ロジスティクス・レビュー

第88号「物流ネットワーク再構築」に於ける課題とアプローチ(2005年11月24日発行)

執筆者 松川 公司
三菱化学エンジニアリング株式会社  部長代理
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1993年 三菱化成株式会社(現三菱化学)入社
    • 1995年 三菱化成エンジニアリング株式会社
          (現三菱化学エンジニアリング)へ出向
           化学プラントの設計・建設に従事
    • 1999年 流通システム事業部(現生産・ロジスティクス事業部)へ異動
    • 2000年 エミュレーションセンターへ異動
           物流・生産拠点の設計及びコンサルティングに従事
    • 現在に至る
    所属
    • 三菱化学エンジニアリング株式会社
      技術本部 システム設計部 エミュレーションセンター 部長代理
      http://www.i-emu.com/
    主な資格
    • 物流技術管理士
    主要著書・論文
    • 図解 ロジスティクスマネジメント(東洋経済新報社)
    • 流通ネットワーキング 2002年8月号「最先端物流センター構築法“エミュレーションエンジニアリング”」
    • 流通ネットワーキング 2003年12月号「エミュレーションエンジニアリングを活用した物流センターリニューアル法とその事例」
    • 日本OR学会 2005年春季研究発表会,実務者から見た「ロジスティクスネットワーク設計」のニーズと課題

目次

1.はじめに

  現在、多くの企業が物流コスト低減を目指し、あらゆる物流改善、改革に取り組んでいる。しかし企業の宿命であるサービスレベル維持・向上とのトレードオフ問題に必ず直面する。中でも物流ネットワーク(図1参照)再構築は経営に大きな影響を与え、かつ比較・検証すべき事象が余りにも多く存在する。
  本レビューでは、この物流ネットワーク再構築に於ける課題と効果的アプローチについて紹介する。

2.物流ネットワーク再構築の現状と問題点

2-1.「物流ネットワーク再構築」の現状
  近年、多くの企業が活発に物流拠点再編へ取り組んでいる。各社がフレームワークにまで踏み込む主たる原因は、物流拠点単体での取り組みが限界を迎えているからであり、その背景にはより高いレベルのスピード化、ローコスト化要求が存在する。
  我々のコンサルティング経験から、これら物流拠点再編の目的は次の4ケースに大別される。
  (1)拠点統廃合
  (2)サービス向上・競争力向上
  (3)売上拡大対応
  (4)リスク対策

  (1)拠点統廃合は、企業間、事業部間の合併に伴う重複拠点の統廃合、業務の外部委託や交通網発達による拠点集約などが要因である。(2)サービス向上・競争力向上は言うまでもなく更なるリードタイム短縮や、顧客の多様なニーズへの対応である。(3)売上拡大対応は、新規顧客開拓や、売上増加による営業強化対策である。そして近年の時勢を反映した(4)リスク対策がある。これは災害などによる物流機能ダメージの軽減が目的であるが、各社真剣に取り組み始めたばかりである。
  従来から物流には外的要因が付き物であり、戦略的な意志決定が難しいとされてきたが、昨今の物流に対する意識変化からすれば、この様な取り組みの重要性は言うまでもない。

2-2. 「物流ネットワーク再構築」の問題点
  その一方で、物流ネットワーク再構築の取り組み状況は決して十分ではない。課題は大きく下記3点があげられる。
  (1)現状分析に必要なデータが揃っていない
  (2)意志決定の為に必要な数字根拠が無い
  (3)再構築の検討ルール(タイミング、基準、責任部署)が設定されていない

 その結果、下記問題が発生する可能性がある。
  (1)場当たり的な対応を繰り返す
  (2)間違った経営判断を行う
  (3)潜在問題に気づかず、無駄なコストを生み続ける

  つまり、多くの企業は物流ネットワーク再構築の必要性が有るにも関わらず、対策が適切でない、若しくは具体的取り組みが分かりづらい状況にあると言える。ここにまだ物流改善の大きな余地が残されている。

3.物流ネットワーク設計の取り組み

3-1.物流ネットワーク設計の手順
  物流ネットワーク再構築は比較・検証すべき事象が余りにも多く存在し、手計算どころか、表計算アプリケーションの様な汎用ツールも実用的でない。弊社では拠点ネットワーク設計最適化システムを使用してレスポンスの良いコンサルティング業務を目指している。
  設計の取り進め手順は次の通りである(図2参照)。

    (1)現状把握
    (2)現状分析
    (3)検討モデル作成
    (4)シミュレーション
    (5)実行計画
  必要となる工期は、1ヶ月〜3ヶ月が一つの目安である。

3-2.最適化シミュレーションの入出力関係
  最適化シミュレーションに必要な前提条件は下記の通りである。
  (1)工場・物流センター固定費、変動費、在庫費
  (2)輸配送費
  (3)顧客需要量 など

  また、制約条件は下記の通りである。
  (1)物流拠点供給可能量上限
  (2)リードタイム制約 など

  これらのデータ入力後、物流費最小を目的関数とし最適化計算を行う。ここで考慮する物流費とは、固定費、変動費、在庫費、輸送費、配送費の合計値である。
  シミュレーションの結果、下記の様な解を得る。
  (1)どの物流拠点を閉鎖、集約するか
  (2)どこに物流拠点を新設するか
  (3)マーケットテリトリーをどう再編するか など

  このシミュレーションの重要な点は、多くの事象をコスト及びサービス充足率の2つの数値で評価・比較することにある。これらは明瞭且つ客観的な意志決定の為には必要不可欠な情報である。また、何らかの制約でベストケースを選択出来ない場合、代替案であればどれだけの影響があるかを事前に把握しておく事は、交渉上極めて重要なポイントとなる。

4.課題と解決策

4-1.データ管理の課題と対策
  ところが、現実の設計は理想的に進行していない。最大の阻害要因となるのは、現状分析に必要なデータが揃っていない事である。「自社運用の全てのデータは揃っている」としても、下記のような問題が発生する。

  (1)委託会社の作業実態を把握出来ていない
  (2)現状のサービスレベルは顧客の生の声か(営業の声ではないか)

  重要なのは、意志決定を行う上で「設計に必要な数字とは何か」を明らかにし、「意味のある数字を入手する仕組み」の構築である。情報システムの発展であらゆる情報の入手が可能な今日ではあるが、運用管理面だけでなく、戦略的意志決定へ向けた取り組みも必要である。

4-2.マネジメントの課題と対策
  次にマネジメント面での課題であるが、一度の再構築で全て片付く訳ではなく、常にPDCAを回す必要がある。ところが再構築の見直し検討ルールが設定されていないケースが多く見受けられる。つまり見直すタイミング、基準、責任部署の設定がなされていないのである。庫内作業の問題は可視化され易く比較的捉えやすいが、フレームワークの問題は顕在化されにくい上、単独部署だけで片付けられる問題ではない。故に上記3ルールを設定し常にPDCAを回す仕組みづくりが重要である。

5.最後に

  物流ネットワーク再構築問題は広く深いテーマであり、本レビューの提案もその一部分にすぎない。また、昨今の市場変化を鑑みても、益々重要なポジションを占めていくと思われる。本アプローチが活用され、更に物流改善が進む事に期待したい。

以上



(C)2005 Masashi Matsukawa & Sakata Warehouse, Inc.


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