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ロジスティクス

第77号一次産業にもロジスティクス改革を ―産業としての基盤作りと国際競争力強化―(2005年6月2日発行)

執筆者 野口英雄
有限会社エルエスオフィス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立、カサイ経営パートナーコンサルタント
    • 2001年 群馬県立農林学校非常勤講師
    • 現在に至る
    所属団体など
    • 日本物流学会会員
    • 日本物流同友会会員
    主要著書・論文
    • 「ロジスティクス・ウエアハウス」(1993年,日本倉庫協会論文賞受賞)
    • 『日刊運輸新聞』に「低温輸送ビジネスを掘り起こす」連載(1999年4月~2000年10月)
    • 低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く」野口英雄著,プロスパー企画,2001年7月

目次

1.一次産業は危機的状況

  榛名山麓に広大な圃場と恵まれた教育施設を持つ群馬県立農林大学校へ、「農業にロジスティクスを」というコンセプトでお手伝いを始めてもう5年にもなる。国や自治体の重要な施策である農業後継者を育成するために、県単位で設立されているこの大学は確かに、土壌・育種・病理等の基礎技術を教えてはいる。でも顧客向けの商品としての農産物の開発やマーケティング、流通等はそのカリキュラムに余り含まれていない。
  それでは何故ロジスティクス講座につながったのかと言えば、従来からの「農産物貿易」というテーマからである。群馬県はブランドとしての嬬恋キャベツ、下仁田ネギや蒟蒻で有名だが、これらが海外産品に大打撃を受けている。それが競争品の輸入拡大への危機感、国内産品のマーケティングや流通という問題意識につながったわけである。まさに農業のグローバル化への対応策を考えるということであろう。また甘楽郡では朝取り野菜を東京のスーパーへ、開店までに供給するというユニークな取り組みも行っている。これは農業のロジスティクスとしての試みであるとも言える。
  我国農業生産額は2002年度で9兆円弱程度と漸減しているのに対し、その輸入品は4兆3千億円と拡大し続けており、金額ベースでの食糧自給率が70%というのもうなずける。それをカロリーベースで見ると40%ということになり、これが食料安保として国策の基本にもなっている。本当に安保ということで片付けられるのかは甚だ疑問であり、国の基幹である一次産業としてその基盤を整え、国際競争力を強化していかなければならないと考える。

2.食ビジネスにおける一次産品の位置付け

  消費者の食に対する安全・安心要求や健康志向から、食の自然化や鮮度・衛生管理等のニーズが高まっている。生鮮3品(野菜・鮮魚・精肉)は食品スーパーにおける最も基本となる商材であり、売り場作りの中心となる。外食~中食産業においても生鮮素材は極めて重要な食材であり、今や通年で安定的に確保すべくインターネットによる国際調達システムを運用している。そして低温輸送技術の向上が、生鮮品の国際輸送を可能にしている。
  もう一つの側面は、例えばデパ地下における弁当・惣菜の食材としてのブランド品である。有名産地の一次産品を独自の流通ルートで確保し、低温輸送で鮮度や衛生状態を維持し、これが最終商品としての付加価値を高めている。有機・減農薬野菜等についても同様で、産地との契約栽培も拡がっている。飲食業が直接栽培に乗り出すケースもでてきている。
  生体品流通としての生鮮野菜は、呼吸活性を低下させ鮮度を維持させると共に、自らが排出する生理活性物質(エチレン等)による障害を抑止するため、収穫後直ちに予冷し以降コールドチェーンによる低温輸送が必須であり、既に30%程度はこの方式に移行していると考えられる。ところが流通全般で見るとドックシェルター設備のない営業冷蔵倉庫、卸売市場や小売店舗等で温度管理の欠落があり、インフラとしては未整備の状態である。
  伝統的な流通を司る卸売市場の経由率(表―①参照)は年々低下しており、もはや集荷~配荷やセリ機能が大きな変革に曝されている。これは卸売市場法の規制緩和による市場外流通の拡大という流れもあるが、小売業による独自の農産物サプライチェーン整備や、低温物流インフラとしての問題を回避させるという背景もある。国が定めている卸売市場手数料も漸く自由化される方向になっている。

一次産品の卸売市場経由率:2000年 (表―①)

