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経営戦略・経営管理

第87号グローバルSCM構築とその秘訣–SCMの構築に終わりがあるか– (2005年11月10日発行)

執筆者 宮口 孝治
レクソル株式会社 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 学歴
    • 京都コンピュータ学院卒業
    職歴
    • 株式会社CSK 主事
    • イーエックスエーテクノロジーズ株式会社 ダイレクター
    • 宮口システムコンサルタント事務所 代表
    • レクソル株式会社 代表取締役
    • 現在に至る
    資格
    • 情報処理システム監査技術者 情報処理旧1種
    連絡先
    • 事務所  〒438-0078
      静岡県磐田市中泉225-5第一ビル2F
      TEL.0538-33-8422 FAX:0538-338423
    • URL   http://www.lexsol.co.jp

目次

1.はじめに

  近年、SCMの実現に向け動き出した企業が多くある。また、「うちではSCMを完全に実現した」と言うことも耳にするようになった。
  今回は筆者が計画立案から実施に至る、全工程に参画したある輸送機器メーカー(以降はA社と記述)の補修部品部門が構築したグローバルSCMのプロジェクト(仮称-以降はPJと記述)の事例を紹介し、「真のSCMとは何か?」、「そしてそれを実現するためにはどうすればよいか?」、同様の課題に取り組んでおられる皆様の参考として頂きたい。
  このPJは1991年頃から始まった。当時のA社の補修部品点数は全世界で40万点超、拠点数は国内約100拠点、海外約50拠点であり、年々大幅な増加が見込まれた。この現状に目をそむけると補修部品の供給に重大支障が出てくる一方、膨大な在庫を抱えて市場への供給を行わなければならなくなり、経営に大きな打撃を与えることになる。
  そこでA社では補修部品のグローバルな供給体制の確立と在庫の適正化を実現すべく①世界規模での大幅な在庫圧縮②CS(Customer Satisfaction)向上をPJ目標に掲げ、この相反する目標を達成するために巨大で長期に渡るプロジェクトが始動した。

2.PJ目標を達成するためのアイディアと障害

  大幅に在庫を削減する一方で市場になんら影響を与えず、よりサービスレベルを引き上げるため、どのように補修部品を供給すべきか? グローバルな視点に立ち供給ポリシー、在庫ポリシーを考えた結果、①製造・調達・供給のあらゆるリードタイムを短縮する。 ②部品メーカー ⇔ 最終ユーザー間(全世界の販売店)の物流プロセスを削減する。③世界規模での実需(末端市場の実績)、在庫を把握し各ストックポイントの統廃合を含め在庫適正化を図る。と結論付けた。然しならこれらを実現するためには様々な障害があった。主たる課題は以下の3点であった。

(1) 海外拠点、国内拠点の物流現場を改革しないと上手く行かない
  上記の施策による高頻度・少量、スルー型などの入出荷に耐え得る物流現場を作り出す必要がある。また、国内外の全てのストックポイントにこれらを適用しなければならないこと。

(2) 明確な在庫計画ポリシーを導き出さないと在庫適正化は図れない
  各市場別の単発の需要予測に頼りきって在庫を調達している現状の中、世界規模で在庫を適正化するための具体的な在庫計画ポリシーを導き出すことが出来るか。

(3) 新たなコンピュータシステムの構築が必要となる
  上記の考えを支えるために全世界共通のA社補修部品業務思想を持ったコンピュータシステムの開発が必要となる。

3.実現するための具体的な展開

  では、A社ではどのようにこれらの問題を解決し、グローバルSCMを実現したのか?①日本国内、欧州、北米の三大拠点のストックポイントの統廃合と物流センター改革の実施②市場連動型による在庫計画、連結在庫計画の導入③本社主導によるコンピュータシステムの開発と各拠点への展開を行うことでその解決を図った。現実には以下のようなフェーズ分けを行い、実施に踏み切った。

(1) 第一フェーズ(1991年~)
  ◆ 国内拠点倉庫改革
  約100拠点あった国内のストックポイントを全国8箇所(北海道、東北、関東、中部、関西、中国、四国、九州)に統合し高頻度/少量の入出荷に対応した物流センターを構築した。また、同時に開発したFシステムが統合した国内の補修部品物流業務を支えた。(現時点では関東、関西の2センターに集約されている。)
これにより国内在庫を削減し、高生産性物流センターを実現したことでサービスレベルを向上させた。

  ◆ 小規模海外拠点の補修部品センターの改革とシステム導入
  外生産工場向けの補修部品の供給システムを本社主導で作成し、順次導入すると同時に物流現場の改革に取り組んだ。ローテクからハイテクへ転進させることでスムーズな補修部品供給体制を確立した。本システム(以降、Pシステムと記述)の導入と物流センター改革は現在も進行している。

