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3PL

第98号なぜ新規3PLが成功しないのか―昨今の3PLをとりまく状況と課題を考察する―(2006年4月20日発行)

執筆者 吉井 宏治
株式会社サカタロジックス シニアマネジャー
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴   1989年 サカタ産業株式会社入社、工場内物流管理業務を担当。
    1990年 サカタウエアハウス株式会社(大阪本部)に異動。
    情報サービス部門に配属。
    1991年 鐘紡(現・カネボウ)株式会社 情報統括室コンピュータ部に1年間出向。
    1995年 サカタウエアハウス株式会社(門真営業所)に異動。
    アパレル物流管理業務を担当。
    1998年 株式会社サカタロジックスに異動。
    物流改善,物流情報システム構築,物流ABC導入,
    物流アウトソーシング等の提案営業およびコンサルティングなどを担当。
    現在に至る。
    株式会社サカタロジックス シニアマネジャー
    主な資格 物流技術管理士,第2種情報処理技術者,倉庫管理主任者,
    品質審査員補(ISO9000S)

目次

1.はじめに

  3PLという概念が普及し10年近くになるが、近年企業の付加価値を高める手段としても注目されるようになってきた。様々な企業が新規に3PLに取り組むにあたり、3PLという概念の浸透の割には成果をあげている企業が少ないように思われる。本稿では弊社の物流アウトソーシング等の経験を通じて最近の3PLをめぐる動向と、なぜ企業の新規3PLへの取り組みが成功しないのかについて考察する。
  なお3PLの定義については様々な解釈があるが、ここでは内容、範囲を問わず広義の提案型営業による物流アウトソーシングという観点で述べる。

2.新規に3PLを目指す企業形態

  3PLを新規に目指す企業形態には次のような企業が考えられる。
(1) アセット型企業
  ①運送事業者
  トラック運送事業を主体とする企業であり、倉庫事業を一部展開する企業を含む。
  ②倉庫事業者
  倉庫事業を主体とする企業であり、運送部門、情報システム部門は外部企業に委託している場合が多い。
  ③物流子会社
  メーカーの子会社という位置づけの企業であり、従来親会社の物流業務を中心に実施してきたような企業を指す。

(2) ノンアセット型企業
  ①人材派遣会社
  物流関連の企業向け人材の派遣、作業の請負業務を主体とする企業を指す。
  ②コンサルティング会社
  物流関連のコンサルティング業務を主体とする企業であり、アセットを持ったパートナー企業と協力して、3PLを目指す企業を指す。

(3)複合型企業
上記複数のアセット型企業またはノンアセット型企業をグループ企業として保有する企業がある。

3.3PLに求められる機能

  3PLを実践する企業に求められる能力として、実物流業務の実践能力に加えて、次のような点がある。
(1)コスト改善提案能力
  現在の物流フローを分析し、物流以外の部門を含む物流課題、物流業務上の問題点の抽出、およびその解決策を含む物流改善提案力を有する。
  また単価のみの値下げではなく、トータルな運用方法の改善による、コストダウン提案能力とそれを試算する能力が必要である。

(2)情報システム構築、維持能力
  物流センターの管理、運営に必要な倉庫管理システムと連携するサブシステムの構築能力、およびコスト改善提案を継続して実行するために必要な情報システムの改善と新規開発能力を有する。

(3)顧客(荷主)企業との交渉能力
  論理的に顧客企業に対して改善提案を行い、その改善効果をシェアリング交渉する能力、クレームが発生した場合に迅速に改善策を提案できる能力、顧客との業務委託契約締結時に対等の立場で交渉できる関連法律に関する理解と交渉能力を有する。

4.新規3PLが成功しない要因

  新規に3PLへの参入にあたり、課題・障壁となる事項として次のような点がある。
(1)顧客(荷主)企業のコストダウン要求
  顧客企業が物流業務のアウトソースを検討するにあたり、コストダウンを前提としていることが非常に多い。
  この点については、現在の物流コストに関する構成要素を正確に把握している企業は少なく、またアウトソース後の業務の運営方法や拠点立地、物流を委託する企業の委託範囲や前提条件が同一ではないため、コストを現在のコスト体系と正確に比較することは非常に困難であり、実際には契約単価の値下げを前提とする物流業務の入札が多い。このような単価の値下げによるコストダウンを重視した物流入札の場合、新規3PLに取り組む企業が参入するにあたって、受託を難しくしている要因の一つと考えられる。