区 分
経由率
手数料
備 考
野菜
80
8.5
果実
58
7.0
水産物
68
5.5
花卉
9.5
システム取引が多い
食肉
3.5
経由率は低い

3.システム化の制約

  消費領域の食品流通においては、加工食品との一括物流即ち全温度帯同時対応というニーズがあるが、一次産品は流通特性が異なり情報システムにものせにくいということで、これだけは別扱いになりがちだ。生鮮品ではもちろん無在庫型の運営になり、物流センターではDC型とTC型を組み合わせた業務システムを構築することになるが、これを阻む要因が幾つかある。その主なものを次に列記する。
(一次産品が一括物流システムにのりにくい理由)
(1) 相場商品で変動要素が大きい
(2) 商品コード・物流シンボル等が未整備で、EDIにならない
(3) 鮮度要求が厳しい:無在庫型流通、日付後退限度管理、温度管理
(4) バルク品や不定貫品が多く、荷姿も一定しない:ユニットロードの制約
(5) 加工食品とのパレチゼーションになじまない
(6) 臭い・水濡れ・品質阻害物質発生等の混載制約がある
(7) 非加熱品としての微生物制御の問題がある
  一次産品標準取引コードのモデルは既に構築されているが、実態としては余り使われていない。相も変らぬ手書き伝票・FAXの運用ではSCMへの進化を著しく阻害する。一括物流にならないという点では店舗への納品車両台数が削減できず、商品受け入れの手間や環境対応面でもネックになっている。東京都がディーゼル車規制に続いて、百貨店への納品を指定事業者による共同配送とするよう強く指導しているのは、公道への待機車両のはみ出しや環境問題による。
  システム化に大きく遅れをとる一次産品の中で、花卉だけは既にインターネット取引が主流になってきており、特異な存在だ。それは工業レベルでの生産が進んでいることもさることながら、鮮度を始めとして商品価値を高めるためにSCMとコールドチェーンが不可欠だからである。一次産品は時代に取り残され営々と従来のサプライチェーンに拘束されていたのでは、生産者がいくら努力しても救われない。改革しようとすればできる格好の事例がここにある。

4.一次産品のサプライチェーン・マネジメント

  食品流通の中で「除く一次産品」とするのではなく、可能な限り一括物流にのせていかなければ小売業の運営に支障をきたすだけではなく、環境問題への取り組みにも大きな制約要因になる。複数温度帯を同時に流通させることはハード的には可能であり、問題は鮮度管理としてのTC型運営を前提にした新たな業務システム作りである。
  例えば野菜の歩留まりは生産要因を含めると70%程度と言われており、30%がロスということではこれをSCMの課題として改善に取り組まなければとても事業にならないはずである。その基本は発注情報を産地にリアルタイムで提供し、その条件に合う商品を如何に集荷できるかが重要ポイントになる。物流は鮮度向上のため多段階を排除して、経路短縮を図る。
  在庫を持たないTC型運営は、賞味期限が短い加工チルド商品では既に主流であって、一次産品でできないはずがない。問題は前述した情報システムにのらないという点の克服であり、情報が先回りして管理や段取りに使えれば加工食品と全く同じレベルでの運営は可能であろう。もちろん巨大な商流を握る農協が商物分離を前提に、このようなシステム化に臨む姿勢があるかどうかが問われる。農協は生産額の50%超の商品を扱っており、一方で4兆円規模の生産資材を牛耳る商社でもある。一次産業改革の重要な鍵と責任を負っている。
  結論として一次産品の多くは鮮度・衛生管理が重要であって、需給管理を基本とするSCMに品質管理や環境対応を含めたロジスティクスに取り組む必要がある。これが商品としての付加価値の向上や競争力強化につながり、一次産業としてのステータスを上げることになると信じる。

5.基幹産業としてのロジスティクス改革

  国の基本である一次産業は今、WTOという世界的な貿易ルール化の中の農業問題でほんろうされ続けている。FTAという新しい流れもあり、基本的には関税をゼロ化するというのが国際的な潮流であろう。工業国としての我国は工業製品の競争力確保をしようとすればするほど、逆に一次産品が同一交渉テーブルにのせられることになり、我国が主張する食料安保や環境維持という論理だけでは問題を解決することはできないだろう。(表―②参照)
  山間地が多いという我国の立地や、天候等の自然要因での困難も多く、一概に工業レベルでの取り組みや先進農業国と同列視することはできないが、それにしても生産そのものだけではなくもっと商品開発や流通という視点での取り組みを行うべきではないか。それは一次産品を重要商材として扱う食品小売業・飲食業にとっても不可欠な基盤であるはずだ。
  国産牛肉について昨年12月よりトレーサビリティーが義務付けられ、順次他の商品にも拡大していくことになっている。これは単に生産履歴追跡だけでなく、流通としての出荷追跡も行わなければ意味がない。それはロジスティクス基盤の上に成り立つ。農水省はこのようなシステム化について、「強い農業作り」支援として膨大な補助金を基本とした政策を持っている。国際競争力のある一次産業の一つの重要な要素は間違いなくロジスティクスであろう。

農産物自由化の新しい流れ (表―②)

区 分
位置付け
目指している方向
WTO 多国間にわたる貿易協定 各国の輸入制限を関税化
全会一致制 それを段階的に削減
農業補助金の削減等
FTA 2国間の貿易協定 関税ゼロ化を目指す
2005/4メキシコとの間で発効

WTO:世界貿易機関
FTA:自由貿易協定
(データ出典):食料・農業・農村白書平成15年版他

以上



(C)2005 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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