ロジスティクス・レビュー

第395号 郵便は通販物流の担い手となり得るか(2018年9月6日発行)

執筆者 久保田 精一
(合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表 / 城西大学非常勤講師)
    執筆者略歴 ▼

  • 著者略歴等
    • 熊本県出身
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      産業振興、物流等の調査業務を担当
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当
    • 2015年7月 独立

目次

  宅配クライシスが依然として続いている。この主因は言うまでもなくネット通販の成長であるが、ネット通販の成長は今のところ止まる気配がない一方、ドライバー不足は深刻化している。
  宅配は主としてヤマト運輸、佐川急便といった純民間企業によって担われているが、同様に大きな役割を果たしているのが日本郵便である。特にこれから高齢化・過疎化が進展する中で、全国的なサービス網を持つ郵便の重要度はさらに高まるはずである。そこで本稿では通販物流の拡大と、その担い手としての郵便のポテンシャルについて考えてみたい。

1.急成長する郵便の宅配系サービス

  日本郵便(以下、郵便)の宅配系サービスは近年著しく成長している。
  郵便は2010年度に日通のペリカン便事業を(実質的に)吸収統合したが、統合後の7年間で宅配貨物の取り扱い個数は2.5倍に増加しており、この間大きく変動がない佐川急便に急速に接近している(図表1)。
  なお宅配の個数だけを見ると郵便は大手3社の最下位に留まるように見えるが、通販貨物が一定の割合を占めるメール便の冊数を合算すると、郵便はヤマト運輸とほぼ同等の規模に達する(図表2)。メール便のうち通販貨物の比率は明らかではないが、日本郵便の「ゆうメール」は雑誌や書籍、DVD等の通販に広く利用されている一方、ヤマト運輸の「クロネコDM便」は現在は通販貨物は引き受けておらず、ほとんどがDMである。よって、メール便を加味すると、通販貨物の取り扱いにおける両者の差はより縮まる。

図表1 主要各社の宅配便取扱個数(航空除く)
資料:2016年度までは国土交通省公表資料、2017年度は各社報道発表から作成
   そのため、2017年度のデータは連続性がない可能性がある
   2016年10月から郵便には「ゆうパケット」を含む
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図表2 主要各社のメール便取扱冊数
資料:2016年度までは国土交通省公表資料
   郵便は「ゆうメール」の冊数であり、信書系のサービス(レターパック等)は含まれていない
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2.郵便への流入が継続する背景

  このように、郵便は近年宅配分野の事業を拡大しており、シェアを伸ばしているが、この最大の要因は、言うまでもなくヤマト運輸の値上げである。周知のとおりヤマトは昨年度、大口顧客との間で15%程度の値上げ方針を掲げて荷主と交渉を進めた。同時期に郵便も値上げを行ってはいるものの、結果として多数の荷主が郵便に流出した。そのため2017年度の郵便の貨物量は25%もの大幅増となった。
  ここでの問題は、値上げの動きが一過性のものでないことである。宅配大手は2013年度以降、大口荷主向けに継続して値上げを実施しており、2018年度も引き続き値上げ要請は継続する流れである。値上げの原因は通販需要の急増に対応するドライバーの確保が困難であることであり、そのため、宅配各社は引き受け数量を抑制する必要に迫られている。引き受け抑制には値上げにより荷主から自発的に辞退させることが合理的である。このような背景から、値上げは今後も継続する可能性が高い。
  なお引き受け抑制方針を受けた荷主の乗り換え先としては、西濃運輸などシェア4番手以降の宅配業者、「デリバリープロバイダ」のような新興系企業、あるいは「物流版Uber」のようなシェアリングサービスなど色々と挙げられるが、いずれも決め手に欠けている。大手3社のうちヤマト以外の2社を比較すると、集配拠点数、従業員数などの点で佐川急便グループはキャパシティの余力が少ない。一方、郵便は信書便が長期的に衰退傾向にあるため、その分のリソースを宅配に振り分けることが出来る点で優位性がある。よって、当面は郵便が主たる担い手となる可能性が高いだろう。

