ロジスティクス・レビュー

第76号METRO EXTRA Future Storeに見る近未来のリテールテクノロジー ―RFIDでお客さまの楽しい生活空間を目指すMETRO―(2005年5月13日発行)

執筆者 鈴木 準
有限会社サン物流開発 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼

  • 学歴
    • 東京経済大学商学部卒業。
    • 産業能率短期大学生産管理科卒業。
    • 日本電子専門学校電子計算機科卒業。
    職歴
    • セーラー万年筆(株)経営企画室主任。
    • (株)長崎屋 物流部・電算部部長・システム本部副本部長。
    • (株)サン商品センター代表取締役社長。
    • (有)サン物流開発代表取締役。
    • 現在に至る
    講師
    • 専修大学講師・早稲田大学講師及び
    • 早稲田大学アジア太平洋研究センター講師経験
    • JILS 物流現地フォーラムコーディネーター
    • 日経ビジネススクール講師
    • 文化ファッションビジネススクール講師
    • 中小企業事業団登録専門指導員経験。
    資格・所属団体等
    • 物流管理士
    • 販売士1級
    • 日本物流学会会員
    • 国際物流管理士
    その他
    • 海外物流視察70回
    • 内外合わせて1,000施設視察
    連絡先
    • 事務所 〒135-0033東京都江東区深川1-1-2-701
                TEL.03-3642-3762
    • 住 所 〒274-0822千葉県船橋市飯山満町3-1761-105
                TEL.047-467-1077
    • メール BZN00530@nifty.com

目次

  日本におけるRFIDフィーバーの発信地の一つと言えるのがドイツの流通業メトロ社のスーパーマーケット“EXTRA”Future Storeと呼ばれるラインベルグ店である。特に同社を世界に知らしめたのは、2004年1月ニューヨークで開催されたNRF(全米小売業協会)での発表である。メトロはNRFで多数のビデオCDを配布し、ラインベルグ店からの衛星中継で実験の模様を公開した。この情報は世界中に伝播し、世界の小売業者や流通と情報の学者、コンサルタントに衝撃を与えた。そして日本はもとより、世界中から見学者が同店を訪れている。しかし、日本ではRFIDだけが際立って脚光を浴びているために、見学者の中には期待外れにがっかりした人も居たようである。しかし、メトロの真の目的は、お客様に「楽しいお買い物」をして頂くための演出で、RFIDはリテールテクノロジーの一部と考えたほうが良いかと思う。  
  メトログループは世界最大の国際流通業である。2002年、小売業で世界第5位、28カ国に2,334店を展開し、従業員数は24万人である。ヨーロッパでは売上高は515億EUR、約7兆円。2003年度は605億3200万㌦で世界第4位、ドイツ国外の売上高は47%である。

METROの国際売上高構成比 2002


  ドイツ・デュセルドルフ郊外、ラインベルクのメトロ・エキストラ店はメトログループによる最初の未来店の実験場である。未来の小売産業を創造する実験店舗である。同社のフィーチュアーストアのPR誌には「この実験の主目的は顧客利益を促進することである」と書いてあるが、実際は正確な在庫情報の把握による「在庫回転の向上と売上の機会損失防止」にあると思う。  
  ここでは、顧客の買い物行動を改善して、顧客の買い物から苦痛を排除し、買い物を楽しくし、売り上げを向上させること、サプライチェーンのプロセスを改善して効率よく、欠品の少ない在庫管理を実現することを目標にしている。
  基本技術はRFIDと無線LANを採用し、既存の在庫管理システムと統合することで、在庫情報と入出庫情報をリアルタイムに入手し、活用できるようにすることである。また、物流面では入庫検品作業の合理化、たな卸し作業の軽減、在庫レベルの最適化によるコストダウンをねらったものである。また、店頭における欠品率を下げることで売り上げの機会損失最小・在庫最小を実現し、店員の生産性を向上することと、併せて、店舗に対する顧客のロイヤリティを上げようとするものである。

