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マーケティング

第51号バズマーケティング(2004年3月12日発行)

執筆者 岸谷 和広
関西大学 商学部助教授
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1995年 横浜市立大学商学部卒業
    • 1997年 神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了
    • 2000年 同後期課程修了
      関西大学商学部専任講師
    • 2003年 関西大学商学部助教授
    • 現在に至る
    学位
    • 博士(商学)
    研究テーマ
    • 広告論、消費論
    著書・論文
    • 岸谷和広「広告取引における組織間関係の再検討」『日経広告研究所所報』213号,
      8-13頁,2004年
      岸谷和広「製品戦略の再検討」『関大商学論集』第47巻,281-302頁,2002年
      岸谷和広「広告管理における複眼的理解」,石井淳蔵編『現代経営講座11マーケティング』,
      八千代出版,145-63頁,2001年
    所属学会
    • 日本商業学会

目次

1.はじめに

  バズ(Buzz)とは、「ある時点における、特定の企業や製品に対するコメントの合計」(ローゼン、2000、P.5)である。ゆえに、バズマーケティングとは、バズを誘発するマーケティングである。わかりやすくいえば、従来からマーケティングの手法として論じられてきた口コミマーケティングと言い換えることができる。
  口コミそれ自体は以前から分析の対象となっていた。戦後、新製品の普及に際して、パーソナルインフルエンス、すなわち、社会関係が決定的な役割を果たしていることが発見されて以来、消費行動を全く独立した個人の意思決定ではなく社会的プロセスとして捉えるようになったのが発端である。にもかかわらず、それ以降、その有効性が語られながらも、研究分野としては下火であった。しかし、近年、バズマーケティングとして再び注目されるようになったのである。
  本稿では、近年、口コミが重要視される背景と、口コミを誘発するネットワークのハブ、そして口コミの現代的な意義を述べていくことにする。

2 口コミの重要性

  まず、バズすなわち、口コミが重要視される背景を見てみよう。ローゼン(2000)によれば、口コミの重要性を高めている理由を三つ挙げている。それは、①ノイズ、②懐疑的態度、③つながりである。
① ノイズとは、現代の過剰な情報環境に起因する。現代は、高度情報化社会であり、とりわけマスメディアから膨大な情報量が発信されている。例えば、アメリカの広告の専門家によると、消費者は一日に平均500以上の広告に接しているという。しかし、広告それ自体の認知度の低さからわかるように、その成果は、必ずしも出稿量に見合ったものではない。すなわち、人間の情報処理能力を超えるような情報量との接触は、ノイズにしかならない。そのことは、情報過多を生み出したマスメディアの相対的な地位の低下を帰結する。その反面、メディアとしての人、口コミの影響力が評価されることになる。
② 懐疑的態度とは、製品・サービスの送り手に対して抱く消費者の態度のことである。送り手である広告や販売員は、自身にとって都合の良いことしか言わない。そうしたことを日々経験してきている消費者は送り手に対して懐疑的な態度を抱くようになる。それに対して口コミとは、売り手とは無関係な第三者である消費者、さらには、実際に使用経験を持つ消費者によってもたらされるのである。それにより、消費者は情報源として、懐疑的な態度を抱いている製品やサービスの送り手よりも、口コミを積極的に活用しようとする。
③ つながりとは、人々のつながりのことである。とりわけインターネット等の新しいツールの登場により、新しいつながり方が生まれだしてきている。従来のつながりとは、知っている人間という社会関係に規定されたつながり方ゆえに、口コミが流れる経路にも自ずと限界があった。しかし、オンライン上のフォーラムなど、同一の興味や嗜好がつながりの起点となることで、社会関係が介在しないところでも広く情報共有がおこなわれている。そこでは、社会関係のみが口コミの経路ではなく、それ以外の多面的なつながりによって情報が伝達される可能性が存在するのだ。