表 従業員数の比較

3.海外でも同様な通販と郵便との関係

  さて、ここで海外の状況も確認しておこう。
  海外でも日本と同様、宅配サービスは民間事業者のほか、各国の郵便事業体が取り扱っている。ただし、海外の民間事業者(DHL、UPS、FedEx・TNTの3グループが中心)は日本の宅配業者と異なり提供するサービスの範囲が狭い。例えば、引き受けポイントの少なさが挙げられる。海外には日本のコンビニのような稠密な引き受けポイントがなく、貨物の引き受けは集荷が中心である。これは集配の高コスト化に繋がり、結果的に費用のかかるCtoCのサービスは限られた領域でしか提供されていない。
  サービス体制に加えて、サービスの担い手も大きく異なる。
  多くの国では国営の郵便事業体が依然として高いシェアを維持しており、民間事業者は高付加価値な領域などで事業展開するなど棲み分けを行う傾向がある。例えば、比較的民間企業のコンペティターが多いアメリカでも、米郵政公社(USPS)のシェアは非常に高く、アマゾンの配送の6割、eコマースの配送全体でも6割近くをUSPSが担っているとされる(注1、注2)。データは明らかでないものの欧州も同様の状況であり、民間の物流網が発展していない新興国では更に郵便のシェアが高いと推察される。

注1:https://www.straitstimes.com/world/united-states/trump-amazon-making-postal-service-poorer
注2:https://jp.reuters.com/article/usps-idJPKBN0K303220141225

4.通販の急増による郵便ネットワークの逼迫

  このように世界的に見て郵便がネット通販の末端配送を担っているケースが多いわけであるが、ネット通販の拡大によって郵便事業体が扱う宅配貨物が増加しているのは世界共通の現象であり(図表3)、これが様々な問題を生んでいる。日本やドイツのように郵便事業が民営化され、独立採算で運営されている地域がある一方、アメリカのように依然として国営で運営されている地域も少なくない。特に国営の郵便事業体が赤字基調である場合には、宅配貨物の急増が財政負担の増加に繋がることも懸念される。
  例えば米USPSは売上696億ドルに対し、27億ドルという巨額の赤字を計上しているが(2017会計年度、注3)、これは政治的な論争の的になっている。典型的な批判は、「アマゾンの格安な宅配運賃が原因で赤字が生じている」というものであり、「USPSを通じてアマゾンに税金を投入しているに等しい」といった批判である(注4)。米トランプ大統領もこのような立場を再三表明しており、最近の報道ではトランプ氏がUSPSのトップに対して直接、アマゾン向け配送料金を値上げするよう要請したという(注5)
  いずれにせよ、このように、ネット通販の宅配貨物が郵便に集中しているのは世界的な現象であり、配送網のキャパシティへの負荷増大が課題となっているのも日本と共通に見られる問題であると言える。

注3:https://about.usps.com/news/national-releases/2017/pr17_069.htm
注4:ただし当事者のUSPS、アマゾンはこのような見方を否定している
注5:2018年5月19日付けロイター報道「米大統領、アマゾン向け配送料倍増を郵政公社に要請」

図表3 世界の郵便事業体による宅配貨物量推移

資料:Postal economic outlook 2018, Universal Postal Union
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5.通販の増大と過疎化に対する持続可能性

  話を日本に戻すと、宅配クライシスが表面化するまでは、通販需要の増加分を主にヤマト、郵便の両者が分担して吸収することが出来ていたが、これまで見てきた通り、ヤマトが引き受けを抑制する方向に方針転換して以降、これが郵便に集中する傾向が強まっている。今後もこの傾向が続く場合、郵便の輸送能力がパンクしたり、あるいは過度な労働負荷が自社・下請けのドライバーに掛かることも懸念される。ここ最近もキャパシティを超える貨物が集中することにより小規模なトラブルがいくつか生じているようだが、需要の増加に順応するためには抜本的な能力増強が期待されるところである。

