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物流コスト

第5号物流ABCの導入(2002年05月07日発行)

執筆者 佐伯 博
佐川急便株式会社 本社経営企画本部 課長
    執筆者略歴 ▼
  • プロフィール
    • 平成2年 佐川急便大阪支社入社
      ドライバーから物流システム事業部、商品企画課を経て
    • 平成13年8月  本社経営企画本部 課長
      現在に至る
    講演
    • 神戸市主催セミナー
    • 日本ロジスティクスシステム協会主催セミナー
    • 九州生産性本部主催セミナー
    • 日本MH協会主催セミナー

目次

1.はじめに

昨今の景気低迷の中、各部門でのコスト削減が経営課題に挙げられ、物流の現場も各工程別に係わる経費を正確に把握しなければならなくなってきた。各物流担当者は
(1) 物流コストがドンブリ勘定でわからない
(2) 物流業務改善に向けた有効な手法が見つけられない
(3) 思い込みだけの改善では結果が数字で明確に出ない
(4) 新しい仕事の受注時点で損益を算出できない
などの問題を抱えており、
経営者は
(1) 営業マンを利益で管理できない
(2) 得意先別の物流コストが把握できない
(3) 商品別の物流コストが把握できない
などの問題を抱えている。

2.物流ABCとは

ABCとは Activity Based Costing の略称であり、日本では「活動基準原価計算」と呼ばれている。このABCは、より実態に合ったコストを把握しようとする新しい手法であり、これを物流に適用するとこれまでできなかった最小単位のアクティビティでのコストが把握できるようになった。そして実態に合った客別の物流コスト把握や、各種の分析に使用でき、大幅な物流改善と新たな経営戦略を打ち出すことが可能となるのである。

3.物流ABCの導入手順

まずは導入目的を明確にし、プロジェクトチームを編成する。このチームには管理コストを正確に把握していくため、経理、財務の方も参加することをお勧めする。
次に、現場の実作業に沿った各アクティビティを出し、その個々のアクティビティに業務範囲、発生コスト、コスト把握方法、コストドライバーを設定していく。通常入荷から出荷までのアクティビティは約60~80個ほどとなる(図1)。

図1 アクティビティ定義



*画像をClickすると拡大画像が見られます。
このアクティビティについては多く設定すればいいというものではない。多ければ多いほど作業単位が小さくなり、どこに改善余地があるのか判断がつかなくなってしまう。また、実査を行う場合、現場のスタッフが作業範囲を明確に把握できなくなってしまう恐れがある。
一番良いのは誰でも作業範囲が分かり易いアクティビティに設定することである。次に、諸経費の把握とその係わる費用を各アクティビティに配分していく。この作業については経理、財務の方々にも参加していただき、発生している経費が複数のアクティビティに影響している場合は構成比などで配分していくことが重要である(図2)。

図2 諸費用の配分方法



*画像をClickすると拡大画像が見られます。緑色矢印をクリックすると拡大表示されます。

4.物流ABCの実態把握

次に、各アクティビティ毎にどの位の数量を何分で作業したかの時間の測定に入っていく。この作業については、プロジェクトメンバーが実際に作業している方々のそばでストップウォッチ等をもって調査していくのであるが、常日頃現場で働いているスタッフにとっては自分の能力を試されているのかと勘違いして通常の1.5倍ほどの生産性があがってしまうことがある。したがって、調査を行うには数週間のデータ取りを行うことが必要である。

5.物流ABCの結果分析

最終のシートとしては一つのアクティビティに対して一つに商品を処理するのにどの位の人件費とそれに係わる正確な経費をプラスすることによって、作業の最小単位での原価が把握できてくる(図3)。完成した表からABC原価の高い所、もしくは全体の作用の中で構成比の高い所からコストの発生要因分析を行い改善していけばいいのである。たとえば入荷作業というアクティビティに係わるコストを一ヶ月調査してグラフを作ってみた(図4)。
縦が商品一個に係わる時間、横が一日に扱った数量となっており、分析結果としては一日に大量の商品を扱った時は生産性も良く、一個当たりの作業に係わるコストは低くなっているが、一日の処理が少ない時は一個当たりの作業に係わる生産性は悪くコストも高くなっている。物流の現場に於いてはこの波を解決し日々の扱い量に関係なく生産性を一定に近づけることである。

図3 物流のABCの結果分析



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図4 コストの発生要因分析

6.業態別構造分析

次に実際に今回行った調査を得意先別に置き換えてみた(図5)。物流作業に於いては得意先によってアクティビティも違うはずである。たとえば百貨店では必ず物流センター内で事前に値札を付けるが、専門店では店舗で値札を付ける等、物流に係わる作業は得意先によってさまざまである。言い換えれば得意先によって物流コストが違うということである。たとえば各営業マンが1万円で商品を仕入れて1万1千円で販売したとしたならば、単純に考えれば利益の1千円から標準の物流コストを引けば純利益だと考えてしまうものであるが、実際には値付け等の作業の違いから得意先によって物流コストの違いが明確になってくる。結果として経営者の判断としては得意先によって利益の違いと営業マン別に会社に与える利益の違いに気づくわけである。

図5 業種別収益構造分析

7.業務改善リポート

物流現場の改善については
(1) 「テーマの選定」どのアクティビティを改善していくのか
(2) 「現状把握」各作業工程の把握と掛かっている時間を測定
(3) 「目標設定」どの作業をいつまでにどの位短縮させるのか目標値を設定する
(4) 「要因解析」作業しているスタッフの特徴、現場のムリ、ムダ、ムラなどの解析を行う
(5) 「対策立案」要因解析に対してどのように改善していくのか具体策の検討と改善スケジュール策定
(6) 「対策実施」改善スケジュールに基づき作業を実施
(7) 「効果確認」実態の数字を改善前と検証する
(8) 「歯止め」各数字が前に戻らないように作業内容の再チェックとマニュアル化
(9) 「反省と残る問題点」クロージングミーティング
を確実に行うことによって現場の改善につながる。

8.まとめ

これからは物流ABCという計算法を使って物流を管理していく考え方が重要になってくる。物流部門として生産や営業には何も言わずに自分でできる範囲の改善を進めていく古い考え方はやめ、コストを武器に生産や営業を巻き込んで全体最適をしていくことが必要である。

以上



(C)2002 Hiroshi Saeki & Sakata Warehouse, Inc.

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