第556号 ロジスティクスEDI構想~日用品業界におけるメーカー・卸売業・物流事業者の協働推進活動~(後編)(2025年5月27日発行)
執筆者 | 上原 英智 株式会社プラネット 執行役員 セールス&サービス推進ユニット長 |
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執筆者略歴 ▼
*サカタグループ2024年3月15日開催 第27回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回株式会社プラネット 執行役員 ネットワーク推進担当役員 上原 英智 様の講演内容を計3回に分けて掲載いたします。
*前号(2025年5月15日発行 第555号)より
目次
- ASNデータのヴァージョン別データ設定方法
- ASNデータ1.0のデータ設定
- ASNデータ2.0の場面整理
- ASNデータ2.0のデータ設定
- ASNデータ ヴァージョン別のデータ設定項目
- 物流現場の情報をASNデータに付加する機能 ロジテラス(LGITERAS)
- ロジテラスの主な搭載予定機能
- 入荷検収データの運用イメージ
- 物流の適正化・生産性向上に向けた日用品メーカー自主行動計画
- 経産省事業:セブンーイレブン店舗向け共同配送センターへの納品データ電子化の実証実験
- ロジスティクスEDIの期待効果、経営インパクト
- ロジスティクスEDIの将来展望
ASNデータのヴァージョン別データ設定方法
話を戻しますと、「ASNデータ、ASNデータ」と言っていますが、今、日用品のメーカーさんと卸売業さんの間では、バージョンを1、2、3と定義付けをしています。一番簡単なものがASN1.0です。これは今お話した伝票レスを主目的にしますので、日別、出荷元別、納品先別に、いつ、どこからどこに、こういう製品がこの数量届きますという、本当に(出荷明細の)素の情報が通知されるものが、ASN1.0です。
ASN2.0になると、1.0の情報に加え、一番大きな違いは車両の括りのところです。先程言ったとおり、「この車両には、この製品群が積載されています」という括りのコード(車両識別コード)がついているのがASN2.0です。
さらに進んだものがASN3.0で、「この車両のこのパレットには何がいくつ載っています」というところまで分かるものがASN3.0です。ただ、今の日用品業界の中で、まだ3.0までは、ハードルが少し高いかと思っていますので、ASN2.0を中心に、今普及推進を進めているところです。
ASNデータ1.0のデータ設定
ASN1.0のデータ設定について、どのようなものか示したものがこちらの図表です。すごく簡単なのですが、①番の例は、「車両1台」で1メーカーさん分があります。「いつ、どこからどこに、この商品をこれだけの数量で持っていきます」という情報があります。出荷梱包番号の1番や2番のところが空白になっているのは、特に車両を括ったり、パレット単位にしたりというものが無いためで、情報としては空欄ということです。
②番の「複数車両」の例は、結果的に複数の車両になったとしても、メーカーさん側と言いますか、発側では、この車両に、これだけ載っているという数値を、とらまえられない状態があるので、「これだけは1日で持っていく」というところまでは決まります。しかし、結局、車両の手配の都合であったり、積んでみないと分からなかいこともあるので、そうした時には、このようなデータ設定になります。
ASNデータ2.0の場面整理
車両別のASN2.0に関しては、考え方が細かくあるのですが、ここでは省略します。これは私が全部整理したものですが、当初96パターンぐらいあったものを、4つのパターンに収れんしたものです。
ASNデータ2.0のデータ設定
まずはメーカーさんの単独拠点の例です。1つのメーカーさんの出荷拠点で、パターン1は1台の車で、1台の車の中に3パレット分載っています。車ごとの番号というイメージでいいかと思いますが、出荷梱包番号1番のところに「この車です」というコードが入っています。
パターン2は、複数車両になっており、メーカーBの部分が1号車と2号車で、それぞれこれだけの量があります。一番下に「出荷梱包番号1にセットする値は云々」と書いているのですが、ここはまだ標準化に至っていません。
というのは、GS1で物流に関するいろいろなコード体系を準備いただいていますが、GS1で考えている前提がほぼヨーロッパの基準となっています。「ヨーロッパの物流事情を考慮し、こういう運び方のときに、この集合包装用コードにはこういうコード体系の仕様がいいのでは」というものはあるのですが、日本国内の物流事情に合わせたときにピタッとくるものがまだ無い状況です。
