委任契約や請負契約に関する規定は設けられ、商法には、伝統的な倉庫寄託契約に関する規定が設けられている。しかし、3PL事業者と顧客との契約は、寄託契約や業務委託契約などの複数の性質を備えている契約でありⅰ、それらに関する規定に加え、当事者間において締結された契約に基づき規律される。

(2)出荷指示の拒否
今回、Yは、本件基本契約に基づいて出荷義務を負うのは、「販売に基づく出荷指示」の場合であって、Xの出荷指示は、他社倉庫等への移管のための出荷にあたり、本件基本契約に基づく出荷指示ではないことから、出荷を拒否できる旨を主張していた。これに対して、裁判所は、出荷に関する個別契約においては、Yは、Xが指定する場所への出荷指示に従うことが義務付けられており、そのような主張を否定する。
前提として、どのような場合に出荷義務を負うかは、契約当事者の意思によってある程度決定することができるという点である。民法662条は寄託物の返還請求(出荷指示)について、いつでも返還できると定めているが、返還(出荷)の条件を別途設定する余地もあろうⅱ。そうすると、ここで問題となるのは、そのような条件がXとYとの間で決められていたのかどうかである。
本判決では、この点について、①本件基本契約2条から、荷役全般が委託業務の内容であり、「販売に基づく出荷指示」に限定して出荷業務を行うことは明示されていないこと、②「販売に基づく出荷指示」以外の場合でも商品を出荷することがあったこと、③本件における物流サービスの業務委託においては、商品をどのように流通させるかはXが決定できるのであって、出荷目的や送付先の如何は問われていないことから、Yが主張するように「販売に基づく出荷指示」の場合にのみ、出荷義務を負うと解することはできない旨を判示する。ここでは、X・Y間の本件基本契約の条項だけではなく、X・Y間における従前の対応、そして、本件における物流サービスの業務委託の内容から、取引が打ち切られることや他社への移管作業であることを理由に、出荷義務を負わないとする主張は認められないと結論付けている。このように、契約書上の条項が不明瞭な場合であっても、契約締結時や履行時の状況等から、どのような契約関係が形成されていたのかを判断する手法は一般的に見られる。

(3)本件基本契約・個別契約の解約?
本件におけるもう一つの争点として、XがYに対して本件基本契約の期間中の令和2年3月31日に、同年5月以降は新たな個別契約を締結する予定がない旨の本件通知や令和2年6月26日の出荷指示をしたことが、本件基本契約21条但書きに該当し、YはXに対して、「残りの契約期間の業務委託料、及び、費用等を甲〔X〕が負担」するかという問題がある。
この点、裁判所は、本件通知や出荷指示が今後個別の取引を行わない意向を表明したものであるが、本件基本契約自体の解約の申入れには当たらないと判断している。本件の物流サービス業務の委託契約は、本件基本契約と個別契約の二階建て構造になっており、このような物流サービスの委託契約の構造は、一般的に見られるものであるといわれるⅲ。そうすると、今回問題となった本件通知や出荷指示によって、本件基本契約の解約の申入れに当たるのか、それとも個別契約の解約の申入れに当たるのかが問題となる。
第一に、本件基本契約の締結によって、当事者間で何らかの権利義務が生じるのか、という点であろう。本判決でも指摘されているが、本件基本契約の締結の準備の段階において、Yは2年間にわたって倉庫の賃貸借契約を締結しており、実際に、Xが商品の保管等を委託しなければ、Yがその分を負担するという構造になっていた。2年間にわたる委託業務を前提とするものの、具体的に個別契約が締結されない限り、Yは本件基本契約に基づく業務を行うことはなく、他方で、Xもまたそれに対して何らかの費用等を支払う義務もないと考えられる。このことは、本件基本契約1条2項の文言からも導かれそうである。そうすると、本件基本契約からは、個別契約がなされない場合の費用(本件では倉庫の賃借に係る費用等)の負担リスクはY側が負うという内容の契約になっているということがわかる。もし、本件通知や出荷指示が本件基本契約の解約の申入れに当たると解したとしても、個別契約が締結されていないような場合には、違約金や残りの期間分の業務委託料の請求はできないということになる。第二に、本件通知や出荷指示により「個別契約」の解約の申入れに該当するのかという点はどうだろうか。実は、本判決において、裁判所は、この点については明確に否定していない。実際、今後、個別の取引は行わないという通知は、個別契約の解約の申入れとも評価できそうである。しかし、本判決は、Yの違約金や残りの期間分の業務委託料の請求を認めなかったのは、本件基本契約21条但書きは「個別契約で契約期間の定めがある場合」に限定して違約金等の請求を認めるものであったからである。今回の個別契約においては、少なくとも裁判所の認定事実によると「契約期間の定め」があったとはされておらず、「契約期間の定めのない」個別契約であったことを理由に、当該条項の適用が認められなかったものである。

(4)紛争を少しでも予防するために
それでは、本件を素材に、紛争予防としてどのような視点が重要なのだろうか。
第一に、本件では、本件基本契約を定めて物流サービス業務の委託が行われていたものの、個別契約については、本件基本契約4条1項があったにもかかわらず、実際には、個別契約が書面により締結されることはなかったようである。しばしば日本の取引実務において、契約書を取り交わすことがない場合もあると指摘されるⅳ。紛争の長期化を避けるためには、どのような条件で契約を締結しているのかを確認できるようにしておくことが重要であろう(本件基本契約4条1項の趣旨はそこにあったと考えられる)。
第二に、本件基本契約が、Yに個別契約不締結時の費用負担リスクを負わせるものになっていたものと思われるが、Yがそれをどこまで認識していたのかということも改めて考えても良いように思われる。ある程度、ひな形となっている契約条項を用いる場合、具体的な紛争が生じた場合に、どのような結論になるのかを意識しないまま利用しているケースもあるかもしれない。今一度、現在利用している契約条項を再確認し、例えば、本件のような事実が生じた場合、物流サービス業務を委託する側も、同業務を受託する側も、本件のX・Yを自社に置き換えて、どのような契約条項がより望ましいと考えるのか、またどのような対応をすべきであったのかを他山の石として利用することが、今後の紛争の予防にもつながるものと考えられる。

以上


【参考資料】
ⅰ 松井秀征ほか『商取引法』〔後藤元〕(有斐閣、2026年)362頁。
ⅱ 幾代通=広中俊雄編『新版注釈民法(16)』〔打田畯一=中馬義直〕(有斐閣、1989年)352頁以下は、有償寄託の場合につき同条を任意法規だと解している。
ⅲ 例えば、STOCKCREW「3PL契約の実務ガイド2026年版」<https://stockcrew.co.jp/insights/article_general_ec_3pl_contract>参照。
ⅳ 川島武宜『日本人の法意識』(岩波新書、1967年)113頁参照。

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