  物量増加への対応と並んで重要な問題は、過疎地や離島における配送網の維持である。
  これは宅配サービスをユニバーサルサービス的に展開しているヤマトにとっても同様だが、信書便と郵便局ネットワークという社会インフラを担っている郵便ではより重要である。
  物流ネットワークは生活の基盤であり、物流の途絶は地域社会における重大なリスクである。地域社会の維持のためには、持続可能な物流網の構築が必須の条件である。よって、通販の急増に対応すると同時に、過疎地等のサービス条件も維持するという難しい舵取りが求められる。
  なお、現在の法制度上、BtoCの配送は運賃や配送条件に係る規制がほとんど無く、過疎地におけるサービス維持は事業者の良識に任されている状況である。この点は国全体として規制のあり方を議論すべき問題でもある。

6.持続可能な物流網構築のために

  そのような問題意識を踏まえ、持続可能な物流網を構築するための課題をいくつか挙げて本稿のまとめに代える。なお、ヤマトは、宅配ネットワーク維持のための施策として、「配達時間帯の見直し」、「夜間配送を担うドライバー“アンカーキャスト”の増員」、「宅配ロッカーの整備や店舗受取の推進」などを推進している。これらの施策は郵便の課題とも重なるが、郵便独自の問題もある。ここでは、その特性を踏まえて特に重要と思われる次の4つの視点に絞って課題を述べる。

(キーワード)
①信書(郵便業務)のインフラ活用
②貨物形状の変化に対応したロジスティクス改革
③共同化と「取りに行く物流」
④サービスレベル見直し

(1)信書(郵便業務)のインフラ活用

  信書便は年々取扱量が減る一方、宅配貨物は急増している。これは物流として見ると相補的な関係にあり、相乗りによるインフラの有効活用が期待される。
  なお、信書のインフラを宅配に利用することは、競合の宅配会社とのイコールフィッティングの点で議論があるが、本稿ではそのような競争政策的な論点には立ち入らない。ここでは、単に両者で補い合うことで過疎地・離島の物流インフラをより効率的に運営することが国民全体の利益になるという現場視点からの指摘を行うのみに留める。
  実際のところ、現場レベルでは主に信書便の配達員が宅配系の貨物を相載せする方向で実質的な統合化が進んでいる。ただしその際、後述する判取り、再配達等のイレギュラーな処理を減らして、末端の配送員に過大な負荷が生じないようなサービス条件の見直しを併せて行うことが必須であろう。

(2)貨物形状の変化に対応したロジスティクス改革

  通販の荷物のうち、書籍、DVD、健康食品、小物衣料品など薄型貨物の比率が増加している。郵便でも当該ニーズを取り込むために「ゆうパケット」の拡販が推進されているところである。通販貨物の「薄物化」が今後も進展するかどうかは明らかではないものの、メーカーにおいて物流に適したデザインを施す「DFL(物流指向デザイン)」が大きな潮流となっており、通販で運びやすい形状での商品・包装設計が進展し、この流れが強まる可能性もある。
  さて、薄物の増加に伴って、区分局のマテハン設計など庫内物流の見直しが進んでいるが、物流効率化の観点では、庫内物流に留まらない「トータルロジスティクス」の見直しが必要である。輸送車両の規格、包装設計、マテハン機器や各種サービスレベルの見直しなどである。ここではやや細かい論点ながら、一例として郵便受け箱(郵便ポスト)の規格について取り上げる。
  郵便受け箱の設置方法及びサイズは郵便法(第43条)および郵便法施行規則(第11条)で規定されており、市販されている郵便受け箱は基本的に同規格を満たすように設計されている。ただし、この規格は基本的に定形郵便サイズを想定しており、「ゆうパケット」などA4サイズの貨物は(折り曲げないと)投函できない。一応、日本郵便ではパケットサイズに対応した「大型郵便受箱」の設置を推奨しているが、設置は任意である。今後増加するパケットサイズに対応し、再配達を有意に減らすためには、より強制力のある規制があっても良い。
  なおUSPSでは、配送車両から下りることなく、車窓から小包をポストに投函していく。そのため、ポストの地上からの高さなども規制されているが(図表4)、トータルロジスティクスの効率化の観点では参考になる。

