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第579号 ビジネススクール(専門職大学院)におけるロジスティクス教育 関西学院大学経営戦略研究科の事例 (2026年5月14日発行)

執筆者 伊藤 秀和 氏
関西学院大学 商学部 教授

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1974年岐阜県生まれ。
    • 2003年筑波大学大学院修了、博士(社会工学)
    • 関西学院大学商学部専任講師・准教授を経て、2011年より現職
    • 主な業績に “Regions and Material Flows: Investigating the Regional Branching and Industry Relatedness of Port Traffics in a Global Perspective,” with Cesar Ducruet, Journal of Economic Geography, Vol.16, Issue 4, July 2016, pp.805-830
    • “Density economies and transport geography: Evidence from the container shipping industry,” with Hangtian Xu, Journal of Urban Economics, Vol.105, May 2018, pp.121-132 など。
    • URL:http://www.hidekazuito.net/

 

目次

  • はじめに
  • ビジネススクールの概要
  • 「ロジスティクス」の内容
  • おわりに
  • 図形一覧
  •   

    はじめに

     本稿は、2025年9月12日に近畿大学東大阪キャンパスにおいて開催された「日本物流学会第42回全国大会」のパネルディスカッションにおいて、筆者が話題提供した、関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科(通称IBA:Institute of Business and Accounting)における「ロジスティクス」(授業科目名)の授業内容や科目の位置付けを纏めたものである。なお、筆者が所属する関西学院大学商学部(および商学研究科)における交通・物流・ロジスティクス・SCM関連科目の授業内容やその位置付けについては、2024年5月17日に開催された「日本物流学会創立40周年記念関西部会シンポジウム」において話題提供を行った。特に、本学商学部においては、当該関連科目が「マーケティング・コース」の専門科目(選択必修)として開講されていることから、マーケティング・コースの他の専門科目との関係や、マーケティング分野において物流・ロジスティクスを学ぶことの意義等について紹介した。同報告の詳細については、伊藤(2012、2013)を参考にされたい。また、欧米大学(大学院)のロジスティクス教育の近年の特徴と国内大学のロジスティクス教育の(特に伊藤(2012)からの10年間の)変化については、同じく伊藤(2022)を参照されたい。

    ビジネススクールの概要

     本学経営戦略研究科(以下IBA)の開学経緯について紹介する。IBAは、2005年4月に開学し、2025年で満20年が経過した。この前身は、1993年に開設した商学研究科のマネジメント・コース、いわゆる社会人向けのイブニング・スクールと、商学部・商学研究科の会計教育であり、これらを発展させ開学した。IBAは、ビジネススクールとアカウンティングスクールで構成され、ビジネススクール(経営戦略専攻)には、企業経営戦略コース(定員70名)と国際経営コース(定員30名、英語で授業を実施)、そしてアカウンティングスクール(会計専門職専攻、定員50名)の3つのコースを有する。IBAは、教育訓練給付金、具体的に、ビジネススクールでは専門実践教育訓練給付金、アカウンティングスクールでは一般教育給付金、の対象講座に指定されているため、近年でも比較的、志願者が多いのが現状である。
     企業経営戦略コースは現在、7つのプログラムを開設している。開学当初は、5つのプログラム、すなわち、経営、マーケティング、ファイナンス、テクノロジー・マネジメント、アントレプレナー・事業継承で構成されていた。近年、自治体・医療・大学経営、そして、2020年度に開設の中小企業診断士(登録)養成(課程)が追加された。特に、中小企業診断士(登録)養成(課程)(以下、中小企業診断士養成プログラム)は、中小企業診断士の第一次試験合格者(定員16名)を対象に開講されている。後述する、筆者が担当する「ロジスティクス」も、企業経営戦略コースのアドバンスト科目(2単位)としてだけでなく、中小企業診断士養成プログラムのスペシャル講座(単位なし)としても開講されている。
     企業経営戦略コースの特徴としては、コア科目群(10単位)、ベーシック科目群(10単位)、そして、アドバンスト科目群(18単位)の3つの科目群で構成されている 。また、課題研究の6単位が必修となっており、修了必要単位数は合計44単位である。なお、中小企業診断士養成プログラムにおいては、すべての科目が必修科目に位置付けられるが、2年間で専門職学位と同資格が取得可能なように開講科目が設けられている(専門職学位プログラムの科目が中小企業診断士養成プログラムの指定科目として認められる、「ロジスティクス」を含む一部の科目のみスペシャル講座(単位なし)として提供) 。なお、通常のカリキュラムと異なり、中小企業庁による標準モデルに従い、学習順序に沿って学生が各テーマを履修できるよう構成されている。表1は、中小企業庁が定める研修テーマとその学習順序が示されているが、各テーマをこの標準学習順序に基づき開講し、学生は同じく履修・習得する必要があり、授業担当者や学生にとっては、非常に制約の高いプログラムになっている。例えば、中小企業診断士養成プログラムにおいて、「ロジスティクス」は、「マーケティング・営業マネジメント(マーケティング戦略の立案、また立案したマーケティング戦略を実現するための販売・営業マネジメントについて、的確な指導・支援・アドバイスできる技能)」の4単元のうちの1つ(第2単元・ロジスティクス)と設定されており、この研修テーマの前に、「マーケティング戦略(流通業)」、後に「店舗施設マネジメント」「情報化(流通業)」「マーケティング戦略(製造業)」「製品開発戦略」を履修・習得する必要がある。

