トラック積載効率

第522号 「トラック6割空車」の正体(2023年12月19日発行)

執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などの コンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」 「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。 URL:http://www.yamada-consul.com/   目次 1. スーパーの物流センターで 2. 2024年問題と共同配送 3. 「6割空車」の根拠 4. 積載効率は低下しているか 5. 容積換算されているか 6. 運行方法による積載効率低下 7. 「6割空車」の必然    1. スーパーの物流センターで   少し前のことであるが、商品の自動認識技術にかかわる実証実験の立ち合いで、大都市にある大手スーパーマーケットの物流センターを訪れた。150店舗以上への広域商品配送を担う2万坪ほどのセンターである。センター内の運営は大手卸とその物流子会社に委託されている。   実験の立ち合いに3日間通ったわけであるが、お恥ずかしながら長く物流に携わっていながら、大規模小売りの物流センター内部をこれほど長時間にわたって観察するのは初めてであった。おかげで、実証実験の成果はともかくとして、現場レベルで小売り物流を体感(?)する大変いい機会となった。   まず驚いたのはその商品アイテム数の多さと在庫規模である。2~4階には、低温では農産・水産・畜産・惣菜・日配食品、常温では加工食品・菓子・酒類・米・たばこ・日用品・衣料品・店舗資材まで在庫されている。典型的なフルライン卸の在庫である(うかつにもアイテム数を確認していなかった!)。   在庫エリアでピッキングし、オリコンに収納された商品はベルトコンベアで1階の仕分け、出荷エリアへ運ばれる。ここで通過型の入荷商品と合流し、ロールボックスに積載された後、店舗別のトラック接車バースへ移動される。メーカーや業種別卸の物流経験しか持ち合わせていなかった筆者としては、フルラインのスケールは圧倒的であった。   もう一つ関心を持ったのは、店舗配送トラックの運行である。トラック・バースには配送店舗ごとにトラックが接車される。このトラックはA店舗向け、B店舗向けといったように行き先の店舗がある程度決められている、店舗別貸切トラックである。このトラックが一日中回転しながら絶え間なく店舗へ商品を補充する。おそらく近隣店舗の回転数は多く、遠方は少なくなるのであろう。スーパーへの商品配送に特化した、クローズドな物流システムといえる。 2. 2024年問題と共同配送   今回のテーマは「2024年問題と共同配送」「トラックの6割空車」である。以前も触れた話題をなぜ蒸し返すのかというと、冒頭の立ち合いでこの共同配送を連想したからである。一般的に、2024年問題で取り上げられる対策として多く見られるのが、「不在配達をなくす」「置き配を増やす」「送料無料の表示をやめる」といった宅配便に関わるもの、そしてもうひとつが共同配送である。   この欄でも繰り返し取り上げているが、2024年問題に限らず共同配送がドライバー不足の主要テーマとして期待されているのは、日本のトラックの「6割は空車で走っている」という前提があるからである。6割も空車で走っているトラックの積載率を少しでも高めることができれば、ドライバー不足も2024年問題も容易に解消できるように思える。   実際、筆者もよく受ける相談である。「トラックの空車なんかネット上でマッチングを行えば簡単に埋まる」との発想で、Web上での求貨求車システムを検討するIT関連企業などがいまだ後を絶たない。   しかし、筆者の拙い経験ではあるが、運送の現場でそれほど積載率が低いトラックを運行しているとはとても思えないのである。そのようなトラックに出会ったことがない。先の小売り物流センターでの店舗配送でも、トラックへの積込みには数多く立ち会ったが、ロールボックス1台も欠けることなくすべて満載で積み込まれていた。   筆者が支援している中小運送事業者の配車実績をみても、積載率が100%となることはないにしても(もっとも100%というのはほぼありえない)、4割の積載で走っているケースなどまずお目にかかれない。   これは、以前勤務していた物流事業者でも同様である。運送事業者は可能な限り貨物をかき集め荷台を埋める努力をしている。もちろん集めた貨物と自社トラックの積載能力がぴったり一致することなどないので、超過した部分を協力運送事業者とのやりとりで調整しているのである。   長距離輸送の場合は帰り便を優先して確保するのは常識である。たとえば、仙台に拠点を置く運送会社が仙台から関東地区への配送オーダーを受けた場合、まず関東から仙台へ配送した帰り便を探す。