ロジスティクス・レビュー

第7号ネットビジネス成功のためのロジスティクスとは?-クリック&モルタル戦略の一考察-(2002年05月24日発行)

執筆者 田中 孝明
株式会社サカタロジックス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼

  • 略歴
    • 1960年大阪市生まれ。
    • 神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
    • ACEG (英国・ボーンマス校),オタワ大学ELI修了。
    • 株式会社住友倉庫を経て,現在,株式会社サカタロジックス 代表取締役。
    • 明治大学 商学部 特別招聘教授。
    主な資格
    • 修士(経営学)
    • 環境審査員補(ISO14000S)
    • 物流技術管理士(運輸大臣認定)
    • 倉庫管理主任者
    所属学会等
    • 経営情報学会
    • 現代経営学研究所(NPO法人)
    • 日本物流学会

目次

1.はじめに

 米国での景気減速感などを受けて、少し足踏み状態にあると感じられるものの、情報革命やIT革命などと呼ばれる情報化の進展は、依然として、経済や産業の分野に大きな影響を与えている。米国のアマゾン・ドット・コムがようやく黒字化を達成したといったニュースや、わが国では、ソーテックなどのパソコン・周辺機器のネット販売を手がける部門の売上が、100億円を突破したといった記事などもメディアにて大きく取り扱われ、ビジネスの分野でも、引き続き様々な取り組みがなされている。

 ところで、情報技術を活用した新たな事業、いわゆるネットビジネスの展開において、リアルなモノの流れが伴う場合、物流やロジスティクスをどのように考えるかがその事業の成否に大きな影響を及ぼすと思われる。たとえば、ネット通販をスタートしたものの、配送の委託先である宅配会社への支払いばかりが嵩んで全く利益が出ないといったケースや、海外から安価な製品をネット調達したものの、実際には、品質検査や国内配貨の拠点となる物流施設の設置・維持にコストがかかり、結局メリットが出ないといったケース等も散見される。

 しかしながら一方で、先ほどのメディアでの報道のように、ネット事業において着実に売上を拡大している企業が存在することも事実であり、また宅配便を利用したネット通販なども、確実にわれわれの日常生活にとけ込みはじめている。

 本稿では、いわゆる「クリック&モルタル」*1戦略において、’物流’はどういう意味を持っているのか、またネットビジネスを成功させるためには、’ロジスティクス’をどのように考えていけばよいのかについて考察していきたい。

2.情報化進展とロジスティクス -情報化のパラドクス-

 IT革命などと呼ばれる情報化の進展と、実際の製品・商品などの物流の世界は、一見あまり関係がないようにも思われるが、いったい、どのように捉えればよいのだろうか。

 加護野(1999)は、「情報化が進展すればするほど、情報で差を出すことは難しくなり、情報以外のものにおける違いが決定的な意味を持つ」と述べ、これが「情報化のパラドクス」であると主張する(P.185)。「情報技術の発達にともなって情報技術以外の物事が価値創造にとって鍵」になりはじめており、企業における価値創造のプロセスは、「組織編成、組織の文化や風土、ロジスティクス、他社との連携関係」になってきていると言及する(PP.185-186)。

 さらに彼は、「EC(エレクトロニック・コマース)ということで、インターネットを利用したビジネス・システムがつくられつつある」が、ここでも、組織編成や他の企業の協力などに加え、「最後はロジスティクス」がポイントになり、「情報システムにしか競争優位がないというECは、意外に脆弱」になる可能性があると、その問題点を指摘している(PP.182-187)。

