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ロジスティクス ・レビュー

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3PL

第352号 成熟しつつある3PLを考える。(2016年11月22日発行)

執筆者  髙野 潔
(有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長)

 執筆者略歴 ▼
  • 職歴・履歴
    • 日産自動車株式会社(33年間)
    • (出向)株式会社バンテック(7年間)
    • (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~)
    組織・履歴
    • 神奈川流通サービス協同組合・物流システム研究所所長(5年間)
    • 株式会社湘南エスディ-・物流顧問(5年間)
    • 株式会社カサイ経営・客員研究員(7年間)
    • 物流学会・正会員(8年間)
    • 物流学会・ロジ懇話会事務局(5年間)
    • 日本情報システムユーザー協会・個人正会員(JUAS-ISC)(9年間)
    • 日本情報システムコンサルタント協会(JISCA:東商会員)正会員・理事(平成25年~)
    委嘱(受託)・履歴
    • 通産省(現・経済産業省) 荷姿分科会委員・委嘱(1年間)
    • 運輸省(現・国土交通省)輸送分科会委員・委嘱(1年間)
    • 中小企業基盤整備機構  物流効率化アドバイザー・委嘱(8年間)
    • 中小企業ベンチャー総合支援センター 新事業開拓支援専門員・委嘱(6年間)
    • 中小企業基盤整備機構  企業連携支援アドバイザー・委嘱(6年間)
    • 中小企業大学校(関西校) 非常勤講師・委嘱(4年間)
    • 海外技術者研修協会 [AOTS]関西研修センター 非常勤講師・委嘱(2年間)
    • 座間市観光協会・事務局長(2年間)
    • 座間市・都市計画審議会委員(2年間)
    著書・講師・履歴
    • 日本のロジスティクス (共著:日本ロジスティクスシステム協会)
    • 物流共同化実践マニアル (共著:日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会)
    • 図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流 (共著:同文館)
    • 雑誌掲載:配送効率化・共同物流で大手に対抗(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:情報化相談室回答担当者(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:卸の物流協業化・KRS共同物流センター事業(流通ネットワーキング)
    • 雑誌掲載:現場が求めるリテールサポート・ドラックストア-編(流通ネットワーキング)
    • その他  :執筆実績多数
    • 講師(セミナー、人材育成、物流教育・etc):実績多数

 

目次

1.はじめに。

  私の親しい省エネ関連企業の社長から、横浜市の法人会の会員相互の親睦(交流)と見聞を広めるための見学・研修会を計画したいとのこと、先進的な物流施設を含めた見学候補を紹介して欲しい旨のご要望を頂きました。見学エリアは横浜から片道100km圏内、参加企業は30社ほど、見学時間は約60~90分が条件でした。そこで、先進的な物流施設、物流と自動化・ロボット化、RFIDの導入施設、座間市にある乗用車のヘリテージコレクション(300~400台展示)など12施設を候補としました。最終的に物流の進化を求める総合物流ターミナル羽田クロノゲート、車メーカーのヘリテージコレクションの2施設に絞り込みました。候補決定前に地元の先進大型物流施設に問い合わせをした際、物流施設の管理者から学校関係の見学は常に受け入れOK、企業関係は、荷主の責任者の許可を得て物流施設側の広報、総務などの許可を取って欲しい旨のご指示を頂きました。時間と手間を考え、この時点で見学を断念を伝えました。その時、荷主企業から相談を受けました。3PL事業者が品質やコストダウンなど、荷主の要望に十分に応えてくれない、一方、3PL事業者からは、荷主の要求が多過ぎるとの声が出ていました。立派な外資系の物流施設に入居しているにも関わらず、双方相対した課題解決策の対応力に乏しく日本の3PL機能が2.5PLと言われる所以を感じる機会に遭遇してしまいました。双方の官僚的な姿勢とコミュニケーション不足が立ちはだかり、ウィンウインの関係づくりを阻害しているようでした。3PLの場合、双方が必要な条件をガラス張りにすることが肝要であり、3PLのよき環境を醸成する条件、仕組みが欲しいものと痛感した次第です。