「日用品業界で決めましょう」という話もありますが、それをやってしまうと、(日本独自の)ガラパゴス的な感じになります。これに関しては、今日の説明の冒頭であった「製・配・販連携協議会」(https://www.gs1jp.org/forum/)が、複数の業界にまたがっていますので、その中でワーキンググループを設けて、議論、検討していくのがよいのではないかと考えています。ですので、今ここの部分だけは、標準コードではなく、ローカルコードで動いているところですが、いずれは、きちんと決めなければいけないのです。
パターン3、パターン4は、複数メーカーさんの共同拠点です。1つの拠点から複数のメーカーさんの製品が出荷される場合の例です。この図表では、AというメーカーさんとBというメーカーさんの商品が1台の車両に載っています。この車両を特定するには、緑色の枠の「出荷梱包番号」で識別をして、梱包の内容は明細データを見るとわかるという流れになります。
パターン4は複数の車両になり、かつ、複数のメーカーさんの商品がトラックに載っています。この1号車にはメーカーさんAとBの分が載っていて、2号車にはC、D、Eのメーカーさんの商品が積載されているという形になります。
ASNデータ ヴァージョン別のデータ設定項目
少しシステマチックな資料ですが、今、お話ししてきたASNのバージョンの1.0と2.0、それから最後のASN3.0について、データのバージョンの見分け方に関しては、まず青文字で書いている出荷梱包番号1が入っているか、いないかという識別と、赤文字の出荷梱包番号2が入っているか、いないかという識別ですので、基本的にここを見て判別できます。
先程お話した「賞味期限管理は、ASNデータの利用により効率が上がる」という件、賞味期限情報はASNのバージョンが何であっても効果的に使えますので、いつでも入れていただいて結構です。当然、賞味期限管理をしない商品もありますので、その場合は△の印にしています。
物流現場の情報をASNデータに付加する機能 ロジテラス(LGITERAS)
今、お話ししたASNデータですが、商品の賞味期限情報や、ロット番号など、「この車両に載せました」という括りのコードなど、物流現場にある情報がASNデータに反映され、こうしたものが荷受け側である卸売業さんに届けられるというところが、一番価値が高まる部分かと思います。
しかしながら、メーカーさんのいわゆる物流に関する仕組みは、自社のWMSで管理していることもあれば、全て3PLにお任せして、物流事業者さんのWMSで管理しているところもあり、メーカーさんにより事情が大きく違います。日用品のメーカーさんでは、外部の3PL事業者さんにお任せしていることが多いので、ASNデータの基本情報は自分のところで作れます。
しかし、物流現場にあるような詳細な情報に関しては、メーカーさんは自分では作れないので、簡単に言うと、「それでは、両方プラネットの中でデータをドッキングさせて、価値ある情報にして卸売業さんに届けましょう」といった機能を、今までとは違う、「LOGITERAS(ロジテラス)」というサービス名で準備をしました。
ロジテラスの主な搭載予定機能
この「LOGITERAS(ロジテラス)」に、今後、物流に関するさまざまな機能を搭載していこうと考えています。
全部は紹介できないのですが、左上の「物流進捗状況の可視化機能」では、卸売業さんが発注して、確かにメーカーさんが受注しましたという段階や、製品をどの段階で出荷したのか、いつ出荷したのか、ということが分かります。
さすがにどこの高速道路を走っているのか、今どこにいるのか、というところまでは押さえられないのですが、荷受けがされたとか、きちんと入荷計上されたというところに関しては可視化できます。荷物を出した側は出した側の気になるポイントがありますし、待っている側は待っている側の気になるポイントがありますので、これをポイントポイントで可視化できるということは、有効ではないかと考えています。
1つ右に飛んで、「納品案内書や物品受領書の出力機能(PDF提供)」があります。これは大手のメーカーさんと大手の卸売業さんの間で、お互いにプラネットを通じてデータをやり取りすれば、EDIはできるのですが、中にはシステムの開発投資ができないというメーカーさんや卸売業さんがいます。
