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インタビュー

第73号現場発ナレッジを生かすシステム構築のありかた(2005年3月4日発行)

執筆者 吉田 英一
カネボウフーズ株式会社 システムアドバイザー

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1971年4月 カネボウ化粧品入社
      以来、ネットワークシステム、マーケティングシステム
      ロジスティックシステムの開発に従事し、カネボウが受賞した
      下記の各システムの設計・開発責任者
    • 2004年3月 カネボウ化粧品 退社
    • 2004年6月 カネボウフーズ システムアドバイザー
    • 現在に至る
    カネボウ受賞歴
    • 1976年 通産大臣賞
    • 1985年 日経優秀先端事業所賞(DPC)
    • 1990年 通産大臣賞
      世界映像フェア(AVA)ビデオテックス部門特別賞
      キャプテン・グランプリ‘90 実行委員特別賞
    • 1997年 日本工業新聞物流大賞
      (株式会社サカタロジックス(サカタグループ)と共同受賞)
    • 2003年 MCPCグランプリを受賞(BCナレッジシステム)
    その他
    • 1991年 POS-FMS ハーバード大学のビジネススクールの教材に
    • 1997年 POS-FMS 特許取得(日本)
    • 1998年 POS-FMS 特許取得(米国)

 
  インタビュー2回目となる今回は、カネボウフーズ株式会社 システムアドバイザー 吉田英一氏にお話を伺いました。
店頭のナレッジを生かすべく、しくみとしてのシステム面から、またPOS-FMSやBITといった情報システムの面から、新しいマーケティングの開発にご尽力されてきた吉田様に、今後の展開へのお考えを含めて、お話をお聞きしました。

――最初に、吉田様のご経歴について伺いたいと思います。
  私は1971年 カネボウ入社。以来、ネットワークシステム、ロジスティックシステムマーケティングシステムの開発に従事しました。ただ、システムの専門家になるつもりはありませんでしたよ。
  基本的に私は「マーケティング」にシステムを使いたくて、カネボウに入社したんです。が、最初から希望どおりに仕事はできない。そこで当面はシステム部門の要員として、化粧品のネットワークやロジスティクスのシステムづくりに関わってきました。
  当時はオンライン集中が当たり前でした。しかし、私は「分散でなくてはならない」と拘った。そのため、生意気だと評判は悪かったのですが・・・
  ことロジスティクスには、必ず現場作業がついてまわるんです。集中でやっていると、問題が起こったとき、各流通センターの現場作業にものすごく影響が出てしまうわけですね。当時は通信も今みたいに自由ではなかったこともあって、分散型、今で言うクラサバ(クライアントサーバー)スタイルは危険だ、と反対されました。それを説得して分散型にして、最初は名古屋でやって成功。トラブル影響範囲の極小化とコストダウンが出来たので、全国の拠点(当時は8箇所)を半年おきに次々立ち上げていったわけです。そして、第1回目の通産大臣賞を頂きました。その時の言葉が嬉しかったですね。「これからの情報処理のあり方にひとつの指針を与えた」というお褒めの言葉でした。我々の狙ったことが、これからメジャーになるだろうということだったんですよね。
  それがうまくいき始めてから、徐々にマーケティングの方へしくみを拡大していって、1990年、店頭から生産まで一気通貫型の仕組み「POS-FMS(Point of Sales- Flexible Manufacturing System)」というシステムで 2回目の通産大臣賞を頂きました。その時は、POSレジと連動させ“店頭直結型の販売システム”を作りました。そのシステムはビジネス特許もとりました。
  その後、今度は営業システムということで「BIT(Beauty Information Tool)」という名前での情報配信を、リッチコンテンツ、つまり動画での情報を提供するという仕組みを作ったんですね。それも賞を頂きました。いわゆる“ナレッジシステム”ということで。

――POS-FMSは従来の販社・チェーン店のしくみをベースにして考えてこられたものが、その後、開放流通になっても十分対応可能であったのか、あるいは、開放流通の比重が高まりから、こういうしくみを作ろうと思われたのでしょうか?
  時期的なものではなく、機能的な仕組みとして従来から考えていたものです。
  化粧品の場合はまだ開放流通と言えないんですよ。ただ、専門店、百貨店、ドラッグストア、とチャネル別にそれぞれ条件が違っていますし、それを満足させる仕組みを開発したので開放流通でも充分通用します。

――このような小売の変化によって、ご苦労された点はありますか?
  一番苦労するのは、ジャストオンタイムでの納品と機会損失の防止です。そのためにPOS-FMSシステムを構築したのです。実はPOS-FMSはSCMの発想を取り入れたものなんですよ。SCMはお取引先も抱え込んでやるって言うのはベストなことは間違いないんだけど、POS-FMSは自分らのファミリーだけで完結させている点で違いがあります。