こうすれば車両は往復で無駄なく運行できるうえに、帰り便だから安い運賃で配送できる可能性がある。どうしても帰り便を見つけられない場合にやむを得ず、仙台からの便を仕立てるのである(これを仕立て便という)。この場合、同時に関東から仙台への帰りの貨物を探すことも当然行う。このようにして長距離輸送の往復の荷台はかなりの率で埋まっていく。   もっとも、通常はこうした運行実態を荷主に正直に報告することはない。そんなことをすれば、「あ、帰り便を使うのだったらもっと運賃下げられますよね」といわれるのがオチだからである。往復の貨物を見つけるのは運送事業者の経営努力の結果であるから、その利益は運送事業者に帰するのは当然である。   発着が異なる荷主の同士による長距離往復輸送が共同配送の事例として紹介されることがあるが、運送事業者としての本音を確認したいところである。大っぴらには言えないけど、本当はしっかり別の往復貨物を確保していたのではないか、共同配送として帰り便を依頼され運行の中身がオープンになり、かえって迷惑などでは、などと勘ぐってしまいたくなる。逆な見方で、もし本当にそれまで長距離を片道輸送していたとすれば、それはそれで運送事業者として相当ずさんな配車だったといえなくもない。   また、日帰りができる短距離地場配送では、車建て運賃を払ってくれる「奇特な」荷主はまれである。よほど量がまとまるパターンを除いて、運んだ距離と量で運賃が決まる「トンキロ制」の運賃タリフを適用しているケースが多い。必然的に運送会社は複数の品物や届け先、荷主の貨物を混載して配送することになる。荷主は運んだ分(重量、容積など)しか運賃を払わないので、当然の運行であるが、この場合も「おたくの貨物はどこそこの貨物と混載して運んでいます」などと報告する事業者はまずいない。「だったら運賃もっと下げて」などと要求されかねないからである。そもそもトンキロ制の運賃とは他社との混載を前提としているのであるから、このような要求は見当違いである。ただ、現実にはこのような非常識な対応が少なからず見受けられのも事実である。   トンキロ制運賃の例ではないが、A地点からB地点まで一般道を使って配送していた運送事業者に、荷主から配送リードタイムを短縮する要請があった。そこで運送事業者は高速道路を使って輸送時間を短縮することを提案、荷主に高速代の実費請求を申し出た。ところがそれに対する荷主の回答は「高速を使えば車両の回転が上がるのだから、逆に運賃を下げてくれ」だった。サービスレベルを上げるために発生する費用を負担するどころか、むしろ値下げをしろという理屈である。サービスレベルとコスト負担の関係をまったく無視したこの話を聞いたときは、よくもそこまでと逆に感心してしまった。   率直に言って、共同配送は「労多くして益少ない」取り組みである。筆者もいくつか手掛けたことがあるが、とくに荷主主導による共同配送はよほどの条件が整わなければ成功は難しい。物量の少ない同士の「弱者連合」ではまず無理である。6割以上の物量を持つ「ベースカーゴ」の荷主にその他が相乗りするような形態が理想であるが、ここでは共同配送の成立要件を議論するのが趣旨ではないのでこれ以上触れるのは省略させていただく。   問題は、共同配送の根拠となる「6割は空車」である。この数字、どうも現実感に乏しい。このテーマは、本コラムの「第474号 数字の独り歩きに注意(2021年12月21日発行)」でもすでに取り上げているが、少し別な視点も交えてその正体を再度明らかにしていきたい。 3. 「6割空車」の根拠   そもそも「6割空車」という数字は、おそらく国交省が公表している「自動車輸送統計年報」が根拠と思われる。同年報では、約9,800両の営業貨物車を対象に輸送トン数や品目、輸送回数などについて計14日間を調査し、その数字から全体量を推計している。   積載効率は、「輸送トンキロ÷能力トンキロ」で算出される。調査データの該当部分を2010年度から直近2022年度まで3年分を抽出し、計算したのが図表1である。対象車両は営業用普通車(最大積載量3トン未満~16トン以上)である。   2022年度の積載効率は40.1%。つまり6割が空車であることを示している。「6割空車」の出どころはこの統計とみてまず間違いない。 図表 1トラックの積載効率(営業用普通車) 出所:国交省「自動車輸送統計年報」より筆者作成 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 4. 積載効率は低下しているか   積載効率は、多頻度小口配送などの進展により近年低下してきたというのが通説である。大手コンビニなど小売りの発注が「元凶」扱いされるが、データを見る限り、この12年間では積載効率は低下するどころか、むしろ上昇している。   2024年問題を取り上げた先日の報道番組では、積載効率が低い原因として、物流DX系ベンチャーの「トラックに貨物1個しか積まないで運ぶこともある」とのコメントも紹介されていた。こうした情報に接すると一般視聴者は「トラックはなんて無駄なことをしているんだ」という印象を受けてしまうだろう。「そんな無駄なことをしているなら、共同配送で積載効率を高めるなんて簡単」という短絡した連想になってしまう。   ところが待って欲しい。実際にトラックはそれほど無駄な運行はしていない。荷台に貨物1個など、よほどの緊急輸送でない限り、きわめてまれなケースであろう。その場合でもせいぜいライトバンや赤帽をチャーターするのが常識である。極端な例外をもってして全体の傾向であるかのように表現してしまうのは危険である。 […]

