ロジスティクス・レビュー

第57号「物流」と「ロジスティクス」の違いについての一考察-その定義と日本に紹介された時代背景-(2004年6月10日発行)

執筆者 浜崎 章洋
社団法人日本ロジスティクスシステム協会 関西支部
プログラムディレクター
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1991年 立命館大学経済学部卒業後、ニュージーランドで有機農法を学ぶ。
    • 1992年 タキイ種苗入社、海外営業部にて欧州・アフリカ・南アジア担当。
    • 1998年 JILS入職
    • 2001年 MBA取得(マネジメントシステム専攻)
    • 現在  社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS) 関西支部
          プログラムディレクター。

目次

  企業のご担当者やロジスティクスの学識経験者など、物流やロジスティクスと関わりの深い方々と情報交換する機会が多い。企業のロジスティクス担当者に、「貴社のロジスティクス部門の課題はなんですか」という質問をした際、「協力会社の運賃値下げ交渉だ」などの回答に驚かされることがある。時代錯誤と言えばよいのだろうか、話が噛み合わないことがある。
  自分のコミュニケーション能力が不足しているのだろうかと悩んだこともあった。しかし、こんな経験を何度かするうちに、その原因がわかった。物流とロジスティクスの定義や認識が所属する企業や業界により異なっていることに問題があるようだ。
  本稿では、物流とロジスティクスの違いについて、定義とそれぞれが日本で紹介された時代背景などをもとに整理したい。

1.物流とロジスティクスの定義

  「物流」と「ロジスティクス」はどのように定義(あるいは説明)されているのだろうか。関連する書籍に目を通しても諸説さまざまである。本稿では日本の国家規格である日本工業規格(JIS)、日本で唯一のロジスティクス専門団体であるJILSが監修した『基本ロジスティクス用語辞典』、一般的な辞書の『広辞苑』、そしてアメリカのロジスティクス団体の4つの定義を表-1で紹介する。


上記の説明から、「物流」と「ロジスティクス」の違いを理解するのは困難であろう。

2.寿司屋の業務フローから「ロジスティクス」と「物流」を探る

  「ロジスティクス」と「物流」の違いを整理する際に、寿司屋の仕事を想像するとわかりやすい。ネタの鮮度が品質に重要なインパクトを与える寿司では、前日の売れ残りの鮮度の落ちたネタでは、美味しくない寿司を提供すること、つまり顧客サービスの低下につながる。また、売れ残りのネタを破棄することになれば(不良在庫の処分)、その分だけ利益を圧迫することになる。寿司屋の大将が在庫量(仕入れと仕込み)を最適化することにより、新鮮なネタで顧客サービスが向上するだけではなく、ネタの処分損がないため利益率も高まる。
  産業界も同様で、余分な原材料の仕入れ、過剰生産による不良在庫、押し込み販売による月初や期初の返品など、自部門の都合(部分最適)が優先されると、トータルコストが上昇する可能性がある。その結果、顧客満足の低下と利益の圧迫など、競争力の低下を招きかねない。
  寿司屋の場合、大将1人が経験に基づいた需要予測と提案営業(今日のおすすめ)により、在庫最適化の意思決定をすれば良いが、ビジネスでは購買・生産・販売・物流など部門間の調整が必要になる。この調整が簡単なようで難しいのである。一般的に、企業では購買部門は調達コスト低減、生産部門は製造原価低減というように、従業員の評価に部分最適の尺度を用いることが多い。そのため、購買部門や製造部門は原価を下げるため発注や生産の単位が大きくなりがちで、結果として余分な在庫を抱えてしまう。
  このようなことを避けるためにも、従来型の部門最適を目指す組織や評価尺度ではなく、生産・販売・物流などの業務を総合的に最適化するための意思決定ができる組織と評価尺度が必要となる。これらを解決し、会社全体を最適化することが「ロジスティクス」の役割と考えられる。
  一方の物流を寿司屋の仕事に例えると何か。それは店内の給仕や出前(配達)、厨房に材料や調理器具を効率よく適正な状態で収納する(保管)、お土産用の折詰(包装)などと言えるだろう。  