――本当にSCMという言葉がない頃から、同じことをずっと先にやっていらしたんですね。
  そうですね、もう90年にはPOS-FMSのしくみは出来あがっていましたので。
  ただ、厳密にいえばSCMの定義とは違いがあるので、あくまでもPOS-FMSとして受け取っていただきたい。
  ところで、POS-FMSのポイントは需要予測にありました。需要予測というのは、当ったらある意味悲劇。需要が一定になるから当るんですよね。一定になるということは、あとこけるという可能性のほうが非常に高いわけです。予測は当てるものではなくて、自力はこれだけのものがあって、こういうプロモーションをかけるとこういうふうに売れるんじゃないか、という戦略構築のための指標に使うべきだと思います。それなら問題ない。なぜかというと予測に近づけるためにいろんなこと-例えば販促策-を考えれば良いわけですから。そういう信念を持っています。POS-FMSでは1週間単位であがってきた情報で常に修正を加えて、手を打ってきました。ところで、当時なぜPOS-FMSが定着したかというと、マーケティング部門にそういうことを理解して使う人がいたんですよ。
  また、我々は例えば生産面では、予測で50万個売れる指標がでても、実生産については6・7掛けくらいにし、一方で、追加生産が直ぐにできる体制を取った。だからPOS-FMSのときには、工場のしくみも特許をとるようないろんな仕組みを考えましたよ。
  たとえば、口紅でブランドが同一であっても、色番によって売れ行きが大きく異なることが多い。そこで容器包材への印刷を後刷りにした。こうすれば予測以上に売れる商品がでても、売れ行きがあまり芳しくない別の色番のために調達していたものが転用が出来る。そういう工夫を加えてやっています。これは考えれば当たり前なんだけど、当初は全部一緒に作っていましたから効果は大きかったですね。

――業界も分野も違いますけど、ベネトンもそういった方法を
  そうですか。よく知りませんのでコメントはできませんが・・・
  当時生産グループと販売グループというのはあまり連携が良くなくて、その調整を取るだけでも大変でしたね。当時生産グループは、きちんと決められた月間生産スケジュールに則っていました。それさえも変えました。当時のCIOが、従来は稼働率を問題にしていたのを、工程が遊んでもいいという英断をされたからだと思いますね。だからこそ、爆発的に売れたものの生産が直ぐに出来た。それが一番大きいですね。稼動率中心 、当初計画通りの生産体制だと、必要なものを直ぐ作れないし、売れ行き不振商品の生産減あるいは中止が手遅れになったりするんです。だから機会損失がでる。ただこういうのは、トップ次第ですよね。トップが英断するとみんな動きますから。落ちにくい口紅(テスティモ)が大ヒットしたときにも、なんで追従できたかというと、こういった生産体制を含めてPOS-FMSの効果ですよ。
  なぜPOS-FMSをSCMとかCIM(Computer Integrated Manufacturing)っていわなかったかって言うと、POSとFMSの間にハイフン(-)が入っているじゃないですか。そのハイフンは実は“人間”なんです。SCMとかCIMとかはシステム間連結をシームレスにやっているけれども、POS-FMSはある部分には、人の判断、人間の叡智をはたらかせる仕組みです。システムに情報が集まってくると、人を介して調査しその結果で判断を変えたりする。POS-FMSはすべからくことなしかれにはやらなかった。ことなしかれにやれるのは、唯一単純大量反復作業だけだと思うんですよね。何事もことなしかれにやるんじゃなくて、時には人間系のデータベースをどう引き込むべきか、なんですよ。これは頑としてひかなかった。これだけは死守しました。力仕事をするロボットっていうのは動く関節が少ないじゃないですか。人形ロボットっていうのは関節が多い。その関節の部分というのがシステムの中では重要になると思うんですよ。そういうのを社内で根付かせるにはものすごく大変。抵抗があるし。シームレスにはやるのは重要だけれども、ある部分は人間系でやっぱりやりたい、そうしないと人間 が育たない。待ち型の人間になる可能性が高いと思うんですよ。アクティブな人間を作れというんだったら、システムは自動化しないことですよ。

【BITで何が変わったか】


――携帯電話の多機能化や、双方向サービスといった動きが始まっていますが。
  BITを始めるとき、PDAか携帯か非常に迷ったんですよね。ただ当時は携帯の通信コストが非常に高かったということで、PDAを使った。
  BITはPDAに情報をできるだけ動画でのせるというシステムです。情報は発信するから集まるわけで、こちらからいろんな情報を発信していく。それも動画で。そして集まる情報はPDAの音声入力機能を使って、その音声入力されたものをテキスト変換して、テキストマイニングをやって、市場が今何を望んでいるかを知ろう、これが私のマーケティングでやりたかった究極のしくみだったんです。これをやったら、それこそ新しい商品や市場の開発に役立ったと思うんです、残念ながら音声入力の部分は手つかずでした。

