執筆者 長谷川 雅行(一社)日本物流資格士会 顧問 執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 本論文は、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。 目次 1.はじめに 2.女性に優しい物流センター 3.高年齢者に優しい物流センター 1.はじめに (1)物流センターと人材確保最近の業界動向をみていると、物流不動産(物流REIT)による大型物流施設(物流センターなど)が各地で開発されている。従来の首都圏・近畿圏・東海圏から東北・中国へ、そして最近は、半導体関連で九州・北海道にも広がっている。とくに、流通加工などを伴うフルフィルメントセンター(FC)・プロセスセンター(PC)では、パートタイマー・アルバイト(以下、「パート」「バイト」と略す)などの有期の短時間労働者を多く雇用することから、地方自治体にとっては貴重な雇用機会の創出機会(ひいては住民税等の増収)でもあり。これまでの工場誘致以上に誘致合戦を繰り広げている。千葉県流山市のように、「物流立国」ならぬ「物流立市」によって、「雇用の増加→税収拡大→子育て支援策の拡充→子育て世代の流入による人口増」という好サイクルを遂げている例もある。古い話で恐縮であるが、2013年4月のアマゾンジャパン小田原FC開所式には、小田原市長が参列して進出に対する謝意を述べている(同FCによって、1000人超の小田原市民の雇用機会が生まれたとされている)。しかし、最近のように各地で物流センターが増加すると、そこではパート・バイトなどの雇用が難しくなり、テナント企業間での求人競争も目立つようである。なかには、テナントが大家の物流不動産に対して「入居条件に『パートを集めやすい』とあったが、集まらない。何とかして欲しい」と要望し、物流不動産がパートを集めて提供し、職業安定法(職安法)違反に問われた例もある。物流不動産側もテナント獲得競争が激化し、「ウチでパートも集めますヨ」という例もあるようだ(人材紹介会社を「紹介」するのは合法であるが、物流不動産が有料職業紹介事業を行うのは「職安法」違反である)。(2)多様化する物流センター人材と労務管理の難しさ上記、物流不動産による大型物流施設開発などで、物流センターの規模が大きくなって、物流センターの従業員数が増えること、さらには、労働力不足の進展により、従来の女性中心のパート・アルバイトから、高年齢者・障害者・外国人など、人材が多様化する傾向にある(その就労実態は、以下の各項目を参照願いたい)。まさに物流センターは、D&I(Diversity & Inclusion 多様性と包摂性)を象徴する場になっていると言ってよい。筆者は、リスクマネジメントの講義のなかで、「(物流・ロジスティクスにおける)組織内部のリスク=内なるリスク」として、①コンプライアンス、②BCP、③取引先の経営破綻・与信管理、④車両・施設の故障、⑤ヒューマンエラー、⑥外部委託先管理、⑦顧客対応、➇セキュリティ(施設管理上など)、⑨情報セキュリティ、⑩労務・人事、⑪その他(不正など)を挙げて説明している。このうち、「⑩労務・人事」上のリスクとしては、関係法令(通称)などとともに、次のようなことを列挙している。・パワハラ・セクハラなどの各種ハラスメント、メンタルヘルス=ハラスメント法 労安法・女子労働=女子労働基準規則 男女雇用機会均等法 パート・有期雇用労働法・年少者労働=年少者労働基準規則(18歳未満、貨物の重量制限等)・障害者雇用=障害者雇用促進法・高年齢者雇用=高年齢者雇用安定法・外国人労働者=入国管理法 外国人雇用届出など・最低賃金=最低賃金法・労働組合=労働組合法・社会保険=健康保険法・雇用保険法・厚生年金法・労働保険法・介護保険法・自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)・労働環境の整備(休憩施設・女子用施設)物流センターでは、①雇用区分では正社員・契約社員・準社員・臨時社員(各社で呼称は異なる)はじめ、パート・バイトの短時間有期労働者、派遣労働者など②上記のリスク関連では、女子労働・障害者雇用・高年齢者雇用・外国人労働者などのように、様々な人材が一緒に働いている。「働き方改革」で改正された「同一労働同一賃金」(パート・有期雇用労働法)に象徴されるように、賃金や処遇を巡っての不服・不満を内在していることも想定され、物流センター長など現場第一線の管理監督者には、気苦労が絶えない。