★なぜ物流にRFID なのか

  このプロジェクトは、メトロの物流センターからエキストラ・ラインベルグ店に送るパレットに積んだ商品のケースに、ICタグを付け、物流センターの出荷時に出荷情報をスキャンし、店に配送された時に、ICタグをスキャンすることにより、店のマネージャーは商品の入荷情報を把握し、同時に荷受検収を省力化し、店舗のスマートシェルフのシステムと併せて在庫管理を徹底し、在庫回転の向上と品切れ防止の二律背反の問題を解決する。この実験の目的と手法は物流に於いては、アメリカのウォルマートと同じであるが、売り場での実験はウオルマートより先行している。
 メトロ・エキストラ・ラインベルグ店は1977年11月27日に開店した長い歴史を持つ店舗である。2002年2月11日から2003年4月12日まで改装のため、閉店し、2003年4月28日にオープンした。   
 メトロ・エキストラ・ラインベルグ店の概要   
 ① 従業員       124人   
 ② 店舗面積     3,855㎡   
 ③ カテゴリー    52   
 ④ 顧客:数/日    約2,500人   
 ⑤ アイテム     約3万   
 ⑥ 食品アイテム     約2万   
 ⑦ 食品種類     生肉対面販売:鮮魚、加工食肉、惣菜、乳製品   
            調理食品、ケーキ、焼き立てパン   
 ⑧ 非物販業     宝くじなど、旅行業、

★不安を感じた物流のRFID

物流センターの出荷エリアではRFIDスキャナーが出荷するパレットに積まれた商品のダンボールケースを認識する。この情報は荷受けする店に伝送される。ここでの問題はICタグの読み取り精度である。ケースとケースの間に入ったICタグは読みにくくなる。そこで、ICタグが外側になるようにして解決したそうである。
 RFIDで最も問題が大きいのはどれが読まないケースかわからないことである。
 RFIDゲートの通過スピードは人間が歩く速さが良いということである。そこで,光で読み取りゲートの通過スピードをコントロールする。パレットがRFIDのゲートに来ると、赤外線センサーが察知し、読み取り開始を知らせる。パレット上のICタグが読み取られると、読み取り終了を知らせる。

      出荷ゲートを通るフォーク

      ラインベルグ店の入荷ゲート

  また、液体のボトルや缶詰は読み取りが悪いそうである。入荷ゲートを通過すると、この情報は店の在庫管理システムに送られ、出荷情報と照合される。人手を介さずに荷受検品が出来る。これがFuture Store の目的である。ピース出荷率の高い日本ではオリコンの詰め合わせ商品がスキャンできるとは思えない。また、日本はボール(内箱)単位で、ケースもボールのように小さいので商品1個当りのコスト負担が問題だ。
  バックルームと店内の間にもRFIDスキャナーがあり、バックルームに保管された商品を店内に陳列するために商品を移動する時は、このスキャナーのゲートを通過し、情報を取り込む。多種類の商品のケースを台車に積み合わせて、スキャナーのゲートを通過する時の読取率は悪いそうであり、実際は使っていない。また、メトロ・エキストラ未来店ではバックルームの棚にも、店内の陳列棚にもRFIDのスキャナー(アンテナ)があり、入出庫や補充、販売のデータは即時に読み取れる仕組みなので、バックルームと店内の中間のスキャナーは不要と思う。