――相当広がりのあるシステムですよね。大企業はもちろん、中小企業でもなかなか集まって打ち合わせが難しいのが現状です。
  技術的にも苦労しました。約8000台を一気に(平成2年10月カットオーバー)なんて、それはもう一大プロジェクトでしたよ。
  モバイル型のナレッジシステム、モバイルナレッジという言い方をしているんだけれども、そういったしくみが提供されるとずいぶん違ってくると思うんですよ。受注だって携帯でその場でやれば、入力もいらないんですよね。端末が携帯になる、携帯がよりPDA側に進化するということを考えたら、携帯は無視できないと思いますね。例えば携帯に我々がやったBITみたいな動画を配信すると、お店に行ったとき、店主さんに今度こういう新商品を出します、その新製品の販促策として、こういうCMを流しますよと、事前にそういう情報をみせる。あっこれだったら売れるかもしれない、仕入れようかというとき、すぐその場で仕入れデータをおこせれば予約受注になりますよね。予約受注ということは受注生産と同じだから、無駄な在庫作らなくて済む。
  今、リッチコンテンツのためのソフトもハードも色々な便利な商品が出されているから、そういうのをうまく組み合わせるだけでもっと安価に精緻な仕組みができるかもしれませんね。一から作らなくても。
  マーケティング、生産、物流、教育面全ての面に使える。動画情報を渡すことで、相手のレベルでいろんなシチュエーションが考えられるというのが重要だと思ったんですけどね。用途は広いし。

――お聞きすればするほど、可能性をもつしくみですね。
  店頭支援が一番重要だと思うんですよね。モバイルナレッジは、最強のマーケティングシステムだと思います。「店頭で私がこうやったら売れちゃった」という成功事例、ちょっとしたヒントを音声で入れてもらって、場合によっては現場に出向いてヒアリングをする。売り上げにPOPが大きく貢献したといっても、なぜ貢献したかがテキスト系のデーターでは分かりにくく想像力が要求されますが、動画で店舗周辺状況も含めて撮影すれば、どこに置いたからアイキャッチ効果があったか 、表現文字の字体やイラストが明示できる。そういうシチュエーションが非常に重要になるわけですよね。
  そういうテキストであがってこないものを現場で撮ってきて編集する、そういう情報開発グループ(女性8名)を別に作ったんですよ。情報開発グループをシステム部門以外の組織として作ったというのは、あんまり他社にはないと思うんですよ。
  今は携帯で動画がみんな撮れるじゃないですか。おまけに200万画素とか。そうすると、パーソナルブロードキャスト、個人放送局になるんですよね。それで情報を集めたり広めたりするのが絶対重要だと思いますよね。今後、携帯電話あるいはPDAはパーソナルブロードキャスティングが出来るような機器に進化していく可能性があると思いますね。だから、たとえば7000万台の普及している携帯電話を通話やメールだけに利用するのはは勿体無いですよね。使わない手はない。リッチコンテンツのツールとして。

――情報部隊の位置づけが、放送局の編集局のような、そういうふうな意味合いをもってくると。
  そうですね、そういうのが今後重要になってくると思いますね。教育がどこででもやれるというのと同じですからね。究極はそこだと思います。
  だからSEというのはね、技術だけではないんですよね。マーケティングが分かるエンジニアでないと良いしくみは作れない。そうでないとみんなが言ったことを具現化するだけの、いわゆる作業屋の人になりますよね。仕事をやる人になれないと思うんですよね。仕事をやると言うことは何か、これは大事なことなんです。アイデアがあって、改革があって、革新があって、そういうことを含めてやる人が仕事していると言えるのです。そうでない言われたことをやっている人は作業者なんですよね。それだけだと、おもしろくないんですよね。やっぱり仕事をしたいからね。

――吉田様のような立場でシステムをされている方は、生産・販売・物流全て分かった上でないと、良いシステムというのは作れないですよね。ところが、社内でも全体を分かる方というと少ないのではないでしょうか?
  確かにそうは言えそうですが・・・・
  SEといわれる人は、インタビューの能力が長けていれば、必ずしも全体がわからなくても良いのではないでしょうか?自分は知らない部分があっていいんですよ。それを聞いていって、本質的なものが何かということを 切り分ける能力があれば。相手にどんどんしゃべらせ、そしてその中から本質的なことのみを取り出して、それを再組み立て新たな仕組みを作れば良いわけですから。それをインフラとして情報システム化だけですから。だから、枝葉は切らなければならない。どっちかというといい人になりたいエンジニアは、人の言うことを聞いてやってあげる。これは良い人(できるSE)だという定義に誤解があるんです。本当に良い人(できるSE)は、いろんなことをきくけれどもプロの矜持をもって本質的なことだけを残したしくみを組み立てていくという人が、できるSEではないでしょうか。本来はそういう人がいれば、後は全部アウトソースでいいはずなんですよね。また、利用者も本来自分が何をやりたいか、何をやってほしいか、何をやってもらいたくないかということを明示すれば、後はプロに任せればいいんですよ。

――今後の化粧品の業界のマーケティング・流通・ロジ スティクス・SCMに対する展望、または 読者の方にアドバイスになるようなことがございましたらお伺いしたいと思います。
  私は、基本的に企業のトリガーは現場がひく、それもナレッジ込みの判断をできるしくみというのが究極なんだろうなと思いますけどね。今はどちらかというとバックオフィスの人がいろんなことをいっているけれども、そうではなくて、現場できちんとどうしたいとかこうしたいというジャッジが出来るようにするシステムの構築を目指すのが 良いような気がします。

――本日はありがとうございました。

以上



(C)2005 Eiichi Yoshida & Sakata Warehouse, Inc.

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