(2) 第二フェーズ(1993年~)
  ◆ 欧州地域の物流改革
  欧州の全地域に配送する欧州物流センターを設立し、欧州各国の代理店の在庫を統合し、欧州物流センターから各国代理店傘下の販売店への直送化を実現した。これにより本社から欧州への供給が1本化され、本社在庫、欧州地域の在庫が大幅に圧縮されたと共に各国代理店の在庫計画担当者の力量に頼り切っていた即納率が向上したことは言うまでもない。

  ◆ 本社物流センター改革
  補修部品供給の中核となる本社物流センターの大規模な改革に取り組んだ。この改革では物流工程を大胆に削減する「プロセスカット」(図1参照)を実現し、低運用費、高品質、高生産性の物流センターを構築した。

  ◆ 市場連動型在庫計画への移行
  階層別に実施している在庫調達機能を実需に基づいた必要数を下位階層から上位階層、部品製造メーカーにつなげる市場連動型在庫計画を日本市場、欧州市場に導入した。
  システム面では欧州、本社の部品物流業務を支えるGシステム(欧州Gシステム、本社Gシステム、本社物流センターGシステムの3構成)を開発した。国内物流業務を司るFシステムに対し市場連動型在庫計画の対応を実施した。

(3) 第三フェーズ(1998~)
  ◆ 北米地域の物流改革
  物流改革が遅れていた北米市場に対して本社物流センター改革で実施した同様の改革思想を北米の3物流センターに導入した。同時に市場連動型在庫計画に移行し、日・米・欧の市場連動型在庫計画を完成させた。システムでは上記のプロセス改革を支援する北米Gシステムの導入を実施した。

  ◆ グローバルSCMネットワークの構築(図2参照)
  世界中の供給情報、オーダーリングシステム、在庫情報を集約したグローバル部品データベースの構築と本社(Gシステム)、各国のコンピュータシステム(欧州Gシステム、北米Gシステム、各国Pシステム)を結合させたグローバルSCMネットワークを完成させた。
  このネットワークの完成により各拠点在庫、本社在庫の一元管理、販売店からのオーダーエントリー、出荷情報などの把握がリアルタイムに近い形で実現された。

  ◆ 連結在庫計画の導入
  市場連動型在庫計画では在庫削減に限界が見えてきた。よって市場連動型在庫計画をより発展させた連結在庫計画の導入を実施した。連結在庫計画は全世界の拠点在庫、本社在庫を論理的に1つと見なし、必要在庫数を導き出すと共に各拠点の適正在庫を計算している。(今回は詳細なご説明は省略させて頂くこととする。)これにより、更に30%以上の在庫削減を実現している。

4.SCMに終わりはあるか?

  グローバルSCMネットワークの完成、連結在庫計画の導入、各拠点、本社物流センターの物流改革が完了し、本PJの目標は達成されたと言ってよい。即納率は98%以上を維持し、在庫は大幅に削減され、各国物流センターは低運用費、高品質、高生産性を実現している。然しながら、A社では更なるステップアップを図ろうとしている。
  ①本社物流センターと国内物流センター(関東、関西)を統合し、国内の供給
  体制の一本化、更なる在庫圧縮のプロジェクトが進行中である。
  ②世界6極化(日・米・欧・アジア・南米・中国)を打ち出し、シンガポールに
  アジア、中近東諸国の供給をつかさどるアジア物流センターの運用を開始した。
  この様に2002年に一通り完成をみたグローバルSCM構想は更なる経営の効率化を目指し再び始動した。SCMの追求には終わりがない事の証明といえる。

5.最後に

  このPJの難しさは製品と違い、「補修部品」という性質上、限りなく100%に近い即納率(受注引当率)が要求されるとともに最短時間での供給が必要とされることである。この構想は1982年頃から暖めていたものである。しかし、当時のコンピュータ利用技術やロジシティクス技術では実現が困難であった。
真のSCMを実現するための筆者の結論は

① 障害となる堀を埋める事
  A社の場合は構想を実現するために障害となる物流現場の改革から実施して高頻度、少量の入出荷業務に絶えうる物流センターの構築と一足飛びに最終系に持っていくのではなく、順序立てを行い徐々に最終系に近づけていった。

② ロジスティクス技術とコンピュータシステムを融合させる事
  SCM改革はコンピュータシステムを導入すれば実現出来ると思われがちであるが、それは誤りである。最も重要なことは「物流プロセスをどのように改革するか」である。この場合に必要となる技術はロジスティクスエンジニアリングと言える。コンピュータシステムは改革された新しい物流プロセスを支える事にその価値を発揮するのである。

③ SCMの最終形を描く事
  自分たちが目指すべきSCMの最終構想を描いてあることが必要である。そして、その構想にどこまで近づけられるかが鍵となる。
  A社の場合は構想から十数年という月日を費やしてグローバルSCMを実現した。当時はSCMと言う言葉の定義もないところからスタートし、ロジスティクス技術、コンピュータ技術も今と比べれば極めて貧弱で時代であった。これからSCMを考えている企業の皆様はSCMコンサル、コンピュータシステムの前例も揃っておりこれほどの時間を費やすことはないであろうと推察する。

以上



(C)2005 Koji Miyaguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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