そこで、働く人々にとっての「人に優しい物流センター」とは、どのようなものであるか考えて見たい。なお、ここでいう「物流センターは」、営業倉庫・保管庫・上屋・物流センター・商品センター・配送センター・FC・DC・TC・PCなどの名称を問わず、入荷・入庫・保管・ピッキング・流通加工・検品・梱包・出荷・情報処理などを行う物流施設を指す。 2.女性に優しい物流センター ご存知のように、今や、「女子労働」(厚労省による)なくしては、物流センターの業務は遂行できない。総務省労働力調査では、倉庫業では2021年には女性の比率が42.6%と高く、ピッキング・流通加工などの軽作業も多いので、パートタイム労働者を中心に、倉庫作業従事者で37.3%、荷造従事者で68.1%と、女性比率が高くなっている。「女子労働」については、かつては労働基準法の女子労働基準規則(通称「女子則」)で、「深夜労働の禁止」等が定められていたが、上記「男女雇用機会均等法」等により緩和された。現行の女子則のうち、物流センター業務に関連する規定は、以下の通りである。第2条労働基準法第64条の3第1項の規定により妊娠中の女性を就かせてはならない業務は、次のとおりとする。1.表の左欄に掲げる年齢の区分に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる重量以上の重量物を取り扱う *画像をClickすると拡大画像が見られます。 (注1)2項以下は省略するが、「つり上げ荷重が5トン以上のクレーン若しくはデリック又は制限荷重が5トン以上の揚貨装置の運転の業務」も、妊婦や産後1年の女子には就業制限がある。筆者は、最近では港湾でのコンテナターミナル荷役に使われるガントリークレーンも、事務所棟からの遠隔操作が可能な機種もあり、労働環境が改善されていることから、大型クレーン運転業務について画一的に女子の就業制限をするのは如何なものかと思う。(注2)また、「多量の低温物体を取り扱う業務」「著しく寒冷な場所における業務」も、妊婦や産後1年の女子には就業制限があるので、冷蔵・冷凍倉庫(低温の物流センター)などでの就業には留意する必要がある。(注3)18歳未満の女性については女性労働基準規則(女子則)と年少者労働基準規則(年少則)の両方の適用を受ける。ただし、上表以外に、「職場における腰痛予防対策指針」(2013年)では、「重量物を取り扱う作業を行わせる場合」において、事業者は、「満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね40%以下となるように努めること。満18歳以上の女子労働者では、さらに男性が取り扱うことのできる重量の60%位までとすること」と女性保護が示されている。物流センターの施設整備(トイレ・更衣室・休憩室など)については、パート確保の観点からも改善が進み、物理的にはオフィスどころからホテル並みのものもあるので、以下の表に止めることにする(ハード面では整備されたが、「使用」「運用」というソフト面では、改善余地があるかもしれない)。 図表1 物流施設内の労働力不足への対策 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 (出所)中央職業能力開発協会編「ビジネス・キャリア検定ロジスティクス分野『ロジスティクス管理3級』テキスト」 女子労働に限らないが、パートについても触れたい。パートを雇用する際に遵守しなければならないのが、パートタイム・有期雇用労働法(2020年4月施行。2021年4月からは中小企業にも適用)である。「パートタイム労働者」とは、同法では「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」と定められており、雇用する際のパート・バイト・嘱託・契約社員・臨時社員・準社員という区分は関係なく、正社員より労働時間が短ければ、すべて「パートタイム労働者」となり、同法が適用される。企業側がパートを雇うメリットとしては、「業務量などに合わせて人員確保できる」「人件費を抑制できる」「正社員の仕事をパートに振ることで、正社員の生産性が上がる」などがある。一方、デメリットとしては従業員の入れ替わりが多く「長期的な人材育成が難しい」などがある。同法では、パートを雇用するときには、書面(雇用契約書・労働条件通知書など)で労働条件を明示することを企業に義務付けている。