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グローバル・ロジスティクス

第69号開けてビックリの国際物流(2004年12月22日発行)

執筆者 山縣 敏憲
佐川物流サービス株式会社 シニアコンサルタント
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 昭和22年   東京生まれ 双子座
    • 昭和45年   日本大学法学部卒
      同年いすゞ自動車入社
    • 昭和48年8月 海外本部・輸出業務部に配属となる
      GMの全世界販売網への輸出業務を開始する。
    その後の主たる業務
    • 日本→バンコック向けCKD世界初のコンテナ化を行う。
    • インドネシア向け輸送にR/Rを世界で始めて導入に成功。インドネシア政府より表彰される。
    • いすゞ・富士重工合弁による米国自動車工場SIAの立ち上げによる日本からの工場設備輸送輸出物流の総指揮をする。-20℃の原野にコンテナ・ハウスを作り数ヶ月間物流の陣頭指揮に当る。
    • いすゞ苫小牧工場→横浜港経由→西海岸への自動車用エンジンの輸出ルートを、苫小牧→釜山港(韓国)→西海岸に変更。このような事例は日本国始まって以来のことであり、1996年に堀 紘一氏監修の”ナビゲーター‘96『日本の港湾は生き残れるのか』”というテレビ番組に取り上げられて出演する。
    • 中国内陸部南昌市の江鈴汽車公司向けCKDのコンテナ化に成功。内陸部1000Kmまで海上コンテナの輸送を行った自動車メーカーは世界初。
    • ソ連邦崩壊後、ソ連国内物流(特に航空貨物)の誤配未配問題解決のため、ソ連運輸公団より呼ばれ調査を実施する。
    • いすゞ自動車の55歳転籍ルールにより、東芝(沼津工場勤務)へ転籍しましたが、東京での講演や会議への出席が多いために退職。
    • 03年10月 佐川物流サービス株式会社へ入社。現在シニア コンサルタント
    所属団体など
    • 日本ロジスティクス システム協会・国際物流管理士資格認定講座・講師
      並びにカリキュラム委員会・副委員長。
    • (社団法人)海外事業協力協会・講師。
    • (株式会社)国際貿易経営研究所・講師。
    • 省エネルギー輸送対策会議・理事等
    • 趣味はクラシックカメラのコレクションや修理

目次

1.アジア(中国)を征するものは世界を制する

1)艱難辛苦の中国ビジネス・中国物流行
  アジア(中国)を制するものは世界を制する”とは、世界一の人口を占める国で成功すればそれだけ大きな利益を得るということかも知れません。行けば何とかなる…、しかし、世の中そうは甘くないのです。

【四川省重慶市の九龍波港の最新式コンテナ用ケーブル・リフト】

  日本のある手袋メーカーのお話ですが、早くから中国へ来られ仕事も順調にいっておりました。民間企業ですから利益を出すのは当然であり、この会社もそれなりの利益を出しておりました。しかし、中国政府(県)は何を思ったのか、それほど大きな利益とも思えませんが、日本へ持ち帰っているのは“悪”であると判断したのです。そして秘密裏に手袋会社へスパイを潜入させ、経営のノウハウや生産のノウハウなどを調べ尽くして、直ぐ隣に新たな手袋の生産工場を設立してしまったのです。挙句は従業員も日本の会社から引き抜きに掛かります。そして作った商品は日本企業より安い価格で市場に投入したのです。これではたまったものではありません。優秀な従業員を引き抜かれ、戦略的低価格で競争を挑まれた日本の企業は撤退を余儀なくされたのです。中国には“中国で得た利益は、中国へ返せ”という諺があるようですが、これを守っていたら利益を国外へ持ち出せないことになります。中国ビジネスは一寸先は闇なのです。