そこで、例えば、メーカーさんが「自分のお取引のある卸売業さん全てに対して、ASNデータを送信することで、伝票レスを実現したい」となったときに、システム開発投資ができない中小の卸売業さん向けには、簡易的にメールを利用したツールを作り、「ここから情報を取ってください」という形であれば、実現できると思いますし、逆方向の場合(卸売業さんからメーカーさんへの送信)も同じ方法でできると考えています。
下段に、「ユニット管理データ生成機能」と書いていますが、これはパレットやカゴ車など、いわゆるリターナブルな物流資材は、結局、製品と一緒に車両で運び、納品先へ行っているわけです。現在パレット伝票で管理をしているということなので、これを製品と同じレベルでデータ管理をすることで、こうしたパレット等の物流資材を管理することも、デジタル化できないかと考えています。
次にバース予約システムです。いろいろなところで導入されています。出荷側のお話を聞くと、例えが良いか分かりませんが、人気アーティストのライブチケットを取るような形で、とにかく早い者勝ちで、申込画面から入力しているそうです。こうしたところに関しても、アイデアとしては、ASNデータが複数あり、同じ日にこれだけの車両が行くのであれば、「こういう順番で車両をつけたら、一番効率的に荷を降ろして格納ができるのではないか」という情報を自動的に作成し確保するような、人がなんとかするというよりも、データに対して(AI等を利用した)+αの知恵で何かできるのではないかと思います。これは、まだアイディアベースですが、今後こういうところを目指して動いていきたいと考えています。
入荷検収データの運用イメージ
今、ずっとASNデータの話をしていたのですが、入荷検収データの運用イメージを入れました。基本的にはASNデータは、いつ、どこからどこへ、どのような製品が、どれだけ届くという情報ですから、それが到着したら、卸売業さんからは「確かに56ケース入荷しました」という情報を戻していただきます。
下の行は、「メーカーさんは90ケースと言っていましたが、72ケースしか届なかった」という時の例です。こういうことが頻繁に発生すると困りますが、返送するデータの書式はこういうイメージになります。
また、今、紙で管理している受領書は、メーカーさんまで戻っていないことが多いのです。物流の業務は、基本的に物流事業者さんにお任せしているので、今は物流事業者さんの方でこの紙を大量に保管しているということが、実態かと思います。監査等があると、メーカーさんから「いついつ迄に、この期間の受領書を準備してほしい」、という連絡が入り、そこで受領書を探すみたいな実情もありますので、この入荷検収データをメーカーさんだけに戻せばいいのか、物流事業者さんも見られる方がいいのか、ここは、これから業務設計をして、議論を行い、システム機能追加をしなければいけないところです。
今、ずっといろいろな取り組みの話をしてきましたが、次に、直近の情報をご紹介させていただきたいと思います。
物流の適正化・生産性向上に向けた日用品メーカー自主行動計画
昨年2023年10月に、政府から「物流革新緊急パッケージ」の発表があり、各業界で「自主行動計画」を作るように呼びかけがありました。これを受けてたくさんの業界・企業が昨年の年末に向けて、いろいろな交渉をしました。日用品業界のメーカーさんも、12月に取りまとめを行い(「物流の適正化・生産性向上に向けた日用品メーカー自主行動計画」:https://www.dei.or.jp/project/supplychain_kyogi/pdf/info-actionplan-202312.pdf)、内閣府のホームページ(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/jisyukoudoukeikaku.html)だったと思いますが、今はそこに各業界の「自主行動計画」が掲載されています。
経産省事業:セブンーイレブン店舗向け共同配送センターへの納品データ電子化の実証実験
それからこれはプレスリリースされたものですが、経済産業省の事業として、セブンイレブンさんの九州の共同配送センターに対して、複数の業界のASNデータをお渡しすることによって、荷受けの効率化が図れないか実証実験をしています。これに関しては日用品業界だけではなく、酒類、食品、菓子、加工食品業界のメーカーさんも協力をされました。