3.高度成長期に『物流』、バブル経済崩壊時に『ロジスティクス』

  物流が日本に紹介された1960年代は高度成長期(1955~1973年)である。東京オリンピック(1964年)や大阪万博(1970年)というように、終戦後、先進国の仲間入りを果たした時期と言えるだろう。当初は、Physical Distributionの直訳語『物的流通』として紹介されるが、その後、省略され『物流』と呼ばれる。
  高度成長期には、流通業ではスーパーマーケットが登場、所得の増加や生活習慣の西洋化に伴い消費ブームが到来する。『大量生産、大量販売、大量消費』時代の物流は、拡大する物量を処理することに重点がおかれる。これ以前、物流の管理や運営を一括して行う部門は無かった。多くの企業では、営業部門や製造部門の一部として、営業部輸送課、工場倉庫課出荷係というように、輸配送や保管荷役など単一機能をいくつかの部門にわたって担当していた。
  経済環境が厳しくなった第一次オイルショック(1973年)をきっかけに、物流が『第三の利潤源』として脚光を浴びる(第一の利潤源=売上拡大、第二の利潤源=製造・仕入原価の低減)。物流の関心は、高度成長期の「いかに処理するか」から「効率よく、ローコスト」に変遷した。効率を良くするためには、各部が管理・運営していた物的流通に関わる部分を、一元管理する必要が高まり、図-2のように各社に物流部や物流管理部が誕生した。

図-2 各部門に分散していた物流担当が統合されたイメージ

  一方、ロジスティクスが一躍脚光を浴びるのは、1990年の湾岸戦争と言われている。この戦争で、米軍のロジスティクス部門は700万トンの物資を前線に送り込んだ。「必要なものを、必要なだけ、必要な場所に、必要なタイミングで、正確に」軍事物資ならびに生活物資を前線に補給するロジスティクス(兵站、ミリタリー・ロジスティクス)は、戦略立案や戦闘行為と同様に、非常に重要であると考えられている。
  軍のロジスティクスに、「適正なコスト」という経済性の概念を入れることにより、ビジネス界でも応用できるということで、アメリカでは1980年代、我が国では湾岸戦争以降にロジスティクス(ビジネス・ロジスティクス)が注目される。
  この時期、日本経済はバブルが崩壊し、長期停滞により『大量生産、大量流通、大量消費』時代は終焉する。また、1980年中頃以降は消費者の嗜好が多様化され多品種少量生産へと変化していく。不況と消費社会の成熟化から、消費行動が「必要な時にしか買わない、欲しいモノしか買わない」へ変わっていく過程については、実体験された実務家の読者に説明は不要であろう。

4.時代により企業経営の評価指標が変化

  このように、物流とロジスティクスが、それぞれ日本で注目された時の経済状況は異なる。それは、それぞれの時代における、経営の評価指標も大きく変化したことを意味する。
  消費市場が拡大していた高度成長期においては、「造れば売れる」という供給者主導のプッシュ型市場が形成された。売上高や市場シェアの増加は、利益の絶対額の増加を意味していたため、規模に関する指標をもって会社の業績を評価してきた感がある。しかしながら、長引く不況の影響からか、「欲しいものしか買わない」「必要なときにしか買わない」といった消費者主導のプル型市場へ転換した。消費の拡大が見込めない状況において、業績評価の対象は、いかに効率よく経営するかといった利益率やキャッシュフローなど質の評価へと転換される。このような背景のもと、「顧客ニーズに対応するために,必要なものを、必要なだけ、必要な場所に、必要なタイミングで、正確に,適正なコストで供給する調達・生産・物流・販売を全体最適化したシステム」であるロジスティクスの重要性に対する認識が高まってきているといえる。
  書籍等で、物流とロジスティクスの違いについて、「プロダクトアウトの物流、マーケットインのロジスティクス」という説明がされることがある。これは、それぞれが紹介された時代背景を説明するためで、物流が市場動向に合わせずにメーカーの効率だけを考えたモノの移動を意味するものではない。
 
以上、「物流」と「ロジスティクス」の違いについて、それぞれの定義と日本にその概念が紹介された時代背景をもとに整理したものである。本稿がロジスティクスに関わる読者各位にとって、なんらかの参考になれば幸いである。

【参考文献】
JILS監修『基本ロジスティクス邦語辞典[第2版]』(2002年,白桃書房)
新村出編『広辞苑[第五版]』(1998年,岩波書店)
浜崎章洋著『製造業におけるロジスティクスの重要性』(平成13年度神戸大学修士論文)
中田信哉著『物流・配送のことがわかる本』(1982年,日本実業出版社)
W.G.パゴニス『山・動く-湾岸戦争に学ぶ経営戦略-』(1992年,同文書院インターナショナル)



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