    「ロジスティクス」の内容

     筆者が担当する「ロジスティクス」の授業内容について紹介する。先述の通り、筆者は企業経営戦略コースにおいて、「ロジスティクス」(同名)を2科目担当している。1つは、同コースにおけるアドバンスト科目(2単位)として、もう1つは、中小企業診断士養成プログラムのスペシャル講座(単位なし)として、開講している。前者は選択必修科目、後者は同プログラムの必修科目に位置付けられる。前者は100分(1コマ)の授業を計14回(計1400分)、後者は100分の授業を計6回(計600分)で構成される。なお、前者の「ロジスティクス」は、先ほど紹介した7つのプログラムのうち、マーケティングとテクノロジー・マネジメント、両プログラムのアドバンスト科目に指定されている。
     表2は、筆者が企業経営戦略コースにおいて提供している「ロジスティク」の授業内容(各回のテーマ)を示している。この科目では、需要予測、在庫管理、在庫配置、そして収益管理を主なテーマとして提供している。例えば、それぞれのテーマについて、授業内において理論モデルの紹介を行い、表計算ソフトを用いた数値例分析の演習を行っている。さらに、それらの数値例分析に基づいた課題(新たなデータセット)を(ほぼ)毎回提示し、履修者が改めてそれらの理論モデルを適用した演習を進める。なお、本授業のレベルとしては、例えば、米国ビジネススクールの(ロジスティクスやオペレーションズ・マネジメントの)標準テキストであるChopra (2018) を参考としている。
     表2のうち、* は、中小企業診断士養成プログラムで実施しているテーマを示している。上記の通り、中小企業診断士養成プログラムの「ロジスティクス」は、合計600分で、企業経営戦略コースの同科目(合計1400分)と比べ、時間の制約がある。授業時間が半分程度のため、特に在庫管理と在庫配置に重点を置いた内容となっている。
     また、企業経営戦略コースの内容と、中小企業診断士養成プログラムの内容との大きな違いとして、前者では、履修者がそれぞれ個人演習として、授業で学んだ需要予測や在庫管理などの各種手法を(履修者それぞれが準備する)具体的なビジネスデータを用いて事例分析を行うことである。企業経営戦略コースの履修生は、原則、実務を行なっているビジネスパーソンを対象(そのため平日夕方・土日開講)としているため、各自が実際に関わる(あるいは関わった)ビジネスを念頭に事例分析を行い、具体的な適用方法やその可能性、改善効果等を検討することを目的としている。
     過年度の個人演習(事例分析)の例を挙げると、阪神甲子園球場でのお弁当販売の需要予測や、葬儀会社による供花の需要予測やその調達物流、また航空会社による機内食の需要予測とその収益管理など、具体的な事例にロジスティクス管理手法を用いることで、リードタイムや必要在庫量の考え方の理解が進むと感じる。授業で扱う数値例では、各種条件は所与として与えられる(問題文中に必ず記載されている)ため、理論モデルに各種数値を当てはめることになるが、実際のビジネスでは、これら各種条件を各自が設定する必要があり、実際にその作業は難しく(リードタイムをどの時点から計測すべきか、また欠品コスト(機会損失)をどのように見積もるのかなど)、それぞれのビジネスモデルに応じて履修者が判断し、決定することになる。実務における適用の困難さを学ぶことができ、非常に有益な機会だと考えている。また、事例分析結果を最終授業回で報告することにより、履修者同士だけでなく、授業担当者(筆者)にとっても、新鮮な内容が多く、大変貴重な勉強の機会となっている。

    おわりに

     商(経営)学部生を対象とした物流・ロジスティクス教育では、ほとんどの場合、初学者を対象とするため、また筆者が所属する関西学院大学商学部では、(広義の)マーケティング・コースの専門科目として提供されているため、物流やロジスティクス(在庫管理)の各機能やサプライチェーンでの役割、さらに狭義のマーケティング(需要創出)とロジスティクス(需要充足)との関係性について、重点的に扱う内容になっている。
     他方、ビジネススクール(専門職大学院)においては、オペレーションズ・マネジメントに特化して、需要予測や在庫管理を中心に授業が構成されている。特に、ビジネススクールの履修生は実務に関わっているため、ロジスティクスやサプライチェーンの重要性を一定程度理解しており、またそれを学ぶモチベーションも比較的高いと思われる。一方で、本学のビジネススクールに限らず、日本のほとんどのビジネススクールの入学試験では、アメリカ大学院の出願資格で課せられるGMAT (Graduate Management Admission Test) のような、学生の適性(学力)試験を課していない。そのため、数学・統計学に関する能力の差は学部生以上に大きいと感じる。そうしたことが、当該科目のような数理的能力を必要とする授業運営の難しさとなっている。

    図表一覧

    表1:中小企業庁標準モデルの定めるフロー
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    (注)研究科 (IBA) 内資料を基に筆者作成。

    表2:「ロジスティクス」の授業内容
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    * 中小企業診断士養成プログラムの対象テーマ。

    (注)筆者の授業資料を基に作成。

    以上


    参考文献
    Sunil Chopra, Supply Chain Management: Strategy, Planning, and Operation, 7th Edition, Pearson Publisher, 2018.
    伊藤秀和「社会科学におけるロジスティクス教育体系への試み」『商学論究』60 (1/2)、 333-377、2012年。
    伊藤秀和「再論ロジスティクス教育体系 : 関西学院大学商学部のカリキュラムを例に」『海運経済研究』(日本海運経済学会)47、23-34、2013年。
    伊藤秀和「ロジスティクス人材を育む教育とは?」『商学論究』70 (1/2)、349-382、2022年。
    ⅰ)企業経営戦略コースのカリキュラムについては、以下のURLを参照。
    https://iba.kwansei.ac.jp/bs/curriculum/
    ⅱ)中小企業診断士養成プログラムのカリキュラムについては、以下のURLを参照。
    https://iba.kwansei.ac.jp/chusho_curriculum/


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