3 ネットワークのハブ

  このように、重要性が増している口コミをマーケティングの手法として活用するには、情報伝達の起点となる「ネットワークのハブ」を見分けることが優先されるべき課題となる。そのネットワークのハブとは、情報伝達力と影響力、二つの側面から理解することが可能である。
  第一の側面である情報伝達力とは、多数のコミュニケーション経路を確保していること、すなわち、多くの人とつながりを持っていることである。多数のコミュニケーション経路を持っていることにより、ネットワークのハブとなりえるのだ。ハブを経由することで、様々なところに情報を散布することが可能となるのである。
  さらに、ハブの情報伝達力は、単に情報をばらまくことだけではなく、効率的に流通させることにも貢献する。友人関係や仕事の同僚など小集団の中で流通する情報内容はどうしても似通ってしまい、同じような情報しか流通しない。それに対して多くの経路を持つハブが介在することで、小集団間を架橋し、情報が遍在する。情報を滞りなく偏在させるハブの効果は大きい。それに焦点を当てることは、いままでのコミュニケーション戦略の修正を余儀なくする。従来どちらかといえば、同質的なセグメントに焦点を当ててきたが、異なるセグメントを架橋するネットワークを把握することで、異質なセグメント同士の顧客間の情報の流れに注意を払うことができる。
  もう一つの側面である影響力とは、ネットワークの構成メンバーの購買意思決定に対して何かしらの変更をもたらすことである。唯単に、数多くの人とつながっているだけでは、ハブの片面だけの側面にすぎない。構成メンバーの意思決定に多大な影響力を持たなければならない。
  その影響のあり方として多様な類型ができる。影響力の種類としては、社会的ハブとエキスパートハブに分類できる。社会的ハブとは、社会的な影響力を持つハブである。どんなグループにもカリスマ性を有していたり、仲間からの信頼を勝ち得たりするリーダーが存在するが、これらがそれに該当する。社会的な地位を背景とすることで、その他のメンバーの購買意思決定に影響力を行使するハブである。それに対して、エキスパートハブとは、例えば、映画に詳しい人、コンピューターやソフトウェアに詳しい人などが挙げられる。すなわち、その専門知識ゆえに影響力を行使できるハブである。
  また、影響力の大きさに関しても、通常のハブとメガハブと2分できる。通常のハブとは、数人から数十人に結びついているハブであり、通常想定可能な小集団のリーダーやある製品カテゴリーに対して専門知識を有する専門家である。メガハブとは、通常のハブと同じようにコミュニケーション経路を持っているだけでなく、マスメディアを通じて、一方的ではあるが、メッセージを発することができる人である。例えば、タレントや報道陣、アナリスト等が挙げられる(ローゼン、2000)。

4 おわりに-市場の接点

  こうしたバズの特性やネットワークのハブの類型を理解すると、それに応じた経路やネットワーク形状へと関心が向けられていくことになる。しかし、現代においては、経路やネットワークの形状の理解を深めるという方向性はあまり有効ではない。それは、ネットワークの全体像を把握することが非常に困難になってきているからだ。
  先にもふれたように、社会関係だけでなく、フォーラムなどの好みや関心によってもネットワークが生成していることを考慮するなら、当然複合的なネットワークの存在を予想することができ、そうすると、その全体像を確定することは不可能に近い。
  また、インターネットという新たな媒体の登場は、ネットワークそのものの性質を大きく変質させ、活用の仕方も変わってくる。すなわち、情報を発信する経路としてネットワークを活用するだけでなく、情報を交流させる相互作用の場としてネットワークを活用しているのである。それは二つの側面から把握することが可能である。
  一つは、消費者間の相互作用である。例えば、ホームページのコメントや書き込みは、消費者独自の様々な経験や感想、場合によっては不満足が掲載される。しかも、それは、通常消費者に公開されつつおこなわれるので、リアルタイムで返送することが可能である。そのことで消費者間での対話が進められることになる。サイトによっては、そうした大勢の顧客のつながりそれ自体が、情報源として権威を持つ評論家と同じくらい重要性をもつこともある(ローゼン、2000)。もちろん、従来の社会関係に基づいた口コミそれ自体が対面的コミュニケーションゆえにその相互作用性が強調されてきたが、社会関係が介在しないインターネットではその比ではない。
  もう一つは、製品・サービスの送り手である企業と消費者の相互作用である。消費者からのコメントを、消費者の代弁者として捉えることで、製品の修正等製品計画の変更に生かしていくものである。もちろん、製品の修正という製品開発の側面もあれば、消費者にアイディアの正否を訪ねるという市場調査としての側面もある。これは、前者の消費者間のつながりを生かしているという意味で言えば、「消費者間の相互作用織り込み済み」のマーケティングということができよう(南、2001)。
  しかし、問題点もある。とりわけ後者に関していえば、製品開発に際して、すべての情報を採り入れることはできず、なにかしらの基準を持って選択をしなければならない。インターネットにアクセスしてくるユーザーは、比較的関与度の高いユーザーが多いため、何かしらのバイアスを否定することはできない。さらには、匿名性が全面に押し出てくるインターネット上では、その選抜方法は今までとは違うノウハウが必要であるといえよう。
  にもかかわらず、消費の多様化だけでなく、製品の短ライフサイクルを特徴とする現代の消費市場においては、市場の動向をいち早く把握し直すには、重要な起点となりえる(岸谷、2002)。セグメンテーションと称し、抽象的に定義したが故に、硬直化してしまう送り手の市場像を変革するには、このような接点を重要視しなければならない。

以上

参考文献
エマニュエル・ローゼン(浜岡豊訳)『クチコミはこうしてつくられる』、日本経済新聞社、2000年。
岸谷和広「製品進化研究の新視点」、『関西大学商学論集』、関西大学商学会、2002年。
南知惠子「リテラシーリーダーとのインタクラション」、ダイアモンドハーバードビジネスレビュー、2001年。



(C)2004 Kazuhiro Kishiya & Sakata Warehouse, Inc.

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