 一方、伊丹(2002)は、いわゆるネット書店やネット銀行などのインターネットサービス産業は「線」の商売であり、その事業の成功のためには、次の2つのポイントが鍵になると指摘する。1つ目は「線の集まりであるネット全体の’網’を情報の網として管理するノウハウ」であり、2つ目は「’非’情報の流れの管理」――具体的には「モノの流れとカネの流れ」の管理、つまり「物流と決済」の管理――であると述べている(PP.82-85)。「インターネットが革命を起こしているのは情報の流れの部分」であるが、「人々がインターネットのサービスを使って最終的なベネフィットを得るのは、モノの利用、消費が効率的に行えるようになるから」であり、「消費の対象が情報そのものであるような音楽の配信のような場合を除けば、モノが人々の手元に届かなければ最終的なメリットは生まれない」と説明を加えている(P.85)。

  図1 情報化進展とネット事業展開における物流/ロジスティクスが有する意味

 このように、情報化の進展と情報技術を利用した新たなビジネス展開においては、「情報技術以外のもの」や「非情報の流れの管理」が、実は非常に大きな意味を有することとなるのである。とりわけ、在庫や輸配送、入出荷作業などのオペレーションを含む物流/ロジスティクスの分野は、リアルなモノの流れをともなうネットビジネスの展開においては、その事業の成否を左右しかねないほど重要な要素になると思われる。(以上を取りまとめたものが、図1である。)

 冒頭に述べた米国のアマゾン・ドット・コムが、流通在庫やそれを取り扱うための物流センター、さらには物流管理のためのコンピュータシステム等に積極的な対応をはかってきたことなどは、物流/ロジスティクス面の重視が、ネットビジネス展開においていかに重要であるかを表していると思われる。

3.ネットビジネス展開におけるロジスティクス

 では具体的に、ネットビジネスを成功に導くために、企業は、物流やロジスティクスををどのように捉え、どのように対応すればよいのだろうか。以下に引き続き、文献を中心に考察してみよう。

(1) グラチ=ガリーノ(2000)の主張から

 グラチ=ガリーノ(2000)は、ネット事業の成功に向けて、経営者は「ネット事業を分離すべきか否か」ではなく、「既存事業とどの程度まで統合すべきか」を考えるべきであると述べる(P.106)。そしてその統合度合いを判断するには、①ブランド ②マネジメント ③業務オペレーション ④資本関係 の4つの事項において判断すべきであると主張する(P.113)。

 こうした彼らの指摘を物流/ロジスティクス面に重点をおいて考えてみると、何より、③の業務オペレーションが大きく関係してくると思われる。彼らは、業務オペレーションについては、「既存の流通システムや情報システムがどの程度しっかりしているか、それをネット事業に利用できるのかどうか、これら2点を考慮して決めることが賢明である」と言及している(P.114)が、これはネット事業を展開しようとする企業の、既存事業での倉庫や物流センター、配送車輌、さらには物流管理システムなどの物流ハードやソフトが、どの程度のものであり、またネットビジネスにどのように利用できるのか(利用できないのか)をきちんと整理した上で事業展開することが望ましいと読み替えられるだろう。

 ところで、②のマネジメントについては、彼らは「経営方針とビジネスモデルの両方に関わる微妙な問題」であるとしながらも、「『統合か分離か』という運営上の問題を硬直的にとらえる必要はな」く、「特定の問題についてのみ足並みを揃え、それ以外は独自に判断するという方法もある」と指摘している(PP.113-114)。こうしたマネジメントの軸も、以下に述べるビジネスプロセスの観点を含めて、クリック&モルタル戦略における物流やロジスティクスの位置づけを検討する上で、非常に重要な事項であることに相違ないと思われる。

(2) ポトラック=ピアース(2000)の主張から

ポトラック=ピアース(2000)は、「インターネットが牽引するビジネスの世界で競争していくためには、素早くしかも絶え間ない技術革新が必要とされる」が、そうした競争社会においても、実は「企業文化が中心的な強みになる」と主張する(P.2)。