(2) 企業環境の変化

企業の高コスト体質の脱却
  バブル経済の崩壊以降、メーカー等の物流を委託する側の企業の収益力低下に伴いコスト削減努力とそれによる高コスト体質からの脱却が、ここ数年非常に進んできた。特に企業の人材の流動化、人材派遣企業の台頭により、企業が自社で物流を運営している場合でも必ずしも高コストといえなくなってきた。
  一方物流事業者側も近年の労働力不足と物量の変動への迅速な対応、およびリスク回避のため、人材派遣会社と物流センター内のリフトマンや作業者の派遣契約をする場合が多くなってきた。
  これにより物流業務を委託する企業と受託する企業間の物流センターを運営するために必要な人件費コストの差がほとんどなくなってきたといってよい。したがって、単に人件費単価の値下げを実施するような提案は困難となってきており、逆に物流事業者側の管理コストが発生するため、本来はアウトソースする側にも管理コストは発生しているのだが、見かけ上アウトソースを実施した方が作業にかかる人件費が高くなる場合が多くなってきている。
  実際どのように企業はコストダウンを実施しているのか、あるいはその中で3PLとして提案できる要素、および以降に述べる今後の3PLのあるべき姿を考察する参考例として、製造業における物流コスト削減策の統計資料を以下に記載する。

図.製造業における物流コスト削減策

出所:社団法人日本ロジスティクスシステム協会「物流コスト調査」アンケート(2004)

デフレ経済下の物価下落に伴う運賃の下落
  従来は企業間で格差があった運賃は、物価下落に伴いより運賃の低い運送会社への代替が進み、近年は運賃の下げ止まり状態となっている。さらに最近の原油価格の上昇やトラックの規制強化にともない一部では値上げの動きが出始めている。
  これにより、物流を委託する企業と物流専業者の運賃体系の差がほとんどなくなってきており、新規参入企業がこれらの企業並みの低い運賃を提示することは難しくなってきているといえる。
高度な物流サービスに対応する情報システム
  情報システムの構築費用については、大抵の企業では大きなコスト削減効果を見込める物流改善はすでに実施済みであり、新規情報システム導入に伴う投資額に見合うようなコスト削減効果は、企業の物流作業における人件費単価の下落とともに非常に困難になってきている。
  また一方で、多頻度小口物流の要請の増加や翌日納品の常態化、さらには時間指定配達、受注締め時間の延長といった高い物流サービスレベルを実現し維持する上でのインフラストラクチャとして、高度な物流管理を行う情報システムは必要となってきており、新規3PLに参入する上で、すでに物流情報システムを保有していない場合、高額な情報システムへの投資が必要である。
物流システムパッケージの普及と高機能化
  物流情報システムについては、WMS(倉庫管理システム)をはじめとしてパッケージ化とその高機能化が進んでおり、このようなパッケージシステムを導入することにより、荷主企業、物流事業者を問わず物流情報システムのインフラを構築することが可能である。ただし多頻度小口物流などに対応した高度な物流システムをパッケージシステムを用いてフルセットで導入する場合、数千万円の投資が必要となる場合が多い。
  したがって、物流事業者の提案するシステムが既存の物流システムに比べて物流業務を運営管理する上で、必ずしも高機能なシステムであるとはいえなくなってきている。また同様の理由により、物流事業者間の提案するシステムの機能的な格差も小さくなってきている。
  このため物流管理に必要な情報システムは、3PLの物流提案にあたり他社との差別化要因とはいえず、3PLとして物流提案を実施するうえでの前提条件の一つとなってきているのである。