2)“吃飯了嗎”って挨拶があるんかぁ~!何でだよぉ~
  ツー・ファン・ラ・マーと読みます。初めて聞いたとき、中国の挨拶は“你好”(ニイハオ)だけかと思っていましたのでビックリしました。“吃飯了嗎”も今でも使われる挨拶言葉だそうであるが、その意味が“食していますか?”、簡単に言うと“飯食ったか?”という意味です。『飯食ったか?』なんていう挨拶は世界中にここだけしかありません。これって何故なのでしょうか?
  もう一つ中近東に“サラーム アレイコム”=“こんにちは(貴方に平和あれ)”というのと、その返事として、“ワアレイコムッ サラーム”=“(貴方にも平安を)”というのがあります。これも日本では聞かない挨拶言葉です。もちろん日本にも“儲かりまっかぁー!”という挨拶言葉がありますが、大公秀吉さんが楽市楽座に集まる民衆に『今日から“儲かりまっかぁー”を挨拶言葉にする!』と命令したなどという史実はありません。挨拶の言葉というのは自然に口を突いて出るのです。“飯食ったかぁー”も“貴方に平和を”も、自然に出来上がった挨拶の言葉なのです。
  “吃飯了嗎”の方は聞いたところによれば、昔から中国の自然環境の厳しい地方の国は、国が亡びかけるほどの大飢饉に何度も見舞われたことがあったそうです。そのような中で、こんな言葉が挨拶になったのです。それだけ貧しかったということです。“サラーム アレイコム”の方は、中近東を旅している時に教えてもらったのですが、この地域、最近200年の間に、150年は戦争をしているそうで、そんな中から生まれた言葉だというのです。毎日毎日爆弾が降ってきて、寝る間も無い生活の中から生まれた挨拶の言葉なのです。アラブ世界では未だに戦争が続いています。当分“サラーム アレイコム”です。

3)何処に行っても“ジャスト・イン・タイムとカンバン方式”のトヨタさん
  数年前にトヨタ自動車のKD部の方からお電話を頂きました。
『山縣さんは、中国内陸部の物流に詳しいと聞きましたので、質問させて下さい』
『トヨタは四川省の州都である成都で、バスのノックダウン工場を現地資本と合弁で立ち上げますが、長江の水運を利用して艀輸送でジャスト・イン・タイムの構築ができるでしょうか?』というのが質問の内容でした。私の勤めていた自動車会社の中国での生産拠点は重慶市の“慶鈴汽車公司”という会社ですが、この会社は在庫を一年分以上持っていまして、ジャスト・イン・タイムの精神など皆無だったのです。更に、長江(揚子江)を2000Kmも遡る物流ですから、ジャスト・イン・タイムなんて考えたこともありませんでした。
  私は『長江を利用する水運ルートでは、無理かと思います』とお答えしました。
すると『そうでしょうね、やっぱり鉄道の方が予定通りに届きますよね』とおっしゃっておられました。
  それから暫くして、『山縣さん、その節はアドバイスを頂き、ありがとうございました。トヨタは鉄道を利用してジャスト・イン・タイムでバスのKDを四川バス公司まで届けることに成功しました』というお礼の電話を頂いたのです。最近の中国の鉄道はそんなに正確に時刻表通りに走るのでしょうか?本当にジャスト・イン・タイムが出来上がったのでしょうか?トヨタの方がおっしゃられるのには、上海までコンテナ船で行き、上海からは鉄道で南京などを経由し、各主要駅通過はリアルタイムでトヨタの物流部のパソコンへ入って来るということでした。

