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第66号物流改善の進め方(2004年11月12日発行)

執筆者 平野 太三
有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • 経  歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年     ユーザックシステム株式会社入社
    • 物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、
      有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 中小企業大学校東京校 物流担当講師
      講演回数年間50回
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    • 日本物流同友会理事
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
      包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を
      行う

目次

1.物流改善の概要

  物流改善が脚光をあびて10年は経過するであろうか。最近になって、やっと物流部門だけでの改善ではいけない、全社的に取り組もうという風潮が浸透してきたが、まだ本質的な物流改善とは程遠いのが実情ではないだろうか。物流改善は、一般的に難しい思われがちである。何故なら各企業により、条件(商品、物量変動、納品リードタイム、商品単価、物流拠点数、倉庫レイアウト、社員スキル、物流戦略等)がすべて違うからである。なるほど、全企業がすべて同じ条件であれば、成功事例を調べてすべて真似をすれば良いのであるが、条件が全く同じということは絶対に有り得ない。以上の理由により、当社の物流は特別だからという言い訳が出来やすくなり、今まで自社なりに努力をしてきたやり方の延長線上で物流改善を進めてしまい、抜本的な改善が出来ないのである。
しかし、本当に物流改善は難しいのであろうか。非常に簡単な言い方になるが、次の手順を踏めば必ず物流改善は進む。すなわち、現状の問題を定量的に把握し、改善策を立案し、実施前の仮説検証(この改善をすればどのくらい効果が実現できるかを予測)し、実行までの役割分担を決め、実行した後の効果を測定し、実施後の課題を解決すれば良いのである。この手法は物流だけにとどまらず、あらゆる問題解決が実現できる。「これであれば我社もしている!」と思われる方もあるだろうが、体系的なアプローチをしているかということである。問題点がこれ以外に絶対に無いというところまで言い切れるかどうかが焦点となる。「問題が色々あるが・・・」という曖昧な表現では無く、例えば「問題は120個あります。その原因はこうで、仮にすべてを実行するとこのぐらいの効果が出ます」と言えるかどうかである。これを整理して、スケジュール化している会社は自信をもってこのまま進めれば良い。しかし、大きな問題だけ掴んでアプローチをしている企業は確かに効果が実現出来るが、次の課題の抽出をまたやらなければならない。最初から出来るだけ多くの問題を捉えるべきである。

2.物流改革のプロセス

  次に具体的なプロセス(手順)を考える。出来るだけ多くの問題を、時間をかけずに発見する方法がまず必要になる。私が提唱する問題発見の手法は、次の切り口からアプローチする。①物流戦略の視点、②物流業務手順の視点、③物流コストの視点、④顧客サービスの視点、⑤タイムスケジュールの視点、⑥物流作業の視点(必要な作業か、誰がやるべき仕事なのか、作業の生産性はどうか)、⑦在庫の視点、⑧輸送の視点(配送、横持ち、入荷、直送)、⑨包装の視点、⑩物流収支の視点等である。私のやり方にこだわる必要は無いが、いかに顕在ニーズと、自分では気がつかない潜在ニーズを抽出できるかを考えれば良い。必要なのは今までの発想に無い考え方で問題点を捉え、問題整理をすることである。案が出ない時は出来るだけ検討範囲を絞って、議論を行えば良い。
  「物流コストを下げるアイディアを検討しましょう」と言うよりも、「3Fのフロアのピッキング時間を短縮するためのアイディアを検討しましょう」と言う方が参加メンバーは意見を一杯出せるのではないかと思う。範囲を大きく広げれば広げるほど自分が知らないことが多くなり、自分の発言に確証をもてなくなってしまう。物流でも分業体制がひかれ、専門のスペシャリストを育てる傾向にあるが、全体を見渡せる人がいるかいないかにより物流効果は大きく変わる。つまり、会社の業績も大きく変わるのである。わからなければ聞けば良いのであるが、物流はわからないことが非常に多く、ヒアリングだけで多くの時間がかかってしまう。それであれば短期間で事前調査し、物流現場の状況をプロジェクト全体で共有化する。自分しか知らない情報が多い会社は物流改善は進まない。在庫も配送も作業効率もすべて密接な関係がある。在庫の持ち方や在庫配置により作業効率も大きく変わるし、作業効率が上がれば配送方法も変わる可能性もある。配送方法が変われば得意先サービスも変わる。営業や製造(仕入)も含め、得意先(あえて言うと市場)が望んでいる物流がどうあるべきかを一緒に考えなければならない。