 そしてこの企業文化は、「価値観にもとづき、魅力的なビジョンの実現に焦点をあてた、そして人をやる気にさせるリーダーシップに支えられた」ものであることが重要であると指摘する(P.228)。続けて彼らは、「10年前、ビジネスプロセスをつくりかえる、あるいはリエンジニアリングと呼ばれたものが登場し、従来のビジネスプロセスに対する固定的な考え方について抜本的な見直し」が行われたが、こうした「ビジネスプロセス自体についての新しい考え方」や「ビジネスのさまざまなやり方を、別の視点から捉え直すこと」がネットビジネスにおいても非常に有用であると主張する(P.231)。

 一見「官僚的・分析的であり、しかも退屈なもの」と思われがちな「広告,マーケティング,ブランド,予算,人事採用,業績評価といった従来からのビジネスの機能」などを上手く使い、人にやる気をもってもらうことが、実はインターネットの時代においても最も重要なことであると述べ、併せてこうした観点における「経営実践」の要諦について言及するのである。

こうした彼らの主張は、クリック&モルタル戦略とその中での物流/ロジスティクスの位置づけについても含意が深いものであり、ネットビジネスの展開・成功には、それに向けた新たな(というよりはベースとなる)企業文化やリーダーシップなどのマネジメントの分野は言うまでもなく、こうしたマネジメント下における経営の実践、とりわけ物流/ロジスティクスを含むビジネスプロセス能力を向上させていくことが、(その事業成功のためには)非常に重要であると読みとるべきであろう。

(3)丸尾(2001)の主張から

 ところで丸尾(2001)は、「リアルの事業をどのようにネットでの事業に転化」し「新しいサービスモデルを構築」していくのかを考える際には、①シリーズ化,②システム化,③ネットワーク化,④サプライ化,⑤サービス化,⑥シナリオ化,⑦デファクト化の7つの視点が重要であると指摘する(PP.153-180)。

この中で、特に物流/ロジスティクスとの関係が深いと思われるのは、⑤の「サービス化」の視点であろう。彼は、今後のネットビジネス展開と成功のためには、「モノとしての商品ではなく、モノを通じて提供されるアクティビティなど提供できるサービスを主体とした事業を構築すること」が重要であると言及する(P.171)。

つまり、物流/ロジスティクスに注視すると、モノを提供・供給する際(自体)のサービス化、たとえば受注翌日の配達や時間指定の配達、また配達時の代金引き替えや、さらには希望すれば最寄りのコンビニエンスストアで商品引き取りができるといったような、物流/ロジスティクス面のサービス提供を行えることが、ネットビジネスの成否のポイントになると考えられる。

(4)小林(2001)の主張から

 一方、ネットビジネスの展開において、こうした物流/ロジスティクス面のサービス化を進展させると、必然的に、当該サービスに対するコストの問題が浮上してくる。換言すれば、ネットビジネスの展開時には、物流/ロジスティクス面でのサービスに対する物流コストを、誰がどの程度負担するのかをきちんと押さえた上での(ネット事業にて販売しようとする)商品・製品のプライシングが必要となる。

小林(2001)は、「オンラインビジネスにおける最大の課題は、倉庫での在庫管理から配送までのプロセス」であり、「この部分に非常なコストがかかり、これをどう節約するかで勝敗が分かれる」と述べ、物流コストの管理やコントロールの必要性を指摘している(P.94)。そして、こうした経費節減や物流に関する専門的なスキルを調達するために、「オンライン小売業者は在庫管理や商品配送までのプロセスを、オンライン専門の倉庫会社にアウトソーシングする」ケースが多数見られると述べ、インハウスにこだわらず、外部のリソースを有効活用することの重要性も指摘している*2(P.94)。

 いずれにせよネットビジネスを展開する企業は、顧客に提供する物流サービスに関するコストをいかに管理し、コントロールするか、そして当該コストを織り込んだ上でのプライシングをどのように行うかを、重々検討していく必要があるだろう。

 以上を整理すると、ネットビジネスを成功させるためには、概ね次の4つの視点に基づいて”十分に作り込まれた” 物流/ロジスティクスの体制作りを行うことが必要不可欠であると思われる(図2を参照)。

