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物流システム

第397号 商品情報構造化データ「GS1 SmartSearch」の活用(後編) (2018年10月11日発行)

執筆者  梶田 瞳
(一般財団法人 流通システム開発センター
データベース事業部 クラウドサービスグループ/ソリューション第2部 新規事業グループ 上級研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 2011年より流通システム開発センター勤務。
    • – 標準EDI「流通BMS」の普及推進に向けた活動に従事。
    • – 2018年 データベース事業部所属

 

目次

*前号(2018年9月18日発行 第396号)より

GS1 Web Vocabularyの仕様と公開資料・ツール

  GS1 Web Vocabularyの標準仕様は、GS1のwebサイト上に無料で公開されている(https://gs1.org/voc/)。 項目一覧と導入ガイドラインが公開されている他に、”Web Markup Tool for GS1 SmartSearch”として、簡便に構造化データのコードを生成するwebアプリが提供されている(https://www.gs1.org/1/smart-search-demo/)。

  GS1 Web Vocabularyのコードは、JSON-LD(JavaScript Object Notation for Linked Data)というデータ記述言語で記述する。JSON-LDはSchema.orgが近年、普及を促進している言語である。一番のメリットとして、webサイト上に構造化データのコードを挿入する際に、人が読むHTML(Hyper Text Markup Language)部分と独立して記述できることが挙げられる。HTMLと構造化データで作成する担当者が異なる場合でも、互いの作業に影響を与えずに作業ができる。
  項目一覧とWeb Markup Toolを利用することで簡単にコードの生成が可能である。導入にあたっては、既に公開している自社サイトのソースコードに、生成したコードをそのまま挿入するだけで対応ができる。そのため、GS1 SmartSearchは、比較的導入が容易である。

海外の動向

  構造化データをwebページに埋め込むことで検索順位に良い結果を与える可能性が高いことをこれまでに述べてきたたが、検索順位を決定するアルゴリズムは公開されていない。そのため、 GS1 SmartSearchについて、海外ではパイロット導入を行い効果測定する動きが広がっている。
  たとえば、ニュージーランドではGS1 NZが主体となり、構造化データを挿入したデモページを作成し検証を行っている。食品・酒類や日雑品の他、文房具やPC周辺機器など、対象としている商材は多岐にわたる。※8
  また、英国ではGS1 UKの協力の下、食品スーパーのTescoと食品メーカーのNestleが協力して、シリアル食品の商品ページに構造化データを挿入した。商材などによって程度の差こそあるものの、いずれのパイロットも検索順位などにポジティブな結果が出ており、GS1 SmartSearchの導入に、一定の効果があることを確認している。
  ユーザ企業としては、構造化データを埋め込むことでどの程度の効果があるのかを客観的に判断することは難しく、パイロットによる検証をおこなっている。
  そこで、日本においてもGS1 SmartSearchの効果を定量的に測定し、ユーザ企業の導入判断に有益な情報を提供することを目的に、当センターにGS1 Japan SmartSearch検討会を設立し、パイロット実証を行った。

GS1 Japan SmartSearch検討会・ワーキンググループについて

  GS1 Japan SmartSearch検討会には、製配販12企業を中心に、データベース企業3企業がオブザーバーとして参加した。さらに、パイロットに向けた具体的な検討を行う場として、GS1 Japan SmartSearchパイロットワーキンググループを設置し、パイロット内容の策定からパイロットの実施、結果の確認を行った。実際のパイロットは7企業が参加した。

パイロット実証

  パイロット実証実験では以下2種類のパイロット実証実験を実施した。

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  テストサイトにおける実証では、GS1 Web Vocabularyの構造化データを挿入したテストサイト実証参加企業が扱う実際の商品を掲載するwebページを作成した(https://gs1japanss.org/)。


GS1 Japan「GS1 SmartSearch」テストサイト
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  作成したページは構造化データを含めたページを28ページ。さらに、比較用として類似商品を選び、構造化データを含めないページを22ページ作成した。また、それぞれのページに対して、各企業が検索エンジンで上位にとなってほしいキーワードを幾つか上げていただき、全体で470通りの検証を3ヶ月程にわたり日々行った。
  企業サイトにおける実証では、実際の企業の商品サイトにGS1 Web Vocabularyを導入し、導入前4週間と導入後4週間の順位を比較した。

パイロット実証の結果

  テストサイトによる検索順位検証の結果はGoogle検索の場合68.3%の割合で、Bingの場合は61.3%の割合で構造化データを含むGS1 Web Vocabularyが挿入された商品ページの方が、検索エンジンから高い評価を受けた。