★EDLPはITFで

  小売業に於けるRFIDの利用には次のようなことが考えられる。
  ①集合包装に使い、物の受け渡し、検収などに使う。
  ②JANコードと同様、単品にICタグを付けてPOSに利用する。
  ③店内とバッククルームの在庫を統合して捉え、品切れと過剰在庫の防止、
   及び売上の機会損失を最小化する。
  ④シュリンケージと云われる万引き防止。現在、万引き専用の磁気タグを
   転用すると良い。
  ⑤販売促進での利用。販売促進では無限の広がりが期待出来るが効果は疑問。
  ⑥顧客の購買支援。メトロの未来店ではこれが主目的であると見る。
  我々が訪問した2004年6月は、実験が山を越し、終了に近かったのか、見学の価値の低い状況であった。RFIDはPOSにも万引き防止にも使われておらず、日用品ではたったの12アイテムで、陳列棚から取る、入れる、の情報しか取れておらず、運用上の実験ではなく、技術的な実験であり、店外でも出来る実験である。なお、ケルンに近いNeussのMainstrasseという所にはRFID Innovation Centerがあり、技術的実験はここで行われている。2005年6月には、ここを訪問するので、このサカタ・ロジックス・レビューで報告する予定である。従って、メトロ未来店はデモストレーション効果を狙ったものと思うが、これはこれで優れたシステムであり、未来への壮大な実験だと思う。物流だけで見ると、なぜ、不確実でコストの高いRFIDなのか疑問を感じる。ウオルマートも同様だが、バーコードなら、もっと早く実施が可能であり、もっと早く収益を得ることが出来た筈である。なぜ、バーコードを飛ばしてRFIDなのか理解できない。日本では日用品卸売業の中央物産が1994年にITF(標準物流バーコード)による自動入荷検品と保管場所への自動搬送を実行している。その後、スーパー・オークワのトランスセンターでITFによる検品と店別仕分けシステムを導入している。また、オークワと同様のシステムがウォルマートに似た業態のアメリカのスーパー、マイヤーズでも導入されている。
  日本がピースの物流であるのに対し、欧米はケースの物流で、しかもパレットによるユニットロードである。RFIDは浪費であり、ITF以上のコストダウンは出来ずEDLP(毎日安い)には向かないシステムである。

★物流より問題の多い売り場での利用

  店内でRFID の付いた商品を陳列する棚はスマートシェルフと命名されている。スマートシェルフにはICタグのセンサーが付いている。ICタグのついた商品を取り出すと、在庫が1個減少したことが店員の持つ携帯端末や在庫管理システムに通知される。同様に補充すると在庫は増加する。RFIDはレジのチェックアウトでも使う予定だが、ICタグの付いた商品はたった12アイテムであり、を買って、レジを通っても、そのような兆しはどこにも見え無かった。PSA(Personal Shopping Assistant)というモバイルPC搭載のカートもセルフレジも同様にRFIDは使われていなかった。実験のアイテム数から言えば当然のことと思う。また、ICタグのついた商品を持って店の外に出ようとすると、アラームが鳴るということを日本で聞いてきたが、しかし、そのようなことは無かった。イギリスのテスコでは、客がジレットの剃刀を手に取ると、防犯カメラが客を追跡し、レジを通らないとアラームが鳴ったということだが、アメリカのプライバシー保護団体(CASPIAN)が抗議したため、このシステムはやめたそうである。また、この余波でイタリーのベネトンもRFID導入を見送ったと聞いている。日経BPによると、PSA(無線端末搭載のショッピングカート)にも無線ICタグが付けられていると書いてあったが、われわれの見学ではその様なシステムにはなっておらずバーコードが使われていた。
  DVDやCDにICタグを付け、これをモニターや試聴器のところに持って行き、ICタグをスキャンすると、プロモーションビデオが見られたり、CDの試聴が出来たりするが、CDについては日本ではバーコードで実用化している。むしろ問題は膨大なAVデータの管理が大変だと思う。
  無線ICタグの付いた商品の補充が間に合わないのか、無線ICタグのコスト面からメーカーが装着してこなくなったのか、理由は確かでないが、実際の棚には無線ICタグの付いた商品はなく、実際には使われていなかったように思う。無線ICタグのコストは1個当りユーロで30~70セント(1ユーロ135円)と言われており、このコストでは合理化効果も消えてしまう。ICタグの価格は毎日のように低下しているが、取付け費用もソースマーキングで無料のバーコードより高いので、万引き防止でコストが吸収できる高級アパレルかブランド商品にしか使えない。ウォルマートやメトロのような利益率の低い、平均単価300円のドライグロサリー(日用品・食料品)には使えないし、JANで十分である。
  イギリスのマークス&スペンサーではヨークシャーの物流センターで日配品を入れたクレートにICタグをつけて出荷管理をしているが、日本では、日本電装がこれと同じシステムをQRコードで数年前に実用化している。また、ICタグに賞味期間など多くのデータを入れても店に着いた段階で、クレートから出され陳列されたらICタグの使命もそこで終わりである。

