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マーケティング

第405号 リアルからネットへの変革の中での物流実務(仕組み)を考える。(後編)(2019年2月7日発行)

執筆者  髙野 潔
(有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長)

 執筆者略歴 ▼
  • 職歴・履歴
    • 日産自動車株式会社(33年間)
    • (出向)株式会社バンテック(7年間)
    • (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~)
    組織・履歴
    • 神奈川流通サービス協同組合・物流システム研究所所長(5年間)
    • 株式会社湘南エスディ-・物流顧問(5年間)
    • 株式会社カサイ経営・客員研究員(7年間)
    • 物流学会・正会員(8年間)
    • 物流学会・ロジ懇話会事務局(5年間)
    • 日本情報システムユーザー協会・個人正会員(JUAS-ISC)(9年間)
    • 日本情報システムコンサルタント協会(JISCA:東商会員)正会員・理事(平成25年~)
    委嘱(受託)・履歴
    • 通産省(現・経済産業省) 荷姿分科会委員・委嘱(1年間)
    • 運輸省(現・国土交通省)輸送分科会委員・委嘱(1年間)
    • 中小企業基盤整備機構  物流効率化アドバイザー・委嘱(8年間)
    • 中小企業ベンチャー総合支援センター 新事業開拓支援専門員・委嘱(6年間)
    • 中小企業基盤整備機構  企業連携支援アドバイザー・委嘱(6年間)
    • 中小企業大学校(関西校) 非常勤講師・委嘱(4年間)
    • 海外技術者研修協会 [AOTS]関西研修センター 非常勤講師・委嘱(2年間)
    • 座間市観光協会・事務局長(2年間)
    • 座間市・都市計画審議会委員(2年間)
    著書・講師・履歴
    • 日本のロジスティクス (共著:日本ロジスティクスシステム協会)
    • 物流共同化実践マニアル (共著:日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会)
    • 図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流 (共著:同文館)
    • 雑誌掲載:配送効率化・共同物流で大手に対抗(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:情報化相談室回答担当者(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:卸の物流協業化・KRS共同物流センター事業(流通ネットワーキング)
    • 雑誌掲載:現場が求めるリテールサポート・ドラックストア-編(流通ネットワーキング)
    • その他  :執筆実績多数
    • 講師(セミナー、人材育成、物流教育・etc):実績多数

 

目次

*前号(2019年1月22日発行 第404号)より

5.使用用途が多様化するマルチテナント型物流拠点が増えています。

  大型のマルチテナント型物流拠点を外資系の物流不動産ファンドや国内の大手不動産業が続々と建築しています。敷地面積、倉庫面積が大規模な3~5層前後の構造で荷主が1社の単独契約の物件もあれば、複数荷主が入居するマルチテナント型の物件もあります。それらの大型物流拠点を利用するメリットは、大型トラックがラセン型スロープで平屋方式と同様の搬入・搬出ができること、広い床面積、高い天井で作業場としての使い勝手が良く、構造強化、耐震性能が高く、再生可能エネルギー(太陽光発電)やリチウムイオン電池などで停電時のバックアップ機能が充実、非常時にも強い拠点となっている所が多く見かけます。働く人にも優しい環境が整えられ、さらに人気物件が増えていくという状況にあります。
  倉庫といえば、メーカー、卸企業、物流業が自社所有、あるいは1棟を1企業が専有する形で賃貸借契約を結ぶのが一般的でしたが10数年前から大きな変革が起こりはじめました。それは、大型マルチテナント型物流施設の出現です。私の住まいの座間市にあった大手自動車工場跡地の一部を外資系の物流不動産開発デベロッパーが取得、2009年5月に大型物流施設を数棟、竣工しました。多層階の大型拠点をワンフロア毎、あるいは分割して様々な業種業態の複数企業が入居しています。物流適地にローコストで先進的な環境を有した拠点を開設できるというメリットがあり、急速に浸透しています。
  当初は、マルチテナントとは言え使用目的は従来と同様、商品の受入・入荷、在庫して保管、出庫・出荷(発送)するための拠点と言う認識が一般的でしたが、近年大きく展開しているeコマースの成長で受注から加工・包装・梱包、発送までの全ての作業を拠点内で行う必要があり、eコマースに限らず、出荷、配送のスピードは、ビジネスの競争優位につながり、昨今、マルチテナント型物流拠点が開発されるような適地に物流拠点を確保し、商品カタログの作成、MD機能・商品棚割、受注コールセンター、商品開発室、商材の修理やメンテナンスなどを行う組織を併設、さらに、拠点内にオフィス機能や物づくり(工場)機能など、設置の動きが広がってきています。
  しかし、用途地域や地区計画により、用途に制限がある施設もあり、また、危険物の取り扱いに対する制限や消防法による制限もあります。本来、建築基準法や消防法においては、従来の倉庫は保管のための施設であり、働く人が少ないという前提で法規制が定められていました。マルチテナント倉庫では、従来の倉庫機能と異なった物流加工や物づくりなど、想定と異なる作業者を必要とする運用が始まっています。実際の庫内作業やレイアウトでは、避難通路の確保や誘導灯、スクリンプラー、消火設備の増設・設置など、建築基準法とは別に、消防法の規制を受けることになり、事前に使い方やレイアウトなどを自治体の関係先、関連省庁の判断を仰ぐ必要性が出てきました。私も倉庫建設やドラック系の一括納品センターのお手伝いをした際に各市町村の行政担当者(役人)の条例の微妙な解釈の違いで開業にこぎつけるまでに難儀した経験がございました。また、入居の条件の電気容量、床荷重、天井高さ、大型のマテハンや保冷庫の設置時にアンカーボルトが可能か、全館空調、コンセントや照明機器の確認など、業種によって対応の有無が異なり、戸惑ったりしたことがありました。
  従来と異なった対応が必要ですがマルチテナント型物流拠点の用途と需要が益々広がってきています。

