| 執筆者 | 田中 康仁 大阪商業大学 総合経営学部 教授 |
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執筆者略歴 ▼
目次
- 1.はじめに
- 2.ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配輸送網
- 3.将来の宅配需要の推計と宅配輸送網の検証
- 3.1 2050年の宅配需要の推計
- 3.2 大手物流不動産の立地動向
- 3.3 p-median問題による共同利用の可能性
- 4.おわりに
1.はじめに
前回(第564号、2025年9月16日)では、物流施設の配置問題、とりわけp-median問題を用いた最適配置の考え方と、その解法を支えるソルバー技術の進展について言及した。約20年前は計算上の制約から扱いが困難であった大規模問題も、現在では比較的容易に解くことが可能となっている。この点は、OR(Operations Research)との親和性が高い物流分野における分析可能性を大きく拡張したと言える。
こうした状況を踏まえ、本稿では近畿圏という広域エリアを対象として、宅配便の輸送ネットワーク(以下、宅配輸送網)の観点から物流拠点の配置について検討する。 なお、以下の3つの視点を踏まえ、将来的(2050年)な人口分布の変化を考慮したうえで、物流不動産を共同利用した場合の効果を検証する。 1)宅配需要の増加
現在、宅配便の取扱個数は年間50億個を超えており、今後も増加が見込まれる。みずほ銀行(みずほ産業調査 Vol.70)の推計によれば、2050年には現在の2倍以上となる約110億個に達すると予測されている。宅配便の取扱個数が約25億個であった2001年時点では、ヤマト運輸(33.0%)、佐川急便(24.6%)、日本郵便(5.7%)の3社の市場シェアは63.3%であった(ヤマト運輸 Annual Report 2009)。これに対し、2023年には3社で95.2%(ヤマト運輸46.7%、佐川急便27.9%、日本郵便20.5%)に達している。こうした大手3社による寡占構造が継続すると仮定すれば、各社は現状の2倍以上の取扱個数に対応可能な宅配輸送網を構築する必要がある。 2)人口分布の変化
国立社会保障・人口問題研究所の『日本の地域別将来推計人口』(令和5(2023)年推計)によれば、近畿2府4県の人口は2020年の約2,056万人から2050年には約1,650万人まで減少する見込みである。府県別では和歌山県(31.5%減少)、奈良県(28.2%減少)の減少率が高いが、人口減少の程度はより細かな地域単位で異なる。宅配需要は人口と強い相関を有するため、人口分布の変化に対応した宅配輸送網の再構築が求められる。 3)物流拠点の共同利用
物流施設の新設・更新には多額の投資を要することから、近年では自社保有に代えてGLPやプロロジスなどの大手物流不動産を活用する企業が増加している。また、物流資源の共同利用を志向するフィジカルインターネット(Physical Internet)の概念も浸透しつつあり、企業間で物流拠点を共有する環境が整いつつある。
2.ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配輸送網
宅配便市場において高いシェアを有するヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社を分析対象とする。
分析にあたっては、宅配需要の分布の把握が重要である。一般に、宅配需要は人口と正の相関関係にあるとされる。そこで、国土数値情報(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-mesh500h30.html)より取得した500mメッシュ人口データを用いる。これらのデータはGISでの利用を前提として整備されており、2018年を基準年として2020年から2050年まで5年刻みで提供されている。近畿圏の総メッシュ数は40,286ゾーンである。図1は、500mの人口メッシュの分布を示したものであり、空白部分は人口無しのゾーンである。

宅配企業によって細部は異なるものの、宅配輸送網は一般に、多数の荷物を効率的に処理・配送するため、上位拠点(Center)と下位拠点(Depot)からなる階層構造(図2)によって構成されている。この構造は、いわゆるハブ&スポーク型であり、広域輸送と地域配送の機能分担により全体最適を実現している。
まず、上位拠点であるCenterは、輸送ネットワーク全体を支える中核的な役割を担う。各地域から集められた荷物はCenterに集約され、配送先エリアごとに仕分けされる。Centerは都市間を結ぶ長距離輸送の結節点として機能し、トラック単位での幹線輸送により高い積載効率を実現している。また、荷物を保管せずに迅速に次の輸送へ振り分けるクロスドッキング機能を備えており、輸送時間の短縮にも寄与している。すなわち、Centerは広域をつなぐ集約・中継拠点である。
一方、下位拠点であるDepotは、顧客に最も近い場所に位置する地域密着型の拠点である。Centerから送られてきた荷物はDepotで配達ルートや担当ドライバーごとに仕分けされ、各家庭や事業所へ配送される。つまり、Depotはラストマイル配送の起点として機能している。また、地域内の集荷業務も担い、集められた荷物は再びCenterへと送られる。さらに、再配達対応や持ち込み受付など、顧客との接点としての役割も果たしている。
このように、Centerが広域輸送における集約・中継を担い、Depotが地域配送における集荷配送を担うことで、宅配輸送網は効率性とサービス水準の両立を実現している。