  図2 ネットビジネスを成功させるためのロジスティクス

4.おわりに

 本稿では文献レビューを中心に、情報化の進展とロジスティクスとの関連性や、ネットビジネスの成功に向けた物流の捉え方・考え方について考察を行ってきた。もちろんインターネットサービス事業の展開においては、こうした物流/ロジスティクスの観点だけでなく、経営戦略、マネジメント(本稿でも少し触れたが)、マーケティング、管理会計(物流ABCなど)、情報システム(情報工学)、さらには生産管理(経営工学)などの様々な側面の検討や実践も必要とされるだろう*3。

 また、原材料の供給先から最終の顧客に至るまでのモノと情報を一元的に管理することにより、経営革新や競争優位を確立しようとする最近のサプライチェーン・マネジメント(以下SCMという)概念の進展は、本稿で述べた物流/ロジスティクスの視点をベースとして、流通チャネルあるいはサプライチェーン全体の効率化や最適化に向けた「モノの流れの管理」を必要としている。いわゆる’デルモデル’などと呼ばれる米国のデルコンピュータの事業などは、SCMの概念を踏まえた上でのネットビジネスのユニークな取り組みである。

 いかに新たな情報技術を活用するか、いかにネットビジネスを既存の事業と併存させていくか、いかにネット企業へ変身していくか…。こうした事項を真剣に議論し、回答を見出して行かねばならない時期に来ている。「ネットバブル崩壊」といった言葉が喧伝されている昨今、ネットビジネスの在り方や真価が問われるのは、いよいよこれからである。

(2002年5月3日)

以上

※本稿は、社団法人ソフト化経済センターの2001年度共同研究会「クリック&モルタル戦略を考える」向けに筆者が執筆した原稿をもとに、修正加筆を行ったものである。


【注】

  • 米国で伝統的な企業を「ブリック(れんが)&モルタル(しっくい)」と呼ぶことから、ネット 事業(クリック)と既存事業(モルタル)を組み合わせたビジネスを「クリック&モルタル」と呼ぶようになった。(出所:日経流通新聞2001年10月18日)
  • ただし小林(2001)は、コスト低減等だけを目的とした単なるアウトソーシングには、いくつかの問題点があることも同時に言及している。
  • 今後、本稿での考察した物流/ロジスティクス分野の4項目(図2)や、先に触れた経営戦略をはじめとする諸事項が、企業の生の事例においてどのように関係しているのかについて検証を行っていくことが筆者にとっての課題である。また、こうした検証を踏まえて、ネットビジネス成功のための物流/ロジスティクスの、より具体的な要因(成功条件)についても、今後、研究していきたい。

* 既に上記に記した社団法人ソフト化経済センターの共同研究会の場などを通じて、いくつかの事例の実証調査をスタートしていますが、詳しい報告は次の機会に譲りたいと思います。また上記研究会の報告書が社団法人ソフト化経済センターより刊行されていますので、参照/入手希望の方は筆者までお問い合わせ下さい。


 【引用・参考文献】

  • 伊丹敬之「ネットビジネスに成功する条件とは?」『一橋大学ビジネススクール知的武装講座』プレジデント社,2002年.
  • 加護野忠男『<競争優位>のシステム』PHP新書,1999年.
  • ランジェイ・グラチ=ジェイソン・ガリーノ「クリック&モルタル戦略」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』,2000年11月号.
  • 小林雅一『図解わかる!クリック&モルタル』ダイヤモンド社,2001年.
  • 丸尾聡『潰れるネット企業 復活するリアル企業』エイチアンドアイ,2001年.
  • デビッド・S・ポトラック=テリー・ピアース『クリック&モルタル』翔泳社,2000年.



(C)2002 Takaaki Tanaka & Sakata & Sakata Warehouse, Inc.


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