(3) 新規3PLを実施する上でのアウトソーサー側の課題
新規3PLを実施する上でのアウトソーサー側の課題として次の点が考えられる。

コスト提案力
  見積もりを作成する上で、主な費目として倉庫賃貸費用、作業人件費、配送費がある。これらの見積もりを行う上で、すでに自社の物流拠点等のインフラがある場合コスト競争力の面において、既存のボリュームディスカウントにもとづく契約およびそれらを提供するパートナー企業のネットワークを活用することができるため、一般的に有利である。
  しかし、自社の物流基盤がないエリアへ新規に進出する場合、パートナー企業の契約料金はそれぞれ管轄営業所ごとに取引実績により異なるため、これらのメリットを活かすことが難しい。このため新規エリアへ単独で参入することが難しくなっている。
物流提案能力
  3PLとして、物流提案を実施するにあたり、通常現在の物流センターを1日程度見学する機会を与えられ、このときの視察結果にもとづき、改善提案およびその業務フローの提案を行う。
  顧客である荷主企業が、3PL提案企業に対して業界の商品取り扱い知識を保有しているかどうかを判断する基準のひとつは、この時いかに3PL提案企業が業務を理解した提案を提出できるかにかかっている。
  このような提案を実施するにあたり、実際に同様の業種、業態の取り扱い経験がないと、実物流における商習慣、商品取り扱い方法や納品方法等の提案が難しく、この点からも、業務経験のない業種、業態に向けた3PL事業の新規展開は困難なものになっていると思われる。
人材の育成
  3PLとして企業が提案型営業および業務を実施するにあたり、必要となるのは次のような人材の育成である。
(イ)提案営業を行う人材
上述したコスト改善提案およびそれを継続する仕組みとして情報システムの提案ができ、かつ業界の物流特性に関する知識をもった人材の育成が不可欠であり、3PL企業内の人材育成カリュキュラムにおいてこのような人材を計画的に育成する制度を作り上げる必要がある。また、最近の手法としては必要とする人材を新規に採用することも選択肢の一つとして考えられる 。
(ロ)受託後の業務立ち上げを管理する人材
営業部門にて獲得した受託案件の業務立ち上げには、営業時に投入する工数以上の人的資源を必要とする場合が多く、この体制が整備されていないと受託した顧企業の物流業務の立ち上げがうまくいかず、業務の運営が軌道に乗らない場合、場合によっては委託契約が解除されるようなことも起こりうる。
したがって、新規3PLを実施していく上で、事前に営業部門と業務運営部門の連携と整備が必要であり、このような組織体制が確立されていない企業の場合、ゼロから構築することは非常に困難である。

5.今後3PLを実施していくうえであるべき姿

  このような要因により、企業が新規に3PLを実施していくにあたり、先行し準備が必要な事項とその実施に必要な経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を計画的に準備し投入する必要があるため、新規参入が難しい要因となったり、またはすべての条件を兼ね備えていない企業が参入した場合、3PLによる売上拡大が伸び悩む要因となっていると思われる。
  また、近年の物流コンペの状況として非常に多くの経営資源を投入したにもかかわらず、得られる利益が低く、またサービスに対する対価を交渉する能力が低い企業では収益が得られないことも予想され、企業にとって新規参入のメリットを得にくい状況になりつつあるのではないかと思われる。
  このような中で、今後3PLを実践していく企業として、企業の大小を問わず次のような能力を持った企業が生き残っていくのではないかと考える。
(1)専門性
この分野(業種・業態)であれば他社に負けないと自負できるような、企業のマーケティング戦略(物流、商流、情報流)から関連する法制度にいたるまでの幅広い知識とノウハウをもつこと、またそれを活用した提案能力をもつこと。

(2)戦略的情報システム
同業他社と差別化できるような、物流戦略・計画系システム(シミュレーションシステム等)あるいは、物流管理・計画系システムを構築、提案できる能力。

(3)論理的な交渉能力
企業との料金交渉、契約締結にあたり、論理的に交渉できる能力、およびそれに必要な根拠を分析し明確に提示できる能力、業務遂行にあたり関連する法律知識をもち交渉時に利用できる能力を持つことが重要である。
弊社の物流アウトソーシングおよび物流ソリューションの経験、および最近の動向から気づく点を述べた。これから3PLを実践していこうとする企業の皆様に参考になれば幸いである。

以上

【引用文献】
社団法人日本ロジスティックスシステム協会
「2004年度物流コスト調査報告書」アンケート「物流コスト削減策(製造業)」



(C)2006 Kouji Yoshii & Sakata Warehouse, Inc.

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