図3は、ヤマト運輸の宅配輸送網を示したものである。階層構造の上位層であるCenter(■印)は11か所、下位層であるDepot(●印)は267か所である。人口メッシュ上に重ねて表示している。Depotが担当する人口は、ボロノイ分割により求めた。ボロノイ分割とは、各拠点に最も近接する領域を割り当てる手法であり、距離に基づいて担当エリアを決定する方法である。これを宅配のDepotに適用すると、各Depotに最も近接するメッシュを当該拠点の担当エリアとして区分することができる。Depotが担当する平均人口は76,403人(標準偏差52,547)であった。また、各Depotを最も近接するCenterが担当すると仮定した場合、各Centerが担当する平均人口は1,854,516人であった。なお、CenterとDepotの平均距離は15.4kmである。
日本郵便のDepotは、郵便業務に加えて金融窓口業務も担っているため拠点数が多く、公共性の観点から比較的均等に配置されている。その結果、ヤマト運輸と比較してDepotが担当する平均人口は小さい一方で、標準偏差は大きく、宅配輸送網の効率性の観点では非効率といえよう。
3.将来の宅配需要の推計と宅配輸送網の検証
既に述べたように、2050年にかけて人口が減少するのに対し、宅配便の取扱量は倍増すると予測されている。そうした状況下、宅配3社が物流不動産をCenterとして共同利用した時の効果を検証したい。なお、検証にあたっては、p-median問題を適用する。
3.1 2050年の宅配需要の推計
2023年の3社の宅配便のシェアと2050年の宅配便の予測値をもとに、各社の年間一人あたりの取扱個数を推計すると、ヤマト運輸は51.0個、佐川急便は30.5個、日本郵便は22.4個と推計される。
次に、各社のDepotの数および配置は現状と同一と仮定し、将来人口メッシュから各Depotの担当人口を算出し、これに上記の取扱個数を乗じることで需要量を推計する。さらに、各Depotから最も近接するCenterに貨物を集約すると仮定し、積算することで各Centerの取扱個数を算出する。なお、Centerの数および配置も現状と同一と仮定している。
その結果を示したものが表1である。各社とも、2020年比で2050年には宅配便の取扱個数が200%を超える結果となった。特に、ヤマト運輸では243.3%と最も高い増加率を示している。また、宅配貨物量と距離の積(千個×km)は輸送活動量を示す指標であり、いわゆるトンキロに相当する。
3.2 大手物流不動産の立地動向
近年、EC市場の急速な拡大に伴い、消費地に近接した都市部における物流需要が増加している。従来は高速道路沿線や港湾部に立地する傾向が強かった物流施設に加え、都市近郊にマルチテナント型の物流不動産が立地するようになってきた。
写真1(筆者2025年9月撮影)は、2025年8月に竣工したGLP ALFALINK茨木であり、大阪・京都・神戸を含む京阪神都市圏の中心部を30分圏内でカバーする中核拠点として機能している。大阪府茨木市に立地する関西最大級の次世代型物流施設であり、総延床面積は約32万㎡(3棟合計)である。首都圏のみならず、京阪神都市圏においても、このような大規模物流不動産の立地が進展している。図6は、京阪神都市圏における大規模物流不動産の立地状況を示したものである。

3.3 p-median問題による共同利用の可能性
将来的な宅配需要の推計結果を踏まえ、フィジカルインターネットの観点から、大規模物流不動産を共同利用した場合の効果について検証する。
図7に示すように、現状(2020年)では各社が自社のCenterを用いてDepotからの貨物を集約しているが、2050年においては大規模物流不動産を共同利用することを想定する。なお、本来であれば、施設容量の制約や周辺道路の混雑状況などを考慮する必要があるが、本分析ではこれらの制約は考慮しないものとする。
解法にはp-median問題(p-median問題の詳細については、前回の第564号(2025年9月16日)のロジスティクス・レビューを参照されたい)を適用する。すなわち、CenterとDepot間の輸送活動量(需要量×距離)が最小となるようにCenterの数および配置を決定する問題として定式化する。
表1に示したとおり、2050年における宅配需要の推計の結果、ヤマト運輸の輸送活動量は9,643,697(千個×km、以下同様)、佐川急便は7,091,940、日本郵便は3,809,831であり、3社合計では20,545,468となる。各社のDepot数はヤマト運輸267、佐川急便43、日本郵便424であり、これらを需要点とし、Centerの候補は図6に示す43か所の大規模物流不動産とした。
この条件のもとで、43か所の候補から10か所(p=10)を選択するp-median問題を解いた結果、輸送活動量を約4割削減可能であることが明らかとなった。また、ソルバー技術の進展により、近畿圏規模の問題も実用的な時間内で解くことが可能となっている。
4.おわりに
本稿では、人口減少と宅配需要の増加という環境変化を踏まえ、宅配輸送網の再設計の必要性を示した。特に、将来の需要分布に基づき、p-median問題を適用することで、輸送活動量の最小化という観点から物流拠点配置の有効性を定量的に評価した。その結果、大規模物流不動
また、フィジカルインターネットの観点からは、企業間で物流拠点を共同利用することにより、従来の個別最適から全体最適への転換が期待される。本稿の分析結果は、こうした共同化の取り組みが輸送効率の向上に寄与する可能性を示唆するものである。
今後の課題としては、物流施設の処理能力制約や周辺交通条件、さらには企業間の運用ルールといった実務面を考慮する必要がある。
本研究は、一般社団法人フィジカルインターネットセンターの研究助成を受けて実施したものである。ここに記して謝意を表する。
以上
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