第474号 数字の独り歩きに注意(2021年12月21日発行)

執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などの コンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」 「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。 URL:http://www.yamada-consul.com/   目次 I.ピンとこない議論 II.数字の持つ力 III.トラックの6割は空で走っている? IV.「6割は空」の根拠 V.貨物には偏りがある VI.運行方法で積載効率は低下 VII.数字の独り歩きを疑わないと間違える I.ピンとこない議論   適切ではないかもしれないが、今回は新型コロナにかかわる素朴な疑問から始めたい。誰もが感じていて、たぶん聞き飽きている例の疑問である。日本の人口1,000人あたりの病床数は13.0床とOECDで最多で、G7の中でも2位のドイツ(8.0床)を大きく引き離す。一方で感染者数は欧米よりはるかに少ない。なのに、感染ピーク時になぜ医療崩壊の危機に瀕するのか、という問題である。   その理由についてはおおむね、「日本は政府や自治体が指示できる公立、公的病院の数が少ないので、受け入れを強制できない」といった趣旨で報道されている。   わかったような、わからないような、筆者には今一つピンとこない話である。同じような印象を受けておられる方も多いのではないか。   腹落ちしない理由が何かはっきりしないままひたすら自粛の毎日であったが、先日の日経新聞の記事で少し納得できた(図表1)。以下に記事の一部を引用する。 ******** *画像をClickすると拡大画像が見られます。   日本の医師数は約32万7,000人。人口1,000人あたりでは2.5人とドイツ(4.3人)や英国(3.0人)を下回り、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中で27位に甘んじる。   それ以上に深刻なのは1病院あたりの医師の少なさである。米国(137人)やドイツ(114人)が100人を超えるのに対し、日本はわずか38人にとどまる。決して多くない医師が、海外よりも数が多い病院に散らばっている。一般に病床数は医療インフラの充実度を示すが、日本の場合は病床が多すぎ、患者に寄り添う現場で医療人材の手薄さが際立つ。米国や英国は医師1人がほぼ1病床を診るが、日本は1人で5つの病床を受け持つ。先進国では異例の「低密度」医療の体制になっている。(日経新聞2021年5月30日付け朝刊より一部引用) ********   病床や病院の数こそ多いけれど、医者も看護婦もまったく足りないということである。これに診療部門や経営主体の偏在要因が加わって崩壊の危機に瀕したのであろうが、これまでは病床数の多さだけが強調され、肝心の医療関係者の数や配置が報じられていなかった点が理解を難しくしていたのではないか。 II.数字の持つ力   いうまでもなく筆者はこの分野についてはまったくの門外漢であり、日本の医療体制を論じるつもりは毛頭ない。ワイドショーのコメンテーターでもあるまいし、素人が論じられるわけもない。もちろん日経新聞を持ち上げるわけでもない。   ここで申し上げたいのは、「数字の持つ力」と「数字の独り歩き」である。いうまでもなく、数字の持つ力は大きい。定量的な説明は何よりも説得力がある。その一方で気を付けなくてはならないのは、一方向からだけの数字が独り歩きすることである。コロナの例では、病床数の多さだけが独り歩きをしていたから問題の核心をわかりづらくしていたのではないか。   疑問が一定程度解けた理由の一つが、当初の「欧米より病床が多い」という数字に加えて、「日本の医師数が少ない」という別の角度からの数字が示されたことである。たとえば、人間ドックでは計測されたさまざまな数値から総合的に判断して真の病気を突き止めるように、多面的な数字をとらえることによって、真実が明らかになることがある。 III.トラックの6割は空で走っている?   