【重慶東駅の入り口】

  衛星を使ったGPS(グローバル・ポジショニング・システム)なんて中国にあったのでしょうか。
  本当ですか?とはトヨタの担当者さんには聞けなかったので、懇意にしていたCOSCO(中国遠洋海運公司=国営船会社)の部長さんに尋ねてみました。するとその部長さんは、『トヨタさんの名古屋からのCKDは、私共の会社で名古屋から上海を海上輸送しています。上海から先はおっしゃるように列車です』というお返事です。
更にトヨタがいうリアルタイムの列車追跡システムについて尋ねてみました。部長さんの答えは次のような内容です。トヨタさんから名古屋出発以降のポイントを逐一報告するようにとの指示があり、名古屋出航報告、上海到着報告、列車積み込み完了報告、主要駅5箇所の通過報告、最終駅到着報告をリアルタイムで要求されました。船会社ですから、名古屋、上海、列車への積み込み完了までは何とか把握でき、リアルタイムの報告も可能ですが、内陸部の鉄道駅通過報告は当社では行えませんでした。COSCO本社に相談したら、そんなの簡単ですよということなのですが、何と5つの主要通過駅の駅長にトヨタのコンテナを積んだ列車番号と予定通過日時を連絡して、実際にその駅を通過したら電話で報告するというものです。もちろんタダでは絶対やってくれませんから、1回に付き100元の謝礼金を支払う約束をしました。各駅の駅長さんは謝礼金を頂けるのですから、こぞって電話を掛けてくるそうです。その電話は上海のCOSCOで受け、そこからはコンピューターを使ってCOSCO東京支店へ送信。それを名古屋のトヨタへ送信するCtoCの転送です。
  これならトヨタ本社のPCを覗けば、あたかもリアルタイムで列車の通過時間が追えるようなシステムに思えます。やっぱりトヨタですね。