★幻の未来店

  METRO EXTRAラインベルグ未来店の最大の目標はお客様の買い物をお手伝いし、買い物の苦痛を取り除き、ショッピングを楽しくすることである。その最大の目玉がPSAというショッピングカートである。
  PSAを使う客は店内で重くて大きいPSA端末を借りてカートに取り付ける。店員がアシストしなければ老人では取り付けできない。利用者は5%と聞いたが、実際は我々のような見学者が使っているのではないかと思う。PSAの端末にはバーコードリーダーがついており、最初に顧客のハウスカードのバーコードをスキャンして顧客の認識が行われる。ハウスカードはICカードではないのだ。
  当然、お買い上げ商品の登録もPSAのバーコードリーダーでスキャンする。ここでとんでもないことを発見した。前の顧客のお買い上げデータがモニターに残っているのである。前の客の使用した端末のホワイトニングがされていないのだ。しかし、EANをスキャンした商品については一品ごとに画像と商品説明が表示され 商品情報のメンテナンスがきめ細かくおこなわれていると認識した。しかい、LCD画面が店内の照明に反射して非常に見にくく、かつ文字も小さいため非常に読みづらい画面であった。
  さて、買い物が終わって、レジに行くと、まず客は、一般レジのレーンに並んでカートからPSA端末を取りはずしてキャッシャーに渡す。するとキャッシャーは、PSA端末に貼り付けられたIDのバーコードをレジのスキャナーで読み込ませて取引の決済処理をおこなう。レジに接続されたハンドスキャナーでPSA端末のバーコードを読み取るのであればまだしも、お客様がわざわざショッピングカートからこのPSA端末をはずさないと決済ができない不便なものだった。私は未来から現実に戻された。未来店は幻であった。

★まとめ

  無線ICタグのコストと同時に棚に設置されるアンテナについても考えておく必要がある。スチール棚は通信障害をもたらす上、90㎝幅の陳列棚の各段に2個のアンテナを設置しなければならず、アンテナの数は膨大になり、このコストも大きな問題だ。商品に貼り付けるICタグのコスト及び取り付け費用と同時に店舗に設置されるアンテナのコスト削減も重要である。加えて、JAN(EAN)POSのシステムとRFIDの二つのシステムを併用しなければならない。インテル社のプロモーションビデオを見るとバーコードが併用されている。RFIDは目で見えないので人間が読める文字を印刷したタグやラベルを必要とする。私はRFIDについては四半世紀前から興味をもっており、RFIDの将来に夢を持っているが、スーパーマーケットのPOSとケース、パレットの物流での利用には向いていない。また、トレサビリティはシステムとしては良いが、「おれ・おれ詐欺」の日本では却って悪用されるだけである。トレサビリティはRFIDのシステムではなく、信頼を基盤にしたサプライチェーンの構築が重要である。
  3PL,SCM、ヴァリューチェーン、デマンドチェーンと矢次ぎ早に新語が登場するが、現代は言葉も商品であり、付加価値の源泉である。コンサルタントや企業の販売戦略に惑わされず、地に足を着けて、事象を確実に見極めなければいけない。

METRO EXTRA 入口

親切に迎えてくれたメトロのスタッフ


   バックルームと店内の間の
       スキャナー

METRO EXTRAラインベルグ店

バックルームと店内の間のスキャナー

セルフレジ

見学客の利用が多いPSA(Personal Shopping Assistant)

以上



(C)2005 Jun Suzuki & Sakata Warehouse, Inc.


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