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6.物流拠点(物流センター/倉庫)の基本の考え方

  物流関連の物流拠点(倉庫)の規模(スペース、マテハンとレイアウト,etc)の算定、及び設計は、経営戦略上においても必要です。生産量や仕入れ量の増減調整、市場の動向など変動要素が多く的確に物流拠点の規模に反映させるのはとても難しいと言われています。それは、業種業態により変動幅(波動)が想定しにくいのと変動要因をすべて受け入れると大きな無駄が生じるためです。例えば、年末年始、春夏秋冬の季節変動、月間&曜日変動、催事毎など、変動を考えたらきりがありません。レイアウトを考えるに当たり、物量(在庫、入出庫)と波動の変動幅の許容範囲を把握、設定しておきたいものです。
  基本の庫内レイアウトは取り扱い物量(在庫量・入出荷物量)の想定から荷役機器と台数を試算、施設図面に棚サイズや通路幅、荷捌場の広さなどを落とし込み、年間売上伸び率の予測、5年後の出荷金額を想定、自社の実力に伴った在庫回転数・率を策定・算定します。この想定が大きく外れると当然、倉庫スペースの増減に繋がってしまいます。

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  敷地の条件は、用地に対する「建蔽率50%」が望ましいと言われています。また、大型トラックの回転スペースである車繰り場を十分に取りたいものです。(ラセン・スロープ付の倉庫は対象外)
物  流拠点(倉庫)規模の試算結果の検証はなかなか難しいのですが、大まかな検証が必要と考えます。類似法や設計図面のイメージで検証する方法があります。類似法での検証は、新・旧物流拠点を形状別(カテゴリー)に新旧倉庫規模との比較、同業他社の先進物流拠点の規模(同一規模に換算)との比較、庫内レイアウトを設計図面に落としたイメージで検証する方法などがあります。
  規模を策定した際、必要な入出荷物量、在庫物量、敷地、床面積などから概略の作業の流れと一日当たりの作業回転数を想定し、各種作業場、通路(フォーク、台車、ほか)、プラットホーム、入出荷車輌と車繰り場、車両待機などのスペースの過不足を判断します。さらに、配置人員、作業をイメージ(フォークリフト、コンベア、手押し台車、人員)しながら運用が可能か否かを判断することが大切です。所要人員から現場詰め所、休憩室・更衣室、物流事務所の過不足も判断したいものです。
  さらに、倉庫実行面積×50%:倉庫延べ面積に対する保管スペース面積50%が理想のようです。ピーク係数:能力設定値(HI‐AVE値1.3)、月別、年間出荷波動をベースにピーク係数を設定、無駄を極力排除してスペースの過不足を担保、社員、パートの駐車場なども余裕を持って確保したいものです。
  作業導線からみた棚配置、アイテム数と棚間口数の確認、在庫オーバーフロー時を想定したバックヤード、余裕・拡張性の確認、閑散期と繁忙期の作業風景イメージでの確認も重要です。商品特性や維持すべき在庫量に応じて棚間口の大きさの決定や出荷頻度の高い商品を出入口に近い棚に割り付けることも必須です。ロケーション設定の考え方として垂直棚割、水平棚割で入庫カテゴリー、ピック順序も考えたいものです。在庫量が多く、広い倉庫スペースの場合、ダブルトランザクション方式(保管在庫と出庫在庫に機能的に区分)の棚割が効果的です。商品特性に応じた棚の最適な配置と棚割は形状、カテゴリー、出荷頻度、仕入先、流速などを意識した配置が肝要です。レイアウト時の動線のイメージは建物全体の動線を考えることが重要です。