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2.物流3PLとアセット型、ノンアセット型の動向

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  物流3PLとは、経営資源をコアコンピタンスへ集中するために、物流業務を外部に委託すること、例えば、社内で実施していた物流業務を外部に委託することを物流3PLと言い益々広まっています。物流業務を委託する企業の狙いとして、3PL事業者のノウハウ、専門家の目を駆使して徹底的に効率化を図り、納品精度・品質、スピード(納期厳守)を向上させ、コスト削減へのチャレンジと成果を出すことで荷主を満足させることだと考えます。荷主企業は、物流費などの固定コストを変動費化し、フレシキブルな経営構造に転換することが可能となります。日本で3PLが認知されはじめた頃、自らの物流資産を抱える「アセット型3PL」と物流資産をまったく持たない「ノンアセット型3PL」のどちらが有利なのかといった議論がありました、アセットを持つ事業者は、自社の資産活用を前提に考えるため荷主の立場から最適な選択ができないとの疑心暗鬼の議論もありました。そこで、荷主側は、短期契約年数で縛り、3PLの成果が得られないと契約年数毎に物流事業者を選択するコンペを繰り返し、自社(荷主)に適応する物流事業者を選択する傾向にありました。特に外資系荷主企業は単年契約が多く成果が見られた場合は契約を延長、見られない場合は打ち切りで設備投資もできませんでした。3PL事業者は、荷主が安易に事業者を変えられないように逆に情報システムで縛りを強める3PL事業者もありました。さらに、物流施設、人材、コストなどの縛りと物流委託後の物流戦略、経営戦略の策定まで踏み込む物流事業者も見受けられるようになりました。これに対して、ノンアセットの事業者はフリーハンドで荷主の物流を最適化できますとの売り込みで同業他社との取り合いが目立ちましたが、今では、アセット、ノンアセットなどとは関係なく物流システムの設計から管理・運営までの業務全般を3PL事業者に委託しているのが現状のようです。日本市場でもアセット、ノンアセットの二極分化が起こるという見方がありましたがこの手の議論は現状では、ほぼ終息、今ではノンアセット型を標榜する3PL事業者が少なくなったように感じます。米国、欧州などもアセット型の3PLが主流のようですが、米国では高学歴のエリートが数多くの3PL事業に参画、コンサルを主体に荷主の物流戦略を担うノンアセットを主流に活動している話しを日本で生活基盤を持ち、日本で活躍している外国人コンサル組織の人達から聞いたことがございます。

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3.3PLの動機・目的(狙い)

  私が今まで取り組んだアウトソーシング(&3PL)業務の経験から委託側(荷主)と受託側(物流事業者)の動機・理由として、主に以下の目的・狙いがありました。荷主も物流企業も単純に売上(増収・増益狙い)を伸ばしたい、所有物流資産(倉庫などの自社所有物件・賃貸物件)を有効活用したいが大半でした。また、荷主(委託)側の狙いの中に自社で行うよりも、コスト削減やコストの明確化と物流改善ノウハウや人材不足を補えること、新規投資の抑制、コアビジネスへの集中、包括的な物流サービスを享受できること、また、物流精度・品質、納入先・得意先へのサービスレベルの向上などを目的(狙い)としたことが挙げられます。委託側である荷主の狙いとしては、物流トータルコストの削減が一番大きい要因でした。某企業の作業費の内訳(見積書)を下記に添付しました。

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4.3PL事業者に求められるもの

  3PLは、利益体質の転換戦略の手段としてこれからも活用していくと思われます。荷主は、コア業務に特化するために物流力の強い企業(コストの安い?)に物流をはじめコア以外の業務を委託する動きが強くなってきています。そこで、物流業務を受託する企業の資質も考えてみたいと思います。物流ノウハウ(物流業務の実務能力、分析力、提案力、技術力、IT対応力)を蓄積していること、ネットワーク(情報インフラ、輸送網、拠点網)を備えていること、そして、3PL的思考(荷主に貢献すると共に3PL事業者にも応分のメリットが享受できること)を持っていることが必須条件であると考えます。さらに、物流事業者が荷主に対して荷主側の立場で、物流改革を提案し、包括して物流業務を受託し遂行することと言われています。基本的には、物流の専門的なノウハウを持った第三者である物流事業者が荷主の立場にたって、物流の企画・設計・運営を行うと共に企業の重要な経営課題として注目されている物流サービスレベル(納期、品質・精度、ローコスト)の 向上に寄与することだと考えます。それは、3PL事業者が荷主の物流部門に成り代わり、物流全体の企画、設計からリアル物流(実運用)を担うことだと考えます。さらに改善を続ける力量を持っていること、システム構築力、総合力が求められています。究極的には、荷主の売上増、物流コストの削減で荷主の成長に寄与できれば最高です。当然、荷主 と物流事業者という利益相反する関係による不都合を改善するために、荷主と3PL事業者の収益確保(ウィンウィンの関係)も求められる重要なポイントだと考えます。

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5.3PLで荷主(企業)を成長させることが重要

  3PL市場のニーズは、主に物流コストの削減にありました。例えば、自社雇用の従業員が物流業務を行っていた荷主の場合、それをアウトソーシングするだけで、3PL事業者がパート・アルバイトを多用するなどの人件費@の違いにより、物流コストが削減できることになります。近年においてもなお3PL市場の拡大トレンドが続いている理由は、3PLによる一時的な物流コストの削減に留まらず、継続的な物流コストの削減につながる提案や、荷主の物流ニーズに応える物流システムの構築など、提案型の3PLに進化していることが挙げられます。例えば、物流の「品質」「納期」「コスト」を大きく左右する物量波動への対処があります。物流の現場が、物量予測に関する情報を入手できない場合、人やトラックの確保が過剰・過少となって高コスト化し、人やトラックの確保が不足した場合、サービス精度・品質の低下、納期の遅延などを起こしたりします。提案型3PLであれば、荷主の適切な部門と連携しながら、必要なタイミングで物量予測情報を入手することで、物流コストの削減、納期など、荷主の物流ニーズに応える体制を構築する努力ができると思います。この努力が3PL事業者の収益に関わってくるからです。

