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ロジスティクス ・レビュー

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3PL

第394号  垣間見た今日的なアメリカの物流:3PLとは何か?(2018年8月21日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.幹線輸送の効率化:凄まじい大型化

  昨夏、アメリカ西部への旅でグランドサークルを中心に、大型バスで2千Km近くは移動しただろうか。乾燥した砂漠を貫く高速道路を疾走する車窓から、アメリカの今日的な輸送の情景を垣間見た。まず目に着くのは超大型化である。トレーラーは3両連結車も目立った。キャビンの仮眠室は日本のような貧弱なものではなく、立派なキッチンとベッドが据え付けられているという。大陸横断は3泊4日の運行であり、仮眠ではなくちゃんとした睡眠が必要になる。ドライバーはスーパーで買い物をして、自分で調理するそうだ。
  貨物鉄道にも何回か遭遇したが、100両編成程度でコンテナ2段積である。もちろん日本のようにトンネルはなく、カーブも緩やかだから可能なのだろう。それにしてもこの長大なレールをどうやってメンテナンスしているのか。アメリカの鉄道は一時衰退したが、観光用の乗客輸送も捨てこの貨物輸送で成り立っているのか。戦車等の軍事物資の輸送も目に入ったが、安全保障面でも大きな役割があるのだろう。日本では東日本大震災時の危機管理対応として石油輸送等で大いに活躍したが、果たして復権はなるだろうか。もちろん排気ガス対応や人手不足で追い風である。

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  トラックドライバーは多くが、いわゆる一匹狼の個人事業者のようだった。サービスエリア等で見かけたそれらの人々は経営者としての自信に満ちた態度のように見受けられた。そういえば韓国でも既にそれが認められていた。日本では現状で白トラックは違法であり、究極の規制緩和として更に検討されていくだろうが、これが人手不足の解消に繋がるかは甚だ疑問である。既に人口減へと突入した我が国では、焼け石に水かもしれない。隊列走行や無人化等の研究が進められているのは、当然のことである。

2.末端配送網の充実:拡大する通販需要

  高速道路では大型車だけではなく、FEDEX等の看板を掲げた中型車両も多く見受けられた。これはアマゾンを始めとするネット通販の進展に伴う小口対応によるものだろう。しかし日本のような2t車程度の小型車は余り見られない。ラストワンマイル対応は別なシステムが用意されているのだろうか。FEDEXの話は以前直接聞いたことがあるが、アメリカの中心のテネシー州メンフィスに巨大なハブがあり、そこへのアクセスは大型航空貨物機ということだった。もちろんこの国の航空機の活用は旅客・貨物も含め眼を見張らせるものがある。離着陸の状況は我が羽田空港の比ではない。
  外食産業は郊外型の大型店が多く、広大な駐車場と共に殆どにドライブスルー機能が併用されていた。マクドナルドよりサブウエイの看板の方が多いように思われた。やはり健康志向が、消費者の関心事となっているのだろう。そうすると低温輸送のウエイトが高くなっているはずだ。車載冷却装置はとてもコンパクトで、キャビンとコンテナの間に余り目立たないように設置されている。市街地の店舗でも全てトラックヤードが備えられ、店舗の前に横付けするような光景は見られない。

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  しかしウオルマートのような大型スーパーの店頭で見た野菜類は鮮度が低下しており、日本では殆ど売り物にならないような代物だった。肉・魚類は大半が冷凍であり、チルドのようなデリケートな温度帯は余り意識されていないのだろう。もちろん総菜の類は種類が非常に少ない。果物は基本的に常温で販売されていた。それにしても店舗は平屋建てで誠に広大であり、日本ではとても考えられない。物流センターも同様だ。店舗内で子供が買い物カートを乗りもの替わりにして遊んでいて、非常に危険だった。