ここからが今回のテーマであるが、最近の物流を取り巻く動きにも同じようなことがいえるように思う。   業界では物流DX(デジタル・トランスフォーメーション)を目にしない日はない。物流DXの正確な定義はともかく、物流にもようやくデジタル技術による変革の波が到来しつつあるのは喜ばしいことである。本来の意味である「経営の意思決定」や「戦略」などといった大げさな取り組みではなくても、この連載で繰り返し述べてきたように、日々の非定型的で荷主ごとに異なる手配業務やさまざまな帳票類、報告、連絡業務などが標準化、デジタル化されることを大いに期待している。   ただ、この大きな波の中でひとつ気になることがある。正確に言えば、物流DXでなくともそれ以前からずっと気になっていたことである。それはいま進行している取り組みの多くが「トラックの6割(あるいは5割)は空で走っている」という前提で進められていることである。   最新の話題である「フィジカル・インターネット」が典型である。筆者の理解が間違っていなければ、フィジカル・インターネットとは、物流をどこか特定の拠点や幹線輸送に集めて運ぶのではなく、業種や事業者に関係なくバラバラに最適な単位(ロールボックスやパレットなど)に分けて目的地に到達させることだという。ちょうどWeb上で送り手の情報がパケット単位に分割され、さまざまなルートを経由して受け手のルーターに届くインターネットのような仕組みであることから、この名称となったといわれている。インターネットのデータ送信と同様の概念で同方面に向かう大量の貨物を分散し、自社・他社を問わず空いている倉庫スペースを経由し、トラックの空いている荷台で運ぶ。その際、一人のドライバーで長距離を走るのではなく、インターネットが世界各地の通信設備を細かにつないでいくように、網の目の結節点を最適に選択して短距離を緻密につないでいく。この場合、AIなどのデジタル技術が最適なルートを指定する。これがフィジカル・インターネットのイメージである。   考え方としては理解できないことはないが、実業への落とし込み、実現に至るプロセスなどについて詳細に議論されているようには思えない。業界の人間としては、現時点ではかなり乱暴な構想という印象を拭いえない。   少し本筋からそれてしまったが、本稿はフィジカル・インターネットを評するのが目的ではない。   フィジカル・インターネットが成り立つためには、目的地の方向へ向かう荷台の空いたトラックがあちこちに走っていなければならない。こうした多くの物流DXが「トラックの大半が空で走っている」ことを前提として構想されているのである。業界では常識とされている、この数字は事実であろうか、というのが今回のテーマである。 IV.「6割は空」の根拠   「トラックの6割は空」の根拠はおそらく国土交通省が公表している「自動車輸送統計月報」であろう(図表2)。   直近2020年9月の営業用トラック「積載効率」が39%つまり約4割である。積載効率とは、実際に輸送した「輸送トンキロ」を「能力トンキロ(荷台に目いっぱい積載した状態でのトンキロ」で除した数値である。トンキロとは走行した距離と貨物の輸送重量を掛け合わせたものであり、輸送の規模を表す。たとえば、4トン車に2トン積載して20キロ走行すれば“輸送トンキロ=2トン×20km”÷“能力トンキロ=4トン×20km”で積載効率は50%となる。   この統計を見る限りでは、たしかにトラックの6割は空で走っている。 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 V.貨物には偏りがある   しかし、長年物流の実務に携わってきた人間として、この数字には大いに違和感を覚える。実感として、トラックはそんなに空で走っていない。実情を肌で感じている物流業界からそうした声が聞こえてこないのは不思議である。   そこで、この空車がどのような状況で生じているかという別の角度からの数字で検証してみよう。結論から言えば、こうした空車の多くは往復貨物の偏りと運送会社のトラック運行方法により必然的に生じている可能性が高い。   往復貨物に地域的な偏りがあることについては、国道交通省が5年に1回実地している「全国貨物純流動調査2015年」を参照してみる(2020年度は新型コロナにより中止)。この調査は、2016年10月の3日間の品目別、輸送機関別などの貨物の動きについて、全国6万5千事業所にアンケート調査した結果をまとめたものである。筆者が以前所属していた会社が事務局を務めていたこともあり、貨物流動の実態を反映している点での信頼度は一定程度あるものと考えられる。 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 […]

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