【コンテナからCKDをフォークでデバンする光景。マレーシアのクアンタンにて】

4)嘘だろぉー、四川省にこんな機械が! 長安鈴木の快挙
  数年前の98年に四川省を訪問しました。その前にも何度かここを訪問していますが、今回は鈴木自動車の提携先である長安鈴木が日本から四川省・重慶市までのCKD輸送をそれまでの在来船輸送からコンテナ輸送へ切り替えたという情報があり、その工場を見せてもらうのが目的でした。
  いすゞ自動車が提携する中国の自動車工場は数箇所ありますが、その中でも一番大きな慶鈴汽車公司は長安鈴木の直ぐ近くにあります。いすゞ自動車は慶鈴汽車公司へのCKD輸送を長い間在来船輸送で続けており、いすゞもコンテナ化の可能性を早い時期から探っておりました。
  私の第一回現地調査(90年)では、重慶港の設備が不備なのと、汽車を利用したとしても汽車賃が高い為に輸送費が上がってしまい、コンテナ化による梱包費や日本国内費用の低減分を食ってしまうという結論でした。三狭ダムが出来て、横浜港から上海経由で大型フェリーが揚子江を遡れるようになるまで待とうというのが私の結論でした。コンテナ化はやってやれないことは無かったのですが、FOBの商売ですから重慶までの運賃は全て慶鈴汽車が支払っているのです。ですから彼らが納得しない限り、物流モードの変更は出来なかったのです。
  『山縣さん鈴木自動車が重慶工場向けCKD輸送をコンテナ利用に切り替えたと聞きました』『できる事なら、鈴木のコンテナ化とはどのようなものなのか、現地調査をして欲しい』『いすゞの技術屋も同行させ、慶鈴汽車の中国人スタッフにも長安鈴木のコンテナ化とはどのようなものなのか見せてやって欲しい』
  以上がいすゞの役員さんから私への指示だったかと記憶しています。
  こんなことを簡単に言っていますが、“長安鈴木を見学する”などというのは、鈴木自動車本社の社長決済が必要なのです。私は他所の会社の社員です。日本自動車工業会で国際物流部会のメンバーになっており、鈴木のスタッフにも何人か知り合いはおりますが、それだけのお付き合いです。しかし、私も鈴木自動車に先を越されたとは言え、日本-重慶間のコンテナ化は実現したかった仕事です。ダメ元で自工会メンバーの鈴木自動車のスタッフに長安鈴木のコンテナ化を勉強したいので長安鈴木を見学できないものかと持ち掛けました。数日後、何と社長の許可が降りたとの連絡を頂いたのです。私は早速技術部へ連絡して、コンテナ化などの梱包を専門とするスタッフを選別し私と同行するように伝えました。また、中国営業部経由で慶鈴汽車に連絡を取らせ、長安鈴木を見学できる良いチャンスなので、慶鈴スタッフも山縣に同行して長安鈴木見学を見学できるので、希望者を募るよう伝えさせました。8月の初めの出発で、これ以上遅くなるとお盆の休暇で、工場長(社長)を含めた日本人スタッフ全員が日本へ帰国してしまうというので、慌てて出発したのを覚えております。技術屋の岡本課長を同行して、成田→上海→重慶のルートで現地へ飛びます。到着の翌日を長安鈴木の見学というスケジュールにしてあり、翌朝、重慶飯店(ホテル)に慶鈴に駐在するいすゞのスタッフを通訳として同行、慶鈴スタッフも来いという指示をしてありました。
  ところが我々を迎えに来たのはいすゞのビックホーンに乗った駐在員一人だけなのです。『慶鈴の皆さんは別の車ですか?』という私の質問に、駐在員は困ったような顔をして、『慶鈴の皆さんは、長安鈴木汽車公司とは中が悪いので来ません』とのことです。私達日本人も“商売敵”という言葉は知っていますが、米国人の考え方である、ベンチマーク手法などを知り、例え競争相手であっても、お互いがより大きなコストダウンの可能性があるなら、お互いを知って相手のよい所は見習おうという手法です。しかし慶鈴のスタッフはせっかくのチャンスを不必要と考えたのでしょう。これで今回の出張もコンテナ化に対する慶鈴の積極性の無さが露呈し、私は鈴木の見学は自分の為にと考えを切り替え、岡本と駐在員と私の三人だけで長安鈴木を訪問したのです。
  『お待ちしていました』と、鈴木自動車本社から出向されて当地へ来ている社長さんに暖かく出迎えられました。一般的に自動車工場内の撮影は許可されませんが、頂いた工場のカタログには写真があるのですが、これを公にしないということをお約束してありますので、掲載できませんがご勘弁下さい。社長からのコンテナ化についての苦心談は私には大変興味あるものでした。技術屋の岡本は早く工場見学をしたいようでした。検査ライン、プレスライン、と社長さんの説明を聞きながら見学して、組み立てラインへ来た時です。『山縣さん、これっ!これ!』と岡本が慌てています。『これって、この溶接ロボットですか?』と聞きましたら、岡本が言うには、このコンピューター制御で動く溶接ロボットは、つい最近鈴木自動車の最新鋭工場である浜松の湖西工場で見せてもらったものと同じ物で、こんな最新鋭機械が既に中国に来て稼動していることに驚いたというのです。

  この工場で作られた車が写真の黄色いアルトなのですが、この出張の時は重慶市だけで販売されていると聞き、岡本は外出の度にこのタクシーを選んでは乗り、内装を引っ張ったり、ドア・ハンドルの部品を詳細に眺めたりしますので、運転手は何かカッパらわれるのではないかと、バックミラーでチラチラこちらを見ていました。その岡本が一言、『山縣さん、鈴木自動車って凄いですよ。この車、輸出レベルですよ』と言いました。その意味を尋ねると、この車の完成度と品質ならMade In Chinaとして海外へ輸出しても、日本製鈴木の車と違わない品質なので、企業イメージを損なうことは無いということです。

  中国へ出て行ったタオル・メーカーによって日本のタオル生産は大打撃を受けていますし、福井県特産のメガネフレームも中国へ進出した後、今度は中国製との競争を強いられ苦戦していると聞きます。
  日本の自動車もタオル産業やメガネフレーム産業の後を追うのでしょうか。

以上



(C)2004 Toshinori Yamagata & Sakata Warehouse, Inc.

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