実験は2月に終わっていますので、いずれ公的な報告が上がってくると思います。これは「実施します」というときのプレスリリース(https://www.dei.or.jp/aboutdei/pdf/press/20240205.pdf)です。基本的には、セブンイレブンさんと日用品メーカーさんとの直接のお取引ではないので、帳合先の卸売業さんから注文が入り、その注文を受けて、納品はメーカーさんから直接持っていくことになります。メーカーさんとしては、流通政策上、直接セブンイレブンさんにデータを渡すということができませんので、基本的には、卸売業さんにデータを渡します。
これは日用品業界の例ですが、帳合先の卸売業さんからSIP基盤(納品伝票エコシステム)を通じて、セブンイレブンさんへこういった形でデータが行き渡るのです。このようなことを各業界で実証実験を実施したということですので、実装に関してはおそらくハードルがいくつかありますが、今後のことについては、こういった活動を、プラネットというよりも、日用品業界全体として、取り組んでいるところです。
ロジスティクスEDIの期待効果、経営インパクト
ロジスティクスEDIの現場的な効果については、先程からお話してきたところです。企業経営と言うと(インパクトが)大きいかもしれませんが、メーカーさんや卸売業さんが社会的に求められる役割に関しても、こうした取り組みによってインパクトがあると思います。
特に今は、「持続可能な社会をつくる」という、キーワードが出てきますし、ここには表示されていませんが、ESGというキーワード、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)ということで、株式公開企業であれば投資家の方々からの厳しい目も入ってきます。
このテーマに関して、様々な手を打たれているのが、いろいろなメーカーさんであったり、卸売業さんであったりするのですが、この物流に関する取り組みを、実施するということが大変大きなことかと思います。「物流リソース」という言い方が正しいかどうか分かりませんが、世の中にある倉庫やドライバーさんの数というのは無限ではなく、有限なのです。最後には皆で取り合いになるみたいな話になってしまいますが、そういうことではなく、「限りある物流のリソースを皆さんで共有して使っていくには、どうしていくことがよいのだろうか」と考えることが「協調物流」というキーワードになるのではないかと考えています。
ロジスティクスEDIの将来展望
「共同物流から協調物流へ」とありますが、今、日用品業界の中で、共同保管、共同配送を実施している拠点が、全国で6か所位あります。ただ、共同保管、共同配送に向いている特定の条件というものが、恐らくあると思います。
加工食品業界のF-LINE(https://www.f-line.tokyo.jp/company/map/)さんは、北海道と九州で共同物流をされています。先程申お話したように、日用品も北海道と九州では、十数社で共同物流を実施しているということなので、エリア特性など、向く、向かないというのがあると思います。それでは、将来、どのように進んでいくのかと言いますと、本日お話ししたように「ロジスティクスEDIで物流領域のデジタルデータ化を進めていく」ということに取り組んでいます。
物流のテクノロジー、いわゆるロボットやAIなど、新しい技術をどんどん使っていきましょうという部分と、どこまでいっても物流はリアルなものですから、業務オペレーションの改善、こうしたものを組み合わせることで、次世代の「協調物流」、1つステージが上がったような物流の世界というものが築けるのではないかと考えています。
例えば、「ある物流センターに、今日はこれだけの台数の、これだけの製品が届けられます」というデータが、あらかじめ分かっていれば、「このメーカーさん(のトラック)は、こういう順番で、何時につけると、こういう形で(積荷を)降ろせますよ」という形で、みんながハッピーになります、ということです。
空港で「次の便、降りてください」みたいに、指示を出す管制塔がありますね、ああいう管制塔の機能が産業界の中にあると、情報だけでなく物流の実体、実情も踏まえた上で、「このメーカーさんは、こういう順番で、(トラックを)何時につけると、こういう形で降ろせますよ」みたいに指示を出すような、(物流と情報流の)コントロールタワーのような役目を果たすものが世の中にあると、(次世代の「業界協調配送の実現」により、)ハッピーになるのではないかと考えています。
私の話は以上でございます。長時間ご清聴いただきまして、どうもありがとうございました。
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