PI構想

第489号 フィジカル・インターネットの未来(2022年8月4日発行)

執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。 URL:http://www.yamada-consul.com/   目次 I.注目されるフィジカル・インターネット II.インターネット(DI)の仕組み III.フィジカル・インターネット(PI) IV.なぜヤマトが? V.一般貨物の可能性は I.注目されるフィジカル・インターネット   フィジカル・インターネットという言葉をお聞きになったことがあるだろうか。物流現場や実務の世界にはまだあまり浸透していないかもしれないが、政府や学者、コンサルタントの間で最近注目されている構想である。   直近では、2022年3月、経済産業省と国土交通省が事務局を務める「フィジカル・インターネット実現会議」で、物流のあるべき将来像「フィジカル・インターネット」を実現するため、2040年を目標としたロードマップの取りまとめが行われた。民間では、2021 年開催の国際フィジカル・インターネット会議(IPIC:International Physical Internet Conference)第8回会議で、初の日本からの発表として、ヤマトグループ総合研究所と野村総合研究所が、日本国内におけるフィジカル・インターネット関連の取組状況に関して報告した。   情報発信は増えてきたものの、あまりに壮大な構想であるため具体的なイメージがいまひとつという方も少なくないと思う。そこで連載最終回にあたって、筆者なりに物流現場での具体的な姿に落とし込み、その実現性について考えてみたい。 II.インターネット(DI)の仕組み   インターネットと称している以上、本家(?)のデジタル・インターネット(DI)をモデルにしていることは明白である。いまさらで恐縮ではあるが、話を順序だてて進める都合上、あらためてインターネットの仕組みを整理しておきたい。 図表 1 デジタル・インターネットの仕組み *画像をClickすると拡大画像が見られます。   インターネットは、送り手がデジタル・データという形でネットワークに情報を流し込むと、それらがパケットという小さい単位に分解され、通信リンク上のルーターを介して受け手に伝送される。データ通信には、パケットのフォーマット、ネットワークホストの識別、パケット通信のやり方などを定めた「インターネット・プロトコル」という基準が設けられている。   図表1ではデータの送り手Aからパケット単位に分解されたデータ(黄色)がルーターを経由して受け手Bに届けられている。同じように、送り手Cから送信されたパケット(緑色)もルーターを介して受け手Dに届けられる。多様なルートを通って受け手に到着したパケットは当初の順番通りに並べ替えられ元のデータとして認識される。このように、網の目のように張り巡らされたWeb上を分解されたパケットが目的地に向かうので、どこかのルート(回線)が遮断されても影響を受けずに情報伝達ができる。 III.フィジカル・インターネット(PI)   この仕組みをフィジカル、つまり物流の世界にも適用しようというのが「フィジカル・インターネット」の基本的なコンセプトである。   従来の物流を単純化すれば、発・着の事業者同士をそれぞれ直接結ぶやりとりが主流だ(図表2)。宅配便などの小口貨物や特別積合わせ便などはあるものの、一般的には図で色分けしたように、荷主単位での保管と配車により納品先に届けられる。物流の仕組みが主に発荷主中心に構築されることを前提としているためであり、業界ではいわば“常識”である。   混載貨物である宅配便も特別積み合わせ便も、原則としてバラバラに集荷した貨物をターミナルに集めて着のターミナルまで運ぶ「ハブ・アンド・スポーク方式」となっている。 図表 2 従来の物流システム *画像をClickすると拡大画像が見られます。   いまさらいうまでもないが、ドライバーの高齢化とドライバー不足は2024年問題によってさらに深刻となることが予想されている。一方で、トラックの平均積載効率は4割程度にとどまる。ドライバーの劇的な増加や自動運転などの実用化が実現しない限り、有限で貴重なトラック資源をいかに有効活用するかが喫緊の課題であることに疑いの余地はない。   こうした問題意識の中、2011年頃より論文やジョージア工科大学、IPICなどから発信され始めたのが「フィジカル・インターネット(PI)構想」である。PIを筆者なりの解釈で示すと図表3のようになる(図の色分けは荷主を表す)。   共同保管されパレットやロールボックス等の 「規格化された容器」 に分割(パケット化)された貨物が、さまざまなトラックの空きスペースに混載され拠点やオープン・クロスドック・センター(CD)を 経由して、納品先まで運ばれる。手作業でそのような計画を立てるのはまず不可能なので、AI・アルゴリズムがコスト最小化、最適積載効率、最短ルートなどの条件を満たすパケット単位での保管とトラックなど輸送手段の最適化を行う。   PIが構想どおり機能すれば限りあるトラックの有効活用が図れる。いわば、「究極の共同物流システム」といえよう。 図表 3 フィジカル・インターネット(PI)構想 *画像をClickすると拡大画像が見られます。   筆者がこの構想を知った時の印象は「そんなのできっこない」。物流実務に携わる多くの方の感想も同じようなものではないか。   基本的には現在さまざまな方面で取り組まれている共同物流と大差ないようであるし、その共同物流も実現には荷主同士の利害や条件調整に多大な労力を要しており、成功事例はまだ多くないのは周知のとおりである。まして、業界の壁を越えた取り組みとなると、混載できる商品、荷姿、商慣行など、ハードルの高さは気が遠くなりそうである。   そのような事情もあるのかは定かではないが、先の経産省、国交省の公表した「フィジカル・インターネット・ロードマップ」も抽象的な表現にとどまり、具体的な姿や実現性などは見えてこない。 IV.なぜヤマトが?   不思議なのは、これも先に紹介した通り、実事業者であるヤマトの子会社ヤマト総研が野村総研と共同研究を進めていることである。物流事業者が「拒否反応」を起こしてもおかしくない構想に、子会社とはいえ参加しているということが筆者には合点がいかなかった。   ところが、構想の理解が進むにつれ納得感が深まってきた。宅配便は基本的にほとんどの区間を通してロールボックスによって運ばれる。これはPIでいうところの「パケット」そのものである。集荷した貨物をロールボックスに積載して発ターミナルに集め、幹線便で着ターミナルへ送り込み、そこからラストワンマイルへの配送を担う営業所(宅急便センター)へ継送する。典型的な「ハブ・アンド・スポーク」方式である(図表4)。 図表 […]

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