テストサイトのGoogle検索順位検証結果
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テストサイトのBing検索順位検証結果
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※導入ページ、比較ページ共にヒットしなかったページについては母数より除外している。
  一方、企業サイトによる検索順位検証の結果は、GoogleもBingもいずれもポジティブな結果を得られなかった。


企業サイトのGoogle検索順位検証結果
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企業サイトのBing検索順位検証結果
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  本パイロットでは、検索順位の検証の他、PV数10/UU数11の計測の他、企業サイトにおいては、直帰率12/CVR13の確認も行ったがポジティブな効果は見られなかった。
10 PV数
  PV数とは、ページビュー(Page View)の略語でページを閲覧した回数のことを指す。1人のユーザが、Webサイト内のページを2ページ閲覧したら、2PVと表す。

11 UU数
  UU(ユニークユーザ)とは、事前に決められた集計期間内にウェブサイトに訪問したユーザの数を表す数値。集計期間内なら同じウェブサイトに同じユーザが何度も訪問した場合でも、1UUとしてカウントされる。

12 直帰率
  直帰率とは、初めてWebサイト内のページに訪問した後に、Webサイト内の異なるページへ遷移することなく、離脱したセッションの割合」を表す。「セッション」とは、あるサイトに訪れて、離脱するまでのユーザの一連の行動を表す言葉で、離脱はそのサイトから離れることを表す。

13 CVR
  CVR とはConversion Rate( コンバージョンレート )の略で、Webサイトに訪れたユーザのうち、最終成果に至ったユーザの割合のことを表す。

パイロット実証から

  構造化データの導入においては、幾つか留意すべき点があると考えられる。
  その中の一つとして、ページに表示されない構造化データの挿入がある。Googleは“Structured Data General Guidelines14”において、ページに表示されない構造化データをマークアップしないように求めている。しかし、今回の企業サイトにおけるパイロットではHTML上で画像として文字が表記されているページや「税率」や「税種類」などの、HTML上にない項目を使用しているページがほとんどのため、検索順位決定においてマイナス要因となった可能性がある。
  また、1サイトから1ページを検索結果に表示させることが基本との考えもある。これは、同一サイト内にあるページの中で検索順位が入れ替わると、以前上位に表示されていたページが検索結果から消えることを指し、検索結果に表示されないからといって、必ずしも低い結果であるとは言えないのである。現に実証においても、ある日は5位であったが、翌日には表示されないということもあった。
  特に企業サイトでの取り組みにあたっては、上記のような留意点に注意が必要である。しかし、表示した情報と構造化データを合わせた形で、かつ、対象を絞った形で純粋に比較したテストサイトの実証においては、構造化データによる効果があると有意な結果が出た。つまり、GS1 SmartSearchを正しく導入することで、SEOとして一定の効果を得られると考えられる。
14 Structured Data General Guidelines
  https://developers.google.com/search/docs/guides/sd-policies

おわりに

  現状では、GS1 Web Vocabularyの構造化データは、検索エンジンの検索結果にポジティブな影響を与えることに主観が置かれている。もちろん、SEOとしてその効果は非常に大きく、早期に普及が進むと予測される。
  しかし、本質的にwebサイトに書かれた構造化データは、情報をより正確に誰にでも参照させることができる手法である。GS1 Web Vocabularyを導入する企業が増えることによって、検索エンジンだけでなく、スマホアプリ等でも構造化データを読み込み、正確な商品情報を表示することが出来るようになると期待される。
  さらに、GS1 Web Vocabularyでは多言語の情報を1ページに埋め込むことが可能であるため、端末やアプリ等の言語設定を参照して、自動的に最適な言語で商品情報を表示することも可能になると考えられる。


GS1 SmartSearchの期待される活用方法
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  また、B2B2Cにおける商品情報授受なども技術的には可能である。現状では項目、フォーマットが乱立し不効率が発生している企業間の情報連携に対し、GS1 Web Vocabularyが標準として項目が用意されていることもあり、商品情報のスムーズな連携につながることが期待される。


GS1 Web Vocabularyの標準化による効果
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  もちろん運用上解決しなければならない課題は多い。webページにGS1 SmartSearchのデータを挿入するなら、商品メーカーが既に保持している商品データベース(マスタ)から吐き出すほうがスムーズだ。これには、ある程度のシステム投資が必要で、そのためには流通全体へGS1 SmartSearchの拡がっていることが重要となる。
  今後、消費者とサプライチェーンのさらなる利便性向上のため、GS1 Web Vocabularyで定義された構造化データの活用、GS1 SmartSearchの拡大が期待される。

以上



(C)2018 Hitomi Kajita & Sakata Warehouse, Inc.

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