3.物流管理指標

  アプローチの切り口が一杯あり、漏れなく問題が出せるようになれば、次に数値化をしなければならない。簡単に言うと、「何がうまくいっていて、何がうまくいっていないか」を明確にすればよいのである。在庫の評価を例にあげると、デッドストック(死に筋在庫)の定義をした時に、出荷が1ヶ月ゼロと言う人もあれば、2ヶ月出荷ゼロと考える人もいる。誤出荷も月間10件であれば合格と思う人がいれば、月間5件以下で無ければ合格点をつけない人もいる。つまり人により価値判断が違い、共通の数字をメンバーで共有化し、何が良くて何が悪いかという価値判断を統一する必要がある。それがなければ悪いと感じている人は改善を進めようとするが、悪いと感じていない人は改善を進めようとする気持ちにならない。同じ現象が起こっても行動が変わるのである。これがいわゆる物流管理指標(KPI:Key Performance Indicator)である。私もコンサルティングという仕事柄、数多くの企業をみてきたが、物流管理指標が明確になっている企業はほとんど無い。最初のスタートが出来ていないから物流改善が進まないのだと思う。あらゆる面で現状の数値を把握し、数値目標があれば、問題解決の半分は終わった様なものである。ただ、データ収集にやたら時間をかけるのも良く無い。何故ならばデータ集めだけで疲弊してしまい、最初のやる気が次第に消失してしまうからである。私は過去の経験をもとに、「物流改革計画シート」を作成した。また、機会があればご紹介したい。

4.物流パートナーの有効活用

  物流改善のプロセスが決まればあとは実行するだけであるが、推進できる人材により結果(実現スピード、実現効果)が大きく変わる。物流に取り組み始めた企業がまだ多いため、効率よく実行するためには組織改革と意識改革が必要になる。私は物流コンサルタントの使命と感じていることは、この人材育成である。余談になるが、コンサルタントとして一番時間がかかるところが、意識改革である。今と価値観を大きく変えるため、色々な手段を使って説明・説得をするのであるが、これがなかなか共有化できず厄介である。これが1年後になると、お客様と評価基準や改善プロセスが共有化できており、1を言えば10がわかるようになるため、非常に生産性が高くなり、仕事もやりやすい。
  少し話が横道にそれてしまったが、最近は市場変化のスピードが非常に早くなっているため、特に中小企業の場合は限られた優秀な人材を物流よりも営業や企画に投入する傾向がある。売上なくして物流なしという考え方である。その考えも正解である。物流改善を進めるのは、物流のプロにまかせる考え方も悪くない。
  物流改善を進めていくと、最初は比較的簡単な方法で大きな改善効果が実現できるが、次第に中規模の改善、その後は小規模の改善になってくる。先日、ある雑誌でトヨタ自動車が年間61万件の改善策を立案し、年間2300億円の改善効果を出したという記事が掲載されていた。少し乱暴ではあるが、単純に割り算をすると1件当たり年間約38万円の改善である。月間約3万円、1日当たりにすると1500円の改善である。時間換算するとパートさんが1日2時間程度改善効果が上がる提案である。物流改善が進化していくと、小さな改善の積み重ねと、難易度の高い改善が残る。これを実現するためのマネジメント能力は物流改善を進めていく上での成功事例と失敗事例の経験則の中で次第に磨かれていくが、このような人材を育てる時間が無いのが現実である。
  その選択肢として、物流パートナーが考えられる。先ほど難易度が高い改善と言ったが、その例として共同物流、共同配送が挙げられる。何社かで荷物を集め、物量を多くして各物流業務の生産性を上げるのである。共同物流、共同配送が実現できれば、部分的に20~30%改善が進むことも珍しく無い。昨今は売上が維持できるどころか減少傾向にある。これはデフレ傾向で財布の紐が堅くなったこともあるが、少子化の問題も控えており、今後益々国内の消費需要は減少する傾向がある。本来であれば、製造業や卸売業(以下荷主と表現する)が協力して共同化を進めれば良いのであるが、現実はうまくいかない。共同化の大前提は、お互いの自社物流の詳細データを公開しなければならない。お客様への物流サービスが維持・向上できるのか、物流コストはどのくらい減少するのか、物流業務はどう変わるのか。それにより何か問題が発生するのかを具体的に検証しなければならない。最初からTOPダウンで共同物流、共同配送をすることが決まっているのであれば問題無いが、実際はメリットがあるか確証を得た段階になって初めてスタートできる。共同化はしたいが、他社にあまりデータを渡したくない。これが物流改革を進ませない最大の理由である。
  ただ、あきらめることは無い。物流パートナーの有効活用である。物流パートナーとは、運輸業者・倉庫会社を指す。拡大解釈して、コンサルタント・マテハン業者・物流SI業者も入れることもある。これらの企業は、1社だけでなく数多くの企業の物流現場を見て、しかも改善経験を多く体験している。また、難易度の高い「共同物流・共同配送」をうまくコーディネート出来る。守秘義務契約を結び、それぞれの荷主を調査し、共同化のメリットを概略で効果予測する。荷主に対しては、具体的に検討を進めるかを打診すれば良い。こうして、関わった企業同士をお見合いさせ、同じ価値観で協力して改善を進める。ちなみに、荷主と物流パートナーが同じ基準で目標値を共有化することは言うまでもない。以上が私の考える物流改善の進め方である。

以上



(C)2004 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.

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