第458号 物流施設は建てすぎなのか?(2021年4月20日発行)
執筆者 久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物)) 執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所) 産業振興、物流等の調査業務を担当 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当 2015年7月 独立 活動 城西大学 非常勤講師 流通経済大学 客員講師 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点) 著書 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか 目次 1.はじめに 2.「需要は堅調である」サイドの論拠 3.前項の論拠の検証 4.まとめ 1.はじめに 近年、物流施設の建設が高水準で進んでいる。2019年度は近年最高水準であり、2020年度はコロナ禍により失速するかと思われたが、実際には引き続き高水準を維持している(本稿執筆時点、年度前半までの実績)。 ただし、マクロ的に見ると、以下のような論拠から「物流施設は建てすぎなのではないか?」との見方がある。 (1)少子高齢化で人口は確実に減少する。今後は毎年中核市が一つずつ消えていくほどのスピードで減少するのだから、施設需要も減るはずだ。 (2)そもそも物流量は長期的に減少している。貨物輸送量(トンベース)は最盛期である平成初期の7割程度しかない(なお、物流量の減少は人口減の影響もあるが、平成年間の主たる減少要因は、建設ストックへの投資縮小と長寿命化である)。 (3)マクロ的な在庫量は、企業の在庫削減努力やITの進展によって減少している。 (4)上記の要因に加えて、コロナ禍によりグローバル化にブレーキが掛かり、当面は世界的に景気が調整局面入りする可能性が高いのではないか。 ただし、この論点は、各所でさんざん議論されてきた問題であり(※)、すでに議論の余地がないとも言える。 (※例えば月刊ロジビズ・2020年10月号「物流不動産」特集、流通ネットワーキング・2020年9-10月号特集「物流センターの開発と運営」などを参照。) 一方で、議論のベースとなっているレポートの多くは、物流施設の開発者側が、開発のポテンシャルを確認するために作成しているものが多い。だから中立性に問題があるのだ、と言いたいわけではないが、ある時点での開発ニーズとマクロ的な総需要とでは、傾向が必ずしも一致しない(例えば、住宅分野で、空き家が社会的に問題化するのと同時に、新築マンションの供給が高水準であったとしても、矛盾はしないことと同様である)。 このような点を踏まえて、本稿ではマクロ的な需給状況の視点にたち、主要な論点を整理しておきたい。 図表1 発注者別の倉庫・物流施設建設工事受注額の推移 出典:国交省:2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会・資料 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 2.「需要は堅調である」サイドの論拠 上述の「建てすぎ」論に対しては、様々な観点から反論が挙がっている。主要な論拠は以下のとおりである。なお余談ながら、この分野の有識者の中では(いまのところ)、これら論拠をもとに「需要は堅調だ」との立場が主流である。 (1)足下の需給(現に新しい倉庫は埋まっている) 次々に大型倉庫が新規供給されているが、結果的に埋まっている。よって需要はある、という立論。 (2)ECの需要が拡大する 人口減でも施設需要が減らないのは、EC(特にネット通販)の需要拡大が続くからである。 (3)土地がないから供給過多にはならない 需要が過多なら供給が増えることでバランスするのが通例だが、現状でそうなっていないのは「土地不足」による。 (4)集約化・自動化で大型化する これは施設需要の総量が増えるという主張ではないが、物流拠点は集約化・統合化される傾向にあるため、小規模な既存拠点ではなく、新たな大型拠点のニーズが増える。 3.前項の論拠の検証 これらの主張の論拠について、一点ずつ検証していこう。 (1)足下の需給について 「実際に埋まっている」というのは現時点では明らかであり、従って需要がある、という点についても異論を差し挟む余地はなさそうだ。 この論拠の問題を挙げるとすると、「過去に供給された倉庫が埋まること」は、「将来供給される分に相当する需要が生まれること」の説明要因とはならないということだろう。言うまでも無く、「前者の説明要因(説明変数)が、後者でも引き続き有効である」ことの証明が必要だ。 […]