明示しなければならない労働条件は、以下の11項目である。①契約期間 ②有期契約の場合は更新の基準 ③就業場所 ④業務内容 ⑤労働時間 ⑥賃金 ⑦退職に関する事項 ➇昇給の有無 ⑨退職手当の有無 ⑩賞与の有無 ⑪相談窓口(➇~⑪の4項目は、同法に独自の項目)また、2024年10月以降、従業員51人以上の企業では、週に20時間以上働き、年収106万円以上の主婦パートなどは健康保険(協会けんぽ)・厚生年金の加入対象になった。厚労省は社会保険の加入条件について、賃金要件と企業規模要件を撤廃して、従業員5人以上の飲食・理美容・宿泊などの事業においても全面加入を目指している。労使折半の健康保険料・厚生年金保険料については、一定の収入までは使用者側に折半以上の保険料を課すなどを検討している(昨今話題となり、2025年には改善されると思われる「年収の壁」については、別途ご報告したい)。同法は、正規従業員と非正規従業員の不合理な待遇の差をなくすことが目的の一つであり、いわゆる「同一労働同一賃金」も規定されている。具体策としては、「待遇に不合理な差をつけてはいけない=均等待遇」「待遇差(=均衡待遇)についての説明義務」「行政ADR(裁判外紛争解決手続)の対象」が定められている。均等待遇には、雇用後の教育・訓練等も含まれている(「同一労働同一賃金」の詳細は、2019年10月10日「第421~423号 働き方改革関連法改正と実務的対応(その2)」を参照されたい )。 3.高年齢者に優しい物流センター (1)高年齢者の雇用(本稿では、メディア等で使われる「高齢者」ではなく、後記の法律名に従い「高年齢者」を使用する)少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者雇用安定法」が一部改正され、2021年4月から施行されている。主な改正の内容として、事業者には、「70 歳までの 定年の引上げ」「定年制 の廃止」「70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入」など、いずれかの措置を講ずるよう努力義務が課せられた。雇用者全体に占める60歳以上の高年齢者の割合は、2023年で18.7%と2割近い。物流センターなどを見学しても、各所で高年齢者を見かけることが多い。厚生労働省の「令和5(2023)年高年齢労働者の労働災害発生状況」などによれば、以下の通りである。高年齢者の就労が一層進むなかで、労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者(高年齢労働者)の占める割合は29.3%と、全死傷者数の約4分の1を占めているほか、絶対数でも39,702人と4万人近く、年々増加傾向にある。労働者千人当たりの労働災害件数をみると、30歳代と比べ、60歳以上では男性で約2倍、女性で約4倍と相対的に高くなっている。また、高年齢労働者の労働災害事例では、「事業所構内で、同僚が運転するフォークリフトと衝突し、後遺障害を負った(男性60代」「倉庫の段ボールにつまずき転倒し大腿骨を骨折。3カ月休業(女性60代)」などがある。「墜落・転落」「転倒」が多く、年齢が上がるにしたがって「休業見込み期間」が長期化するのが、高年齢者の労働災害の特徴ともいえる。千葉県・柏労働基準監督署のように、「物流需要の高まりを受けて(同署)管内では倉庫・物流センターが急増するに伴い、物流センターでの労働災害も多く発生している」として、「物流センターの労働災害防止」パンフレットを作成・配布しており、そのなかでも「プラスα」として「高年齢労働者の労働災害防止に取り組んでいますか」と強調している。(2)高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン高年齢者が安心して安全に働ける職場環境の実現が求められ、厚生労働省では「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(2020年)を打ち出している。また、中央労働災害防止協会では「高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト」を作成・配布している。 図表2 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」別紙 […]