図表4 郵便受け箱の設置基準(米国)

資料:USPS
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(3)共同化と「取りに行く物流」

  過疎地等で末端配送の効率化を図るためには、様々な輸送手段との「共同化」がキーワードになる。共同化の対象としては、同業のトラック会社のほか、新聞、雑誌・書籍や牛乳、自販機補充などの特殊領域配送、さらには旅客と貨物を共同化する貨客混載も挙げられる。
  これらの共同化はいずれも重要だが、すでに語り尽くされた感があるため、ここでは異なる視点から「取りに行く物流」の重要性を指摘したい。
  「取りに行く物流」とは、届け先のユーザーが自ら集荷するという配送手段である。「取りに行く物流」の代表例は家具のIKEAである。通常の家具店は店舗が顧客に配送するが、IKEAでは顧客が倉庫でのピッキングから配送まで自ら行う代わりに、比較的安価に商品を購入できる。
  「取りに行く物流」は一般的にはミルクランやバックホール輸送と同種の概念であり、これは共同配送と実質的に同じ意味を持つ(図表5)。よって、共同化と同様に地域配送を効率化する有望な手段となる。
  今のところ宅配便における「取りに行く物流」の主流は都市部のコンビニ受け取り(買い物と同時に宅配を受け取るという一種のミルクラン)だが、都市部はそもそも配送効率が高い一方、コンビニの代行手数料の問題があるため、宅配業者・消費者双方にとってのメリットが薄いという見方もできる。逆に人口密度の低い地方部では、ネットワーク効果があまり働かないため配送効率が低く、届けるコストと取りに行くコストの差が小さい。そのため、宅配ロッカー等を設置し、顧客に高めのインセンティブを与えることの合理性がある。郵便も「はこぽす」という宅配ロッカーを整備しているが、設置場所は都市部中心で地方ではほとんど設置がない。また、関東は駅舎内、関西はSC内が中心であるなど展開場所も統一されていない。数的にもヤマト陣営の「PUDO」(約3000箇所)と比べて展開が遅れている。

図表5 共同配送と取りに行く物流との関係
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(4)サービスレベル見直し

  過剰なサービスレベルは配送効率の低下やドライバーの負荷増大に繋がる。よってサービスはなるべくシンプルなものとし、顧客が求める付加サービスに対して有料オプションを提供するなどの工夫が求められる。
  なお宅配におけるサービスレベルとしては、「配達リードタイム」、「再配達」、「集荷」、「配達時の各種付加サービス」など多様なものが含まれる。このうち再配達、集荷については、日本郵便もすでに抑制の方向性を打ち出している(注6)
  また、見直しの余地があるサービスの筆頭には「判取りサービス」が挙げられるが、これに関しても一部の通販について玄関前への「置き配」を本格展開する方針と報じられている。
  宅配サービスにおいて、荷受人への対面での引き渡しと、そのエビデンスとして「判取り」は、標準宅配約款に基づく基本的なサービスであるが、そもそも貨物の価額が少額ならこれらサービスを省略するオプションがあって良い。導入当初はトラブルが発生することが予想されるが、少子高齢社会における必要な社会的コストだと割り切って考えるべきではないか。ただしトラブルのしわ寄せが末端の配達員に行くようでは本末転倒である。本来、サービスの選択に係る責任は荷主が負うべきであり、そのことを周知することも必要だろう。付言すれば、このような点も含めて、標準宅配約款の見直しも今後の検討課題だと思われる。

  以上で述べた方向性は私見の域をでないが、物流の重要性に対する国民の関心が高まっている今だからこそ、生活インフラでもある物流の本来のあるべき姿についてより突っ込んだ社会的な議論が進展することが期待される。

注6:2018年5月12日付け日経新聞「日本郵便、法人向け郵便集荷を廃止」
   2018年3月14日付け日経新聞「依頼なければ再配達せず ゆうパック、労働負担を軽減」等

以上



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