  建物付帯設備についても以下の条件で図面上での確認をしておきたいものです。建物形状として正方形に近い方が望ましい(理想は 1.0 : 1.5)と言われています。建物の階層は、4層までが望ましく、また、4層が限度と言う理論もあり、2層が利用効率、投資効率からも有利と言われています。床の高さ(プラットホーム・床)は、高床式の場合、小型トラック(2.0t以下)0.75~1.0m。中型トラック(3.5t以下)1.05~1.1m。大型トラック(5.0t以上)1.3~1.31mが高床式の標準床高さで、作業上効率がよいとされています。ドック方式には、地上式、掘り下げ式などがあり、開口部(出入口)高さ3.0m~3.5mで出入口を別々にするのが望ましいようです。柱間隔は、7.0mが基準ですが、事例として小型トラック3台分(1.1m×3台)、大型トラック2台分(2.5m×2台)、パレット6枚分(1.1m×6枚)などが望ましいようです。プラットホームの高低の調整は、トラック・ボード、トラック・レベラ-などがあり、ドック仕様(縦付けドックとのこぎり型ドック)奥行幅4.0m以上、車付け幅1.7~2.5m以上などがあります。

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7.最後に・・・。

  物流は、経済活動には欠かせないものです。物流の中心的な役割を担っているのは、様々な機能を持つ物流センターと呼ばれる拠点です。生産者から消費者へ安定した商品の供給を足元から支え、様々な機能と種類をあわせ持つ物流拠点が時代と共に変革を求められています。従来は、生産・調達・販売活動を支援するために保管、配送、流通加工・情報処理の機能を有する物流・商流拠点でしたが、これからの物流拠点のありようとして施設内の自動化・半自動化、将来的には配送車両の自動化、配送方式の新メニュ-、予期せぬ天災・人災、ドライバー不足、拠点内の人手不足もさることながら、このところ物流の分野、特に宅配において大きな変革が相次いでいます。
  背景にあるのは、ネット通販ビジネスの質的・量的拡大です。これまでもリアルからネットへという流れが続いてきましたが、アマゾンをはじめとするネット通販各社がより積極的なサービスを打ち出し始めたことから、物流の競争は、次の新しいステージにシフトしていくと思われます。
  リアルとネットの主従関係が逆転しつつある今、変革の要になると思われる「拠点と宅配」を時代にマッチした仕様にするために「古き良きもの」を知り残し、さらに、新しい変革に合わせた時代にマッチした効率的な拠点システムをいかに早く構築できるのかが勝敗の分かれ目となりつつあると考えます。日本の物流関連企業の強者としての生き残りをかけたBCP(事業継続計画)が重要視されはじめています。さらに、アマゾンドットコムは、物流業者や運送業者を使わず、傘下の物流チームが荷主から荷物を受け取り、その荷物を顧客に直接届けるオール自前のサービスを検討しているそうです。流通系のイオンが希望者全員を手続き不要で65歳定年から70歳まで、無条件で就労を可能にしたそうです。物流業界が人手不足を筆頭に危機的状況に陥る中、概略10%の人材がヤマト運輸などの宅配業者に労働条件と好待遇を求めてシフトしています。
  物流拠点の無理、ムラ、無駄は、まだまだ目につきます。中小・中堅企業は、仕事の簡素化、簡略化、商慣習の撤廃で効率化、生産性向上、人員の有効活用などで、この未曽有?の物流危機を中小、中堅企業が力を合わせ、今よりもよりよい物流システム(仕組み)を後世に残せる変革をすぐさま実践して欲しいものです。

以上



(C)2019 Kiyoshi Takano & Sakata Warehouse, Inc.

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