3.3PLとはフォワーダー業界の戦略:ノンアセット型事業

  アメリカの物流業界に詳しい韓国の某物流企業社長から聞いた話では、3PLとは輸出入を主に手掛けるフォワーダー業界が、実運送のトラック業界に対抗するために編み出した戦略だと言う。アメリカのフォワーダー業界といえば、港湾ストで社会に大きな影響を与える強い存在の海員組合と接している。トラック業界は典型的な2PLであり、これに対しフォワーダーはノンアセットでワンストップサービスを組み立て、しかも料金建ては一気通貫が基本である。日本では原則としてこのかたちは認められていない。ロジスティクスの管理は本来的に荷主側の業務であり、そのリソースを提供するという立場に徹しているのか。日本ではロジスティクス部門さえ持たない荷主が多くなり、丸投げが罷り通っている。需給管理を始めとするロジスティクスのコア業務は、アウトソーシング出来るはずがない。アウトソーシングとは委託側にも管理すべきことがあり、一度管理状態から外れたらそれを直ちに修復する措置が取られなければならない。それがBCPに繋がっていく。
  日本の3PLはまずノンアセット型を重視し、情報システムを有力な武器に事業を組み立てようとする。しかし実態はロジスティクスレベルのアウトソーシング受託は極めて難しく、ビジネスとして中々成り立っていないのが実情であろう。つまり荷主との機能・責任分担が明確にならず、実事業者がリスクを負わされることが多い。単なる共同配送を3PLと称しているようなケースも見受けられる。情報システムを基本にコミッションビジネスとして存在するだけなら、余りにも脆弱である。
  アメリカで見た実輸送は一人事業者もいるだろうが、3PLの傘下で組織的に運営されている部分も多いはずだ。3PLとはノンアセット型経営だが、実務を重視する業態なのではないか。この点を日本は学ぶべきだろう。ノンアセット型経営も、リスク対応が充分でなければその意味がない。かつて2.5PLを提唱したことがあるが、それは実際の経験上リスク対応を重視したからに他ならない。その意味はアセット型とノンアセット型の併用という狙いである。最大の課題は何といっても危機管理対応と、それを的確に実行するための日常業務リスク対策である。このインフラが必須である。危機管理とは異常時における処置という、経営レベルの活動であることは言うまでもない。

(図表:3PLと実務システムの関係)
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4.厳密なドライバーの就労管理:検問所の設置

  長距離・長時間走行が前提となる業務では、ドライバーの就労管理が極めて重要になるが、その一面を乗っていたバスで何回も経験した。まず高速道路上には検問所が必ず設けられていて、乗用車以外は絶対にここを通過しなければならない。ここでは積み荷の重量や、走行記録等が厳密にチェックされるという。バスのドライバーとて例外ではない。ノンストップで走り抜ける乗用車を横目に、みなじっと順番待ちである。
  バスドライバーの場合、一日の最大走行距離は500Kmと聞いた。最初の訪問地であったヨセミテ国立公園では、サンノゼ空港から周遊してホテルに着くまでがそのリミットであり、夜の食事のレストランへの移動は別のドライバーが来て対応した。グランドサークルはラスベガスの発着で1週間のバス移動であったが、同じドライバーが全て一人でこなした。完全なワンマン運行でも、制約を守ればこのような長丁場も充分に可能なのだ。1週間も家族と離れ過酷な業務だと思うが、顧客ニーズがあれば法の下で対応するということだろう。
  トラックドライバーは走行車線を粛々と走行し、バスはそれを次々と追い越していく。日本の高速道路では追い越し車線をトラックが堂々と走行し、大型車でスピードリミッターが機能していないケースも多く見受けられる。ジャストインタイム性を要求される我が国では、ルールを守りにくいということなのだろうか。物流に対する社会的合意が改められないと、現状の危機は乗り超えられないのではないか。

5.インフラの充実とシステム支援:大量消費社会を支える

  高速道路はもちろん無料であり、通常の最大速度は毎時75マイルと表示されていた。つまり120Kmである。地方道でも最低片側2車線であり、それに幅広い路肩が確保されている。中央分離帯も、もう一本走行レーンが造れるくらい広くとってある。そういえば路肩に停まっているトラックもかなり見受けられた。故障車が多いのだそうである。これは日本の方がレベル的に上かもしれない。日本ではかつて高速道路無料化や石油燃料に対する暫定税率廃止等が実現したこともあったが、物流業界はこれを歓迎せず直ぐに引き戻されたという経緯があった。高いインフラコストをどうしようと考えているのか。
  走行中のドライバーへの情報システム支援も、かなり出来ているように思われた。バスドライバーが休憩のたびに何やらスマホで盛んに入力している。恐らく走行のデータベースが完全に作られていて、リアルタイムでフィードバックが掛かっているのだろう。これは日本でも決してひけを取らないレベルになっているはずだ。自動配車システムも、多くの業態で実用化が進んでいる。本家本元の物流業界ではどうか。そして高速道路の取り締まりは、ヘリコプターで行われていた。
  これだけの大量物資を運ぶトラックや鉄道を見ていると、アメリカという大量消費社会が目に浮かんでくる。観光地や街中の廃棄物処理もゴミと資源へ完全に分別され、ユニットロードとしてそのままトラックに積み込まれていく。このような高環境負荷社会を抱えておきながら、世界的な環境条約から離脱するとは、トランプ大統領の政策は誠に忌まわしい。これだけ豊かな資源を持ちながら、自国優先主義を掲げるのは如何にも狭量である。
(追記)旅程:2017/6/13~23

以上



(C)2018 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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