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6.これからの3PL事業者

  これからは3PL事業者と荷主企業が共にコラボして、優れた能力を十分に引き出す土俵作りをすることが重要なポイントと考えます。それは、3PL契約は短期指向を改め、中長期的な視点に立って、荷主企業自らが良好なパートナーシップ を醸成し、荷主企業と3PL事業者、双方が努力に見合った成果を享受できるように変革していくことだと考えます。これからは、益々人件費@の上昇が見込まれ、労働集約型の物流業界においても労働力の分捕り合戦が早晩訪れ、人手不足の解消策に振りまわされる時代になると危惧しています。人集めと先進的な物流改革の荷主要望に対処できない3PL事業者は、自然と淘汰されてしまいます。また、人件費@の上昇は3PL事業者のコストアップ要因であり、これに対応しなければ不採算業務が増加することにつながり利益無き成長になってしまいます。自社物流を実施している荷主も人手不足対策の手段として3PLを検討する傾向が出て来ると思われます。反面、3PL事業者は逃げ道がありません。3PL事業者は、IT、マテハンやロボットなどへの投資で物流の自動化・省力化システムなどの導入で人手を最小限に抑え、人件費上昇への対応力を培い3PL市場を牽引していく気概で事業活動をして欲しいものです。但し、荷主あっての3PL市場であることを忘れないこと、3PL市場が拡大しているとはいうものの、人手不足、人件費@の上昇、配送コストの上昇などで3PL市場を取り巻く環境は、楽観視できるものではないと考えます。市場を成長させてきた3PL事業者でも同業との競合が熾烈になり生き残れる保証はありませんが提案型3PL事業を進化させ、物流の専門家として荷主の成長を支援することで市場拡大(優勝劣敗)を目指すことができると考えます。3PL事業者は、短期的な利益を放棄してでも長期的な成長を視野に入れて目に見えるもの、見えないものの物流課題を荷主に助言することを繰り返し、将来的な荷主の成長に寄与するという考え方もあるのではないかと考えます。荷主が成長することで3PL事業者や沢山の関連企業が共存共栄で成長します。荷主企業の成長こそが3PL市場の拡大を牽引すること、3PL事業者も共に成長していくのではないでしょうか。共存共栄で成長した実例は山ほどあります。これからの3PL事業者は、将来性を見据えて成長性のある荷主企業を探し当てること、その荷主企業を育てる意識を持ち、実行し、荷主と共存共栄の道を開拓するものが勝ち組となり、3PL事業者の成長の早道と考えます。3PL事業者が受託した事例を簡単にご紹介します。荷主の売上高年間≒280億円でスタート、15年後の売上高≒2,120億円と荷主が成長しました。同時に3PL事業者も取り扱い物量、売上高共に10倍増、収益も上々とのことでした。世の中には、荷主と3PL事業者が共に成長している業種業態が沢山あります。良き荷主を勝ち取ることが3PL事業者の勝ち組になる早道であり目指したいものです。

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7.最後に・・・。

  近年、物流事業者、荷主企業の双方で物流機能強化に向けた取り組みが積極化しています。この背景には経済の足踏み、高齢化の進展、ネット通販市場の拡大などによる消費者の購買スタイルの変化と著しい小口化、多頻度化、スピード納品などが挙げられます。具体的には3PLなどの物流関連テクノロジーの定着、REATを通じた近代的な素晴らしい物流施設が増えており、テナントで入居した3PL事業者(企業)の職場環境の充実、雇用の確保、定着率の向上、働く意識高揚にも繋がり、物流機能強化に向けた具体的な取り組みが始まっています。物流事業者は、輸配送・保管サ-ビスの高度化、流通加工機能の強化などを進めているほか、流通系の荷主企業も、店舗網の拡大や店舗運営の効率性向上のために一括納品、ドミナント方式の出店、ゾーン設定による2回転配送など高度化を進めています。こうした物流機能強化の動きは、高齢者や共働き・単身世帯の増加といった変化に対応したサービスを支援する日本独自の3PL事業の確立が望まれています。さらに、二極分化(優勝劣敗)は、世の常、日本のリアル物流を担う3PL市場の健全な発展とより良い方向に拡大・変化していくことを期待しています。

以上



(C)2016 Kiyoshi Takano & Sakata Warehouse, Inc.

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